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死せる肉体、魂の寿命
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ツバキが必死に手に入れた情報は、謎の人物との戦闘をより効率よく簡略化させるための重要な要素となる。
「感謝します。すぐにオイゲン氏と連絡を取り、全員に通達させるよう伝えます。後のことは私達に任せて、今は回復に努めて下さい」
丁寧な言葉遣いにツバキは僅かに笑みを見せると、心地よい眠りにつくかのように目を閉じ、彼の言う通り回復を最優先にして身体を休めた。
「ツバキ君の容態は?」
「大丈夫。外傷は無いし、命に関わるような重大なダメージは負ってないみたい。少し休めばすぐによくなると思うわ」
少年の身体を抱えるように膝をついて看病するアカリ。彼女の手を離れた紅葉も、普段は仲が悪そうにしているツバキの様子を心配そうに見つめている。
ケヴィンはツバキとの約束を果たす為、タブレットからオイゲンに渡した自身のタブレットに連絡を入れる。しかし、向こうも襲撃の対応に追われているのか、すぐに返事は返ってこなかった。
「やはり直接赴くしか・・・。ミアさん!ツクヨさん!そろそろ移動を開始します!ツバキ君の回復を待っている時間はありません。彼を担いで連れて行きましょう」
「オイゲンの場所は分かってるのか?」
「一階の会議室に私のタブレットの反応があります。恐らくそこで調査をしていたのでしょう。先ずはそちらに向かってみましょう」
ケヴィンは警備隊や教団の護衛達に、ツバキが入手した謎の人物の攻略法を伝えると、この場を彼らに任せてミア達と共に宮殿の一階を目指した。ツクヨがツバキを抱え、その間もアカリが回復に努める。
宮殿の各階層でも戦闘は行われているものの、三階でバルトロメオが壊したと思われるような建物の損壊はない。警備隊も護衛も、建物に気を使った戦闘をしているようだ。
それでも戦力的には問題ない。ある程度謎の人物達との戦闘にも慣れてきたようで、戦い方を心得た戦闘を行なっているのが見てとれる。近場を通りかかった際は、ツバキが証明して見せた謎の人物の弱点を伝え、多少リスクはあるもののすぐに始末する方法があることを知ると、戦局は宮殿側へと向き始めた。
一階の会議室に到着した一行は、扉を開けて中へ入る。そこで漸くオイゲンとの面会を果たし、互いにこれまでにあった情報を共有するように話を始めた。
オイゲンの方では、宮殿の各所から謎の人物達による襲撃を受けているとの報告が一斉に入り、戦闘を交えて撃退に成功した部隊からの報告を元に、各階層の者達へその情報を伝達している状況だという。
その中で、オイゲンに直接伝言を言い残していった者がいたそうだ。それは宮殿を既に脱出したであろうブルース本人だったのだという。
彼は自分の命を狙った者の手段について、アドバイスとしてオイゲンにその情報を残していったのだという。それがジークベルト大司教や司祭の二人と同じ手口かどうかは分からないが、それが本当だとするならば証拠が全く出てこなかったというのも合点がいく。
宮殿で起きた事件の犯人の手口とは、“音の振動“により対象者の身体に異常を引き起こすというものだったらしい。しかしその手口で命を狙われたブルースは、今も尚生きているという。
何故それを受けて彼が死んでいないのかを知っているケヴィンとオイゲンは、そのおかしな点については一切触れなかった。
「ちょっと待てよ。じゃぁなんでブルースって奴は生きてるんだ?おかしいだろ」
「・・・・・」
その場にいた誰しもが疑問に思ったことを、ミアが口にした。どうやらその事についてはオイゲンの周りにいた護衛達も知らされていなかったようで、彼女の質問に対する二人の返答に、皆注目していた。
「・・・ケヴィン、犯人は既に動き出した。もういいのではないか?」
「そうですね・・・。ミアさん・・・ブルース氏の肉体は、実は既に死滅しているんです」
「ッ!?」
死んでいるから殺せなかった。ケヴィンは結論から簡潔に述べた。しかし、死んだ者が何故肉体を持ち、生命反応や魔力検知に掛からなかったのか。それは事情を知っていたオイゲンの協力があったからこそ、周りの護衛や警備隊にも知られることがなかったのだという。
ケヴィンの話では、ブルースという音楽家は霊体となって依代を得て活動していたのだそうだ。元より人種的差別を受けていたブルースは、音楽家という目立つ職業柄、命を狙われることも少なくなかったのだという。
その中でブルースは教団のことを知り、そこで霊体として生きていく術を得て今のような状態になったのだそうだ。彼の命を狙う刺客達には死んだと思われていたようだが、彼はその都度姿を変えて活動を続けており、本名もブルース・ワルターと変更し、彼の意志を継ぐ音楽家として世間には認知されていた。
