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訪れた本当の理由
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ミアの質問に対し、教団の護衛の男はかつて教団内でも何度か裏切りや内部抗争が行われた事について話し始めた。政治的にも大きな力と影響力を持ち始めた教団組織。
それをよく思わない者も、世の中にはたくさんいたのだという。抗争に巻き込まれ家族を失ったものや、狂うようにのめり込んだ事により歯止めの効かぬ狂信者となってしまった者など、教団が意図せず発生してしまう事例も何度かあった。
だが、その裏ではそういったもの達を利用し成り上がろうとする者や、対抗勢力をへの圧力に利用するものなどがいた。そういった者達のうちの一人が、今回アルバで殺害された大司教のジークベルトだったという訳だ。
無論、教団側もそのような事態を容認しているはずもなく、内部に不審な動きがあればそれを制圧する為に動いていた。それでもジークベルトのように、上層部の目を掻い潜り活動していた者達もいたようだが。
「今だから言える事だが、ジークベルト大司教をあまりよく思わない声も、教団内にはあったんだ・・・」
「それを知っていながら、何故教団の上層部は動かなかったんだ?」
「動けなかったんだよ。何事にも悪事を証明する証拠や、覆しようのない証言の数が必要だった。でもジークベルト大司教は、そういった噂こそあれど、証拠を残すような人物ではなかった、という訳さ」
初めてルーカス司祭から話を聞いた時も、彼もジークベルトの情報を集めるのに苦戦しているようだった。証拠こそはないが、そんな大司教の裏の顔を自身の目と耳で調べ上げ、真実へ辿り着こうとしていたのかもしれない。
昔のよしみだからこそ、彼の暴走を止めたかった。自分にしかできない事だと、ある意味の使命感のようなものに駆られていたのかもしれない。だからと言って、彼が過ちを犯すような人物にはミア達は思わなかった。
「そいつぁ、深い恨みを買っていたとしてもおかしくないな・・・」
「あぁ、全くね・・・」
すると、彼らの会話を聞いていたのか。壁に寄り掛かりながら目を閉じていた、教団の護衛とは違う格好の護衛らしき男が割って入ってきた。
「へぇ~、それじゃぁ余所者の俺達なんかよりも、よっぽどアンタ達の方が怪しいじゃないか」
「・・・起きてたのか」
挑発的な言葉に対し、教団の護衛の男は全く乗せらられる事なく、やれやれといった様子で今まで職務放棄をし眠っていた男に言葉を返した。
「・・・なんだコイツは。急に話に入ってきて」
「そんな声量で話されたら、寝てたって起こされちゃうよ。僕も護衛だよ。だけど彼とは違って、ベルヘルム卿の護衛だけどね」
ベルヘルムの部屋の前にいた護衛の二人は、それぞれ所属の違う者達だった。これも不審な動きや取引を監視する為の配慮なのだそうだ。ベルヘルムの護衛と口にした青年の男は、自らを“ドミニク“と名乗った。
彼の名乗りをきっかけに、その場にいた者達も自らの名前を名乗り合った。これまでミア達と話をしていた教団の護衛の男の名は、“プラチド“と言うらしい。教団に入ってからはそれなりに長いようで、先程の話にもあった教団内での抗争にも参加していたようだ。
「僕達を洗う前に、まずはアンタら教団の人らを洗った方がいいんじゃないの?ねぇ?貴方達もそう思うだろ?」
「教団の内部事情については、アタシら詳しく知らない。宮殿に残されているのなら、疑われる立場は同じだろ」
ベルヘルムの護衛であるドミニクの発言も、決して間違ってはいない。事件後、宮殿内の今の動きを仕切っているのは教団の護衛達だった。護衛対象でもあったジークベルトが亡くなった事から、単純に考えれば彼らが殺害した可能性は低いとも取れる。
