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神代 コウ

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振動の伝わり

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 溢れんばかりの水の量に笑みを浮かべるウンディーネ。家屋の中で披露した水の矢とは比べ物にならない量の水の弾丸を作り、上空を飛びながら宮殿へ向かうケヴィンを追いかける謎の人物達の身体を撃ち抜いていく。

 絶え間なく溢れる水のおかげで、水の弾丸は機関銃のように絶え間なく謎の人物達を襲い、無尽蔵の弾丸でその霊体の身体を貫く。本来あり得ない動きを見せる水は、ウンディーネの魔力によって操られている為、その一つ一つが魔力を纏っている。

 故に謎の人物達に対して絶大な効果をもたらした。魔力の籠った水の弾丸は当然、謎の人物達を束ねる親玉にも命中する。大きな身体で的のでかい親玉にとっても、ケヴィンを追うよりも先に何とかしなければならない問題となったようで、ミア達の方を振り返ると今までに見せなかった反応を示した。

 これまで碌な攻撃方法をミアの前で見せてこなかったが、突如として大きな口を開き咆哮を上げたのだ。

 バリバリと大気を震わす程の音量で親玉が叫ぶと、周囲の家屋の窓ガラスが次々に割れていき、ウンディーネの水の弾丸も音源である親玉に近づくと、その咆哮により打ち消されてしまう。

「何だッ・・・!?この叫びはッ!!」

「ごめんなさいミアッ・・・!私・・・もう耐えられそうにないわ!」

「ッ!?」

 ウンディーネは水の精霊であり、その身体も殆どが水で出来ている。故に大気を震わせる程の咆哮を受け、振動による攻撃を受けた水の弾丸のように形を保てなくなっていたようだった。

 しかし彼女は、自身の身体が消える前にミアに対し、親玉の攻撃方のヒントについて残していった。それこそグーゲル教会にてニノンを消し去りシンを瀕死の状態にまで追い詰めた、“音による振動“だったのだ。

「“音の振動“・・・だと!?」

「気をつけて・・・先に逃げた彼もきっと、何らかの影響を受けている筈よ・・・」

 音の聞こえる範囲というものは想像している遥かに広く、それを聞き取る側の問題もある為、正確に捉えることは難しい。攻略のヒントを残して消えてしまったウンディーネと、シンを背負い宮殿を目指すケヴィンの危機を知らされたミアは、咆哮が止むと同時に最後にケヴィンの走る姿を見た方向へ向かって走り出す。

 先程の攻撃以降、街の様子は随分と荒れた光景へと様変わりしており、道を走る地面にはガラスの破片や、咆哮の振動で崩壊した瓦礫などが散らばっていた。

 それと同時に謎の人物達の数も減っていた。残りの取り巻きを連れながら上空を飛び去っていく。物陰に隠れている間に銃に弾を込めていたミアは、その背に数発の銃弾を撃ち込む。

 だがどういう訳か、ミアの放った弾丸はあらぬ方向へと飛んでいってしまう。その異変は誰よりも、弾を撃ち放ったミアが一番早くに気がついていた。

「・・・?」

 思わず視線を自らの手元に移すと、僅かに視界が揺らいでいる事に気がつく。それはまるで、酒に酔っている時のように頭がふわふわとし、視界もピタリと定まらない。

 もう一度自身が追っていた謎の人物達の方へ視線を向けてみると、視線を移動させた瞬間は酷い歪みに襲われ、定めるのに時間を要していた。

「何をされた・・・?まさかさっきの・・・」

 ミアにはその現象が何による影響かについて、既に気がついている様子だった。だが今更そのような状態異常とも取れる現象を受けてしまった事を理解したところで、それを解除する方法がなかったミアは、定まらない視界の中をがむしゃらに駆けていく。

 すると、上空を飛んでいた謎の人物達の群れが宮殿に辿り着くよりも前に、地上へと降りていった。それを目にした時、ミアはそこにシンとケヴィンがいるのではと内心、気が気ではなかった。

 案の定、そこにはケヴィンがいた。彼は背中に背負ったシンに乗っかられるように地面に倒れていた。ウンディーネの言う通り、彼にも音の振動の影響が襲い掛かっていたようで、戦闘のような激しい動きに慣れていない彼にとってミアと同じ視界の中シンを背負って走ると言うことは、想像以上に過酷なものだった。

「なるほど・・・やはり“音“・・・でしたか。まさかこれ程までに厄介な力だったとは・・・。しかし、あのような知性のない者が一連の犯人だったと・・・?」

 一人事件との関係性を考察するケヴィンの元に、上空からまるで死の国からの迎えでもやって来たかのように、謎の人物達とその親玉がゆっくりと降下してきていた。

 そして彼らを束ねる親玉は、その手にヴァイオリンを出現させるとゆっくりとその弦を弾き始める。

 遅れて後を追って来たミアの耳に、突如式典でも聞いたかのような心地のいい音楽が聞こえて来た。咆哮といい、音楽といい、音に纏わる現象が続く中、それが例え罠であっても飛び込まざるを得ない状況だと理解した上で、ミアはケヴィン達のいる通りに身を投じると、有無を言わさず歪む視界の中で狙いを定め、渾身の魔弾を放つ。
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