World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
1,381 / 1,646

強化による弊害

しおりを挟む
 しかしバッハは身体を煙のように変えて、ブルースの一撃を巧みに躱す。だがこれによりバッハによる肉体強化のバフを掛けていると思われる演奏は中断された。

 再び演奏を再開しようと、バッハは身体の形を形成すると手の下に短めの鍵盤を出現させる。すかさず連撃を放ち、攻撃を重ねて演奏させまいと、当たらぬ攻撃を繰り返しバッハに打ち続けるブルース。

 「チッ・・・!何故当たらない!?避けられているのか?それもとも・・・」

 ブルースはバッハへの攻撃の途中で、教会の床に散らばるバルトロメオが破壊した瓦礫の欠片を拾い上げると、それをフリスビーのように回転させて投げる。

 しかし、ブルースの拳と同様に瓦礫はバッハの身体に命中することはなく、演奏しようとする腕を胴体から切り離し、腕の方は煙となって一時的に消えていった。それ自体にダメージはないようで、すぐにバッハの腕は再び煙のように現れる。

 だがブルースの投げた瓦礫の欠片は、その先にいた謎の人物に命中し消滅させた。投げた欠片には、ブルースの腕から放出される魔力が乗せられており、謂わばエンチャントされた状態にあった。

 故に謎の人物には命中し、その姿を消し去ることには成功していたという事になる。もしブルースが戦っているバッハが、アルバに蔓延る謎の人物達と同じであれば、先程の謎の人物と動揺に欠片はバッハの腕を切り裂いていたはずなのだ。

 しかし結果として、バッハにはそれは通用しなかった。彼の前にいるバッハは謎の人物達と同じようであり、同じではないことが証明された。ではその正体とは一体何なのか。

 彼らが真相を知るのはもう少し先の事になる。

 ブルースの活躍により、バッハにはダメージを与えることは出来ないものの、演奏を中断させ一行を苦しめていた謎の強化バフを解除することには成功した。

 身体の動きが徐々に通常のものへと戻ってくる。それに伴い、謎の人物達を食い止めていたバルトロメオと、隙を伺っていたツクヨが感覚を取り戻し始める。

 少しづつ自分の身体が普段通りに動き始めることを実感しつつある一行だったが、それと同時に彼らを襲ったのは通常ではあり得ないパワーを得たことによる身体への負担と疲労だったのだ。

 「はぁ・・・はぁ・・・。身体は動くようになってきたがよぉ・・・。何だよこの疲労感は・・・!?」

 最初の暴れ具合とは比べ物にならないほど、攻撃や動きが鈍り始めるバルトロメオ。人一倍動いていたこともあり、その影響を大きく受けていたのはバルトロメオだった。

 しかしながら、一行を襲った身体への負担と疲労感は、何もしていなくとも彼らの機動力と心の余裕を奪っていった。まるで限界まで長い距離を走り込んだ後かのように、胸を押さえて呼吸を荒立て始まるアカリとゾルターン。

 これにより、ゾルターンが従えていた土人形の動きも彼からの魔力供給量が激減し、謎の人物達に押され始めてしまう。

 「何・・・?急に呼吸が・・・」

 「さっきの妙な強化バフの影響か・・・?クソッ・・・!人形達に送っていた魔力が過剰に送られていたのか・・・。もう戦わせるほどの魔力がッ・・・」

 アカリ以上に疲労感を抱えていたゾルターンは、その場に四つん這いになるように崩れてしまい、何か支えがなければ上体を起こしていられない程疲れ切っていた。

 それにより、押されていた土人形達も徐々にやられ始めてしまい、手の空いた謎の人物達が各々別の標的を定め襲い始めた。元々近接戦を得意とするバルトロメオやツクヨは、体力的にも何とか敵を退けるだけの余力は残っているようだが、問題は作戦を実行するブルースの方へも取り巻きが向かっていってしまった事だった。

 バッハへの攻撃を続けていたブルースの背後に、突如謎の人物が接近し彼に攻撃を始める。

 「何ぃッ!?バルトとゾルターンは何をしている!?・・・ッ!?」

 辺りを見渡したところで、ブルースは漸く周りに起きている異変に気がついた。何故彼だけが異変に気づくのが遅れたのかは、彼だけがバッハの奏でる曲による強化バフの影響を受けていなかったからだ。

