1,318 / 1,646
二人の立場
しおりを挟む
早速シン達と共に宮殿で行動する同行者としての仕事を果たさんとばかりに、部屋の外で待つもう一人の同行者を迎えに行くオイゲン。それを視線で追いかける一行。通路の先へと消えた彼が警備隊の男と会話した後、通路を戻る足音は二人分になっていた。
通路から姿を現したのはオイゲンと、その後ろから追従する身なりの整った女。彼女が先程オイゲンの言っていた、用事で抜けなければならない時に代わりでやって来る事になる代行のようだ。
「丁度君の説明をしていたところだ。まずは自己紹介から頼む」
護衛隊長の同胞と聞いていたので、それなりに戦闘を想定した格好や体格を想像していた一行だったが、実際に現れたのは意外にも華奢で、パーティーの時のミアと同じく、スーツに身を包んだ冗談の通じそうにない真面目そうな女性だった。
「初めまして。私は“ニノン・ラセター“と申します。紹介はオイゲンの方からあったようなので割愛させて頂きます。よろしくお願いします」
丁寧な口調で礼儀正しい様子からも、その厳格さが窺える。しかし紹介が割愛されてしまったが、一行はオイゲンの代行という以外に彼女の素性について殆ど知らない。
一行の視線は、自己紹介を終えたニノンからオイゲンへと集められる。妙な沈黙と空気感に気がついたニノンは、僅かにオイゲンを睨み付ける。
「紹介したのではないのか?」
「したとも。ただ君の到着が想定よりも早かったものでな。少し特殊な事例となったことを説明しただけになってしまったと、弁明させてもらおう」
二人のやり取りを見て、流石は同胞といった間柄だなと感じた一行。今までシン達と会話をしていた時のオイゲンとは違い、表情が少しだけ柔らかくなっている。これはシン達が仲間と話をする時と同じように、気の知れた仲の者との会話と同じだった。
「一応聞いておきますが、お二人のご関係は?」
痴話喧嘩を始める二人の間に、申し訳なさそうに口を挟んだのはケヴィンだった。一行も二人の様子を見て丁度同じような事を考えていたところだったので、代弁をしてくれたケヴィンには感謝していたが、彼がそんな質問をするとは意外だなとシンは感じていた。
と、いうのもシンとケヴィンは行動を共にしていた時間が一番長く、彼がどんなことに興味を示すのかある程度理解していたつもりだったシンは、人間関係について興味を示したケヴィンに驚かされたのだ。
「同じ所属の同胞。それ以上にはなり得ません。今は上司にあたる立場なのでこれ以上は口を慎みますが・・・」
「私とニノン・ラセターは、教団上の立場としては同じところに位置しています。今回の件では隊長に抜擢されたのが私であっただけで、適材適所で彼女が隊長になることもある。同胞は他にも何人もいるのだ。今回はたまたま一緒だっただけで、仕事上の付き合い以上のものはないだろう」
「そうですか。立場上同じ隊長クラスという事であれば、他の護衛隊にも信用があると見て宜しいのですね?」
「隊員に疑いはない。だが調査や取り調べを怠ることは決してない。仲間だからこそ厳重に調査し、身の潔白を確認している。誤解されるかも知れないが、私らとて皆と同じように互いの行動や言動を厳しく見張り合っている。他の者達からすれば信用ならないだろうが、私らもお互いに調べ上げているといことはここで明言しておく」
オイゲンが連れて来たニノンという女は、彼以上に口数が多くしかしどこか信用してしまいそうになる安心感もある。これは今までの経験がものを言うのかも知れないが、性別の違いだけでもそういった印象を受ける人もいるかも知れない。
だが、どうしても男は都合のいい話を持ちかけられた場合、その背景や胡散臭さを感じてしまうのは男性の方に偏るという人も多いのではないだろうか。
一行はミアやアカリも含め、妙にニノンの言葉に嘘や疑いといった要素を感じられず、妙に納得してしまっていた。これも厳格な二人が口にしているからというものも多分に含まれているからなのかも知れない。
「基本的に彼女が駆り出されるのは、私が参入できず指揮しできない時だけだ。故に私がマティアス司祭の代わりだとは言ったが、実際のところ行動を共にする時間が長くなるのは彼女だと思ってくれていい」
「なるほど。人員の配置も考えられていたのですね。確かにそこまで徹底しているのなら・・・」
一人言葉だけでは考えを左右されない男は、オイゲンの話に隠されたわざわざ言及しなかった配慮と徹底ぶりに、僅かに考えを改めさせられているようだった。
「お二人がいる間に聞いておきたいのですが、ルーカス氏の調査はどのように行われているのですか?」
「大方、大司教の時と違いはない。現場に残された証拠や遺留品に関しては鑑識に任せている。我々が行っているのは、残留する魔力の反応や匂い、あとは僅かではあるが現場の状況再現を行って調査している」
ケヴィンの質問に答えたオイゲンの言葉に嘘や偽りはないか、情報の共有がちゃんとなされているのかなどを確かめるためにも、ケヴィンはオイゲンとニノンが一緒にいる時に調査の方法や段階を尋ねたのだ。
通路から姿を現したのはオイゲンと、その後ろから追従する身なりの整った女。彼女が先程オイゲンの言っていた、用事で抜けなければならない時に代わりでやって来る事になる代行のようだ。
「丁度君の説明をしていたところだ。まずは自己紹介から頼む」
護衛隊長の同胞と聞いていたので、それなりに戦闘を想定した格好や体格を想像していた一行だったが、実際に現れたのは意外にも華奢で、パーティーの時のミアと同じく、スーツに身を包んだ冗談の通じそうにない真面目そうな女性だった。
「初めまして。私は“ニノン・ラセター“と申します。紹介はオイゲンの方からあったようなので割愛させて頂きます。よろしくお願いします」
丁寧な口調で礼儀正しい様子からも、その厳格さが窺える。しかし紹介が割愛されてしまったが、一行はオイゲンの代行という以外に彼女の素性について殆ど知らない。
一行の視線は、自己紹介を終えたニノンからオイゲンへと集められる。妙な沈黙と空気感に気がついたニノンは、僅かにオイゲンを睨み付ける。
「紹介したのではないのか?」
「したとも。ただ君の到着が想定よりも早かったものでな。少し特殊な事例となったことを説明しただけになってしまったと、弁明させてもらおう」
二人のやり取りを見て、流石は同胞といった間柄だなと感じた一行。今までシン達と会話をしていた時のオイゲンとは違い、表情が少しだけ柔らかくなっている。これはシン達が仲間と話をする時と同じように、気の知れた仲の者との会話と同じだった。
「一応聞いておきますが、お二人のご関係は?」
痴話喧嘩を始める二人の間に、申し訳なさそうに口を挟んだのはケヴィンだった。一行も二人の様子を見て丁度同じような事を考えていたところだったので、代弁をしてくれたケヴィンには感謝していたが、彼がそんな質問をするとは意外だなとシンは感じていた。
