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毒以外の可能性
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厨房へ戻る途中、シンは取調室でやけにミアが静かだった事が気になっていた。いつもなら会話に入り込み、その都度気になることを本人らに尋ねるようなものなのだが。
「ミア、今回はやけに静かだったけど・・・。何も質問しなくてよかったのか?」
「いつも騒がしいみたいな言い方するなよなぁ?必要な質問はケヴィンが大体してただろ?こういうのはプロに任せて、話の腰を折らないようにした方がすんなり入ってくるんだよアタシは」
彼女なりに場の空気を読んでいたのだろうか。だが、いつもの調子に慣れていた仲間の一人としては、どうにも短い取り調べの時間だったように感じた。
「アンタ的にはどうだったんだ?何か有力な情報は得られたか?」
話にも上がったプロとやらに、取調室での会話で何か自分達にとって有益な情報になり得るものはあったのかを尋ねる。するとケヴィンは、意外にもそれなりに進展はあったと語った。
そして何よりもまず、アンジェロを実際に見て会話する中でケヴィンは彼を現状の容疑者の中では、かなり犯人の可能性は低いのではと考えているようだ。
だが、それはシンも何となく感じていた事だった。犯人にとってこのような状況になるのは目に見えて分かっていたのではないだろうか。死因が毒によるものだとするならば、紅茶を淹れたアンジェロが最も疑われるのは仕方のない事だろう。それを初めから狙っていた可能性がある。
実際に宮殿に監禁状態となっている者達も、事件の早期解決を望み、そのままアンジェロに罪を着せようとする動きすらあるようだ。犯行に全力を尽くし、自身が疑われる可能性を考慮していなかったなどというオチも考えづらい。そもそもアンジェロが犯人である決定的な証拠が見つかっていないのが、その裏付けとなっているからだ。
「あとは護衛隊の結託の線がなくなったのが大きいでしょうか。組織的にアルバへやって来た彼らならば、協力関係にあり多くの人間を使って複雑な反抗を行ったとも考えられましたが、そこは疑う必要はなかったようですね」
「口だけかもしれない・・・とは、思わないのか?」
何故ケヴィンがそこまで彼らの言葉を信じられるのか、シンは疑いの目を持つべきなのではないかと彼に尋ねる。勿論全く疑っていない訳ではないが、そこまで考えていては調査が進展しないのも事実。
それに大掛かりな計画による犯行なら、もっと犯行すら気づかせない程の、それこそ今アルバで同時進行で起きているとされている失踪事件のように、遺体すら残さず消し去る事くらいできそうなものだ。
「無論、疑っていない訳ではありませんよ?要するに後回しという奴です。彼らよりも疑わしきは他にいる。さっきまでの私なら、その矛先はアンジェロ氏に向いていた・・・」
「でも今は違うんだろ?」
「えぇ・・・。それに毒殺の疑いも私の中では疑わしくなってきました」
「どういう事だ?」
ジークベルトの遺体が発見された部屋からは、彼が飲んだであろう紅茶のカップが発見されており、そこから僅かながらだが毒素も検出されている。毒により死に至ったというのが皆の見解だったが、ケヴィンは取調室での会話で何か新しい手掛かりでも見つけたのだろうか。
「鑑識やアカリさんの調査の結果で、毒素こそは見つかりましたがとても死に至る量ではなかったというのが、恐らく科学の結論でしょう。これ以上毒の線で調べても、犯人の手がかりを追うことはできないのかもしれません・・・」
「だが他に疑うところなんかあったか?部屋は密室だし、スキルみたいな魔力の反応もなかったんだろ?大司教の荷物に毒が塗られてたか、運び込まれたものに何か仕掛けがあったかしかねぇんじゃねぇか?」
するとケヴィンは、要人達やシン達が泊まっている宮殿の部屋の構造について話し始めた。
「厳密には密室という訳ではないんだ。部屋には通気口があり、そこから空気が循環してる。勿論、そこも鑑識によって調査されたらしいけど、毒だったり怪しいものは検出されなかったようです」
「なら、そっちこそあり得ないんじゃないか?」
「以前シンさんに話した、アルバで起きている失踪事件のことは覚えていますか?」
