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探偵の奥の手
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だが、気が付いた時には既に銃弾は避けられるような位置にはなかった。ミアの放った銃弾は、振り返った親玉の頭部を貫いた。悲痛な叫び声を上げる親玉の声は、それ自体が範囲内にいる者達の三半規管を刺激し、五感に様々な弊害をもたらした。
ミアは耳を塞ぎながらその場を後にする。彼女の素早い判断が功を奏し、囲まれる事は避けられた。というのも、親玉の霊体は、叫び声を上げつつもミアが狙撃した場所に謎の人物達を送り込んでいた。
しかしその場に既にミアの姿はなく、集まった謎の人物達は周囲を見渡したのちに解散し、壁や床を擦り抜けて持ち場へと戻っていく。その道中、一人の謎の人物がミアの衣装らしきものの一部を視界に捉える。
「ったく・・・!いちいち叫び声に効果があんのかよ・・・」
別の場所で隠れながら次の弾丸を弾倉に込めるミア。そこへ彼女の痕跡を見つけた謎の人物が近づいてくる。音もなく障害物さえも通り抜けて一直線に向かってくる謎の人物の気配に彼女は気が付かなかった。
先程の叫び声を浴びて、周囲へのケアを怠ってしまっていたミア。だが決して彼女に落ち度があった訳ではなく、これも霊体達の戦術の内の一つだったのだ。
披露していた事もあり注意力が散漫になっていたところに、遂に謎の人物の一人が直接彼女の身体に触れた。
「ッ!?」
触れると言っても、実際に腕や足を掴まれるといったものではなく、文字通り謎の人物の腕はミアの身体に触れてそのまま透過してすり抜けたのだ。すぐに場所を移動しハンドガンに切り替えると、素早く照準を頭に合わせ一発二発と撃ち込む。
一連の戦闘から、既に手持ちの銃には魔力を込めた弾丸が装填されていた。頭に魔弾を浴びた謎の人物は、そのまま塵となって消滅していったが、その代わりにミアの容態がより一層悪化してしまっていた。
謎の人物に触れられることにより、肉体的なダメージはなかったがその代わりに魔力を大きく消耗し、疲労感が一気に彼女の身体にのしかかった。
「クソッ・・・こんな雑魚共にッ・・・!シン達は無事なのか!?」
謎の人物に気を取られ、外の様子がどのようになっているのか目を離してしまう。すぐに外の様子を確認するも、それまで居た場所に敵の親玉の姿は無く、倒れていたシンとケヴィンの姿も路地裏から消えていた。
「なッ・・・しまった!どこへ消えた!?」
二人を探しに向かう為、立ちあがろうとするミアだったが、足に力が入らずその場で倒れてしまう。自身でも気が付かない内に見た目以上の疲労が身体に蓄積されていた。
「・・・こんなところで寝てる場合じゃねぇんだってッ・・・!!」
悲鳴をあげる身体に鞭を打ちながら立ち上がり、ミアは民家の中を移動し路地裏へと出ていく。先程までシン達が居た場所に彼らの姿はない。何処かに移動してしまったのか、周囲を見渡し痕跡を探す。
すると、表通りの方から親玉のものと思われる演奏が聞こえてくる。音の範囲は相手の効果により身体に弊害が起こるのだが、一旦途絶えてしまった状況を確認する為にも、自ら術中に飛び込んでいかなくてはならなかった。
意を決して踏み出そうとするミアに、どこからともなく男の声が聞こえてきた。姿こそ見えなかったが、その声は確かに聞き馴染みのあるシンの声に酷似していた。
「近づいちゃダメだ。静かに・・・ゆっくり戻ってきてくれ」
「シン!?どこにいる?無事なのか!?」
声を荒立てるミアに、演奏の音が僅かに近づいたような気がした。慌てて口を閉じたミアは、音を殺して言われるがままに来た道を戻り、シン達が倒れていた場所へと戻ってくる。
てっきりそこにシン達が隠れていると思っていたミアだが、周囲を見渡しても二人の姿を見つけることは出来なかった。
「どこに隠れてる?」
彼女の声にゆっくりと姿を現すシンとケヴィン。彼らは建物の影に身を隠し、更にシンのスキルにより影の中ではないものの、周囲の影を利用し光を遮ることで姿を隠していたようだった。
「二人が無事でよかったが、どうやって奴の注意を逸らした?何故奴は表通りで演奏を?」
「それに関しては私から・・・」
どうやら彼には、探偵業で証拠や痕跡を探る際に頼る仲間がいるのだという。それが人間にはない聴力や嗅覚を持つ、戦闘向きではない動物達だった。戦うことは出来なくとも、ケヴィンには捜査の協力や追手から身を隠す為の囮など、様々な場面で強力なサポートを行う式神のようなものがいた。
「狩猟犬や上空からの偵察を行う為の鳥類など、人は様々なところで他種族の力を借りてきました」
「お前なぁ・・・。そんな事が出来るならもっと早くに・・・」
「おっと!勿論ノーリスクで協力を仰ぐことは出来ません。それに戦闘で呼び出すような召喚などのように、コストが低い訳でもないので使い時が重要なのです。そして私は、今がその時だと判断したという訳です」
「そんな事を聞きたかった訳じゃないが、思ったより元気そうで何よりだ。二人とも歩けるか?」
