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神代 コウ

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目覚めの時

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 敵の出現にいち早く気が付いたアンドレイが、攻撃を仕掛けてくる謎の人物の迫り来る魔の手から、レオンを庇うように身を乗り出す。

「えッ・・・!?」

 レオンの背後から迫っていた謎の人物の腕がアンドレイの腹部を貫いている。身体から生気を抜かれた彼は、その手にしていたヴァイオリンを手放してしまう。

「あっ・・・あぁ、なるほど・・・。こんな感覚だったんですね・・・」

「アンドレイさんッ!」

 アンドレイを貫いた謎の人物は、その直後に放たれたミアの銃弾によって消滅した。

「クソッ!野朗共、直接あっちを狙いやがったッ!!」

 楽譜を奪い取ったニノンも、すぐさま二人の元へと駆けつけて、周囲に群がる謎の人物達を次々に振り祓う。閃光のような身のこなしで謎の人物達だけでは到底ニノンの動きを止める事はできなかった。

「アンドレイさん!どうしてッ・・・!」

 レオンを庇ったアンドレイだが、身体に外傷は見られない。だが彼の苦しみ方がまるで本当に腹でも貫かれたかのようだった。レオンは力の抜けたアンドレイの身体を抱えるように座り込んでいる。

「大丈夫だ・・・死ぬ訳ではない。痛みや苦しみはあるが、“目を覚ます”だけだよ・・・」

「目を・・・覚ます・・・?」

 レオンにはこの時のアンドレイが言っていた言葉の意味が分からなかった。しかし苦悶の表情の中にあるアンドレイの目の輝きは失われてなどいなかった。

 だがそれとは対照的に、アンドレイの肉体は黒く澱んでいく。その指先はボロボロと塵へと変わり始める。足先から指先から・・・。最早これではヴァイオリンはおろか弓を持つ事さえも出来ない。

 朽ちゆく身体と意識の中、アンドレイは置いて来てしまった護衛達の事を考えていた。身を挺してアンドレイや他の護衛達、そしてレオンとクリスを宮殿内へ引き入れたチャドは司令室で意識を失ったまま、ベルンハルトによって彼の言う目覚めへと誘われた。

 ケイシーとシアラは彼を逃す為に宮殿の入り口にて、アンナの足止めをしていてそれ以来姿を見ていない。司令室への報告もなかった事から、あそこから無事に逃げ延びた者はいないのだろう。

 しかしアンナが他の場所に現れたと言う報告もない。きっと彼女らは今も必死に戦っているのだろう。それなのに自分はこんなところでリタイアしてしまう事に、主人としての不甲斐なさ痛感していた。

 だが決して後悔はしていない。まだこの違和感のある世界には、頭のキレる男が残っている。恐らく彼もこの事に気が付いているはず。そして彼ならば、この宮殿、アルバの街を取り巻く現象を明らかにしてくれる。

「いいかい?レオン・・・今、演奏できるのは君しかいない・・・。君しかこの現状を打開出来ないんだ・・・」

「そんなッ・・・そんな役目、俺にはとても・・・」

「厳しいことを言うようだけど・・・今は余裕がない。幸か不幸か、今まさにここへ例の楽譜が届いて・・・」

 彼がそう口にすると、周囲の謎の人物達を始末し終えたニノンが、アンブロジウスから奪い取った月光写譜を持って彼らの前に戻って来た。

「すまない!遅れてしまった。あぁ・・・アンドレイ私が判断を誤ったばかりに・・・」

「気にしないで下さい・・・。大丈夫、死ぬ訳ではありませんよ・・・」

「え・・・?」

 彼女はまだ目覚めの事を知らない。話は後に探偵と合流した時にと、自分のことは一旦おいておき、アンドレイはニノンにレオンのことを託す。そしてニノンは楽譜をレオンに渡し、三人は一緒にその楽譜の中身を確認する。

 そこには確かにヴァイオリン用の印が記されていた。間違いない、これは正しくバッハの月光写譜だった。後はこれをレオンが演奏するだけ。アンドレイは楽譜を確認して安心したのか、大きく息を吐いて安らかな表情を浮かべながら消滅の時を待っていた。

「アンドレイ」
「アンドレイさん!」

「後のことは任せましたよ、お二方・・・」

 それだけ言い残すと、アンドレイの身体は黒い塵へと変わり消滅していった。後に残る物は何もない。だが偉大音楽家から重要な役割を任されたという事が、レオンの自身にも繋がった。

 ヴァイオリンを持って立ち上がったレオンは、楽譜を見ながらバッハの曲を演奏する。マタイ受難曲。それはアルバの街にも響き渡っていた馴染みのある曲。慣れた手つきで演奏を始めるレオン。

 それに伴い、ミアの攻撃に足止めを喰らっていたアンブロジウスに異変が現れる。
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