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優先したもの
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「お前達じゃ表立って行動できねぇだろ。学校の優等生が、それも大層な家柄の奴らがこんな揉め事に首を突っ込んだらどうなるか。俺にだって想像がつくぜ」
「だがカルロス!お前だって“オルブライト家“の名に傷がつくことになるかもしれないんだぞ!?」
カルロスの家系もジルやレオンと同じく、アルバの中でも名家の内の一つ。ただ彼らと違い、カルロスの家庭は兄弟が多い。カルロスはそんなオルブライト家の末っ子として誕生した。
二人の兄は、それぞれカルロスと同じ音楽学校を卒業し、今では別の国や街で音楽家としての活動をしている。優秀だった兄らに比べ、それなりの成績は収めていたもののジルやレオン、その他にも数名の実力者達と同級生になってしまったのが彼の運のつきだった。
才能自体は決して無い訳ではなかったが、やはり他のライバル達と比べてしまうと見劣り部分がいくつかある。初めはそれを父親に厳しく叱られたが、兄らの活躍により次第にカルロスを構う機会がなくなっていき、今ではすっかり相手にされなくなってしまった。
謂わばカルロスは、オルブライト家の落ちこぼれとして生まれたのだ。故に学校で同じ思いをしているクリスに親近感を覚えていたのだが、一つ彼の気に入らない部分があり、それがマティアス司祭に媚びを売るように手伝いをしている姿だった。
「俺は・・・もういいんだよ。どうせ期待なんてされてねぇし・・・。親父もこんな出来損ないとは、縁を切りたいとでも思ってんだろうしな」
彼の自虐的な言葉は、ジルやレオンの心にも刺さるものがった。もし自分が評価を受けない子供だったらどうなっていたのだろうか。自分に音楽の才能がなくても愛してくれただろうか。
実力や能力を評価されてきた者達にとって、それ以外の部分というものが一体何の役に立つのだろう。音楽家を目指す者が聴力に障害をきたすという話も珍しいことでは無い。
音楽家に限ったことではない。その道で活躍する者達にとって重要となる要素に支障があれば、今までそれに頼ってきた者は何に縋ればいいのか。そんな事を一度も考えなかった訳ではない。
だからだろうか。他者との関わりを極力嫌い、周りのものを見ないようにして、自分の道をただひたすらに走り抜けてきたジルやレオンは、唐突にフェリクスやカタリナ、そして同級生であるカルロスらの事情を聞かされた事により、将来への不安や今後の未来のビジョンというものに霧が掛かり始めてしまったかのような感情に陥っていた。
「人は人、自分は自分・・・だろ?お前らはそれでいい。それを間違ってるなんて俺は言わねぇし、気にもしてねぇよ。だから止めるなよ・・・俺を憐れむな・・・」
そんな言葉を残し、カルロスは二人の元を去り、教会から出て行った。恐らく彼はこのまま宮殿へと向かい、警備隊と一悶着起こすつもりなのだろう。そして二人から聞いた大司教の事件をネタに、宮殿内に潜り込むことになるかもしれない。
カルロスに言い放たれた言葉に言葉を失ったジルとレオンは、暫くの間無言で教会の椅子に座る続けていた。
結局その日はジルもレオンも、音楽学校の方には顔を出さなかった。式典の勅語ということもあり、数日は学校の方も自由登校という形になっていた。成績が優秀な者ほど、こういった時に独自の練習や師匠と仰ぐ音楽家の元へ行ったりと自由に過ごすものだが、この時の二人はフェリクスやカタリナの事が気掛かりで、とても音楽には集中できなかった。
「俺・・・そろそろ帰るよ。カルロスの言ってた事、間違ってない・・・。俺にはあそこまでの行動力はなかった。恩人の身よりも、自分を選んだんだ・・・」
「私もそう・・・。わざわざ私の事を気に掛けてくれて、アドバイスまでもらったのに、それでも今の自分を変えるのが少し・・・怖い・・・」
「すぐにどうこうなる事はないだろう。今日のところは家に帰って休もうぜ。ついでにこの辛気臭さもどうにかしないとな・・・」
どれだけの時間を教会で過ごしたのだろうか。二人には僅かな時間のように感じたが、目に入る景色はそれなりに時間の経過を感じさせる。傷心した心に染みるような歌声と楽器の音を聞きながら、レオンが先に夕暮れの教会を去り、暫くしてジルも自宅へと向かった。
帰り際に宮殿の前を通ったレオンは、チラリと敷地内の方を覗き見るように視線を送る。カルロスが向かったはずだが、警備隊の様子は以前の様子と全く変わらず、騒ぎになっていた様子も見受けられない。
徹底して大司教の件を隠そうとしていたのだ。一人の人間が抗議にやってきたところで、何事もなかったかのように済ませることなど造作もないのだろう。
