World of Fantasia

神代 コウ

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囮となる大将

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 音による攻撃は防ぎようがなく、単純に音の聞こえる範囲が攻撃範囲となっているようだ。それはゾルターンが攻撃を受けた時に、ブルースの咄嗟の判断により証明されている。

 尚且つ、目に見える攻撃ではない為、非常に避けづらい攻撃であり、予備動作と言えるものも殆どない。強いていうのであれば、霊体のバッハがこちらを認識し、普段の演奏とは別のアクションを起こした時が合図となる事ぐらいだろうか。

 そして厄介なことに、音は障害物に関係なく対象を襲う。外傷はなく、直接身体の内部に攻撃をしてくる為、防御力といった概念を貫通して攻撃されるので、鎧や防御魔法などによる外的な強化は意味をなさない。

 「ちょっと・・・防ぎようのない攻撃って。それじゃぁどうするんです?」

 「お前達と合流する前、俺達は一度奴らと対峙している。その時に分かったのが、その音による攻撃は一人を対象にしか出来ないということだ。勿論、他に攻撃方法が無いとも言い切れないが、少なくとも一辺に攻撃されて全滅ということはないだろう」

 「でも“音“って、その場にいる全員が聞こえるものですよね?」

 アカリの素朴な疑問に対し、ブルースは明確な解答を返すことが出来なかった。経験は得ているとはいえ、未だ相手のデータは少ない。だが同時に、相手の出方を見ながら戦う事のできる自信がブルースにはあった。

 「確かに奴らの情報は少ない。だが、相手の手の内を探れん訳でもない」

 「何か秘策が?」

 「奴の攻撃は“生身“で受ければそれだけで致命傷になる。だがこちらにはそれを受けられる身体がある。俺の護衛が使う土人形と、この俺自身だ」

 ブルースが他の被害者達と同じように犯人に狙われ、宮殿内で襲われたのはオイゲンらから聞いていたツクヨ達。しかし、彼がどうして無事であったのかは明かされていなかったが、本人の口振りから今も尚、教会の中で戦っている命令に従って動く土人形と同様の特徴を身体に宿している事が窺える。

 「特殊な体質・・・という訳でもなさそうですが?」

 「俺の肉体は既にこの世にない」

 「!?」

 真実を語ろうとするブルースに、秘密が世に明かされては色々と問題があるのではと止めに入るゾルターンだったが、彼らに話したところで何も問題はないと判断して、自らの存在について明かす事を決めたブルース。

 それに今も尚現役で活躍する音楽家が、魂だけの存在になっているなど誰も信じるはずがないという、確信に近い自信もあるようだった。

 「言うなれば、俺も奴らと同じ魂だけの存在に過ぎない。故に奴の攻撃を受けても、身体の機能に支障をきたすだけで命に別状はない。奴らの攻撃は俺達が引き受けてやる。お前達は奴らに対抗する手段を持っているか?」

 霊体であるバッハも、恐らくその性質は取り巻きである謎の人物らと同じはず。物理的な攻撃は透過されてしまうので、魔力を帯びた攻撃でないと戦うことすらできない。

 それについてツクヨとアカリも把握しているようで、教会で戦っていた事からも攻撃手段を持っていることは確かだと言える。

 ツクヨには大海原のレースの時にグレイス・オマリーという海賊から受け取った、WoFのユーザーである彼にしか扱えない特殊な能力を備えた剣、布都御魂剣とリナムルの地下研究場で入手した未だ詳細の不明な刀だが、謎の人物達を切り伏せられる武器がある。

 「まだあの大きいのに試した訳じゃないけど、他の人達は問題なく戦えます」

 「十分だ、奴も恐らく性質自体は同じ筈だ。なら攻撃はお前に任せるとしよう。ゾルターン、お前はそこのお嬢さんに付いててやれ。引き続き土人形での援護を頼む」

 「了解だ。よろしくな、お嬢さん」

 「アカリと申します。こちらこそ宜しくお願いします」

 「妙な鳥を連れているな。見たことのない種類だが・・・」

 「この子は紅葉と言います。以前に助けてもらった事があって、その時は炎の魔法のようなものを使っていたのですが、戦ったのはそれっきりで・・・」

 自分の話をされているのかと悟った紅葉が、羽を羽ばたかせて鳴き声を上げる。

 「安心していい。俺と君達は援護に回るから、直接的な危険はない。もう少し入口の方へ離れていよう」

 いつでも戦線を離脱できるよう、ゾルターンとアカリは教会の入口の方へと避難する。一行が作戦を立てている間、霊体のバッハには手を出さず謎の人物達を相手にしていた土人形とバルトロメオに合流するブルースとツクヨ。

 「おう、もう話は済んだのかぁ?」

 「あぁ、待たせたな。これより本格的に奴を仕留めにいくぞ」

 ここからいよいよ本格的な戦闘になることを伝えると、バルトロメオは口角を上げて嬉しそうな表情を見せた。

 「漸く暴れられる訳だなぁ!」

 バルトロメオは能力で生み出した大きな腕で防いでいた謎の人物達を一辺に払い退ける。彼を守るようにして背後から現れている二本の腕は、バルトロメオの荒々しい性格表現するかのように拳に力を込めて相手を威嚇している。

 「お前にはそこの男と協力して、あのデカブツを相手にしてもらう。攻撃は俺が引き受けるから、その隙に大いに暴れてやれ」

 「協力ぅ?俺一人で十分だけどなぁ!」

 「ツクヨです。頼りになる方だと伺っています」

 「はっ!言ってくれるじゃねぇの。んじゃぁ俺の本領ってやつを見せてやるかぁ」

 ツクヨの言葉に気分を良くしたバルトロメオは、ブルースがオルガンで演奏をする親玉の元へ向かえるように、邪魔となる取り巻き達を一人突っ走り次々に薙ぎ払っていく。

 「見ての通り話を聞かん奴だが、上手いことやってくれ」

 「ふふ、大丈夫です。ウチにも似たような仲間がいますから」

 そう言ってツクヨは、ツバキの事を思い出していた。まさしく彼がそのまま大人になったら、丁度バルトロメオのようになりそうだなと感じていた。自信家で無鉄砲ではあるが、頼りになる潜在的に勘を兼ね備えている。
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