突然話を振られたシンは、驚きながらも彼の質問に答えた。どうやらケヴィンは、その失踪事件と今回の事件に何らかの関係性があるのではないかと疑っているようだった。
「ミア、今回はやけに静かだったけど・・・。何も質問しなくてよかったのか?」
「いつも騒がしいみたいな言い方するなよなぁ?必要な質問はケヴィンが大体してただろ?こういうのはプロに任せて、話の腰を折らないようにした方がすんなり入ってくるんだよアタシは」
彼女なりに場の空気を読んでいたのだろうか。だが、いつもの調子に慣れていた仲間の一人としては、どうにも短い取り調べの時間だったように感じた。
「アンタ的にはどうだったんだ?何か有力な情報は得られたか?」
話にも上がったプロとやらに、取調室での会話で何か自分達にとって有益な情報になり得るものはあったのかを尋ねる。するとケヴィンは、意外にもそれなりに進展はあったと語った。
そして何よりもまず、アンジェロを実際に見て会話する中でケヴィンは彼を現状の容疑者の中では、かなり犯人の可能性は低いのではと考えているようだ。
だが、それはシンも何となく感じていた事だった。犯人にとってこのような状況になるのは目に見えて分かっていたのではないだろうか。死因が毒によるものだとするならば、紅茶を淹れたアンジェロが最も疑われるのは仕方のない事だろう。それを初めから狙っていた可能性がある。
実際に宮殿に監禁状態となっている者達も、事件の早期解決を望み、そのままアンジェロに罪を着せようとする動きすらあるようだ。犯行に全力を尽くし、自身が疑われる可能性を考慮していなかったなどというオチも考えづらい。そもそもアンジェロが犯人である決定的な証拠が見つかっていないのが、その裏付けとなっているからだ。
「あとは護衛隊の結託の線がなくなったのが大きいでしょうか。組織的にアルバへやって来た彼らならば、協力関係にあり多くの人間を使って複雑な反抗を行ったとも考えられましたが、そこは疑う必要はなかったようですね」
「口だけかもしれない・・・とは、思わないのか?」
何故ケヴィンがそこまで彼らの言葉を信じられるのか、シンは疑いの目を持つべきなのではないかと彼に尋ねる。勿論全く疑っていない訳ではないが、そこまで考えていては調査が進展しないのも事実。
それに大掛かりな計画による犯行なら、もっと犯行すら気づかせない程の、それこそ今アルバで同時進行で起きているとされている失踪事件のように、遺体すら残さず消し去る事くらいできそうなものだ。
「無論、疑っていない訳ではありませんよ?要するに後回しという奴です。彼らよりも疑わしきは他にいる。さっきまでの私なら、その矛先はアンジェロ氏に向いていた・・・」
「でも今は違うんだろ?」
「えぇ・・・。それに毒殺の疑いも私の中では疑わしくなってきました」
「どういう事だ?」
ジークベルトの遺体が発見された部屋からは、彼が飲んだであろう紅茶のカップが発見されており、そこから僅かながらだが毒素も検出されている。毒により死に至ったというのが皆の見解だったが、ケヴィンは取調室での会話で何か新しい手掛かりでも見つけたのだろうか。
「鑑識やアカリさんの調査の結果で、毒素こそは見つかりましたがとても死に至る量ではなかったというのが、恐らく科学の結論でしょう。これ以上毒の線で調べても、犯人の手がかりを追うことはできないのかもしれません・・・」
「だが他に疑うところなんかあったか?部屋は密室だし、スキルみたいな魔力の反応もなかったんだろ?大司教の荷物に毒が塗られてたか、運び込まれたものに何か仕掛けがあったかしかねぇんじゃねぇか?」
するとケヴィンは、要人達やシン達が泊まっている宮殿の部屋の構造について話し始めた。
「厳密には密室という訳ではないんだ。部屋には通気口があり、そこから空気が循環してる。勿論、そこも鑑識によって調査されたらしいけど、毒だったり怪しいものは検出されなかったようです」
「なら、そっちこそあり得ないんじゃないか?」
「以前シンさんに話した、アルバで起きている失踪事件のことは覚えていますか?」
突然話を振られたシンは、驚きながらも彼の質問に答えた。どうやらケヴィンは、その失踪事件と今回の事件に何らかの関係性があるのではないかと疑っているようだった。
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