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リヒトルの情報網
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アンドレイは、シン達の他にも事件解決の為、独自では知り得ない情報を集めようとリヒトルとも協力関係を結ぼうとしていたのだった。だが公開されている情報や、各自聞き込みによる情報収集で集められる情報なら、誰が調査しようが同じもののはず。
今になってわざわざリヒトルと情報交換をする必要があるのだろうか。それに宮殿に囚われている音楽家達や客人の中で、最も調査に身を乗り出しているのは現状アンドレイ達だ。
そんな彼らが掴めない情報をリヒトルが持っているとでも言うのだろうか。
「協力?ふふふ、笑わせる。部屋に篭りっぱなしの我々とか?」
「私の前で隠し事は不要ですよ、リヒトルさん。貴方の情報網とそのカラクリは私には分かっています。ですよね?“マイルズ“さん?」
そう言って振り返るアンドレイの視線の先には、部屋の隅で黙って彼らの会話を聞いていた無表情のマイルズが立っていた。主人であるアンドレイがマイルズと顔見知りであることを聞いていたシアラは、彼らだけしか知らない関係に嫉妬しつつマイルズという男が、どう情報収集と関係しているのか気になっているといった様子だった。
話を振っても何も反応を示さないマイルズの様子に、その徹底ぶりを感じたアンドレイはリヒトルの方へと向き直し、話を続ける。どうやらリヒトルは、アンドレイが本当にこちらの情報収集の手段について把握しているのだと感心しているようだった。
「・・・いつからだ?」
「おっと!誤解の無いよう言っておきますけど、マイルズさんとは以前にお会いしているのです。最も彼の方からコンタクトを取るといった行為はありませんでしたが。だから彼がアルバでヘマをした訳ではありませんよ」
「・・・分かった。何にせよお前を黙らせておくには、協力する他なさそうだな。それを条件にということで良いんだな?」
リヒトルが納得した様子を見せたことで、アンドレイの含みのある笑みは屈託のない無邪気な笑顔へと変わる。
「えぇ、勿論ですとも。話が通じる方だと思っていましたよ」
「白々しい奴め・・・。それで?何が知りたい」
「一応聞いておきますが、犯人については?」
単刀直入な質問に、リヒトルは気が抜けてように背もたれへ寄り掛かると、溜め息混じりに答える。
「流石にそこまで知ってるのなら、こんなところに居ないさ」
大きな期待はしていなかったが、もしかしたら既に犯人を突き止めているのではと、冗談で聞いたことではあったがキッパリと断言されてしまい、少し残念そうな表情を浮かべるアンドレイ。
「そうですよね、そこまで無関心でもありませんか・・・」
「だが妙に感じることはなかったか?」
「妙・・・?」
唐突なリヒトルの質問に、これまでの事件で何か見落としはなかったかと思い返すが、すぐに浮かぶものはなかった。アンドレイが彼に聞き返すと、そこでマイルズを使った情報収集の成果を披露する。
「大司教の件はともかく、ルーカスやマティアスは容疑が掛かっていたり、次のターゲットであることから、厳重な見張りや護衛がついていた筈だ。奴らの調査では二人とも突発的な心不全として片付けられていたが、そんな都合のいい話など本当にあると思うか?」
「えぇ、そこは私も考えていました。もしかしたら彼らが何かを隠蔽しているのではないか・・・と」
「だが鑑識の調べや、遺体の状態からして直接的な死の原因は心臓発作や心臓麻痺で間違いなかった。我々も医学に精通している訳ではないが、それは確認している」
「なら一体何が妙だと?その隠蔽の動きが・・・と言う話ですか?」
「まぁそう急くな。彼らの遺体は一時的に宮殿の一室に保存されている。奴らが安置所と呼ぶ場所だな。お前達も当然、そこには足を運んだのだろう?」
そう尋ねられたアンドレイは、その時の場面を思い返しながら首を縦に振る。当然、このような事態を想定していない宮殿の作りと施設で、遺体をそのままの状態で保存しておくことなど不可能な為、教団の護衛達によるスキルによって現状を維持していた。
スキルが通うと言うことは、遺体に魔力が巡らされていると言う事になる。誰かが常にスキルを掛けていなければならない関係上、護衛は交代しながらスキルをかけ続ける。
その間、部外者が遺体に触れることでスキルは解除されてしまうようだ。それによる細工の防衛という意味もある。遺体にはそれぞれスキルを掛ける護衛が一人ずつ付いており、常に魔力と目視による監視が付いている
特例以外で遺体を調べることは出来ないはずなのだが、リヒトルから三つの遺体から得たという新たな情報がアンドレイに伝えられた。
