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紅茶の証明
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思わず立ち尽くす一行を、護衛達に支持し席へと案内させるベルヘルム。
「立ち話で済むほど手短な話でもなかろう?何か飲みながらでも話そうじゃないか。何かお好みはあるかね?いろんなものを取り揃えているぞ?」
意外にも受け入れムードであることに言葉を失うシン。マティアスは先程のクリスとの話をしていた事もあり、随分と大人しくなってしまっている。これではとてもベルヘルムの話をちゃんと聞ける状態ではない。
頼りのケヴィンは変わりない様子で席につき、ベルヘルムとの会話を代表して請け負ってくれている。すると、狙ってのことかベルヘルムは突然核心に迫るような事を口走る。
「そうだ、紅茶なんてどうかね?丁度珍しい茶葉を頂いてね・・・。中々店でも扱っていない代物らしいんだよ」
「紅茶・・・」
「あぁ、あの“ジークベルト“氏から頂いた物なのだが・・・君達もどうかね?」
冗談のつもりで言っているのか。どうやらベルヘルムは、ジークベルトの死因と思われている紅茶と同じ茶葉を保有していたのだ。それをあろうことか、自分の部屋を訪れた客人に振る舞おうとしている。
彼の持つ茶葉にも、ジークベルトの遺体から検出されたものと同じ毒素が含まれているのかは分からないが、安易にベルヘルムの部屋を訪れた一行を驚かすには十分な挨拶となった。
「ジークベルト氏の茶葉をお持ちなのですか・・・」
反応を伺うように凝視してくるベルヘルムに負けじと、ケヴィンは何かうまい返しはないかと思考するが、如何に彼であっても考えもしなかった先制攻撃に思わず怯んでしまっているといった様子だった。
緊迫する状況の中、先に口を開いたのは先に仕掛けてきたベルヘルムの方だった。
「その様子だと、既に彼の死因について調べにいったようだな」
「えぇ・・・ジークベルト氏の遺体からは、僅かながらですが毒素となるものが検出されました。人体には影響のない量だったようですが、それは彼が口にしていたと思われる紅茶から出てきました・・・つまり・・・」
言葉を止めると同時に、ベルヘルムとケヴィンの視線がぶつかり合う。静かな腹の探り合いが繰り広げられる中、護衛の者が飲み物を持って一行のテーブルへとやってくる。
如何にも高価な食器からは湯気が立ち上り、甘い刺激的な香気が漂ってくる。初めにベルヘルムの前に置かれたカップに、一行の視線が集まる。中には明るい真紅色をした紅茶が注がれており、ケヴィンの前に置かれたカップにも同じものが注がれていた。
近くで嗅ぐとよりはっきりとした甘い香りを実感できる。事前にジークベルトの死因となったと思われていた紅茶について調べていたせいか、目の前の甘い香りを放つ美味しそうな紅茶が、まるで黄泉の国へと誘っているかのように、一行の意識を持っていった。
思わず固唾を飲む一行に対し、そんな彼らを尻目に真っ先にカップへと手を伸ばしたのはベルヘルムだった。静止画のように動きの止まった空間で、唯一動きを見せる彼の手に自然と視線が引っ張られる。
そして彼は躊躇うことなくカップを顔の前へと運んでいくと、香りを堪能した後にその芳しくも怪しい紅茶を口にした。
「あっ・・・!」
まるでジークベルトの死に際が再現されるのかのように、一行の脳裏にベルヘルムが倒れる映像が流れる。思わずその行為を止めようと言葉が漏れるシンに対し、紅茶は静かにベルヘルムの喉を通る。
確実に紅茶を口にしたベルヘルムは、何事もなかったかのように顔を下ろし、カップをテーブルの上に静かに下ろした。彼の様子からは異変は伺えない。ただ美味しい紅茶を口にしただけ。それが一行の前に現れた光景だった。
「その通り・・・。紅茶から毒素こそ検出されようと、到底死に至ることはない。今君達の目にしているものこそ、その証明だ」
「・・・・・」
椅子から腰の浮いたシンの身体が、力が抜けたように再び椅子の上に落下する。頬を流れる冷や汗の感覚が遅れて彼らの身体を伝う。
「ジークベルト氏の持ち込んだ紅茶の茶葉には、人を毒殺するような成分量は含まれていない。それこそ吐くほど飲んだとしても、この紅茶によって死に至ることはあり得ない」
「なっなるほど、ですが驚きました。まさか貴方がこのようなパフォーマンスをご披露なさるような方だったとは思いませんでした」
漸くいつもの調子に戻ったのか、ケヴィンの言葉にも普段通りの活気が戻ってくる。
「君達も疑っていたのだろう?ジークベルト氏が毒殺されたかもしれないと。それで現場検証からでた毒素の反応から、紅茶が淹れられたであろう厨房へ行き、紅茶を淹れた人物が怪しいのではと至った」
「えぇ・・・」
「だが、どうやら紅茶から検出された毒素が原因ではない事が分かり、捜査が難航していた。私はね、そこから君達が何故私の元へとやって来たのかに興味があるんだ」
今度は逆に不思議そうな表情を浮かべながらベルヘルムが顎に手を添えると。すると、その質問の答えを聞き出そうと鋭い視線をケヴィンへと向けた。ケヴィンがベルヘルムを疑ったのは、仕掛けたカメラの映像と音声による記録からだった。
だがそのようなものを、ベルヘルムを疑った要因として提出するにはまだ事件の真相が明らかになっていない。現状でそのような如何わしい物が宮殿内に仕掛けられてたと知られれば、一気にケヴィンらへの疑いの目が向けられることになるだろう。