実際は本人が霊体となり、別人を演じながら生きながらえているという事知らずに、彼の思想や音楽が後世へと受け継がれているものだと信じさせられていた。
「ですが、教団で身につけたその術も万能ではありません。魂には肉体と同様に寿命があるようです。彼が本来生きるはずだった余命分の寿命は伸ばすことはできません。いずれ彼の魂も死を迎えるでしょうが、それでも彼は自分の音楽を世に伝えて行きたかったのかもしれませんね・・・」
「肉体が既に死んでいるからこそ、犯人の手口が分かったと・・・。それが音による振動ってのはどういうことだ?」
「それについては私も・・・。オイゲン氏、ブルース氏はその手口について詳しく言っていましたか?」
「残念ながら、奴にもその手口の方法や仕組みについては分からなかったらしい。だが、命を狙われた際、心臓の動きに異変があったそうだ。それに伴い臓器の活動にも変化が起こって、肉体は一度心不全による死を迎えたと言っていた」
ブルースの今の肉体は作り物らしく、生物としての肉体が機能を停止したことを知った彼は、自身の護衛にそれを伝えると再び肉体を修理し、謂わば再起動を実行する。
犯人は何らかの方法で、死んだはずのブルースが蘇ったことを知り、宮殿を襲撃するという強硬手段に出たと思われると、オイゲンは語った。
一行がブルースの正体についての話をしていると、外からバチバチと何かが会議室に入ろうとしてくるような音が聞こえてくる。
「・・・これは?」
「我々の結界により、この部屋には入って来れないようにしてある」
「おいおい!そんな事ができんなら、宮殿全体をやってやれよ」
「それでは精度や強度に大きな影響が出る。ここは負傷者を匿う場所としている場だ。その為に強度を極限まで高めてある。実態のない奴らは許可なくこの結界を越えることはできないだろう。・・・それも、長くは保たないだろうがな・・・」
オイゲンが理由を説明売ると、結界を張っていたと思われる護衛が交代し、それまで結界を張っていた護衛は、気を失うようにしてその場に崩れ落ちた。
「アカリ、あいつらも診てやってくれないか?」
「はい、私にできる事があるのなら・・・」
簡易的なベッドに運ばれる護衛の元にアカリが向かうと、その容態を診てツバキにも行なっていたものと同じ回復手段を試みる。
犯人が音による攻撃を用いているという情報を得た一行。すると、シンに持たせていたカメラから何かの信号を受け取ったケヴィンが、突然慌て出し会議室の扉の方へ向かう。
「どうした?どこへ行く気だ?」
「シンさんがッ・・・!街へ向かったニノンさん達から信号が届きました!バイタルに異常がッ・・・二人が危ないかもしれません!」
「感謝します。すぐにオイゲン氏と連絡を取り、全員に通達させるよう伝えます。後のことは私達に任せて、今は回復に努めて下さい」
丁寧な言葉遣いにツバキは僅かに笑みを見せると、心地よい眠りにつくかのように目を閉じ、彼の言う通り回復を最優先にして身体を休めた。
「ツバキ君の容態は?」
「大丈夫。外傷は無いし、命に関わるような重大なダメージは負ってないみたい。少し休めばすぐによくなると思うわ」
少年の身体を抱えるように膝をついて看病するアカリ。彼女の手を離れた紅葉も、普段は仲が悪そうにしているツバキの様子を心配そうに見つめている。
ケヴィンはツバキとの約束を果たす為、タブレットからオイゲンに渡した自身のタブレットに連絡を入れる。しかし、向こうも襲撃の対応に追われているのか、すぐに返事は返ってこなかった。
「やはり直接赴くしか・・・。ミアさん!ツクヨさん!そろそろ移動を開始します!ツバキ君の回復を待っている時間はありません。彼を担いで連れて行きましょう」
「オイゲンの場所は分かってるのか?」
「一階の会議室に私のタブレットの反応があります。恐らくそこで調査をしていたのでしょう。先ずはそちらに向かってみましょう」
ケヴィンは警備隊や教団の護衛達に、ツバキが入手した謎の人物の攻略法を伝えると、この場を彼らに任せてミア達と共に宮殿の一階を目指した。ツクヨがツバキを抱え、その間もアカリが回復に努める。
宮殿の各階層でも戦闘は行われているものの、三階でバルトロメオが壊したと思われるような建物の損壊はない。警備隊も護衛も、建物に気を使った戦闘をしているようだ。
それでも戦力的には問題ない。ある程度謎の人物達との戦闘にも慣れてきたようで、戦い方を心得た戦闘を行なっているのが見てとれる。近場を通りかかった際は、ツバキが証明して見せた謎の人物の弱点を伝え、多少リスクはあるもののすぐに始末する方法があることを知ると、戦局は宮殿側へと向き始めた。
一階の会議室に到着した一行は、扉を開けて中へ入る。そこで漸くオイゲンとの面会を果たし、互いにこれまでにあった情報を共有するように話を始めた。
オイゲンの方では、宮殿の各所から謎の人物達による襲撃を受けているとの報告が一斉に入り、戦闘を交えて撃退に成功した部隊からの報告を元に、各階層の者達へその情報を伝達している状況だという。
