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足取りと発言の真偽
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捜査といってもそれほど大袈裟なものではない。まずはグーゲル教会の写真を見せ、その敷地内の様子や見取り図などを見せていく。カルロスは差し出されたものを次々に目に映していくと、徐々にその顔にも生気のようなものが戻って来たのだ。
「そうだ・・・そうだよ!俺、確かここで気を失って。その時側に誰か・・・?」
「俺だよ、覚えてるか?カルロス。一緒に教会で演奏を聞いたんだ」
レオンが彼の記憶に蘇る人物として名乗りを上げる。すると二人の口からは、まるで記憶をすり合わせるように当時の状況が次々に飛び出していく。
「思い出したぜ!俺ぁレオンと一緒に演奏してんのが誰なのか突き止めに行こうとして、グーゲル教会に入ったところで眠気に襲われたんだ。・・・あれ?でもなんで俺がレオンと?一体どんな流れで?」
「お前が宮殿に向かってからの出来事を、俺に報告しにきたからだろ」
そういって今度は、宮殿の写真とレオンの自宅があるであろう位置を、テーブルに広げられたアルバのマップに指差した。先程まで宮殿の写真を見てもピンと来ていなかったのは、まず最初に思い出すべきものを思い出していなかったからだったようだ。
「そうだそうだ、俺ぁ確か事件のことで宮殿へ・・・」
「事件?」
カルロスが記憶を取り戻したのはよかったが、三人が交わした約束については忘れてしまっていたらしい。宮殿の事件について知るジルとレオン、そしてカルロスはこの危険な調査に他者を巻き込まない為に、事件については他言しないようにと決めていた。
クリスは宮殿内から出てきた人物なので、当然事件については知っているだろうが、三人が事件のことを知っているということを知られないようにすることに越したことはない。
テーブルの下でジルが彼の口を止めようと、足先でカルロスの足を強めに蹴る。
「痛ッ!!何すんだ・・・?」
蹴られた角度的にジルしかあり得ない。カルロスは思わず彼女の方を向くと、ジルは鋭い目つきで凝視しながら首を小さく横に振っていた。
「どうしたの?カルロス」
「あっ・・・あぁ、何でもねぇ。丁度お前を探しててよぉ。でも寮に戻っても帰ってねぇって言われるし、それを俺が勝手に事件だぁ~って言ってただけだ」
「そっそうだったんだ。ごめん、マティアス司祭に手伝いを頼まれてて・・・」
「そっか、ならしょうがねぇか」
何とか話を誤魔化し、クリスにも納得してもらえた様だが、それを聞いていたレオンとジルは二人の会話に違和感を感じていた。今アルバの街で事件という単語が指すものは、宮殿での事件と結び付けるのが妥当だろう。
レオンが自宅で母親と見ていたニュースにも、他に事件らしい事件も起こっていない。ケヴィンが依頼されて行っている失踪事件も、一般的には公表されているものの進展がない為、今ではほとんど報道されていない。
そして、その事件現場である宮殿にいたとされているクリスがそれを知らない筈がない。それを意図していなかったとはいえ、宮殿の外にいたカルロスが事件と口走った事に対し、追求してこないものなのだろうか。
それともクリスにも解放する条件として、事件のことに関しては他言無用と言われていたのだろうか。
「でもこれで事件のことも、演奏のことも思い出せた様だね」
「あぁ、助かったぜクリス!でもよ、宮殿内でずっと手伝いさせられてたのかよ?」
カルロスは先程ジルに注意されたことに気をつけながら、クリスが話せる範囲の情報を聞き出そうと質問を始める。だが、ジルやレオンの想像していたように事件に関する有力な情報については、彼の口から語られることはなかった。
「うん、式典とパーティーの片付けが忙しくてね」
「でも、それにしたって戻らない人達が多くねぇか?クリスがさっき言ってた司祭様もそうだけどよぉ、医者のカールさんもだろ?何か他にあったんじゃねぇのか?」
「それはどうなんだろう・・・。僕も詳しいことは分からないんだ。ただマティアス司祭の手伝いをしていたら遅くなっていて、手伝いが終わったら先に帰ってなさいって言われたから戻っただけなんだよ」
どこまでが本当のことなのかは分からない。上手く話を誤魔化されたような気もするが、クリスがそこまで器用な人間かと言われると、三人とも彼にそんな印象は持っていないというのが正直なところだった。
「でも確かに誰も戻っていないのはおかしな話だね・・・」
すると、疑問に思ったレオンが二人の会話に割って入る。彼の質問は、宮殿から返された後のクリスの行動についてだった。記憶を取り戻したカルロスだが、彼が宮殿の前でクリスが解放されているところを目撃し、その後尾行していたという話はまだ本人であるクリスにはしていない。
つまり、この質問に対する答え方次第でクリスの置かれている状況や、彼が嘘をついているかどうかなどが分かってくる。
「人ごとのように言ってるが、お前は宮殿から出た後どうしたんだ?」
「ぼっ僕?僕はその後すぐに二クラス教会へ行ったよ。そこで作業の進行状況と、ルーカス司祭の帰りも遅くなるってことを伝えて、マティアス司祭に頼まれていたものを確認する為に、教会の奥の部屋に通してもらったんだ」
「頼まれたもの?」
するとクリスは突然周囲を警戒し始め、顔をテーブルの方へ寄せると小声で三人にルーカス司祭のとある噂について語った。それはルーカス司祭がジークベルト大司教と同期だったという事だった。
これはシン達がルーカスに、ジークベルトの調査を依頼される時に聞かされた話で、アルバでこの話について知る者はいなかったようだ。それこそ同じ司祭であるマティアスですら知らなかったこと。