 変化のなかった彼には、変化が治まった事による影響を知ることが出来なかった。当然彼も、元凶であるバッハを相手にしておりそれどころではなかった。

 バッハ自身も、ブルースが攻撃を仕掛けてきた事により彼を敵対者と認識したのか、演奏と同時にもう片方の腕を振るい物理的な攻撃を仕掛けていた。直接攻撃に当たることはなかったものの、バッハの腕がブルースの身体を掠めると、触れた部分に衝撃が走り破損しているのが確認できる。

 それを知ってからブルースは、あれに触れられてはならないと大袈裟に攻撃を避けるようになり、バッハに攻撃を当てる方法や決定打を打ち込む為の策を考える余裕も無くなっていた。

 そこへ飛び込んできた仲間達の突然の疲弊は、彼の作戦を根本から崩す大きな痛手となっていた。遠くに見えるゾルターンの状態からも、無事に教会を脱出することすら難しくなってしまった戦況も後押ししていた。

 やはり一撃で生死を彷徨う事になる攻撃を持つ相手に、事前の情報が少な過ぎたかと後悔する中で、このまま攻めるべきか引くべきか判断に迷っていると、ブルースの迷いの隙を突いた謎の人物が襲い掛かる。

 「ッ!?」

 気づいた時には既に避けきれない体勢になっており、ブルースが攻撃を受ける覚悟を決めて衝撃に備えたところで、その謎の人物を切り裂く一撃が放たれる。

 謎の人物が真っ二つになり、塵となって消えた向こう側に現れたのはツクヨだった。彼はリナムルで入手した刀を手に、ブルースの援護に入る。

 「身体は大丈夫なのか?」

 「少し疲れてるけど、まだ戦えるよ」

 素早い刀捌きで、まだまだ戦えるというところを証明するように、ブルースに群がっていた謎の人物達を切り裂くツクヨ。彼の剣術を間近で見たブルースは、一見してエンチャントが施されているとは思えなかった彼の刀に、何かしらの不思議な力を感じた。

 それはまるで、肉体を失い魂だけとなった存在であるブルースを、本来あるべき場所へ連れて行こうとする禍々しい視線に睨まれているかのような、悍ましい悪寒がブルースが感じる筈のない感覚を全身に味わわせた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

re:birth 〜勇者じゃないと追放された最強職【何でも屋】は、異世界でチートスキル【DIY】で無双します~

華音 楓
ファンタジー
「役立たずの貴様は、この城から出ていけ!」  国王から殺気を含んだ声で告げられtた海人は頷く他なかった。  ある日、異世界に魔王討伐の為に主人公「石立海人」(いしだてかいと)は、勇者として召喚された。  その際に、判明したスキルは、誰にも理解されない【DIY】と【なんでも屋】という隠れ最強職であった。  だが、勇者職を有していなかった主人公は、誰にも理解されることなく勇者ではないという理由で王族を含む全ての城関係者から露骨な侮蔑を受ける事になる。  城に滞在したままでは、命の危険性があった海人は、城から半ば追放される形で王城から追放されることになる。 僅かな金銭で追放された海人は、生活費用を稼ぐ為に冒険者として登録し、生きていくことを余儀なくされた。  この物語は、多くの仲間と出会い、ダンジョンを攻略し、成りあがっていくストーリーである。

「自重知らずの異世界転生者-膨大な魔力を引っさげて異世界デビューしたら、規格外過ぎて自重を求められています-」

mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
 ネットでみつけた『異世界に行ったかもしれないスレ』に書いてあった『異世界に転生する方法』をやってみたら本当に異世界に転生された。  チート能力で豊富な魔力を持っていた俺だったが、目立つのが嫌だったので周囲となんら変わらないよう生活していたが「目立ち過ぎだ!」とか「加減という言葉の意味をもっと勉強して!」と周囲からはなぜか自重を求められた。  なんだよ? それじゃあまるで、俺が自重をどっかに捨ててきたみたいじゃないか!  こうして俺の理不尽で前途多難?な異世界生活が始まりました。  ※注:すべてわかった上で自重してません。