その中で、オイゲンに直接伝言を言い残していった者がいたそうだ。それは宮殿を既に脱出したであろうブルース本人だったのだという。
彼は自分の命を狙った者の手段について、アドバイスとしてオイゲンにその情報を残していったのだという。それがジークベルト大司教や司祭の二人と同じ手口かどうかは分からないが、それが本当だとするならば証拠が全く出てこなかったというのも合点がいく。
宮殿で起きた事件の犯人の手口とは、“音の振動“により対象者の身体に異常を引き起こすというものだったらしい。しかしその手口で命を狙われたブルースは、今も尚生きているという。
何故それを受けて彼が死んでいないのかを知っているケヴィンとオイゲンは、そのおかしな点については一切触れなかった。
「ちょっと待てよ。じゃぁなんでブルースって奴は生きてるんだ?おかしいだろ」
「・・・・・」
その場にいた誰しもが疑問に思ったことを、ミアが口にした。どうやらその事についてはオイゲンの周りにいた護衛達も知らされていなかったようで、彼女の質問に対する二人の返答に、皆注目していた。
「・・・ケヴィン、犯人は既に動き出した。もういいのではないか?」
「そうですね・・・。ミアさん・・・ブルース氏の肉体は、実は既に死滅しているんです」
「ッ!?」
死んでいるから殺せなかった。ケヴィンは結論から簡潔に述べた。しかし、死んだ者が何故肉体を持ち、生命反応や魔力検知に掛からなかったのか。それは事情を知っていたオイゲンの協力があったからこそ、周りの護衛や警備隊にも知られることがなかったのだという。
ケヴィンの話では、ブルースという音楽家は霊体となって依代を得て活動していたのだそうだ。元より人種的差別を受けていたブルースは、音楽家という目立つ職業柄、命を狙われることも少なくなかったのだという。
その中でブルースは教団のことを知り、そこで霊体として生きていく術を得て今のような状態になったのだそうだ。彼の命を狙う刺客達には死んだと思われていたようだが、彼はその都度姿を変えて活動を続けており、本名もブルース・ワルターと変更し、彼の意志を継ぐ音楽家として世間には認知されていた。
実際は本人が霊体となり、別人を演じながら生きながらえているという事知らずに、彼の思想や音楽が後世へと受け継がれているものだと信じさせられていた。
「ですが、教団で身につけたその術も万能ではありません。魂には肉体と同様に寿命があるようです。彼が本来生きるはずだった余命分の寿命は伸ばすことはできません。いずれ彼の魂も死を迎えるでしょうが、それでも彼は自分の音楽を世に伝えて行きたかったのかもしれませんね・・・」
「肉体が既に死んでいるからこそ、犯人の手口が分かったと・・・。それが音による振動ってのはどういうことだ?」
「それについては私も・・・。オイゲン氏、ブルース氏はその手口について詳しく言っていましたか?」
「残念ながら、奴にもその手口の方法や仕組みについては分からなかったらしい。だが、命を狙われた際、心臓の動きに異変があったそうだ。それに伴い臓器の活動にも変化が起こって、肉体は一度心不全による死を迎えたと言っていた」
ブルースの今の肉体は作り物らしく、生物としての肉体が機能を停止したことを知った彼は、自身の護衛にそれを伝えると再び肉体を修理し、謂わば再起動を実行する。
犯人は何らかの方法で、死んだはずのブルースが蘇ったことを知り、宮殿を襲撃するという強硬手段に出たと思われると、オイゲンは語った。
一行がブルースの正体についての話をしていると、外からバチバチと何かが会議室に入ろうとしてくるような音が聞こえてくる。
「・・・これは?」
「我々の結界により、この部屋には入って来れないようにしてある」
「おいおい!そんな事ができんなら、宮殿全体をやってやれよ」
「それでは精度や強度に大きな影響が出る。ここは負傷者を匿う場所としている場だ。その為に強度を極限まで高めてある。実態のない奴らは許可なくこの結界を越えることはできないだろう。・・・それも、長くは保たないだろうがな・・・」
オイゲンが理由を説明売ると、結界を張っていたと思われる護衛が交代し、それまで結界を張っていた護衛は、気を失うようにしてその場に崩れ落ちた。
「アカリ、あいつらも診てやってくれないか?」
「はい、私にできる事があるのなら・・・」
簡易的なベッドに運ばれる護衛の元にアカリが向かうと、その容態を診てツバキにも行なっていたものと同じ回復手段を試みる。
犯人が音による攻撃を用いているという情報を得た一行。すると、シンに持たせていたカメラから何かの信号を受け取ったケヴィンが、突然慌て出し会議室の扉の方へ向かう。
「どうした?どこへ行く気だ?」
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