World of Fantasia

神代 コウ

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浮上した犯人候補

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 ジルの案内で博物館の鍵のある場所へと向かい、そこで館内に集められた品々に関する資料やデータを管理する部屋を探し出す。館内マップを見て資料室を見つけた二人は早速その部屋の鍵を手に取り現地へと向かうと、まるでそこだけ図書館にでもなっているかのような量の資料の中から、月光写譜に関する資料を探し始めた。

 膨大な量の資料だったが、博物館を管理している人間が几帳面な性格だったのだろう。かなり細かく細分化されて、分類ごとに並べられた資料はさながら辞書で言葉を探すかのようにあっさりと見つける事ができた。

「あったわ!月光写譜の資料よ」

「でかしたぜ!で?何て書いてあんだ!?」

「急かさないで。今調べてるから・・・」

 二人がそこで見た資料には、音楽の父と称されるバッハの家系図が載っていた。その家系図は学校で学んだバッハのものに留まらず、その祖先からなら膨大な量の見た事もないほど長く続くバッハ一族というものの家系図が並べ連ねられていた。

「何よこの数・・・」

「おいおい・・・。お偉いさんだとは思っていたけどよぉ、こんなに長い家系図なんて見たことねぇぜ・・・」

 現実世界での“ヨハン・ゼバスティアン・バッハ“も同じく、彼の一族の家系図は非常に永く続き、複雑になっている上に名前も同じ人物というものが多く存在する。

 故に彼のゆかりの代物が発見されたとしても、それが皆の知るあの“バッハ“である確証は得られないのだという。それをWoFの世界でも再現されているのだろう。

 バッハ本人の遺品であると思われる物は非常に珍しく貴重な物であり、音楽界隈のみならず、教団やアークシティの組織、そして裏社会に通じるキングのギャングなど、様々な組織が物品の譲渡に多大な金や労力、時には多くの命を費やし取引する事もある。

 膨大な量と複雑な家系図に目を通す中で、ジルはカタリナの性である“ドロツィーア“を無意識に探していた。彼女自身はバッハの家系と関わりは隠されていると言っていたが、それが嘘か本当かなど関係なかった。

 ただ純粋にジルはカタリナがどんな形であれ、今回の事件に関係していると思われるバッハの事柄に関係しているという“証拠“が無いことを祈りながら資料に目を通していた。

「でもよぉ、こんなモン見たところで何か分かんのか?」

「バッハという名が関係しているのなら、きっと何かの糸口にはなる筈よ。それに・・・私はカタリナさんが事件とは無権系であるという“証拠“が欲しいの・・・」

「ジル・・・」

 いつにもなく真剣な眼差しで資料に目を通しているジルの姿に、彼女の必死さを感じたカルロスは、彼女がこんなにも何かに興味を持つ人間だったのかと驚かされたと同時に、いけすかなかった優等生達にも人間味があるのだということを知ったのだ。

 バッハの家系図や月光写譜に関する調査はジルに任せ、カルロスは彼女とは別に違う角度からバッハの事について調べる事にした。

 式典が行われてからというものの、アルバの街にはそれ程意識していなかったバッハの作曲した音楽が、特に多く耳に残っているように思えたカルロス。その中でも特に印象深いのは、グーゲル教会で行われていた儀式にも演奏されていた“マタイ受難曲“だった。

 マタイ受難曲とは、現実世界でいうところの聖書に記されているキリストの受難を題材とした受難曲であり、バッハ作曲の作品としても知られている。こちらの世界ではオイゲンらが所属する教団である“神園還教“に関係して作られた曲であると記されているようだ。

 やはり彼も教団と深い関わりがあったのだろうか。無くなった月光写譜が本当に犯人によって盗まれたとするならば、それは式典を終え宮殿で行われたパーティーが終わった後になる筈。

 そうなると、来賓する者達の為に宮殿へ持ち込まれたという博物館の代物を戻す作業に参加したという人物達が容疑者として上がる。しかしそこで、カルロスはとある疑問に行きついた。

 返却作業に参加していた者達が怪しいのだとすると、何故カタリナだけが宮殿へ連れて行かれ、ジル相手にされなかったのだろうか。音楽学校の生徒で、尚且つ地元の人間でまだ大人でもない彼女に、計画的に楽譜を盗み出そうとする動機がないという事なのだろうか。

 それにしてもアリバイの確認や、当日の動きの確認など少なからず調査を行うのが普通ではないのだろうか。現に同じ音楽学校の生徒であるクリスは取り調べを受けている。宮殿にいた音楽家達も事情聴取を受けていることから、年齢や立場も関係なく平等に行われていた。

 パーティーの後、宮殿の仕事や片付けに参加していなかったカルロスならともかく、ジルを調査しないという理由が見当たらないのだ。その事が脳裏に過ぎってからというものの、カルロスの中ではジルも犯行に関与することは可能なのではないかと、僅かながらの疑いを持つようになった。

 彼女が犯人であるとは思えない。だが協力者という立場であるのならどうだろうか。宮殿の外を自由に歩き回れた彼女は、何らかの方法で宮殿内部と連絡を取ることにより情報を共有し、外の様子を伝えていたのではないだろうか。

 それに片付けを手伝っていたのなら、楽譜を持ち出すのも容易なはず。わざわざレオンらに嘘をついてまで博物館へ向かったのもおかしい。協力者である彼女は、犯行の証拠が無いことを確認するためにここを訪れたのではないだろうか。

 考えれば考えるほど辻褄が合ってくる。固唾を飲んでジルの方へ視線を向けるカルロス。彼女は依然、真剣な眼差しでバッハの資料を調べている。先程言っていたことを信じるのなら、彼女が協力している相手で、宮殿内でジークベルト大司教を殺害した犯人というのは“カタリナ・ドロツィーア“ということになる。
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