World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
1,466 / 1,646

待ち伏せ

しおりを挟む
 一つは当然、ここでヴァイオリンを持ち出し屋上にいるというアンブロジウスと対峙する為のチーム。そしてもう一つは、チェンバロという楽器を探しブルース達に知らせるチームだ。

 それぞれに必要な人材は一部決まっている。しかし問題なのは、戦えるのがオイゲンだけだという事だろう。その上、オイゲンは内心いち早く屋上の状況を知りたがっている。

 つまり屋上チームの一人はオイゲン。そして必要不可欠なヴァイオリン奏者として、アンドレイか音楽学校の生徒である三人の内誰かになるのだが、実力的に言えばアンドレイとレオンが適任だろうと予想される。

「ここで更に二手に・・・ですか」

「えぇ、少し危険な賭けですが悠長にしていられる時間も、恐らくは我々にはありません。現地で戦っているという彼らが、楽譜の力を使った霊達といつまでも持ち堪えられる保証は何処にもないのですから・・・」

 ケヴィンの言葉に、一行は司令室での戦闘を思い出す。あれだけの人数が居ながら、戦えぬ者達は瞬く間に姿を消し、いざ戦闘が始まると熟練した猛者達がたった一人の音楽家に押されてしまうほどの戦力差があった。

 相手の出方や能力が分からない上に、守りを優先していた者達も多いという事もあるが、それを抜きにしても月光写譜の特殊な能力はとても侮れるものではない。

「それは確かにそうかもしれませんが、オイゲンさんの力無くして何処にあるかまだ確定した訳でもないチェンバロを探すのは、かなりリスキーだと思いますよ」

「おっしゃる通り・・・。ですが」

 突然ケヴィンらしからぬ提案をし出したことに、オイゲンとアンドレイは何か違和感を覚えていた。そしてその場にいた誰もが、アンドレイの指摘と同じ事を思っていただろう。

 レオンとカルロスだけは道中の会話の件もあり、密かにケヴィンの提案に賛同していた。どちらにしろレオンとカルロスは別々の戦場へ向かうことになる。

 ジルのいる宮殿入り口へ向かいたいと言えば、当然許諾されそうにない目的を抱えている以上、如何にして別行動を取る機会を得るか、そのタイミングを伺っていた。

 だがそんな不毛な言い争いをしている場合ではないと、ケヴィンが自分の為に無理を言っているのだと察したオイゲンが、その必要はないと口を開く。

「よせケヴィン。気を使う必要はない。アンドレイの言う通り出来るだけ危険は避けるべきだ。先ずはヴァイオリンを持って皆で屋上へ向かう。その後で対ベルンハルト用の楽器であるチェンバロの場所を・・・」

 オイゲンがケヴィンの提案に変わる作戦の指示を話し始めた時、彼らにとって不測の事態が起こり始める。

「マティアスさんッ!!」

 クリスの声とほぼ同時に、オイゲンとケヴィンも一行の元に差し迫る何かの気配に身構える。部屋の入り口に最も近かったマティアスは、咄嗟に動いたクリスの判断で廊下へと飛び出す。

 その時一行を襲ったのは、複数の謎の人物だった。これまで不気味な程姿を見せなかったのは、彼らを楽器のある部屋へ誘い込む為だったのか、一行の行手を阻むかのように入り口を破壊した。

 クリスとマティアスが辛うじて廊下へ飛び出したものの、部屋を封鎖するように瓦礫が崩れ落ち、オイゲン達が閉じ込められてしまう。

「皆俺の側へ!決して離れぬように!」

 部屋の外にも中にも謎の人物達が続々と集まってくる。瞬く間に囲まれてしまう一行。部屋の中にはオイゲンがいるが、分断されてしまった外には戦える者はいない。

 だが、宮殿内の構造に詳しい案内役の二人が部屋の外に追い出されてしまった。不幸中の幸いと言うべきか、チェンバロがあると思われる場所については、オイゲンらは二階にある倉庫が怪しいと聞いている。

 故に案内役としての役割を果たしているとも言える状況だった。大きな声で外の様子を確認するオイゲン。マティアスは一先ず無事ではあると伝えるものの、外も同じように謎の人物達に囲まれてしまっているという状況を伝える。

 オイゲンはなるべく早く片付けるとマティアス達に伝え、可能な限り生き延びる手段を取るようにだけ伝える。しかしどうやらそれも長くは保たなかった。

 全力で部屋の内部の敵を一掃するオイゲンだったが、外からはマティアスとクリスの悲痛な悲鳴が響き渡っていた。分断されてしまった時点で、一行は嫌な予感がしていた。マティアスとクリスはここまでだと。

 必死に名前を呼ぶレオンとカルロスの声も虚しく、返事は返ってくる事はない。諦めムードの中、オイゲンは一人黙々と部屋の内部に入り込んだ敵を倒しきり、扉への道を塞ぐように立ちはだかる瓦礫を吹き飛ばし、廊下へと飛び出すオイゲン達。

 しかしそこには、既にマティアス達の姿は無かった。

「そんな・・・クリス・・・マティアス司祭・・・」

「こうなってしまった以上、部隊を分けるのは不可能だ。このままヴァイオリンを持って屋上へと向かう。いいな?ケヴィン」

「えぇ、致し方がありません。お二人とも、行きましょう」

 二人の姿が見当たらぬ廊下で膝をつき、悲しみに暮れるレオンとカルロスを起こし、一行はヴァイオリンを持って屋上へと向かう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

戦闘職をしたくてVRMMOを始めましたが、意図せずユニークテイマーという職業になったので全力でスローライフを目指します

地球
ファンタジー
「え?何この職業?」 初めてVRMMOを始めようとしていた主人公滝沢賢治。 やろうと決めた瞬間、戦闘職を選んでいた矢先に突然出てきた職業は【ユニークテイマー】だった。 そのゲームの名はFree Infinity Online 世界初であるフルダイブ型のVRゲームであり、AIがプレイヤーの様子や行動を把握しイベントなどを考えられるゲームであった。 そこで出会った職業【ユニークテイマー】 この職業で、戦闘ではなくてスローライフを!! しかし、スローライフをすぐにはできるわけもなく…?

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

処理中です...