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神代 コウ

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光の糸とたった一度の衝撃

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 「何だ・・・この感覚はッ・・・?」

 ブルースはツクヨに聞こえないような小さな声で心の声を漏らす。突然驚きの表情と共にツクヨとの距離を取るブルースに、助けに入ったツクヨも何事かと声を掛ける。

 だが、感じた悪寒とは裏腹にツクヨの表情やその性格からも、悍ましい事をするような人間には思えなかったブルースは、自分の勘違いだと思い込むようにし、今はこの戦局を乗り越えることに尽力する。

 「俺では奴にダメージを与えられなかった」

 「魔力を帯びてもですか?」

 「あぁ、奴は他の連中とは勝手が違うようだ。今度は俺が援護に回るから、アンタが攻撃してみてくれないか?」

 初めは相手の音による攻撃を警戒し過ぎたせいで、ブルース一辺倒の戦闘を余儀なくされていたが、バッハの攻撃に注視し発動のタイミングでツクヨと入れ替わることが出来れば、致命傷を避けることが可能なのではないかと考えた。

 「それは構わないけど、例の攻撃に関しては何か対策が?」

 「奴は音を鳴らすことで攻撃をする。手の動きに注意しろ。鍵盤を出し、演奏を始めようとした時、何よりも先に奴の腕を叩け。俺も奴の動きには注目しておく。万が一の時は全力で下がれ、俺が身代わりに入る。俺の身体なら奴の攻撃は通用しない・・・筈だ」

 彼が曖昧な回答をしたのには理由があった。これまでの戦闘の中で、明確にブルースを狙った音による攻撃を霊体のバッハは放ってきていなかった。

 ゾルターンの時は勿論、先程の強化バフもブルースへ向けた攻撃というよりも、教会にいる人間全員を対象とした範囲攻撃であったと思われる。意図してブルースへの攻撃を控えているのか、或いはそれら以外の攻撃手段を持ち合わせていないのか。

 バッハがブルースへ攻撃を仕掛ける際は、物理的に掴み掛かるような行動を取っていた。

 先程の相手に強化バフをばら撒くという予想外の攻撃があったように、未だ未知の部分が多い相手にブルースは慎重になっていた。二人が入れ替わり作戦の変更を伝えていると、バッハはブルースの話にあった鍵盤を生み出す動きを見せる。

 「あれだ!あの動きに注意しろ!」

 ツクヨに注意するように声を掛けるのと同時にすぐさま動き出していたブルースは、近くに落ちていた瓦礫の一つを拾い上げ、バッハの腕ごと鍵盤を破壊せんとする勢いでそれを投げ放つ。

 鍵盤を掻き消され恐ろしい表情でこちらを睨みつけるバッハ。成程と攻略法を目の当たりにしたツクヨは、次なるバッハの攻撃をブルースの見せてくれたお手本と同様に、バッハの腕を切り落とさんと刀を振るう。

 素早くバッハの懐に飛び込んだツクヨは、再び演奏しようと鍵盤を出現させる動作をした腕に切り掛かる。すると、見事その腕は切断され、鍵盤と同様に切り離された腕も一緒に煙のように消滅していった。

 しかしここで予想外の反応をバッハが見せた。

 ツクヨの切り掛かった攻撃に対し、明らかにダメージを負ったと思われるリアクションをしたのだ。

 「ギャァァァアアアッ!?!?」

 悲痛な叫びと共に後退していくバッハ。これまでにない反応に、ブルースは勿論当人であるツクヨも驚きの表情を浮かべる。今こそ攻め時と、千載一遇のチャンスとばかりに次なる攻撃へと躍り出るツクヨ。

 だが当然ながら、バッハも同じ攻撃は二度も喰らわぬと言わんばかりに、上空へと浮上していった。実体のあるもので不可能な動きでツクヨの攻撃を躱すと、一行の攻撃が届かぬところで新たな腕を生やしたバッハが鍵盤を展開する。

 「しまった!上空でッ・・・!?」

 「させるかッ・・・!」

 謎の人物達の攻撃を掻い潜り、上空にいるバッハの真下へと飛び込んだブルース。彼の着地で巻き上がった瓦礫を、素早い足技で器用に上空へと打ち上げていく。

 僅かに鍵盤を鳴らされるも、攻撃の発動までに何とか間に合ったようで演奏を中断させる事に成功する。複数の瓦礫がバッハの身体や腕を貫通していく。演奏の邪魔をするのであれば、攻撃に魔力が乗っていなくとも可能らしい。