結局、我が身可愛さに行動できなかった者達には、結果を待つしかないのだ。
「だがカルロス!お前だって“オルブライト家“の名に傷がつくことになるかもしれないんだぞ!?」
カルロスの家系もジルやレオンと同じく、アルバの中でも名家の内の一つ。ただ彼らと違い、カルロスの家庭は兄弟が多い。カルロスはそんなオルブライト家の末っ子として誕生した。
二人の兄は、それぞれカルロスと同じ音楽学校を卒業し、今では別の国や街で音楽家としての活動をしている。優秀だった兄らに比べ、それなりの成績は収めていたもののジルやレオン、その他にも数名の実力者達と同級生になってしまったのが彼の運のつきだった。
才能自体は決して無い訳ではなかったが、やはり他のライバル達と比べてしまうと見劣り部分がいくつかある。初めはそれを父親に厳しく叱られたが、兄らの活躍により次第にカルロスを構う機会がなくなっていき、今ではすっかり相手にされなくなってしまった。
謂わばカルロスは、オルブライト家の落ちこぼれとして生まれたのだ。故に学校で同じ思いをしているクリスに親近感を覚えていたのだが、一つ彼の気に入らない部分があり、それがマティアス司祭に媚びを売るように手伝いをしている姿だった。
「俺は・・・もういいんだよ。どうせ期待なんてされてねぇし・・・。親父もこんな出来損ないとは、縁を切りたいとでも思ってんだろうしな」
彼の自虐的な言葉は、ジルやレオンの心にも刺さるものがった。もし自分が評価を受けない子供だったらどうなっていたのだろうか。自分に音楽の才能がなくても愛してくれただろうか。
実力や能力を評価されてきた者達にとって、それ以外の部分というものが一体何の役に立つのだろう。音楽家を目指す者が聴力に障害をきたすという話も珍しいことでは無い。
音楽家に限ったことではない。その道で活躍する者達にとって重要となる要素に支障があれば、今までそれに頼ってきた者は何に縋ればいいのか。そんな事を一度も考えなかった訳ではない。
だからだろうか。他者との関わりを極力嫌い、周りのものを見ないようにして、自分の道をただひたすらに走り抜けてきたジルやレオンは、唐突にフェリクスやカタリナ、そして同級生であるカルロスらの事情を聞かされた事により、将来への不安や今後の未来のビジョンというものに霧が掛かり始めてしまったかのような感情に陥っていた。
「人は人、自分は自分・・・だろ?お前らはそれでいい。それを間違ってるなんて俺は言わねぇし、気にもしてねぇよ。だから止めるなよ・・・俺を憐れむな・・・」
そんな言葉を残し、カルロスは二人の元を去り、教会から出て行った。恐らく彼はこのまま宮殿へと向かい、警備隊と一悶着起こすつもりなのだろう。そして二人から聞いた大司教の事件をネタに、宮殿内に潜り込むことになるかもしれない。
カルロスに言い放たれた言葉に言葉を失ったジルとレオンは、暫くの間無言で教会の椅子に座る続けていた。
結局その日はジルもレオンも、音楽学校の方には顔を出さなかった。式典の勅語ということもあり、数日は学校の方も自由登校という形になっていた。成績が優秀な者ほど、こういった時に独自の練習や師匠と仰ぐ音楽家の元へ行ったりと自由に過ごすものだが、この時の二人はフェリクスやカタリナの事が気掛かりで、とても音楽には集中できなかった。
「俺・・・そろそろ帰るよ。カルロスの言ってた事、間違ってない・・・。俺にはあそこまでの行動力はなかった。恩人の身よりも、自分を選んだんだ・・・」
「私もそう・・・。わざわざ私の事を気に掛けてくれて、アドバイスまでもらったのに、それでも今の自分を変えるのが少し・・・怖い・・・」
「すぐにどうこうなる事はないだろう。今日のところは家に帰って休もうぜ。ついでにこの辛気臭さもどうにかしないとな・・・」
どれだけの時間を教会で過ごしたのだろうか。二人には僅かな時間のように感じたが、目に入る景色はそれなりに時間の経過を感じさせる。傷心した心に染みるような歌声と楽器の音を聞きながら、レオンが先に夕暮れの教会を去り、暫くしてジルも自宅へと向かった。
帰り際に宮殿の前を通ったレオンは、チラリと敷地内の方を覗き見るように視線を送る。カルロスが向かったはずだが、警備隊の様子は以前の様子と全く変わらず、騒ぎになっていた様子も見受けられない。
徹底して大司教の件を隠そうとしていたのだ。一人の人間が抗議にやってきたところで、何事もなかったかのように済ませることなど造作もないのだろう。
結局、我が身可愛さに行動できなかった者達には、結果を待つしかないのだ。
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