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偏見と扱い
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研究所を稼働させていたのは、生物実験によって生まれた者達だったが、その後ろにいるのはWoFの世界で最も進んだ技術力を持つと言われているアークシティの研究者達。アンドレイらはそれを知っているのだろうか。
「アンドレイ・・・さん達はその、アークシティの事については?」
リナムルの研究所跡を調べようとしているアンドレイら一行に、シンはその研究所を運営しているアークシティの事について尋ねてみる。もし知らずにこの一件に足を踏み込もうとしているのなら、一度止めておいた方がいいだろう。
「アークシティですか?えぇ、勿論知っていますとも。世界でも屈指の技術力を誇る最先端の都市。近年ではその技術を他国へと売りながら国家にも匹敵する軍事力を手に入れているなどという噂も耳にします」
「国家にも匹敵する?」
「彼らの有している技術力は、何も生活を豊かにする為のものばかりではないという事です。無論、多くの人々にとって有益な薬の開発や魔力を動力とする機械などもありますが、その反面さまざま兵器の開発や先程の話にもあった生物の実験など、黒い噂も絶えません」
どうやらアンドレイらも、アークシティが人智を超えた研究や実験をおこなっている事に関しては把握しているらしい。それなら単なる音楽家に過ぎない彼らが、何故そのような調査に乗り出そうとしているのか尚更分からなくなる。
国王でもない彼らが強大な組織のことを調べれば、本人達だけでなくその関係者や世話になっている国にも迷惑をかける事になり兼ねない。
「リナムルの研究所の一件には、アークシティも絡んでいるようです。部外者が口を挟むことではないのかも知れませんが、あまり深入りはしない方が・・・」
「心配してくださるのですね。私達にもそれは重々承知しております。勿論、アークシティがバックについているとして、彼らに目をつけられるような事はしないつもりでいます。ですが・・・」
アンドレイは言葉を紡ぐと、護衛の者達の方へ視線を向ける。すると彼らは俯いた様子で、力を込めた拳を握っていたのだ。
「見ての通り、私を含め彼らも異国や異種族の者ばかり・・・。不当な対応や差別、良からぬ実験の為に同族が犠牲になるといった事を目の当たりにしてきた身です。このまま何も知らずに生きていくなど、その血が許さないのです・・・」
アンドレイが音楽家として身を投じ始めたのも、その世界でなら種族や人種といった差別を受けず、才能や技術力で見てもらえるからだったのだと語る。当時ほど差別は酷くないが、今でも人々から嫌煙される種族や人種というものは存在するらしい。
だが、芸術や武術、世界において有力な実力や知識、才能を携えてさえいればそういった目や対応は薄れていったと言う。逆風の中、有名な音楽家として才能を開花させたアンドレイは、同じ苦しみを受けてきた者達を好んで、自らの護衛や側近にしてきた。
それ故、音楽の世界でも取り分け彼は変わり者として扱われたらしい。それらを感じさせないほどの彼の音楽が、多くの生き物達が向ける偏見を跳ね除けているのだ。
「ですが、忠告はしっかりと受け取りました。私達も今の立場を失うわけにはいきません。調査といっても深入りはしないでおきますとも。あなた達のように、初めて私達と接して奇妙な目を向けられなかったのは久方ぶりです。今宵は気分がいい。このような場で不謹慎ではありますが、夕食くらいは楽しく過ごしましょう」
暗い話で落ち込んでしまった空気を察したのか、アンドレイはシン達一行を誘い、一緒に食事を取ろうと提案してくれた。まだ彼らがジークベルト殺害の犯人ではないと決まったわけではないが、少なくとも友好関係でいることにマイナス要素はないだろうと、彼らの提案を喜んで受ける事にした。
晩餐の間、互いの身の上話をしたり、これまでの旅の話をしたりと関係を深めていた一行。そんな中でもケヴィンは、事件について色々と話を伺うなど、どんな時も抜け目のないところを見せた。
美味しそうに料理を食べる彼らを見て、宮殿のシェフも毒を盛られるかもしれないと誘いを断った者達のことを忘れ、余った食材で思う存分料理人としての腕を振るった。
僅かな間ではあったが、楽しい時間を過ごしたシン達は後片付けを手伝っている中で、ケヴィンからとある話を持ちかけられる。どうやらアンドレイらとの会話の中で、重要参考人として厳重な警備をつけられ一室に囚われているというルーカス司祭の話が聞けたのだと語る。
彼は事情聴取の中で、嘗てのジークベルトとの関係性を正直に話したらしい。その事からも、ルーカス司祭にはジークベルト大司教殺害の動機はあると判断されてしまい、今は彼に関する証拠やアリバイなどの調査が行われている最中らしい。
しかし依然として、動機こそ他の誰よりもあるものの、彼に繋がる証拠は見つかっておらず、徐々にアリバイの方が集まり始めているという状況らしい。
解放はないだろうが、監禁状態が解除されるのも時間の問題かもしれない。
もう一人の重要参考人として、同じく監禁状態にあるのがマティアス司祭が面倒を見ていた音楽学校の生徒であるクリスだった。こちらはルーカス司祭よりかは状況は悪くないようで、動機もなければ彼のことを宮殿内で目撃している者達も多く、次々にアリバイが明るみに出てきているのだそうだ。