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ
ファンタジー
 相良真一(サガラシンイチ)は社畜ブラックの企業戦士だった。  悪夢のような連勤を乗り越え、漸く帰れるとバスに乗り込んだらまさかの異世界転移。  そこには土下座する幼女女神がいた。 『ごめんなさあああい!!!』  最初っからギャン泣きクライマックス。  社畜が呼び出した国からサクッと逃げ出し、自由を求めて旅立ちます。  真一からシンに名前を改め、別の国に移り住みスローライフ……と思ったら馬鹿王子の世話をする羽目になったり、狩りや採取に精を出したり、馬鹿王子に暴言を吐いたり、冒険者ランクを上げたり、女神の愚痴を聞いたり、馬鹿王子を躾けたり、社会貢献したり……  そんなまったり異世界生活がはじまる――かも?    ブックマーク30000件突破ありがとうございます!!   第13回ファンタジー小説大賞にて、特別賞を頂き書籍化しております。  ♦お知らせ♦  余りモノ異世界人の自由生活、コミックス3巻が発売しました!  漫画は村松麻由先生が担当してくださっています。  よかったらお手に取っていただければ幸いです。    書籍のイラストは万冬しま先生が担当してくださっています。  7巻は6月17日に発送です。地域によって異なりますが、早ければ当日夕方、遅くても2~3日後に書店にお届けになるかと思います。  今回は夏休み帰郷編、ちょっとバトル入りです。  コミカライズの連載は毎月第二水曜に更新となります。  漫画は村松麻由先生が担当してくださいます。  ※基本予約投稿が多いです。  たまに失敗してトチ狂ったことになっています。  原稿作業中は、不規則になったり更新が遅れる可能性があります。  現在原稿作業と、私生活のいろいろで感想にはお返事しておりません。  

王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。 これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。 しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。 それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。 事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。 妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。 故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。

愛されていないはずの婚約者に「貴方に愛されることなど望んでいませんわ」と申し上げたら溺愛されました

海咲雪
恋愛
「セレア、もう一度言う。私はセレアを愛している」 「どうやら、私の愛は伝わっていなかったらしい。これからは思う存分セレアを愛でることにしよう」 「他の男を愛することは婚約者の私が一切認めない。君が愛を注いでいいのも愛を注がれていいのも私だけだ」 貴方が愛しているのはあの男爵令嬢でしょう・・・? 何故、私を愛するふりをするのですか? [登場人物] セレア・シャルロット・・・伯爵令嬢。ノア・ヴィアーズの婚約者。ノアのことを建前ではなく本当に愛している。  × ノア・ヴィアーズ・・・王族。セレア・シャルロットの婚約者。 リア・セルナード・・・男爵令嬢。ノア・ヴィアーズと恋仲であると噂が立っている。 アレン・シールベルト・・・伯爵家の一人息子。セレアとは幼い頃から仲が良い友達。実はセレアのことを・・・?

私異世界で成り上がる!! ~家出娘が異世界で極貧生活しながら虎視眈々と頂点を目指す~

春風一
ファンタジー
『いーわよ、そこまで言うならもう、親子の縁なんて切ってやる!! 絶対に成功するから、今に見てなさいよ!!』 如月風歌は、考えるより先に行動する脳筋少女。中学の卒業式の日に、親と大喧嘩し、その勢いで家出する。時空航行船のチケットを握りしめ、着の身着のまま&ほぼ無一文で、異世界に向かっていった。 同じ地球でありながら、魔法で発展した平行世界エレクトラ。この世界に来たのは『シルフィード』と呼ばれる、女性だけがなれる『超人気職業』に就くためだ。 上位階級のシルフィードは、トップアイドルのような存在。また、絶大な人気・知名度・影響力を持ち、誰からも尊敬される、人生の成功者。巨万の富を築いた者も、少なくはない。 だが、お金もない・人脈もない・知識もない。加えて、女子力ゼロで、女らしさの欠片もない。全てがゼロからの、あまりにも無謀すぎる挑戦。しかも、親から勘当を言い渡され、帰る場所すらない状態。 夢に燃えて、意気揚々と異世界に乗り込んだものの、待ち受けていのは、恐ろしく厳しい現実と、パンと水だけの極貧生活だった。 『夢さえ持っていれば、気合さえあれば、絶対に上手くいく!!』と信じて疑わない、脳筋でちょっとお馬鹿な少女。だが、チート並みのコミュ力(無自覚)で、人脈をどんどん広げて行く。 ほのぼの日常系。でも、脳筋主人公のため、トラブルが発生したり、たまにシリアスだったり、スポ根っぽい熱い展開も……。 裸一貫から成り上がる、異世界シンデレラストーリー。

私とお母さんとお好み焼き

white love it
経済・企業
義理の母と二人暮らしの垣谷操。貧しいと思っていたが、義母、京子の経営手腕はなかなかのものだった。 シングルマザーの織りなす経営方法とは?

処理中です...