World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
1,413 / 1,646

互いの目的の為

しおりを挟む
 彼らの無くした記憶の中にある昨日の襲撃事件。その発端となったのは、音楽家ブルース・ワルターの宿泊する部屋からだった。これまでの犯行と同様に犯人はブルースを夜中のうちに殺害しようとした。

 しかし彼の特殊な体質から犯行は失敗に終わる。襲撃を受けた彼ら、特に護衛であるバルトロメオが騒ぎ出し、一行は宮殿を脱出しアルバの街へと飛び出して行った。

 その後は宮殿や街中問わず、謎の人物と呼んでいる存在が各地で蔓延り、警備隊も護衛隊もその対応に追われていた。結果は言わずもがなだが、彼らはその時の記憶を失い、新たに上書きされた情報と共に何事もなかったかのように翌日を迎えている。

 そこに僅かながらの違和感を抱えながら。

「最初の襲撃場所はどこだ?」

「報告によると各所でほぼ同時に襲撃が始まったようです。特定の場所に集中して・・・という形ではないようですね」

「一辺に仕掛けてきたか・・・」

「こちらの様子を伺っているのでしょう。私達と同じく、犯人もマティアス司祭の事について調べようという腹づもりなのかもしれません。良いですか?みなさん、マティアス司祭の事に関しては決して顔に出さないように。彼が仮死状態にあったことを尋ねられても、何も知らないと言い張って下さい」

 ケヴィンの忠告を聞き、犯人がこちらにも目を光らせているのだと肝に銘じると共に、これからの行動にもそれぞれ犯人の意思が向けられるという恐怖が付きまとうということを感じていた。

「シンさん!?どこへ行くつもりですか?」

「襲撃を受けたんだろ!?みんながッ・・・仲間達が心配なんだッ!」

「待って下さい!ミアさんやツクヨさんならきっと大丈夫です」

「分からないだろ!?自分の知らないところで失うのは嫌なんだッ!」

 珍しく感情的になるシンは、ケヴィンの静止を振り切り仲間達のいる部屋へ戻ると言い出した。彼のスキルを当てにしていたケヴィンは、シンには別の件で手伝いをしてもらおうと考えていたのだが、その表情を見た時、とても引き留められるものではない事を悟る。

「まて、私が付いて行こう。オイゲンもそれでいいな?」

「あぁ、我々にとってもその方が都合が良いしな。彼のことはニノンに任せよう」

「えッ!?ぁっ・・・ちょっとちょっと!」

「彼には自分の身を危険に晒しても、居たい場所があるのだろ?誰もが君のように打算的になれるものでもないだろ」

 会話を待たずして司令室を飛び出して行ったシンの後を追うニノン。そしてそれを引き止めようとしたケヴィンを説得したオイゲンは、彼の持ち込んだカメラも活用し、宮殿内に紛れ込んでいると思われる犯人の反応を探す事にした。

「おい!待てシン!」

 廊下を駆け抜ける中、そこら中で襲撃者達と宮殿側の者達との戦闘が行われていた。だがそれらをうまく躱して目的の場所へまっしぐらに向かうシンに追い付き、その腕を掴むニノン。

「離せッ!協力ならする!だがそれはみんなの無事が確保されてからッ・・・・!?」

 ニノンはそのままシンをまるで荷物のように担ぎ上げると、窓を開けて足を掛ける。慌てた様子でどうするつもりなのかシンが尋ねると、ニノンは口角を上げて答える。

「こっちの方が近道だ」

 ニノンは持ち前の身体能力で、一人の大人を担ぎながらシン達の宿泊していた上層階の窓があるところまで跳躍する。ちょうど対角線上にある窓に今にもぶつかりそうになると、彼女はそのまま窓も壁も破壊せんという勢いで身構える。

「ちょっと待て!そのまま突っ込んでくれ!」

「元々そのつもりだ」

「そうじゃない。いいから俺を信じて、そのまま乗り込んでくれ」

「ッ・・・分かった!」

 風を切り飛び上がる二人は、そのまま窓から少しズレた外壁にぶつかる勢いで突っ込んでいく。するとその壁に映る二人の影が濃さを増し、黒い渦のようになって影のゲートを開く。

 これがケヴィンの言っていたシンのスキルかと、話には聞いていたアサシンのスキルを目の当たりにし、安心した様子でニノンはその影の中へと飛び込んでいく。

 二人は外壁をすり抜け、何も壊すことなく上層階に到着する。シンを下ろしたニノンが立ち上がると、そこはミア達の居る部屋の前だった。

「ミア!ツクヨ!」

 扉を勢いよく開けて中へ入っていくと、部屋の中は少し荒らされた様子はあるものの、何ら変わらぬ様子のツクヨやミアの姿があった。互いに無事な姿を見て安堵すると同時に、驚きの表情を浮かべていた。

「シン!?無事だったのかい?」

「そっちこそ!これは・・・」

「突然、訳の分からん奴らがやって来た」

 シンの問いに答えたのは、その手に僅かに煙を上げる銃を持ったミアだった。どうやら彼らの元にも同じ襲撃者がやって来たようだ。それは突然入り込んで来たのだという。

 壁や床など、お構いなしに移動してくるその謎の人物達には、物理的な攻撃が通用せず魔力が込められた弾丸や、ツクヨの持つ特殊な効果を持つ刀でなければ対抗できないとの事だった。

