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紅茶を淹れた料理人
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「何度言えば分かるんだぁ!?だから俺ぁやってねぇって!いい加減解放してくれよ」
「こちらも何度も言っているが、現場から見つかった痕跡や状況から、お前の淹れた紅茶による犯行と見るのが一番しっくり来るんだ。自分の無実を少しでも証明したいのなら、当時の記憶を絞れるだけ絞り出せ」
「んなこと言われたってなぁ・・・。そもそも紅茶は扉の前でアンタら護衛に調べられてんだろ?その時何も出なかったのが、何よりも俺が毒なんざ盛ってねぇ証拠じゃねぇか」
取り調べが行われる室内で、二人の男が机越しに話をしている。どうやら片方はオイゲンらジークベルトの護衛を務めていた護衛隊の者ならいしく、その話の相手は今回の事件の重要参考人であり、ジークベルトの部屋にあったカップから抽出された毒素から、現状最も犯人である可能性が高い、紅茶を淹れたという厨房のスタッフだったようだ。
「・・・そこが問題なんだよなぁ。どうやって毒が盛られたのか。あの時点では毒の反応も魔力の反応も出なかった」
「もう一つ言っておくが、俺ぁアンタらの前で大司教様に頼まれた紅茶を直接本人に渡してんだぜ?謂わば証人はアンタらだろ?」
「分かってるとも。だが、他の者達はお前を犯人として決めつけようとしている。皆さっさと解放されたいんだろうな」
「冗談じゃねぇ!俺にその為の犠牲にでもなれって事かよ!?」
男の言うように、最早宮殿内の者達の大半はこの進展のない状況と、外出の許されない監禁状態に、誰が殺したか、犯行の真相などを求める者などいなかった。一刻も早い事件の解決、そして宮殿からの解放を望んでいる。
真実などどうでもいい。疑わしき人物を祭り上げ、それで事件を解決してしまおうという者達が動き出している。
「このまま長引けば、そうなるだろうな」
「ふざけんなよッ・・・俺ぁ言われた通りにしただけだってのによぉ・・・!」
地理調室であらぬ疑いをかけられている人物。宮殿の料理人で副料理長を務めているという“アンジェロ・アルバー二“。
彼に掛けられた容疑は、ジークベルト大司教の毒殺。しかし、カップから毒素こそ検出されたが、とても人間が死に至る程の量ではなく、その毒というのもジークベルト本人が持ち込んだ彼が好んで持ち運んでいるという茶葉から検出されたもの。
紅茶を淹れる段階で毒が混入したのであれば、ジークベルトの部屋の前で待機していた護衛達の調査によって発見されているはず。魔力を帯びたスキルの使用を検知するだけでなく、護衛達は危険物の発見にも長けている。
彼らが見逃したという線は極めて薄い。そしてそれがアンジェロの無実を証明するようなものだ。だがそれでも彼が解放されてないということが、如何に宮殿内に囚われている者達の矛先が彼に向いているかを物語っている。
暫くすると取り調べ室にノック音が響く。室内で見張りをしていた人物が扉を開くと、そこにはシン達と厨房にいた筈のケヴィンがやって来ていた。
「失礼します。こちらで副料理長のアンジェロ氏が取り調べを受けていると聞いたのですが・・・」
「これはこれはケヴィン殿。えぇ、アンジェロなら今ここに」
ケヴィンが部屋の中を覗き込むように頭を出すと、室内にいる全員の視線が彼へと向けられる。全体的に見渡すと、一人だけ明らかに格好の違う人物が机の前に座っていた。
「ケヴィン?ケヴィンってあの探偵の?」
このままでは自分が犯人にされてしまうと思っていたアンジェロは、探偵の名を聞いて希望を見出す。警備隊や護衛の者達からは些か疎まれている様子のケヴィン。
その理由は、彼は事件の真相をどこまでも追い求めるからだった。シン達の暮らしていた現実世界でもこちらの世界でも、権力者や政府の意向によって真実が曲げられるという事は少なからず行われている。
都合の悪いことは隠蔽され、別の疑わしき人物に罪をなすりつけ解決へと導くということは、昔から行われている人間の悪い風習だった。いつの世も、そういった権力者や巨大な組織の力によって虐げられる者は存在する。
しかしケヴィンは、そういったものを気にすることなく真実だけを追い求める探偵。故に権力者や政府が絡む大きな事件では彼の介入を認めないところも多い。
今回の事件は、教団の大司教が何者かによって殺害されたという突発的な者であり、偶然居合わせたことからケヴィンを退けることも出来なかったようだ。それに加え、彼自身も参考人の内の一人である為、取り扱いに困っているようでもあった。
「良かったぜ!ケヴィンさんよぉ、俺の無実をコイツらに証明してくれよ」
「無実の証明になるかどうかはさておき、私も貴方の証言と当日の様子について伺いに来ました」
厨房で話を聞いたケヴィンは、引き続き植物の調査をするアカリとそれを見守る者達を残し、シンとミアを一緒に連れて来ていた。
「こちらの方々は?」
「宮殿内を歩き回るには、他の者達の監視の目が必要。彼らは文字通り私のお目付役ですよ。さぁ、話を伺ってもよろしいですか?」
「会話の内容は記録させて頂きます。よろしいですね?」
