World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
1,361 / 1,646

大規模スキルの所持者

しおりを挟む
 街の調査といっても、無闇矢鱈にあちこちを駆け回っていては時間が掛かる上に効率的ではない。時間が掛かれば宮殿の様子も変わってしまうだろうし、二人の体力や戦力の低下にも繋がることだろう。

 宮殿から追手を振り払い、シン達が訪れたのはアルバの街の中心部。偶然にも何処かへ向かうには最適といえる位置にいる。ここまでの道中で分かったことは、街中には一般人が見当たらないと言う事。

 正確には一般人というよりも、人や動物といった生き物の姿が見当たらない。代わりに街を徘徊しているのは、彼らを襲った不気味な格好をした素顔の見えない謎の人物達。

 体格はまちまちで、大きい者から少し小さめの者もいる。それほど多く戦った訳ではないので正確な情報かどうか分からないが、謎の人物達は個体による強さの違いなどはなく、単純に標的の大きさくらいの違いはない。

 「漸く落ち着けるな。さて、まずは何から調べる?」

 「まずはこの音楽だろうな。街がこれ程の異常に包まれている中で、どうして落ち着いて演奏などできようか・・・。それは身の安全が分かっているからだ」

 「つまり・・・」

 「あぁ、犯人が直接演奏している。或いは共犯者が演奏しているのだろう。要するに音源を突き止めれば、犯人に繋がる重大な事柄が分かる可能性が高いということだ」

 ニノンは早速音源を調べようと提案する。しかし二人とも嗜む程度には音楽は聴くものの、特別詳しい訳でも聴力に自信がある訳でもない。今も尚聞こえてくる演奏が、一体どこで演奏されているのかなど見当もつかなかった。

 「だが音源なんてどうやって探す?音が反響してあちこちから聞こえてくるようで、どこから聞こえてくるなんて見当も・・・」

 「私もアルバの街に詳しい訳ではないわ。でもこの街にはいくつか、誰でも演奏ができるスポットがいくつかある。その一つが式典が行われていた教会。まずは“グーゲル教会“へ向かってみましょう」

 測らずともニノンは、アルバに向かうと分かってから始めた調査により、街の特徴的な建物や観光スポット、街の人間しかあまり知らないであろう事も知識として取り入れていた。それが幸いし、レオン達が見つけ出した音源を無意識に最初の場所に選んでいたのだ。

 しかし、その道中は決して一直線に向かえるようなものではなかった。生き物の気配を持たないその謎の人物達には、シンのアサシンとしてのクラススキルやリナムルで身につけた獣の力による感知が通用しなかった。

 目視による確認と行動の観察により、少しずつ目的地へ進む二人だったがこのままではグーゲル教会に辿り着くのにいくら時間がかかるか分からない。

 そこでシンは、ニノンについて来た自分にできる事として、道中邪魔になる謎の人物達を影に引き摺り込み、別の場所に移動させるという事だった。

 「このままじゃ教会に辿り着く前に朝になる・・・。できるか分からないが俺のスキルで邪魔なやつを移動させてやる」

 「そんな事ができるのか?」

 「あぁ、移動させられるの場所には距離的な限りはあるが、一旦退かすという意味では十分だと思う」

 「我々がそれで移動することは?」

 ニノンは影の中を通じて移動できるのなら、自分達を教会まで飛ばした方が早いのではと提案するが、まだ教会までの距離が長く、現状のシンのスキルではそこまでの長距離移動は不可能だと説明した。

 要するに、教会まで移動できる場所に辿り着くまでは、邪魔者を排除しつつ前進するしかないということだ。

 「条件は申し分ない。取り敢えずはそれで教会に近づくとしよう」

 物陰から頭を出し、場ぞの人物を確認すると、周囲の影で最も近く最も濃い影を探し、小石を使った揺動で誘き出すと影が形を変え謎の人物の影と繋がると、まるで底なしの沼にでも踏み込んだかのように、謎の人物は影の中へと姿を消した。