「物体を透過する存在か・・・」

「あちこちで騒がしい音が聞こえる。他でも襲撃が?」

「あぁ、そこら中でな・・・。ここも安全ではない。君達は戦えるようだが、良ければ司令室に来ないか?あそこなら主力も集まるし、何より人手が欲しいところだ。ケヴィンから話は聞いている。正直、まとまっていた方がこちらも守りやすい」

「願ってもない申し出だ。アタシは賛成だね」

 敵が何であるか、どれほどの戦力を持っているか分からない以上、孤立し戦うよりも協力しまとまっていた方がミアは安全だと判断した。何より戦闘を行えないアカリを守りながらとなると、一人でも多くの戦える者の力があった方が生存率は上がる。

 無論、教団側の監視したいという名目もあるのだろう。仲間の無事を願っているのは、何もシンだけではない。ミアも利用できるものは何でも利用するべきだと考えていたのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

全校転移!異能で異世界を巡る!?

小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。 目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。 周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。 取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。 「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」 取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。 そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく
ファンタジー
 「この騎士団に、事務員はいらない。ユーリ、お前はクビだ」リグリア王国最強の騎士団と呼ばれた黒葬騎士団。そこで自らのスキル「書記」を生かして事務仕事に勤しんでいたユーリは、そう言われ騎士団を追放される。  さらに彼は「四大貴族」と呼ばれるほどの名門貴族であった実家からも勘当されたのだった。  失意のまま乗合馬車に飛び乗ったユーリが辿り着いたのは、最果ての街キッパゲルラ。  彼はそこで自らのスキル「書記」を生かすことで、無自覚なまま成功を手にする。  そして彼のスキル「書記」には、新たな能力「命名」が目覚めていた。  彼はその能力「命名」で二人の獣耳美少女、「ネロ」と「プティ」を生み出す。  そして彼女達が見つけ出した伝説の聖剣「エクスカリバー」を「命名」したユーリはその三人の家族と共に賑やかに暮らしていく。    やがて事務員としての仕事欲しさから領主に雇われた彼は、大好きな事務仕事に全力に勤しんでいた。それがとんでもない騒動を巻き起こすとは知らずに。  これは事務仕事が大好きな余りそのチートスキルで無自覚に無双するユーリと、彼が生み出した最強の家族が世界を「書き換えて」いく物語。  火・木・土曜日20:10、定期更新中。  この作品は「小説家になろう」様にも投稿されています。

超リアルなVRMMOのNPCに転生して年中無休働いていたら、社畜NPCと呼ばれていました

k-ing ★書籍発売中
ファンタジー
★お気に入り登録ポチリお願いします! 2024/3/4 男性向けホトラン1位獲得  難病で動くこともできず、食事も食べられない俺はただ死を待つだけだった。  次に生まれ変わったら元気な体に生まれ変わりたい。  そんな希望を持った俺は知らない世界の子どもの体に転生した。  見た目は浮浪者みたいだが、ある飲食店の店舗前で倒れていたおかげで、店主であるバビットが助けてくれた。  そんなバビットの店の手伝いを始めながら、住み込みでの生活が始まった。  元気に走れる体。  食事を摂取できる体。  前世ではできなかったことを俺は堪能する。  そんな俺に対して、周囲の人達は優しかった。  みんなが俺を多才だと褒めてくれる。  その結果、俺を弟子にしたいと言ってくれるようにもなった。  何でも弟子としてギルドに登録させると、お互いに特典があって一石二鳥らしい。  ただ、俺は決められた仕事をするのではなく、たくさんの職業体験をしてから仕事を決めたかった。  そんな俺にはデイリークエストという謎の特典が付いていた。  それをクリアするとステータスポイントがもらえるらしい。  ステータスポイントを振り分けると、効率よく動けることがわかった。  よし、たくさん職業体験をしよう!  世界で爆発的に売れたVRMMO。  一般職、戦闘職、生産職の中から二つの職業を選べるシステム。  様々なスキルで冒険をするのもよし!  まったりスローライフをするのもよし!  できなかったお仕事ライフをするのもよし!  自由度が高いそのゲームはすぐに大ヒットとなった。  一方、職業体験で様々な職業別デイリークエストをクリアして最強になっていく主人公。  そんな主人公は爆発的にヒットしたVRMMOのNPCだった。  なぜかNPCなのにプレイヤーだし、めちゃくちゃ強い。  あいつは何だと話題にならないはずがない。  当の本人はただただ職場体験をして、将来を悩むただの若者だった。  そんなことを知らない主人公の妹は、友達の勧めでゲームを始める。  最強で元気になった兄と前世の妹が繰り広げるファンタジー作品。 ※スローライフベースの作品になっています。 ※カクヨムで先行投稿してます。 文字数の関係上、タイトルが短くなっています。 元のタイトル 超リアルなVRMMOのNPCに転生してデイリークエストをクリアしまくったら、いつの間にか最強になってました~年中無休働いていたら、社畜NPCと呼ばれています〜

処理中です...