「お前も知ってる通り、マイルズの調査によって遺体から面白いものが見つかった」
「面白いもの・・・ですか?」
「あぁ、彼らの心臓付近の血管に僅かだが弛みのようなものがあったそうだ」
今になってわざわざリヒトルと情報交換をする必要があるのだろうか。それに宮殿に囚われている音楽家達や客人の中で、最も調査に身を乗り出しているのは現状アンドレイ達だ。
そんな彼らが掴めない情報をリヒトルが持っているとでも言うのだろうか。
「協力?ふふふ、笑わせる。部屋に篭りっぱなしの我々とか?」
「私の前で隠し事は不要ですよ、リヒトルさん。貴方の情報網とそのカラクリは私には分かっています。ですよね?“マイルズ“さん?」
そう言って振り返るアンドレイの視線の先には、部屋の隅で黙って彼らの会話を聞いていた無表情のマイルズが立っていた。主人であるアンドレイがマイルズと顔見知りであることを聞いていたシアラは、彼らだけしか知らない関係に嫉妬しつつマイルズという男が、どう情報収集と関係しているのか気になっているといった様子だった。
話を振っても何も反応を示さないマイルズの様子に、その徹底ぶりを感じたアンドレイはリヒトルの方へと向き直し、話を続ける。どうやらリヒトルは、アンドレイが本当にこちらの情報収集の手段について把握しているのだと感心しているようだった。
「・・・いつからだ?」
「おっと!誤解の無いよう言っておきますけど、マイルズさんとは以前にお会いしているのです。最も彼の方からコンタクトを取るといった行為はありませんでしたが。だから彼がアルバでヘマをした訳ではありませんよ」
「・・・分かった。何にせよお前を黙らせておくには、協力する他なさそうだな。それを条件にということで良いんだな?」
リヒトルが納得した様子を見せたことで、アンドレイの含みのある笑みは屈託のない無邪気な笑顔へと変わる。
「えぇ、勿論ですとも。話が通じる方だと思っていましたよ」
「白々しい奴め・・・。それで?何が知りたい」
「一応聞いておきますが、犯人については?」
単刀直入な質問に、リヒトルは気が抜けてように背もたれへ寄り掛かると、溜め息混じりに答える。
「流石にそこまで知ってるのなら、こんなところに居ないさ」
大きな期待はしていなかったが、もしかしたら既に犯人を突き止めているのではと、冗談で聞いたことではあったがキッパリと断言されてしまい、少し残念そうな表情を浮かべるアンドレイ。
「そうですよね、そこまで無関心でもありませんか・・・」
「だが妙に感じることはなかったか?」
「妙・・・?」
唐突なリヒトルの質問に、これまでの事件で何か見落としはなかったかと思い返すが、すぐに浮かぶものはなかった。アンドレイが彼に聞き返すと、そこでマイルズを使った情報収集の成果を披露する。
「大司教の件はともかく、ルーカスやマティアスは容疑が掛かっていたり、次のターゲットであることから、厳重な見張りや護衛がついていた筈だ。奴らの調査では二人とも突発的な心不全として片付けられていたが、そんな都合のいい話など本当にあると思うか?」
「えぇ、そこは私も考えていました。もしかしたら彼らが何かを隠蔽しているのではないか・・・と」
「だが鑑識の調べや、遺体の状態からして直接的な死の原因は心臓発作や心臓麻痺で間違いなかった。我々も医学に精通している訳ではないが、それは確認している」
「なら一体何が妙だと?その隠蔽の動きが・・・と言う話ですか?」
「まぁそう急くな。彼らの遺体は一時的に宮殿の一室に保存されている。奴らが安置所と呼ぶ場所だな。お前達も当然、そこには足を運んだのだろう?」
そう尋ねられたアンドレイは、その時の場面を思い返しながら首を縦に振る。当然、このような事態を想定していない宮殿の作りと施設で、遺体をそのままの状態で保存しておくことなど不可能な為、教団の護衛達によるスキルによって現状を維持していた。
スキルが通うと言うことは、遺体に魔力が巡らされていると言う事になる。誰かが常にスキルを掛けていなければならない関係上、護衛は交代しながらスキルをかけ続ける。
その間、部外者が遺体に触れることでスキルは解除されてしまうようだ。それによる細工の防衛という意味もある。遺体にはそれぞれスキルを掛ける護衛が一人ずつ付いており、常に魔力と目視による監視が付いている
特例以外で遺体を調べることは出来ないはずなのだが、リヒトルから三つの遺体から得たという新たな情報がアンドレイに伝えられた。
「お前も知ってる通り、マイルズの調査によって遺体から面白いものが見つかった」
「面白いもの・・・ですか?」
「あぁ、彼らの心臓付近の血管に僅かだが弛みのようなものがあったそうだ」
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