ケヴィンは見張りの男の言葉に頷くと、尋問をしていた護衛の男と入れ替わりアンジェロの前に座ると、事件当日の様子とジークベルトから受け取った茶葉についての話を、直接本人の口から聞いていく。
「こちらも何度も言っているが、現場から見つかった痕跡や状況から、お前の淹れた紅茶による犯行と見るのが一番しっくり来るんだ。自分の無実を少しでも証明したいのなら、当時の記憶を絞れるだけ絞り出せ」
「んなこと言われたってなぁ・・・。そもそも紅茶は扉の前でアンタら護衛に調べられてんだろ?その時何も出なかったのが、何よりも俺が毒なんざ盛ってねぇ証拠じゃねぇか」
取り調べが行われる室内で、二人の男が机越しに話をしている。どうやら片方はオイゲンらジークベルトの護衛を務めていた護衛隊の者ならいしく、その話の相手は今回の事件の重要参考人であり、ジークベルトの部屋にあったカップから抽出された毒素から、現状最も犯人である可能性が高い、紅茶を淹れたという厨房のスタッフだったようだ。
「・・・そこが問題なんだよなぁ。どうやって毒が盛られたのか。あの時点では毒の反応も魔力の反応も出なかった」
「もう一つ言っておくが、俺ぁアンタらの前で大司教様に頼まれた紅茶を直接本人に渡してんだぜ?謂わば証人はアンタらだろ?」
「分かってるとも。だが、他の者達はお前を犯人として決めつけようとしている。皆さっさと解放されたいんだろうな」
「冗談じゃねぇ!俺にその為の犠牲にでもなれって事かよ!?」
男の言うように、最早宮殿内の者達の大半はこの進展のない状況と、外出の許されない監禁状態に、誰が殺したか、犯行の真相などを求める者などいなかった。一刻も早い事件の解決、そして宮殿からの解放を望んでいる。
真実などどうでもいい。疑わしき人物を祭り上げ、それで事件を解決してしまおうという者達が動き出している。
「このまま長引けば、そうなるだろうな」
「ふざけんなよッ・・・俺ぁ言われた通りにしただけだってのによぉ・・・!」
地理調室であらぬ疑いをかけられている人物。宮殿の料理人で副料理長を務めているという“アンジェロ・アルバー二“。
彼に掛けられた容疑は、ジークベルト大司教の毒殺。しかし、カップから毒素こそ検出されたが、とても人間が死に至る程の量ではなく、その毒というのもジークベルト本人が持ち込んだ彼が好んで持ち運んでいるという茶葉から検出されたもの。
紅茶を淹れる段階で毒が混入したのであれば、ジークベルトの部屋の前で待機していた護衛達の調査によって発見されているはず。魔力を帯びたスキルの使用を検知するだけでなく、護衛達は危険物の発見にも長けている。
彼らが見逃したという線は極めて薄い。そしてそれがアンジェロの無実を証明するようなものだ。だがそれでも彼が解放されてないということが、如何に宮殿内に囚われている者達の矛先が彼に向いているかを物語っている。
暫くすると取り調べ室にノック音が響く。室内で見張りをしていた人物が扉を開くと、そこにはシン達と厨房にいた筈のケヴィンがやって来ていた。
「失礼します。こちらで副料理長のアンジェロ氏が取り調べを受けていると聞いたのですが・・・」
「これはこれはケヴィン殿。えぇ、アンジェロなら今ここに」
ケヴィンが部屋の中を覗き込むように頭を出すと、室内にいる全員の視線が彼へと向けられる。全体的に見渡すと、一人だけ明らかに格好の違う人物が机の前に座っていた。
「ケヴィン?ケヴィンってあの探偵の?」
このままでは自分が犯人にされてしまうと思っていたアンジェロは、探偵の名を聞いて希望を見出す。警備隊や護衛の者達からは些か疎まれている様子のケヴィン。
その理由は、彼は事件の真相をどこまでも追い求めるからだった。シン達の暮らしていた現実世界でもこちらの世界でも、権力者や政府の意向によって真実が曲げられるという事は少なからず行われている。
都合の悪いことは隠蔽され、別の疑わしき人物に罪をなすりつけ解決へと導くということは、昔から行われている人間の悪い風習だった。いつの世も、そういった権力者や巨大な組織の力によって虐げられる者は存在する。
しかしケヴィンは、そういったものを気にすることなく真実だけを追い求める探偵。故に権力者や政府が絡む大きな事件では彼の介入を認めないところも多い。
今回の事件は、教団の大司教が何者かによって殺害されたという突発的な者であり、偶然居合わせたことからケヴィンを退けることも出来なかったようだ。それに加え、彼自身も参考人の内の一人である為、取り扱いに困っているようでもあった。
「良かったぜ!ケヴィンさんよぉ、俺の無実をコイツらに証明してくれよ」
「無実の証明になるかどうかはさておき、私も貴方の証言と当日の様子について伺いに来ました」
厨房で話を聞いたケヴィンは、引き続き植物の調査をするアカリとそれを見守る者達を残し、シンとミアを一緒に連れて来ていた。
「こちらの方々は?」
「宮殿内を歩き回るには、他の者達の監視の目が必要。彼らは文字通り私のお目付役ですよ。さぁ、話を伺ってもよろしいですか?」
「会話の内容は記録させて頂きます。よろしいですね?」
ケヴィンは見張りの男の言葉に頷くと、尋問をしていた護衛の男と入れ替わりアンジェロの前に座ると、事件当日の様子とジークベルトから受け取った茶葉についての話を、直接本人の口から聞いていく。
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