クリスに関しては、明日にも監禁状態は解除され、シン達と同じようにどこかのグループに混ぜられ、同じく監視対象になるようだ。それを聞いて、自らの責任だと酷く落ち込んでいたマティアスは心から安堵し、普段飲まない酒を浴びるように飲んでいた。
「アンドレイ・・・さん達はその、アークシティの事については?」
リナムルの研究所跡を調べようとしているアンドレイら一行に、シンはその研究所を運営しているアークシティの事について尋ねてみる。もし知らずにこの一件に足を踏み込もうとしているのなら、一度止めておいた方がいいだろう。
「アークシティですか?えぇ、勿論知っていますとも。世界でも屈指の技術力を誇る最先端の都市。近年ではその技術を他国へと売りながら国家にも匹敵する軍事力を手に入れているなどという噂も耳にします」
「国家にも匹敵する?」
「彼らの有している技術力は、何も生活を豊かにする為のものばかりではないという事です。無論、多くの人々にとって有益な薬の開発や魔力を動力とする機械などもありますが、その反面さまざま兵器の開発や先程の話にもあった生物の実験など、黒い噂も絶えません」
どうやらアンドレイらも、アークシティが人智を超えた研究や実験をおこなっている事に関しては把握しているらしい。それなら単なる音楽家に過ぎない彼らが、何故そのような調査に乗り出そうとしているのか尚更分からなくなる。
国王でもない彼らが強大な組織のことを調べれば、本人達だけでなくその関係者や世話になっている国にも迷惑をかける事になり兼ねない。
「リナムルの研究所の一件には、アークシティも絡んでいるようです。部外者が口を挟むことではないのかも知れませんが、あまり深入りはしない方が・・・」
「心配してくださるのですね。私達にもそれは重々承知しております。勿論、アークシティがバックについているとして、彼らに目をつけられるような事はしないつもりでいます。ですが・・・」
アンドレイは言葉を紡ぐと、護衛の者達の方へ視線を向ける。すると彼らは俯いた様子で、力を込めた拳を握っていたのだ。
「見ての通り、私を含め彼らも異国や異種族の者ばかり・・・。不当な対応や差別、良からぬ実験の為に同族が犠牲になるといった事を目の当たりにしてきた身です。このまま何も知らずに生きていくなど、その血が許さないのです・・・」
アンドレイが音楽家として身を投じ始めたのも、その世界でなら種族や人種といった差別を受けず、才能や技術力で見てもらえるからだったのだと語る。当時ほど差別は酷くないが、今でも人々から嫌煙される種族や人種というものは存在するらしい。
だが、芸術や武術、世界において有力な実力や知識、才能を携えてさえいればそういった目や対応は薄れていったと言う。逆風の中、有名な音楽家として才能を開花させたアンドレイは、同じ苦しみを受けてきた者達を好んで、自らの護衛や側近にしてきた。
それ故、音楽の世界でも取り分け彼は変わり者として扱われたらしい。それらを感じさせないほどの彼の音楽が、多くの生き物達が向ける偏見を跳ね除けているのだ。
「ですが、忠告はしっかりと受け取りました。私達も今の立場を失うわけにはいきません。調査といっても深入りはしないでおきますとも。あなた達のように、初めて私達と接して奇妙な目を向けられなかったのは久方ぶりです。今宵は気分がいい。このような場で不謹慎ではありますが、夕食くらいは楽しく過ごしましょう」
暗い話で落ち込んでしまった空気を察したのか、アンドレイはシン達一行を誘い、一緒に食事を取ろうと提案してくれた。まだ彼らがジークベルト殺害の犯人ではないと決まったわけではないが、少なくとも友好関係でいることにマイナス要素はないだろうと、彼らの提案を喜んで受ける事にした。
晩餐の間、互いの身の上話をしたり、これまでの旅の話をしたりと関係を深めていた一行。そんな中でもケヴィンは、事件について色々と話を伺うなど、どんな時も抜け目のないところを見せた。
美味しそうに料理を食べる彼らを見て、宮殿のシェフも毒を盛られるかもしれないと誘いを断った者達のことを忘れ、余った食材で思う存分料理人としての腕を振るった。
僅かな間ではあったが、楽しい時間を過ごしたシン達は後片付けを手伝っている中で、ケヴィンからとある話を持ちかけられる。どうやらアンドレイらとの会話の中で、重要参考人として厳重な警備をつけられ一室に囚われているというルーカス司祭の話が聞けたのだと語る。
彼は事情聴取の中で、嘗てのジークベルトとの関係性を正直に話したらしい。その事からも、ルーカス司祭にはジークベルト大司教殺害の動機はあると判断されてしまい、今は彼に関する証拠やアリバイなどの調査が行われている最中らしい。
しかし依然として、動機こそ他の誰よりもあるものの、彼に繋がる証拠は見つかっておらず、徐々にアリバイの方が集まり始めているという状況らしい。
解放はないだろうが、監禁状態が解除されるのも時間の問題かもしれない。
もう一人の重要参考人として、同じく監禁状態にあるのがマティアス司祭が面倒を見ていた音楽学校の生徒であるクリスだった。こちらはルーカス司祭よりかは状況は悪くないようで、動機もなければ彼のことを宮殿内で目撃している者達も多く、次々にアリバイが明るみに出てきているのだそうだ。
クリスに関しては、明日にも監禁状態は解除され、シン達と同じようにどこかのグループに混ぜられ、同じく監視対象になるようだ。それを聞いて、自らの責任だと酷く落ち込んでいたマティアスは心から安堵し、普段飲まない酒を浴びるように飲んでいた。
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