しかし、だからと言って確実に彼らがやってないとは言い切れないのも事実。そんな容疑のある彼らが仕切っている事に対し、不満を持っている者も少なくない。
「ふぅ~ん・・・どっちの肩も持たないって事?中立の立場でいいかもしれないけど、どっちつかずはそれはそれで損する事になるかもよぉ?」
「損得勘定で動いてないだけだ。アンタも、アタシらを疑いたければ好きにすればいい」
「強気だね。でもそういうの、嫌いじゃないよ」
ミアの強気な態度を気に入ったドミニクは、寄り掛かっていた壁から離れ彼女の元へと近づいていく。それを阻むように、教団の護衛であるプラチドとツクヨが双璧となって立ち塞がる。
「その辺にしておけ。ベルヘルムに報告するぞ?」
「おっと・・・それはちょっと御免だな。悪かったよ刺激して。こういう性格なんだ、許して欲しい」
主人であるベルヘルムへ報告すると言われた途端、態度を改めたドミニク。その態度や口調からも、ベルヘルムの彼には手を焼いている事が窺える。以前にも問題を起こしたのだろうか、挑発的な性格にしては引きが早かったなとミア達は関心し、揉め事にならなかった事に一安心した。
「お詫びと言っちゃ何だけど、僕も何か質問があれば答えるよ?そんなつもりはなかったにしろ、結果として盗み聞きしちゃった訳だし。あぁでも、答えられる範囲でだけね?余計なこと言うと、今度こそクビになっちゃうかも?」
「それなら、アンタの主人であるベルヘルムがアルバへやって来た目的について聞かせてもらおうか?」
「目的だって?」
「招待されたってのは無しだ。アタシらの前にアンドレイ達もここへ来たんだろ?なんで他の連中よりも疑われてるのか気になってな」
ミアは上手くケヴィンから聞いた話を隠しながら、ベルヘルムにかけられている疑いの理由について探りを入れる。
「まぁ、アンタの言うように招待されたからってだけじゃないのは確かだよ。語れる範囲で語るけど、ベルヘルム卿がアルバに来た目的は・・・」
時を同じくして、場面はベルヘルムと対峙するシン達の元へと戻ってくる。彼らもそこで、ベルヘルム本人の口からアルバへやって来た本当の理由について聞かされていた。
それをよく思わない者も、世の中にはたくさんいたのだという。抗争に巻き込まれ家族を失ったものや、狂うようにのめり込んだ事により歯止めの効かぬ狂信者となってしまった者など、教団が意図せず発生してしまう事例も何度かあった。
だが、その裏ではそういったもの達を利用し成り上がろうとする者や、対抗勢力をへの圧力に利用するものなどがいた。そういった者達のうちの一人が、今回アルバで殺害された大司教のジークベルトだったという訳だ。
無論、教団側もそのような事態を容認しているはずもなく、内部に不審な動きがあればそれを制圧する為に動いていた。それでもジークベルトのように、上層部の目を掻い潜り活動していた者達もいたようだが。
「今だから言える事だが、ジークベルト大司教をあまりよく思わない声も、教団内にはあったんだ・・・」
「それを知っていながら、何故教団の上層部は動かなかったんだ?」
「動けなかったんだよ。何事にも悪事を証明する証拠や、覆しようのない証言の数が必要だった。でもジークベルト大司教は、そういった噂こそあれど、証拠を残すような人物ではなかった、という訳さ」
初めてルーカス司祭から話を聞いた時も、彼もジークベルトの情報を集めるのに苦戦しているようだった。証拠こそはないが、そんな大司教の裏の顔を自身の目と耳で調べ上げ、真実へ辿り着こうとしていたのかもしれない。
昔のよしみだからこそ、彼の暴走を止めたかった。自分にしかできない事だと、ある意味の使命感のようなものに駆られていたのかもしれない。だからと言って、彼が過ちを犯すような人物にはミア達は思わなかった。
「そいつぁ、深い恨みを買っていたとしてもおかしくないな・・・」
「あぁ、全くね・・・」
