World of Fantasia

神代 コウ

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生物の発する運動エネルギー

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 ブルースはその人物がアンブロジウス・バッハだと口にした。その名前自体に聞き覚えはなかったようだが、その“バッハ“という部分には覚えがある。ニノンもミアもそれに気が付いた。

「“バッハ“・・・?今、そう言ったのか・・・?」

「ブルース・ワルター!そのアンブロジウス・バッハって言うのは、あのバッハの事なの!?」

「アンタの想像するバッハとは恐らく別人だろう。だが同じ一族だ。同じ家系・・・バッハの家系はとても複雑だからな。アンブロジウスはヴァイオリン奏者として有名だった。だが彼が有名なのはそこじゃない・・・」

「・・・?」

 彼は何か自分の記憶に違和感を感じているかのように口を止める。だがそんな話をされたら、アンブロジウスがヴァイオリン奏者としてではなく、別の理由で有名になった事について興味をそそられる。

 ただ興味をそそられるだけじゃない。敵が何者か特定できているのなら、それは戦闘において何か有意に働く情報があるかもしれない。ニノンはミアの位置からでは会話を聞き取れないと判断し、狙撃を彼女に任せ自身は前線でブルースとバルトロメオに協力し、アンブロジウスを倒す算段を考えていた。

「ちょっと、話の続きは!?」

 ニノンがブルースにアンブロジウスの話の続きをさせようとしたその時、まるでそれを遮るように何かが彼らに迫る。

「ッ!?」

「攻撃だ!大将ッ!」

 ニノンとブルースが左右に飛び退く。二人の間に空いた空間に飛び込んできたのは、司令室で生存者達を一掃した糸のようなものだった。殺意のこもったその糸は、ある程度の戦闘経験者であれば読み取れる。

「くッ・・・!野郎・・・まだ動けて・・・」

 彼らを狙った糸が元の場所へと戻っていく。その先はアンブロジウスの肉体だった。彼はベルンハルトのように、自身の身体から糸を発していたのだ。そして彼の前には楽譜のようなものが浮いていた。

「おい・・・何だありゃぁ・・・!」

 その楽譜は何かのオーラのようなものを纏っている。遠くでその様子を見ていたミアはその楽譜が何らかの力を纏っているのだと考えた。アンブロジウスがミアに撃たれた傷を修復して、再びその手にしたヴァイオリンで演奏を再開する。

「アイツっ!また演奏を始めやがったぜ。確かさっきの・・・」

「あぁ、バルトロメオ。お前ならさっきの俺の言葉が理解できた筈だ」

「そりゃぁそうだが、それでも奴の演奏を止めねぇとだろ?」

 再び魔力を込め腕を召喚しようとする。だがそれはブルースによって止められる。

「よせ、バルトロメオ」

「なら私が行くわ」

 そう言って彼らの元から走り出したニノン。だが彼女はアンブロジウスの演奏の中での動きを体験していない。やった事もない力の制御を求められる中、ニノンは勢いよく踏み込んで近づく。

 勢い余って突っ込んでいくことはなく、あたかも力を制御しているかのように接近し、拳を打ち込む。

「ッ!?」

「なッ!あの女、どうして!?」

「力の制御のことなら、さっき彼の様子を見て分かった。全力じゃぁないが、暫く大人しくさせるには十分ッ!」

 ニノンはバルトロメオが魔力の制御を失っているのを見て、その状況とどの程度の力を出せばどのくらいの力が出せるのかを既に計算していたのだ。

「あの女ッ!俺のさっきの様子を見てもう把握しやがったのかぁ!?」

「戦闘センスは相当なもののようだな・・・。流石教団の最強の盾と称されるオイゲンが推すだけのことはある」

 彼女の拳には当然の如く魔力を帯びている。それもバルトロメオのように演奏でバフをかけられる事により、力を暴走させることなく制御しながら。そして彼女の拳がアンブロジウスの霊体に命中する。

「ハッ!こ・・・これはッ!?」

 しかしニノンの拳は、束になった糸によって止められていた。アンブロジウスの身体に触れたと思った箇所は、糸の束へと変化しておりニノンの一撃を受け止めていた。

 彼女の纏う光属性の攻撃を受けても尚、糸は引火する事はなくアンブロジウスも演奏を続けたまま。防がれたことに驚きを隠せなかったニノンに向けて、アンブロジウスの足元から複数の糸が伸びる。

「しまッ・・・!?」

 すると再び、一発の銃声が響き渡り、今度はアンブロジウスの頭部を貫いたのだ。衝撃を受けて思わず手を止めるアンブロジウス。ニノンの一撃とは違い、その銃弾は彼に確実にダメージを与えていた。

「オ・・・ォォォ・・・!?」

 接近を許したニノンへ差し向けられた糸はボロボロと崩れさり、またしてもアンブロジウスは演奏を止められてしまう。胸部の時とは違い、頭に直接弾丸を撃ち込んだのが効いたのか、遂に彼はその場に膝をついたのだ。

「アタシの弾丸は“生物“じゃぁない。魔弾も事前に込めて作った物だ。つまり現在進行形のエネルギーでなければ、演奏の影響を受けないようだな」

 ミアの銃弾は何ものの影響を受ける事なく、そしてアンブロジウスの身体の糸に受け止められる事なく、その弾丸としての役割を全うしてみせた。
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