と、いうのもシンとケヴィンは行動を共にしていた時間が一番長く、彼がどんなことに興味を示すのかある程度理解していたつもりだったシンは、人間関係について興味を示したケヴィンに驚かされたのだ。
「同じ所属の同胞。それ以上にはなり得ません。今は上司にあたる立場なのでこれ以上は口を慎みますが・・・」
「私とニノン・ラセターは、教団上の立場としては同じところに位置しています。今回の件では隊長に抜擢されたのが私であっただけで、適材適所で彼女が隊長になることもある。同胞は他にも何人もいるのだ。今回はたまたま一緒だっただけで、仕事上の付き合い以上のものはないだろう」
「そうですか。立場上同じ隊長クラスという事であれば、他の護衛隊にも信用があると見て宜しいのですね?」
「隊員に疑いはない。だが調査や取り調べを怠ることは決してない。仲間だからこそ厳重に調査し、身の潔白を確認している。誤解されるかも知れないが、私らとて皆と同じように互いの行動や言動を厳しく見張り合っている。他の者達からすれば信用ならないだろうが、私らもお互いに調べ上げているといことはここで明言しておく」
オイゲンが連れて来たニノンという女は、彼以上に口数が多くしかしどこか信用してしまいそうになる安心感もある。これは今までの経験がものを言うのかも知れないが、性別の違いだけでもそういった印象を受ける人もいるかも知れない。
だが、どうしても男は都合のいい話を持ちかけられた場合、その背景や胡散臭さを感じてしまうのは男性の方に偏るという人も多いのではないだろうか。
一行はミアやアカリも含め、妙にニノンの言葉に嘘や疑いといった要素を感じられず、妙に納得してしまっていた。これも厳格な二人が口にしているからというものも多分に含まれているからなのかも知れない。
「基本的に彼女が駆り出されるのは、私が参入できず指揮しできない時だけだ。故に私がマティアス司祭の代わりだとは言ったが、実際のところ行動を共にする時間が長くなるのは彼女だと思ってくれていい」
「なるほど。人員の配置も考えられていたのですね。確かにそこまで徹底しているのなら・・・」
一人言葉だけでは考えを左右されない男は、オイゲンの話に隠されたわざわざ言及しなかった配慮と徹底ぶりに、僅かに考えを改めさせられているようだった。
「お二人がいる間に聞いておきたいのですが、ルーカス氏の調査はどのように行われているのですか?」
「大方、大司教の時と違いはない。現場に残された証拠や遺留品に関しては鑑識に任せている。我々が行っているのは、残留する魔力の反応や匂い、あとは僅かではあるが現場の状況再現を行って調査している」
ケヴィンの質問に答えたオイゲンの言葉に嘘や偽りはないか、情報の共有がちゃんとなされているのかなどを確かめるためにも、ケヴィンはオイゲンとニノンが一緒にいる時に調査の方法や段階を尋ねたのだ。
0
お気に入りに追加
297
あなたにおすすめの小説
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件
月風レイ
ファンタジー
普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。
そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。
そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。
そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。
そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。
食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。
不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。
大修正中!今週中に修正終え更新していきます!
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
全校転移!異能で異世界を巡る!?
小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。
目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。
周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。
取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。
「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」
取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。
そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。
婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな
カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界
魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた
「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね?
それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」
小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く
塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう
一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが……
◇◇◇
親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります
(『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です)
◇◇◇
ようやく一区切りへの目処がついてきました
拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる