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神代 コウ

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避難者と救援者

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 宮殿入り口の騒動を見て援軍に向かっていたツクヨと、教団の護衛隊を率いるプラチド。出発して間も無く、彼らはその入り口の方から避難してくる、傷付いた竜人族を連れた二人の少年と出会う。

「あれ?クリス君?それとあれは・・・」

「レオンだ。確か音楽学校の生徒さんだったかな?でも何で彼らがここに?」

 司令室のモニターで確認した限りでは、入り口で起きていた騒動はアンドレイ一行と何者かの戦闘が映し出されていたが、その中にクリスやレオンの姿は見えなかった。

 多少映像も乱れており、土煙も酷かったので見えなかったとしてもなんら不自然ではないが、音楽学校の生徒はパーティーの後自宅へ帰ったはず。クリスに至ってはジークベルト大司教が殺害された件で事情聴取をした結果、彼には確かなアリバイがあったことから宮殿から出ることを命じられていた筈なのだ。

 それは教団側の調査と、余計な被害者を出さない為の配慮でもあった。しかし宮殿で犯人に襲われた者達が、軒並み教団の関係者であったことから、彼がマティアス司祭を心配して宮殿へ戻って来るというのも想像はついていた。

「おい!君達」

「見ろクリス!人だ!良かった、一先ず助かったな・・・」
「うっうん・・・」

「そっちのは誰だ?」

「アンドレイさんのところの護衛です。俺達を庇ってくれて・・・」

 外傷自体は大したことはなかった。殆どが瓦礫による切り傷や、衝突による打撲ばかり。致命傷になり得るようなものはなく、吹き飛ばされた際に頭を打ち気を失っているだけだった。

 プラチド達が応急処置をすると、チャドの大きな身体を二人がかりで抱え込むと、小隊の半分が少年らと共に司令室へと戻っていった。残された護衛とプラチド、そしてツクヨはそのまま彼らを見送り再び入り口へ向かおうとした。

 するとそこへ、少年らを追っていたアンドレイも合流する。一行は困惑した様子で彼の姿を眺めていた。何故彼がここにいるのか。つい先程まで司令室で確認していた映像には、彼らが戦う様子が映っていた。

 そのリーダーでもある彼がここにいるということは、既に戦闘は終了したということなのだろうか、状況が飲み込めず混乱してしまっていた。

「え・・・?あっアンドレイさん?どうしてここに?」

「戦闘はどうなった?一体何に襲われたんだ?」

 全く想定していなかった事態に、アンドレイに対し質問を浴びせる一行。アンドレイはそんな彼らの心境を察し、自らも仲間の安否が気になる中でも決して無碍にはせず、簡潔に彼らの質問に答えた。

「先ずは落ち着いて。宮殿の入り口で私の護衛が、襲撃者達を束ねていると思われる者と戦っています。私は先に避難させた少年らと護衛を追って、今ここにいます。襲撃者の親玉は・・・」

 アンドレイ達が外で一体何に襲われたのか。それを答えようとした時、僅かに彼の口が止まった。そして彼が口にした名前は、音楽に詳しくなくとも耳にしたことなあるファミリーネームが入っていたのだ。

「親玉は・・・?」

「“アンナ・マグダレーナ・バッハ“・・・」

「バッハ!?バッハって、あのバッハ!?」

「他に誰がいる?いや待て、アンナということは女性・・・。すまない、あまりバッハの家系について詳しくはないのだが、彼の妻か親族・・・ということか?」

「えぇ、アンナ・マグダレーナは、あの音楽の父として知られるバッハの後妻となった女性です」

「それは確かなのか!?彼女は既に何年も前に死んでいる。・・・!?魂を操られているのか!?」

 襲撃者達が霊体であることは既に、宮殿にいる者達には知れ渡っていることだろう。プラチドも当然それは把握していた。それらの魂を率いる者が、同じ霊体であるのなら納得がいく。如何にも親玉と呼ぶに相応しい存在だろう。

 しかしプラチドやツクヨは、アンドレイと同じ疑問に行き着く事になる。夫であるバッハのゆかりの地であるアルバで、何故彼女がこのような騒動を起こすのか。それは本当に彼女の意思なのだろうかというものだった。

「詳しいことは私にも・・・。ただ正気ではないのは確かです。彼女が宮殿で起きた一連の事件の犯人である可能性はないでしょう。恐らく黒幕は彼女を使役している者。そしてそれは、対象との距離が近ければ近いほどより精密な指令を出せる・・・」

「つまり犯人は、まだこの近くに居るという訳だな?」

 アンドレイは無言で頷いた。何かを操るという能力やスキルは、対象との距離によって様々な制約の強弱が変動する。近ければより細かな、遠ければ単純な命令しか受け付けない。

 そして数もまた、距離と同じ関係である。故に襲撃者として宮殿に送り込んだ無数の霊体は、個々が全く意思などを持つ事がなく、生者を襲えという単純な指令だけで動いているに過ぎない。だからこそ、対処法さえ知っていれば簡単に退けることが可能なのだ。

 とは言うものの、それを容易にさせないのが数の暴力、人海戦術というものだ。簡単な事であっても、それを何度も繰り返し同時に行わなければならなくなれば、ただ寝るだけであっても、何時間もましてや何日も寝続けなければならないとなると苦痛に感じてしまうのと同じなのだ。

「さぁ、質問には答えましたよ。私の護衛は無事なのですか?」

「あっあぁ、応急処置はした。先程少年らと共に司令室へと避難させた。意識はまだ戻っていないが・・・」

「十分です、ありがとうございます。それでは私は彼らを追い、司令室へ向かいます。シアラの事・・・私の護衛をよろしくお願いします」

 それだけ言うと、アンドレイは急ぎレオン達の後を追って、司令室の方へと向かって走って行ってしまった。ツクヨとプラチドが何も言わずとも、アンドレイには彼らが騒動の渦中である入り口へ向かうところだったと言うことは分かっていたようだ。

「しれっと仲間を任せるとは・・・。ホント抜け目のない奴だよ全く」

「私達が入り口に向かうことを、彼は分かっていたんですかね?」

「いや、知らない筈だ。だが宮殿で騒動が起きれば誰かを向かわせるであろう事。そして君が我々について来ている事から、それが援軍であることを読み取ったのだろう。どの道救助には向かうんだ、彼の期待に応えるとしようじゃないか」

「その言い回し!なんかいいですね、頼れる味方って感じがして」

「何それ?君変わってるって言われない?」

「ま、まぁ・・・ははは」

 現実での憧れをこの世界に出すのは御法度。もし同じ境遇の者が紛れ込んでいたのなら、自ら弱点を曝け出すも同じ。だがそれでも、ツクヨにはまだこれがWoFという世界であるという認識が、気持ちに追いついていなかったのだ。
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