World of Fantasia

神代 コウ

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命運は犯人の手中

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「あら、何か気づいたの?アナタ」

「あぁ、儀式はカモフラージュされ、既に行われていた・・・」

「ッ!?」

 少ない情報でこれだけの推理が出来るものなのかと、イーリスもマイルズも彼の言うカモフラージュされた“儀式“とは何だったのか、そしてそれと宮殿を襲撃する謎の人物達とどのような関係があるのか、詳しく尋ねる。

 リヒトル曰く、宮殿で起きた殺人事件の被害者は血管に異常があったのだという。しかし、彼らには外傷はなくジークベルト大司教以外は、毒物も検出されなかった。

 それなのに被害者の身体に異常があったのは心臓付近の血管ばかり。とてもではないが偶然とは思えない。恐らくこれは犯人の何らかの能力によるものだとリヒトルは語る。

 大規模な儀式が行われていたのなら、何故誰も魔力の反応に気が付けなかったのか。感知されないように極限まで魔力を抑えていたのなら感知にも引っかからない事はあるかもしれないが、それでは一辺に大人数に対して儀式を行うなどと言うことは不可能になる。

「それじゃぁどうやって多くの人々の魂を?」

「音楽の力だよ」

「音楽の・・・?」

「音とは振動、空気中の摩擦によって生じるものだ。つまり犯人は式典で行われた演奏を利用したんだ。音に何らかの細工をして、参加していた者達の魂を不安定な状態にした」

 あの場にいた全員が儀式の餌食になっていたとするならば、それはリヒトルら音楽家達やシン達も同じ。そして殺されたジークベルトやルーカスも例外ではない。

 では、被害者らと式典に参加していた者達との身体的、精神的な違いは何か。リヒトルの答えは、“全員同じ“だという。要するに既に儀式によって何かを仕込まれた観客達は、犯人の匙加減一つでいつでも殺せると言う事になる。

「それじゃぁみんな殺される・・・?」

「いや、どうやら犯人の目的は大量殺人ではないらしい。あくまでターゲットだけを確実に殺せる準備。それがあの式典だったと言うわけだ」

「それでは犯人の犯行はどうなのでしょう?この後も続くのでしょうか?」

「それは分からない。だが、続くのだとしたらあの式典に参加した時点で、我々の命もまた犯人の掌の上・・・。そして宮殿を襲撃したのは、犯人の計画に何らかの異常事態が発生し、強硬手段に出ざるを得なかったのだろう」

 彼の言う、その異常事態こそターゲットであったブルースの殺害の失敗だった。犯人はブルースが既に生身の肉体を失っており、仮の器にブルースの魂を入れているに過ぎない存在であることを知らなかったようだ。

 そもそもブルースの秘密については、知っている人間の方が少ない。故に宮殿で推理を行っていたリヒトルや、襲撃者を迎え討つオイゲンらも知る由もなかった。

「命を狙われたのはブルース・ワルター。連日の被害者の殺害方法と同じやり方でブルースを狙った犯人だったが、どういう訳か彼は死ななかった」

「死ななかった?つまりブルース・ワルターは私達のような普通の人間ではない・・・と?」

「身体の構造が異常なのか、それとも何らかの能力で弾き返したのかは分からない。だが、犯人の攻撃を防ぐ手掛かりを得るには、ブルースを調べるのが一番手っ取り早いだろうな」

 何を言いたいのか分かるなと言った様子でマイルズを見るリヒトル。その意図を察したマイルズは二人の側を離れることを詫びた後、部屋を出ていってしまった。

「またマイルズに何かをやらせるつもり?」

「今度は危険でもないさ。それより・・・」

 会話が長引いた事により、ここに生命反応があることが謎の人物達にバレてしまったのか、最初の襲撃者達と同じように、今度は人数を増やしてリヒトルとイーリスの部屋に押し掛けて来たのだ。

「あらあら、今度は随分とお友達を連れて来たようね」

「手を貸そうか?」

「いいえ、私だけで十分よ。長話をし過ぎたみたいね。紅茶、入れ直しましょうか?」

「あぁ、それじゃぁ頂こうかな?喋りっぱなしで喉が乾燥してしまったようだ」

 リヒトルら一行が宮殿を抜け出したと言う報告や、襲撃者達によって殺されたと言う報告もオイゲンらのいる司令部には届いていない。

 場面は更に変わり、今度は街から宮殿へ助けを求めに来たクリスの場面へと移る。彼らと入れ違いに街へと飛び出していったシン達と同じように、音楽学校の学生らもまた、街で謎の人物達に襲われながらもレオン達の助けもあり、一人宮殿へ戻ってくる事に成功したクリスは、司令部にて街の様子を語った後マティアス司祭がどうしているのかと尋ねた。

 だがクリスの心配は的中してしまう。既にマティアス司祭は犯人によって殺されてしまった。そう言う事になっている。実際はケヴィンの持ち込んだ仮死状態になる薬を服用したと思われるが、その後マティアス司祭は息を吹き返す事はなかった。

 その為、宮殿での殺人事件の中で唯一彼だけが、犯人の犯行とは違った事例として処理されている。死亡時刻も他の者達とは違い、昼間から夕方となっている。

 オイゲンはケヴィンの薬のことを隠し、マティアス司祭も一連の犯人によって殺されてしまったとしてクリスに語った。それを聞いた彼は、一目でもいいからマティアス司祭と合わせて欲しいと涙ながらに懇願する。
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