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神代 コウ

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容疑者二名の行方

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 案の定、酔い潰れたマティアス司祭にツクヨが肩をかしながら、何とか一行が泊まる指定された部屋までやって来る。昨夜に泊まった部屋より少し広くなっており、ベッドの数も多く設けてある。

 しかしよく見ると、急遽用意した仮設の物のようだ。大きさや幅についてはそれほど変わらなそうだったが、寝心地には差があるようだ。

 泥酔しているマティアスを簡易ベッドに寝かせると、一行はリビングに集まり就寝前に本日の成果をまとめる。

 「なぁ~?俺、シャワー浴びてきていいかぁ?」

 「えぇ、構いませんよ。話は私達でまとめておきますので、ツバキさんとアカリさんは先に寝ていただいても大丈夫です」

 ケヴィンの許しを得たツバキは、早速言葉に甘えて部屋に設けられたシャワー室へと向かっていった。アカリは一緒に話を聞くと言い、少しムキになった様子で彼らの会話に混ざった。

 「先ずは皆さん、連れ出してしまって申し訳ありません。一日中会話ばかりで疲れたでしょう?」

 「アルバに来てからゆっくりできて、アタシは満喫してるがな」

 「やっぱり皆で一緒にいる時が一番安心できるね。まだ犯人の目星もついてなさそうだし、宮殿内に犯人がいるのかと思うと部屋から出たくないね・・・。これ以上疑われるのも気分的に滅入るし。アカリは大丈夫?」

 「はい。私もツクヨさんの言うように皆さんと一緒なら安心できます」

 宮殿内を出歩き、様々な話を聞く中で自分達が他の者達から如何に疑われているのかや、疑心暗鬼になり乱れるグループを目の当たりにすると、まだ混乱は序章を迎えたばかりといった印象を受ける。

 これからどんな展開が待っているのかは想像がつかない。犯人が宮殿内にいるのかも、既に外へ逃げ出しているのかも分からない。

 一日の成果として、今回話をすることが叶わなかった“リヒトル・ワーグナー“や、本人は事情聴取でお目に掛かれなかったが、廊下ですれ違った際に敵意を剥き出しにしてきた“ブルース・ワルター“の護衛達と、教団の騎士隊長であるオイゲン達。

 アンドレイらの話を聞く限り、彼らもリヒトルやブルースらとは話をしていないようだった。この流れだと、明日の予定は主にこの二つのグループとの会話が中心となるだろう。

 そんな折、ケヴィンは酔ったマティアスが口にしていた事について話し始めた。

 「マティアス氏が口にしていたのですが、アルバの音楽監督を降板になったというフェリクス氏と、新たな音楽監督になるというアルミン氏の行方について、どなたか話を聞いた人はいますか?」

 ケヴィンの言葉に顔を見合わせる一行。その様子からも誰も彼らの行方についての情報は持っていないようだった。何なら今ケヴィンに言われて漸く思い出した者達すらいるくらいだった。

 だが、フェリクスに関してはジークベルトを殺害する動機が誰よりもありそうなものだろう。折角マティアス司祭の計らいにより、名誉あるアルバの音楽監督ことカントルに就任していた彼は、突然やって来たジークベルトにより降板を言い渡されたからだ。

 教会での合唱の指導の様子から、彼が音楽に対し真剣であり厳格な態度を持って学生らと接していた様子が窺える。中にはそれを辛く思う生徒達もいたようだが、フェリクスの指導の元、音楽家としての道を歩み始めた者も多くいるのだとか。

 まだ公には公開されていないようだが、カントルとしての面子を潰されたとなれば、ジークベルトに恨みを抱いても不思議ではない。

 そして殺害されたジークベルトが教団を通して連れてきたという、新たなアルバのカントル候補である“アルミン・ニキシュ“という音楽家の行方についても、宮殿内にいる者達からの話では話題に上がることはなかった。

 恐らく最後に目撃されたのは、宮殿で行われていたパーティーでVIPルームをカメラで覗いていた際にシンとケヴィン、そしてミアが目撃したであろう挨拶回りをする姿が最後になる筈。

 だが、アルミンに関してはジークベルトを殺害する動機は無いように思える。それどころか、自分をアルバのカントルに推薦する重要な人物であるジークベルトには生きていてもらわなければ、カントル就任への動きも危うくなってしまう。

 そんな彼らの動きが分からないのも不可思議ではある。一体宮殿の外はどうなっているのだろうか。



 時は少しだけ遡り、宮殿でのパーティーが終わり、関係者や参加者らが帰宅し終えた夜。事前に式典と来客をもてなすパーティーが開かれることが公開されていた為、その日一日だけは様々な音楽に溢れているアルバの街並みも、静かな夜を迎えていた。

 それも太陽が登り始める早朝になると、徐々に民家や学校、教会からなど様々なところから楽器の音が聞こえ始め、いつものアルバの姿へと戻っていった。

 ジークベルトの遺体が発見されたという情報が、まだ宮殿内に留まっていた頃。フェリクスの家を訪れる人物の影があった。戸を叩き、若い男性の声が民家の前で聞こえてくる。

 「先生、レオンハルトです。昨日の件で伺いました」

 彼はクリスと同じ、アルバの音楽学校に通う生徒で優秀な成績を収めていると言うレオンだった。宮殿で行われたパーティーの中でツバキと仲を深めた彼だったが、式典での演奏の評価をフェリクスに伺おうとしたところ、その時は大事な用事があると断られていた。

 その後、彼らの間で話し合いがあったのか、レオンは翌日の早朝にフェリクス宅を訪れる約束をしたようで、彼の自宅へとやってきたところだった。

 「あぁ、すまない。そうだったな、今行くから少しだけ待っててくれ」

 「分かりました」

 レオンの声で二階の窓を開けたフェリクスが、眠そうな様子でレオンの言葉に返事を返していた。顔を洗い着替えを済ませたフェリクスは、間も無くして扉を開けるとレオンを自宅へと招いた。

 「眠そうですね・・・時間を改めましょうか?」

 「いや・・・それには及ばないよ。準備をしてくるから座って待っててくれ」

 そういって自室の方へと消えていったフェリクスの姿を目で追うレオン。彼が見えなくなると、近くにあったソファーに座り、リビングの様子を眺める。そこには昨夜飲んだ物と思われる酒の瓶が数本転がっていた。

 どうやら寝不足ではなく二日酔いのようだ。普段のフェリクスからは想像もつかない姿に、レオンは少し驚きながらも彼の帰りを待っていた。
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