「立ち話で済むほど手短な話でもなかろう?何か飲みながらでも話そうじゃないか。何かお好みはあるかね?いろんなものを取り揃えているぞ?」
意外にも受け入れムードであることに言葉を失うシン。マティアスは先程のクリスとの話をしていた事もあり、随分と大人しくなってしまっている。これではとてもベルヘルムの話をちゃんと聞ける状態ではない。
頼りのケヴィンは変わりない様子で席につき、ベルヘルムとの会話を代表して請け負ってくれている。すると、狙ってのことかベルヘルムは突然核心に迫るような事を口走る。
「そうだ、紅茶なんてどうかね?丁度珍しい茶葉を頂いてね・・・。中々店でも扱っていない代物らしいんだよ」
「紅茶・・・」
「あぁ、あの“ジークベルト“氏から頂いた物なのだが・・・君達もどうかね?」
冗談のつもりで言っているのか。どうやらベルヘルムは、ジークベルトの死因と思われている紅茶と同じ茶葉を保有していたのだ。それをあろうことか、自分の部屋を訪れた客人に振る舞おうとしている。
彼の持つ茶葉にも、ジークベルトの遺体から検出されたものと同じ毒素が含まれているのかは分からないが、安易にベルヘルムの部屋を訪れた一行を驚かすには十分な挨拶となった。
「ジークベルト氏の茶葉をお持ちなのですか・・・」
反応を伺うように凝視してくるベルヘルムに負けじと、ケヴィンは何かうまい返しはないかと思考するが、如何に彼であっても考えもしなかった先制攻撃に思わず怯んでしまっているといった様子だった。
緊迫する状況の中、先に口を開いたのは先に仕掛けてきたベルヘルムの方だった。
「その様子だと、既に彼の死因について調べにいったようだな」
「えぇ・・・ジークベルト氏の遺体からは、僅かながらですが毒素となるものが検出されました。人体には影響のない量だったようですが、それは彼が口にしていたと思われる紅茶から出てきました・・・つまり・・・」
言葉を止めると同時に、ベルヘルムとケヴィンの視線がぶつかり合う。静かな腹の探り合いが繰り広げられる中、護衛の者が飲み物を持って一行のテーブルへとやってくる。
如何にも高価な食器からは湯気が立ち上り、甘い刺激的な香気が漂ってくる。初めにベルヘルムの前に置かれたカップに、一行の視線が集まる。中には明るい真紅色をした紅茶が注がれており、ケヴィンの前に置かれたカップにも同じものが注がれていた。
近くで嗅ぐとよりはっきりとした甘い香りを実感できる。事前にジークベルトの死因となったと思われていた紅茶について調べていたせいか、目の前の甘い香りを放つ美味しそうな紅茶が、まるで黄泉の国へと誘っているかのように、一行の意識を持っていった。
思わず固唾を飲む一行に対し、そんな彼らを尻目に真っ先にカップへと手を伸ばしたのはベルヘルムだった。静止画のように動きの止まった空間で、唯一動きを見せる彼の手に自然と視線が引っ張られる。
そして彼は躊躇うことなくカップを顔の前へと運んでいくと、香りを堪能した後にその芳しくも怪しい紅茶を口にした。
「あっ・・・!」
まるでジークベルトの死に際が再現されるのかのように、一行の脳裏にベルヘルムが倒れる映像が流れる。思わずその行為を止めようと言葉が漏れるシンに対し、紅茶は静かにベルヘルムの喉を通る。
確実に紅茶を口にしたベルヘルムは、何事もなかったかのように顔を下ろし、カップをテーブルの上に静かに下ろした。彼の様子からは異変は伺えない。ただ美味しい紅茶を口にしただけ。それが一行の前に現れた光景だった。
「その通り・・・。紅茶から毒素こそ検出されようと、到底死に至ることはない。今君達の目にしているものこそ、その証明だ」
「・・・・・」
椅子から腰の浮いたシンの身体が、力が抜けたように再び椅子の上に落下する。頬を流れる冷や汗の感覚が遅れて彼らの身体を伝う。
「ジークベルト氏の持ち込んだ紅茶の茶葉には、人を毒殺するような成分量は含まれていない。それこそ吐くほど飲んだとしても、この紅茶によって死に至ることはあり得ない」
「なっなるほど、ですが驚きました。まさか貴方がこのようなパフォーマンスをご披露なさるような方だったとは思いませんでした」
漸くいつもの調子に戻ったのか、ケヴィンの言葉にも普段通りの活気が戻ってくる。
「君達も疑っていたのだろう?ジークベルト氏が毒殺されたかもしれないと。それで現場検証からでた毒素の反応から、紅茶が淹れられたであろう厨房へ行き、紅茶を淹れた人物が怪しいのではと至った」
「えぇ・・・」
「だが、どうやら紅茶から検出された毒素が原因ではない事が分かり、捜査が難航していた。私はね、そこから君達が何故私の元へとやって来たのかに興味があるんだ」
今度は逆に不思議そうな表情を浮かべながらベルヘルムが顎に手を添えると。すると、その質問の答えを聞き出そうと鋭い視線をケヴィンへと向けた。ケヴィンがベルヘルムを疑ったのは、仕掛けたカメラの映像と音声による記録からだった。
だがそのようなものを、ベルヘルムを疑った要因として提出するにはまだ事件の真相が明らかになっていない。現状でそのような如何わしい物が宮殿内に仕掛けられてたと知られれば、一気にケヴィンらへの疑いの目が向けられることになるだろう。
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