「ミアが時間を稼いでくれたおかげで、何とか動けるよ」
ミアが謎の人物達とその親玉と戦っている間、まるで瀕死の状態であるかのように動かなかったのは、ケヴィンの指示だったようだ。彼は早くから敵の攻撃が音によるものである事を見抜くと、演奏による体力の消耗や疲労を可能な限り抑え込み、少しでも身体を休ませる為、敢えて動かない決断をしたのだという。
ミアは耳を塞ぎながらその場を後にする。彼女の素早い判断が功を奏し、囲まれる事は避けられた。というのも、親玉の霊体は、叫び声を上げつつもミアが狙撃した場所に謎の人物達を送り込んでいた。
しかしその場に既にミアの姿はなく、集まった謎の人物達は周囲を見渡したのちに解散し、壁や床を擦り抜けて持ち場へと戻っていく。その道中、一人の謎の人物がミアの衣装らしきものの一部を視界に捉える。
「ったく・・・!いちいち叫び声に効果があんのかよ・・・」
別の場所で隠れながら次の弾丸を弾倉に込めるミア。そこへ彼女の痕跡を見つけた謎の人物が近づいてくる。音もなく障害物さえも通り抜けて一直線に向かってくる謎の人物の気配に彼女は気が付かなかった。
先程の叫び声を浴びて、周囲へのケアを怠ってしまっていたミア。だが決して彼女に落ち度があった訳ではなく、これも霊体達の戦術の内の一つだったのだ。
披露していた事もあり注意力が散漫になっていたところに、遂に謎の人物の一人が直接彼女の身体に触れた。
「ッ!?」
触れると言っても、実際に腕や足を掴まれるといったものではなく、文字通り謎の人物の腕はミアの身体に触れてそのまま透過してすり抜けたのだ。すぐに場所を移動しハンドガンに切り替えると、素早く照準を頭に合わせ一発二発と撃ち込む。
一連の戦闘から、既に手持ちの銃には魔力を込めた弾丸が装填されていた。頭に魔弾を浴びた謎の人物は、そのまま塵となって消滅していったが、その代わりにミアの容態がより一層悪化してしまっていた。
謎の人物に触れられることにより、肉体的なダメージはなかったがその代わりに魔力を大きく消耗し、疲労感が一気に彼女の身体にのしかかった。
「クソッ・・・こんな雑魚共にッ・・・!シン達は無事なのか!?」
謎の人物に気を取られ、外の様子がどのようになっているのか目を離してしまう。すぐに外の様子を確認するも、それまで居た場所に敵の親玉の姿は無く、倒れていたシンとケヴィンの姿も路地裏から消えていた。
「なッ・・・しまった!どこへ消えた!?」
二人を探しに向かう為、立ちあがろうとするミアだったが、足に力が入らずその場で倒れてしまう。自身でも気が付かない内に見た目以上の疲労が身体に蓄積されていた。
「・・・こんなところで寝てる場合じゃねぇんだってッ・・・!!」
悲鳴をあげる身体に鞭を打ちながら立ち上がり、ミアは民家の中を移動し路地裏へと出ていく。先程までシン達が居た場所に彼らの姿はない。何処かに移動してしまったのか、周囲を見渡し痕跡を探す。
すると、表通りの方から親玉のものと思われる演奏が聞こえてくる。音の範囲は相手の効果により身体に弊害が起こるのだが、一旦途絶えてしまった状況を確認する為にも、自ら術中に飛び込んでいかなくてはならなかった。
意を決して踏み出そうとするミアに、どこからともなく男の声が聞こえてきた。姿こそ見えなかったが、その声は確かに聞き馴染みのあるシンの声に酷似していた。
「近づいちゃダメだ。静かに・・・ゆっくり戻ってきてくれ」
「シン!?どこにいる?無事なのか!?」
声を荒立てるミアに、演奏の音が僅かに近づいたような気がした。慌てて口を閉じたミアは、音を殺して言われるがままに来た道を戻り、シン達が倒れていた場所へと戻ってくる。
てっきりそこにシン達が隠れていると思っていたミアだが、周囲を見渡しても二人の姿を見つけることは出来なかった。
「どこに隠れてる?」
彼女の声にゆっくりと姿を現すシンとケヴィン。彼らは建物の影に身を隠し、更にシンのスキルにより影の中ではないものの、周囲の影を利用し光を遮ることで姿を隠していたようだった。
「二人が無事でよかったが、どうやって奴の注意を逸らした?何故奴は表通りで演奏を?」
「それに関しては私から・・・」
どうやら彼には、探偵業で証拠や痕跡を探る際に頼る仲間がいるのだという。それが人間にはない聴力や嗅覚を持つ、戦闘向きではない動物達だった。戦うことは出来なくとも、ケヴィンには捜査の協力や追手から身を隠す為の囮など、様々な場面で強力なサポートを行う式神のようなものがいた。
「狩猟犬や上空からの偵察を行う為の鳥類など、人は様々なところで他種族の力を借りてきました」
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ミアが謎の人物達とその親玉と戦っている間、まるで瀕死の状態であるかのように動かなかったのは、ケヴィンの指示だったようだ。彼は早くから敵の攻撃が音によるものである事を見抜くと、演奏による体力の消耗や疲労を可能な限り抑え込み、少しでも身体を休ませる為、敢えて動かない決断をしたのだという。
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