World of Fantasia

神代 コウ

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異彩な音楽家一行

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 一方、オイゲンら教団の許しが出た事によりアルバの街へと飛び出していったアンドレイら一行。護衛であるシアラやチャド、ケイシーらを連れて何なく宮殿の外の襲撃者達を退けると、街の事情と状態の調査を始める。

 「アンドレイ様、まずは何処から向かいます?」

 「そうですねぇ・・・順当に行くなら教会から調べるのが良いのでしょうけど、恐らくそちらはオイゲンさんが小隊を組んで調査に向かわせるでしょう。それなら別のところから始めるのが効率的だし、新たな情報も掴めるかもしれませんね」

 「そ・・・それなら、ど・・・何処から行きます?」

 言わずもがな、アルバには多くの観光名所や音楽にまつわる歴史的なものを展示している博物館など、様々な候補先がある。

 その中でもアンドレイが注目したのが、バッハに関する物が多く展示されている博物館だった。そこはカタリナが宮殿からの使者達によって連行された現場でもあり、ジルが宮殿で起きた事件を知るきっかけともなった場所だった。

 しかしながら、アンドレイらはそんなことを知る由もない。カタリナの事に関しては街で重要参考人として宮殿へ招いたとしか聞かされておらず、宮殿内部でもこれと言った話は直接聞いていなかった。

 「博物館ですか!それは実に博識なアンドレイ様らしいですわ」

 「カタリナさんが重要参考人として捕まった場所のようです。その日は先日の式典やパーティーの展示で使われた貴重な品の移動の手伝いをしていたようですね」

 「あら、かの有名な歌手であるカタリナさんを招いておいて手伝いをさせていただなんて・・・。アンドレイ様にそのような話が来ていたら私・・・」

 シアラは自ら発した言葉をの先を想像しながら、胸の前で拳を握りしめてふるふると怒りで身体を震わせていた。その姿を見ていたチャドとケイシーは、彼女の恐ろしさを知っているからか、視界の端にそれを捉えながらもなるべく顔を向けないようにしていた。

 「ははは!私でも歓迎していましたよ」

 「そんな・・・!アンドレイ様に労働を強いるなど私は許せませんわ!」

 「アルバにある貴重な品は本当に貴重な物ばかりだ。それを直接この目で、この手で感じられるなんてそんな光栄な話はないじゃないか。寧ろ何で私のところにはそんな話が来なかったのかな?」

 「全くですわ!今度宮殿へ戻ったら、担当者を問い詰めてやりましょう!」

 「シ・・・シアラ、さっきまでと言ってること、違う・・・」

 「何ですって!?」

 感情の波が激しい彼女に振り回され、思わず口を挟んでしまったことを後悔するチャド。楽しげな雰囲気の中、彼らはバッハ博物館へと足を運ぶ。その道中は、別行動をしていたブルースらと同様に、街を徘徊する謎の人物らの襲撃を受けるものの、彼らはブルースらの武闘派とは違い、物音を立てぬスマートな方法でこれらを次々に排除していった。

 主に道中で活躍していたのは、アンドレイら一行の中で唯一の女性であるシアラだった。妖艶な容姿と衣装に身を包んだ彼女は、襲いかかる謎の人物に踊るように優しく寄り添うと、何やら呪文のようなものを小声で呟きそっと息を吹きかけると、謎の人物は突如として時間を止められたかのように動きを止め、その場で倒された時と同じように塵となって消えていった。

 アンドレイらは何も心配する素振りもなく彼女を信頼し切っているようで、謎の人物が襲い掛かってきても全く動揺していない様子。騒ぎにもならないので周りから他の者達が引き寄せられてくる事もなく、一行の移動はスムーズに進んでいった。

 そして目的の博物館に到着するも、そこには以前のように厳重に警備されていた様子は見る影もなく、ここまでやって来る間に幾つも目にしてきた民家と同様に、教会のように特別謎の人物達が多く徘徊しているという訳でもなく、閑散とした雰囲気が漂っていた。

 「街のは人の姿が見当たらなかったように思ったけど・・・みんなはどう?」

 「えぇ、私も見かけませんでしたわ」

 「ぼ・・・僕達も見かけませんでしたッ・・・!み・・・みんな何処へ行っちゃったんだろ・・・?」

 「これだけ大きな街で、住民が集団で行方不明になる何てそうそうある事じゃぁない。私達が宮殿でのんびりしている間に、犯人の術中にハマってしまっていたと考えるのが自然だろうね」

 「催眠や幻術の類ですか?でも宮殿ではそんな様子はなかったように思いますけど・・・」

 「私達が術に掛かっているのか、街全体が術に掛けられているのか詳細は分かりませんが、犯人は今回の一件の為に、かなり準備をしてきたのだと思います。その用意周到さが伺えますね」

 全く尻尾を掴ませない犯人の行動と手段に、思わず感嘆の声を上げるアンドレイ。自分以外が主人であるアンドレイに褒められる事に対し、嫉妬心を抱くシアラ。

 それを目にしたケイシーが慌てて話を逸らさせるようにチャドに指示を出す。チャドが急かされるように、アンドレイに博物館内部へ向かうかと尋ねる。

 外から見る限り、不自然なほど警備が薄く静かであることから、罠であることを勘繰ってしまうアンドレイだったが、ここで手をこまねいていても進展しないとし、いつ襲撃を受けても良いように護衛達に注意を促した後に、一行はチャドと彼の肩に乗るケイシーを先頭に正面口から博物館内部へと侵入する。

 扉に鍵は掛かっていなかった。手を掛けたチャドが後方のアンドレイの方へ視線を向けると、彼は小さく頷いている。そのまま音を立てないように静かに扉を開けると、中は真っ暗で荒らされた様子もない。

 他の場所と同じように、建物や風景はそのままに人だけが突如として存在を消し去ったかのような、不気味な雰囲気が室内に漂っていた。

 気配を探る事を得意としている小人族のケイシーが、博物館の内部でソナーのように微量な魔力の波長を送り、反応を探る。ロビーからは何も反応が返ってこないことを確認するとチャドの肩を叩き、チャドはアンドレイとシアラに反応がないことを知らせる。

 周囲を見渡しながら散会して、何かしらの痕跡や手掛かりがないかを探る一行。すると、博物館の周辺からではないが、遠くの方で何やら大きな物音が聞こえてくる。

 この時の彼らは知らないが、それはグーゲル教会でニノンやシンが謎の人物達の親玉と戦っている音だったのだ。
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