宮殿内でルーカスのその話を聞いたマティアス司祭は、クリスにそれが真実であるかどうかを確かめさせる為、宮殿内から出ることの出来ない自分に代わり、クリスに頼むことにしたのだという。
「そうだ・・・そうだよ!俺、確かここで気を失って。その時側に誰か・・・?」
「俺だよ、覚えてるか?カルロス。一緒に教会で演奏を聞いたんだ」
レオンが彼の記憶に蘇る人物として名乗りを上げる。すると二人の口からは、まるで記憶をすり合わせるように当時の状況が次々に飛び出していく。
「思い出したぜ!俺ぁレオンと一緒に演奏してんのが誰なのか突き止めに行こうとして、グーゲル教会に入ったところで眠気に襲われたんだ。・・・あれ?でもなんで俺がレオンと?一体どんな流れで?」
「お前が宮殿に向かってからの出来事を、俺に報告しにきたからだろ」
そういって今度は、宮殿の写真とレオンの自宅があるであろう位置を、テーブルに広げられたアルバのマップに指差した。先程まで宮殿の写真を見てもピンと来ていなかったのは、まず最初に思い出すべきものを思い出していなかったからだったようだ。
「そうだそうだ、俺ぁ確か事件のことで宮殿へ・・・」
「事件?」
カルロスが記憶を取り戻したのはよかったが、三人が交わした約束については忘れてしまっていたらしい。宮殿の事件について知るジルとレオン、そしてカルロスはこの危険な調査に他者を巻き込まない為に、事件については他言しないようにと決めていた。
クリスは宮殿内から出てきた人物なので、当然事件については知っているだろうが、三人が事件のことを知っているということを知られないようにすることに越したことはない。
テーブルの下でジルが彼の口を止めようと、足先でカルロスの足を強めに蹴る。
「痛ッ!!何すんだ・・・?」
蹴られた角度的にジルしかあり得ない。カルロスは思わず彼女の方を向くと、ジルは鋭い目つきで凝視しながら首を小さく横に振っていた。
「どうしたの?カルロス」
「あっ・・・あぁ、何でもねぇ。丁度お前を探しててよぉ。でも寮に戻っても帰ってねぇって言われるし、それを俺が勝手に事件だぁ~って言ってただけだ」
「そっそうだったんだ。ごめん、マティアス司祭に手伝いを頼まれてて・・・」
「そっか、ならしょうがねぇか」
何とか話を誤魔化し、クリスにも納得してもらえた様だが、それを聞いていたレオンとジルは二人の会話に違和感を感じていた。今アルバの街で事件という単語が指すものは、宮殿での事件と結び付けるのが妥当だろう。
レオンが自宅で母親と見ていたニュースにも、他に事件らしい事件も起こっていない。ケヴィンが依頼されて行っている失踪事件も、一般的には公表されているものの進展がない為、今ではほとんど報道されていない。
そして、その事件現場である宮殿にいたとされているクリスがそれを知らない筈がない。それを意図していなかったとはいえ、宮殿の外にいたカルロスが事件と口走った事に対し、追求してこないものなのだろうか。
それともクリスにも解放する条件として、事件のことに関しては他言無用と言われていたのだろうか。
「でもこれで事件のことも、演奏のことも思い出せた様だね」
「あぁ、助かったぜクリス!でもよ、宮殿内でずっと手伝いさせられてたのかよ?」
カルロスは先程ジルに注意されたことに気をつけながら、クリスが話せる範囲の情報を聞き出そうと質問を始める。だが、ジルやレオンの想像していたように事件に関する有力な情報については、彼の口から語られることはなかった。
「うん、式典とパーティーの片付けが忙しくてね」
「でも、それにしたって戻らない人達が多くねぇか?クリスがさっき言ってた司祭様もそうだけどよぉ、医者のカールさんもだろ?何か他にあったんじゃねぇのか?」
「それはどうなんだろう・・・。僕も詳しいことは分からないんだ。ただマティアス司祭の手伝いをしていたら遅くなっていて、手伝いが終わったら先に帰ってなさいって言われたから戻っただけなんだよ」
どこまでが本当のことなのかは分からない。上手く話を誤魔化されたような気もするが、クリスがそこまで器用な人間かと言われると、三人とも彼にそんな印象は持っていないというのが正直なところだった。
「でも確かに誰も戻っていないのはおかしな話だね・・・」
すると、疑問に思ったレオンが二人の会話に割って入る。彼の質問は、宮殿から返された後のクリスの行動についてだった。記憶を取り戻したカルロスだが、彼が宮殿の前でクリスが解放されているところを目撃し、その後尾行していたという話はまだ本人であるクリスにはしていない。
つまり、この質問に対する答え方次第でクリスの置かれている状況や、彼が嘘をついているかどうかなどが分かってくる。
「人ごとのように言ってるが、お前は宮殿から出た後どうしたんだ?」
「ぼっ僕?僕はその後すぐに二クラス教会へ行ったよ。そこで作業の進行状況と、ルーカス司祭の帰りも遅くなるってことを伝えて、マティアス司祭に頼まれていたものを確認する為に、教会の奥の部屋に通してもらったんだ」
「頼まれたもの?」
するとクリスは突然周囲を警戒し始め、顔をテーブルの方へ寄せると小声で三人にルーカス司祭のとある噂について語った。それはルーカス司祭がジークベルト大司教と同期だったという事だった。
これはシン達がルーカスに、ジークベルトの調査を依頼される時に聞かされた話で、アルバでこの話について知る者はいなかったようだ。それこそ同じ司祭であるマティアスですら知らなかったこと。
宮殿内でルーカスのその話を聞いたマティアス司祭は、クリスにそれが真実であるかどうかを確かめさせる為、宮殿内から出ることの出来ない自分に代わり、クリスに頼むことにしたのだという。
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