 その隙抜刀の構えを取っていたツクヨは、低い体勢から上空のバッハ目掛けて、鎌鼬のような斬撃の刃を放った。

 「風刃一閃ふうじんいっせん!」

 抜刀は常人の目では捉える事すらできなかった。気がついた時にはツクヨは既に刀を鞘に納め、カチンと音を立てて刃を納刀すると、上空のバッハの身体は真っ二つに割れていた。

 再び叫び声を上げながら姿を消すバッハ。その様子からも大きなダメージが入っているのは伺える。しかし姿を消してしまったことで、次にどこから現れるのかが分からなくなってしまう。

 「クソッ・・・!仕留め損ねた・・・!?」

 「十分だ。奴とてこの教会から出て攻撃を仕掛けるのは不可能だろう。気配を探り、次の出現場所に注意を払ッ・・・!?」

 姿を隠したバッハに、どこから現れてもいいように気配を感じ取れるように気を配るブルース。しかし次の瞬間、教会の床や壁、天井からもあらゆる場所から、光が反射するような煌めきが一斉に視界に入る。

 それはブルースにのみ見えたものではなく、時を同じくして近くにいたツクヨや謎の人物達と戦うバルトロメオ。そして教会の端で隠れるようにゾルターンの回復や戦闘を行う仲間をサポートするアカリ達もまた、その視界の中に幾つもの煌めきを捉えていた。

 「マズイッ・・・避けろッ!!」

 何が来るのかなど想像もつかなかった。だがそれを目にした誰もが、良からぬことがこれから起こるのだということを悟っていた。ブルースの声で一斉にその煌めきの射線上から外れるように動き出す一行。

 それは銃弾のように早く一行の身体を貫いた。

 しかし、白い光のようなものに貫かれたところで痛みや違和感がある訳ではなかった。ただ単に、何やら光る糸のようなものが身体に繋がれただけだったのだ。

 何をされたのか全くわからない一行は、繋がれた糸を外そうと試みるも触れることすら叶わない。バルトロメオが召喚した腕に触れさせるも、魔力を帯びた腕でもそれに触れることは出来なかった。

 「んだよコレッ・・・!?」

 「これも奴の攻撃なのか・・・?」

 今度は生身の仲間達だけでなく、ブルースにもその糸は繋がれていた。音による攻撃ではないのだろうが、不気味なものが付与された事に変わりはない。何とかして解除の方法を探ろうとするも、手段が見つからない。

 一行が戸惑っていると、姿を消していたバッハが教会の高い天井から上半身だけを生やして静かに現れる。そして地上にいる一行に向けて片腕をゆっくり伸ばすと、親指と中指を合わせパチンと指を鳴らした。

 次の瞬間、謎の糸に繋がれた一行に強い衝撃が走る。まるで心臓を巨大な銅鑼が打ち鳴らされたかのような衝撃が、全身に響き渡る。その衝撃は全身を麻痺させ、呼吸すらままならなくさせた。

 生身の肉体を持つ一行はその場に崩れ落ち、必死に息を吸おうともがき苦しむ。そして作り物の身体を持つブルースは、今の一撃により身体の機能を破壊され、苦しみこそないものの身動きが取れない状況に陥ってしまう。

 床に倒れてしまい、一行の無事を確認できなくなってしまったブルースが声を掛けようとするも、発声の機能が破損してしまったようで声を上げることすら叶わない。

 動かぬ身体で必死に瞳を動かし教会の様子を探ろうとするも、ブルースの位置からでは何も見つけることは出来なかった。

 あれだけ暴れ回っていたバルトロメオの能力も消え、ゾルターンの作り出していた土人形も消滅してしまった。

 教会に残された謎の人物達は戦闘体勢を解除し、その場で棒立ちの状態になる。

 天井からその様子を眺めていたバッハは、それまでの悍ましい姿から人に近い姿へと戻ると、ゆっくりと床へと降り立ち、再び教会にあったオルガンの位置へ向かうと、そこでチェンバロと呼ばれる鍵盤楽器を召喚すると、何事もなかったかのように戦地で演奏を始めた。
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