 「これが“アサシン“というクラスのスキル・・・!なんとも恐ろしいというかまさに暗殺向きだな」

 「逆にいうと、暗殺がメインのクラスだからまともにやり合うのは向いてない。成功率は気付かれていくごとに低くなるし、警戒心が強いと仕掛ける前に読まれるから揺動も重要になってくる。今は夜だから影の純度も高くて拘束力や操作性も向上してるけど・・・」

 「なるほど。明るさによってスキルの効果量や力が変わってくるのか」

 実際にシンのスキルを目の当たりにすることで、宮殿で話を聞いていた時よりも実感でき理解力も増していく。アサシンというクラスに興味があるのか、ニノンはシンが謎の人物を次々に排除していく様子を、シンの様子も含め事細かに観察していた。

 「あの・・・そんなに見られてるとやりづらいんだけど・・・」

 「構うな。アンタはいつも通りやってくれればいい。万が一の時は私が戦うからな」

 頼りにはなるのだが、手の内を晒すことで有効打を失うクラスであるが故に、誰かに観察されながら戦うのが苦手だったシンにとっては、何ともやりづらい空気感での作業となった。

 幸いにも謎の人物達は、そこまで賢いという訳でもないようで、影による拘束自体には戸惑っている様子だが、移動させた先で先程までいた場所に戻ろうとする動きはなかった。

 一律して同様の格好をしている事から、謎の人物達が各々の意思を持って行動している訳ではなさそうだった。恐らく何者かによって操られているのか、嘗て聖都ユスティーチで戦った、シュトラールが操っていた私兵のように能力で作り出した者なのだろう。

 そういった類のものは、数が多ければ多いほど、範囲が広ければ広いほどその精密性が失われていくケースがほとんどだ。ただシュトラールの場合、本人の熟練度や魔力量が常人のものとは桁外れだった為、聖騎士達との戦闘でも苦戦を強いられるほどの精密度を実現していた。

 あの時の聖騎士達に比べれば対処が楽だったが、もしシュトラールのように自身のスキルによって生み出しているのなら、謎の人物達を作り出している犯人かその協力者は、相当な魔力を持っているという事になる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

生産職から始まる初めてのVRMMO

結城楓
ファンタジー
最近流行りのVRMMO、興味がないわけではないが自分から手を出そうと思ってはいなかったふう。 そんな時、新しく発売された《アイディアル・オンライン》。 そしてその発売日、なぜかゲームに必要なハードとソフトを2つ抱えた高校の友達、彩華が家にいた。 そんなふうが彩華と半ば強制的にやることになったふうにとっては初めてのVRMMO。 最初のプレイヤー設定では『モンスターと戦うのが怖い』という理由から生産職などの能力を選択したところから物語は始まる。 最初はやらざるを得ない状況だったフウが、いつしか面白いと思うようになり自ら率先してゲームをするようになる。 そんなフウが贈るのんびりほのぼのと周りを巻き込み成長していく生産職から始まる初めてのVRMMOの物語。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~

鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!  詳細は近況ボードに載せていきます! 「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」 特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。 しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。 バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて―― こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。

男女比崩壊世界で逆ハーレムを

クロウ
ファンタジー
いつからか女性が中々生まれなくなり、人口は徐々に減少する。 国は女児が生まれたら報告するようにと各地に知らせを出しているが、自身の配偶者にするためにと出生を報告しない事例も少なくない。 女性の誘拐、売買、監禁は厳しく取り締まられている。 地下に監禁されていた主人公を救ったのはフロムナード王国の最精鋭部隊と呼ばれる黒龍騎士団。 線の細い男、つまり細マッチョが好まれる世界で彼らのような日々身体を鍛えてムキムキな人はモテない。 しかし転生者たる主人公にはその好みには当てはまらないようで・・・・ 更新再開。頑張って更新します。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...