すると、彼らの会話を聞いていたのか。壁に寄り掛かりながら目を閉じていた、教団の護衛とは違う格好の護衛らしき男が割って入ってきた。
「へぇ~、それじゃぁ余所者の俺達なんかよりも、よっぽどアンタ達の方が怪しいじゃないか」
「・・・起きてたのか」
挑発的な言葉に対し、教団の護衛の男は全く乗せらられる事なく、やれやれといった様子で今まで職務放棄をし眠っていた男に言葉を返した。
「・・・なんだコイツは。急に話に入ってきて」
「そんな声量で話されたら、寝てたって起こされちゃうよ。僕も護衛だよ。だけど彼とは違って、ベルヘルム卿の護衛だけどね」
ベルヘルムの部屋の前にいた護衛の二人は、それぞれ所属の違う者達だった。これも不審な動きや取引を監視する為の配慮なのだそうだ。ベルヘルムの護衛と口にした青年の男は、自らを“ドミニク“と名乗った。
彼の名乗りをきっかけに、その場にいた者達も自らの名前を名乗り合った。これまでミア達と話をしていた教団の護衛の男の名は、“プラチド“と言うらしい。教団に入ってからはそれなりに長いようで、先程の話にもあった教団内での抗争にも参加していたようだ。
「僕達を洗う前に、まずはアンタら教団の人らを洗った方がいいんじゃないの?ねぇ?貴方達もそう思うだろ?」
「教団の内部事情については、アタシら詳しく知らない。宮殿に残されているのなら、疑われる立場は同じだろ」
ベルヘルムの護衛であるドミニクの発言も、決して間違ってはいない。事件後、宮殿内の今の動きを仕切っているのは教団の護衛達だった。護衛対象でもあったジークベルトが亡くなった事から、単純に考えれば彼らが殺害した可能性は低いとも取れる。
しかし、だからと言って確実に彼らがやってないとは言い切れないのも事実。そんな容疑のある彼らが仕切っている事に対し、不満を持っている者も少なくない。
「ふぅ~ん・・・どっちの肩も持たないって事?中立の立場でいいかもしれないけど、どっちつかずはそれはそれで損する事になるかもよぉ?」
「損得勘定で動いてないだけだ。アンタも、アタシらを疑いたければ好きにすればいい」
「強気だね。でもそういうの、嫌いじゃないよ」
ミアの強気な態度を気に入ったドミニクは、寄り掛かっていた壁から離れ彼女の元へと近づいていく。それを阻むように、教団の護衛であるプラチドとツクヨが双璧となって立ち塞がる。
「その辺にしておけ。ベルヘルムに報告するぞ?」
「おっと・・・それはちょっと御免だな。悪かったよ刺激して。こういう性格なんだ、許して欲しい」
主人であるベルヘルムへ報告すると言われた途端、態度を改めたドミニク。その態度や口調からも、ベルヘルムの彼には手を焼いている事が窺える。以前にも問題を起こしたのだろうか、挑発的な性格にしては引きが早かったなとミア達は関心し、揉め事にならなかった事に一安心した。
「お詫びと言っちゃ何だけど、僕も何か質問があれば答えるよ?そんなつもりはなかったにしろ、結果として盗み聞きしちゃった訳だし。あぁでも、答えられる範囲でだけね?余計なこと言うと、今度こそクビになっちゃうかも?」
「それなら、アンタの主人であるベルヘルムがアルバへやって来た目的について聞かせてもらおうか?」
「目的だって?」
「招待されたってのは無しだ。アタシらの前にアンドレイ達もここへ来たんだろ?なんで他の連中よりも疑われてるのか気になってな」
ミアは上手くケヴィンから聞いた話を隠しながら、ベルヘルムにかけられている疑いの理由について探りを入れる。
「まぁ、アンタの言うように招待されたからってだけじゃないのは確かだよ。語れる範囲で語るけど、ベルヘルム卿がアルバに来た目的は・・・」
時を同じくして、場面はベルヘルムと対峙するシン達の元へと戻ってくる。彼らもそこで、ベルヘルム本人の口からアルバへやって来た本当の理由について聞かされていた。
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