1,255 / 1,646
宴の終わりと声の主
しおりを挟む
突如飛び込んで来た吉報により、ジークベルトは表情を一変させキビキビと指示を出し、問題解決へと努めていた。周りに慌ただしいところを見せぬよう密かに部下を動かしていくと、彼は直接ライブ中のカタリナと連絡を取り出したのだ。
ジークベルトからの連絡を受け取った彼女は、表情や態度にその様子を出す事なく曲を歌い終えると、次のセットとの合間に舞台裏へと戻り通話を繋げる。
そこでの会話は、機材の修理が終わるまでアドリブで繋いでくれというものだった。当然、前もって練習や調整を重ねて来た曲に関しては問題ないが、急遽別の曲や未発表の曲を披露するとなると、そう簡単にはいかない。
無茶なお願い事をしてきたジークベルトに、カタリナはある条件を提示した。金や新たな舞台など出せるものは惜しまないと、相当今回のパーティーに力を入れている様子のジークベルトだったが、彼女が要求して来たのはアルバで展示公開されているバッハ博物館の展示内容の変更についてだったのだ。
音楽の歴史などに興味もなかったジークベルトは、そんな事でいいのならいくらでも変更してやる、何なら君の好きなようにプロデュースしてくれて構わないとこれを承諾。
報酬に見合うだけの活躍はしてくれるのだろうかとジークベルトが確認すると、彼女は自信満々に自分を誰だと思っていると返し、彼女は見事な演出と歌声により観客を魅了し、機材の修理が完了するまでの時間を繋いで見せたのだった。
だが、一部始終を見ていても二人は何故カタリナがそんな要求をしたのかについては、今はまだ分からなかった。ライブの成功にVIPルームからも多くの歓声が上がっていた。
ジークベルトが企画していたライブは、カタリナのアドリブと陰ながらそれを支えた陰の立役者であるツバキによって大成功となり、要人達を満足させる結果となった。
宮殿で行われたパーティーはライブで締め括られ、観客達は各自で解散し宮殿を後にする。要人達も徐々にVIPルームを出て行き、ジークベルトと話していた有名な音楽家達もまた、宮殿の三階に用意された各自の部屋へと戻っていく。
それに伴い、シン達のいる会場の客達もまたその数を減らしていく。いよいよパーティーの終幕が近づき、情報もこれ以上は見込めなくなっていった。
「いよいよパーティーも終わりだな。これ以上俺達の欲しかった情報も手に入りそうにないな・・・」
「私の方も、そろそろ潮時ですかね・・・。皆さんの協力で、たくさんの情報を得ることが出来ました。ありがとうございます」
ケヴィンはテーブルに広げられた資料を鞄の中へとしまっていく。
「ケヴィンはこの後どうするんだ?」
ジークベルトの大司教としての思惑と動き、そして最近になってアルバで起こっている連続失踪事件の手掛かりについて調べていたケヴィン。大司教本人や何かを知っているであろう要人達は、ジークベルトの計らいにより出立までの間宮殿の個室へ泊まる事になっている。
調べようと思えば更に何か探れそうなものだが、他の客がいなくなればそれだけ怪しまれるリスクも高まる。今から頼み込んでも、ケヴィンを警戒しているジークベルトが彼らと同じ宮殿に宿泊させてくれるとは思えないと彼は語った。
「残念ですが、今日のところはこの辺で身を引きますか・・・?」
カメラの映像を切り、耳からデバイスを外そうとしたその時、何やら意味深な会話が彼らの耳に入ってくる。
「・・・それではまた後ほど・・・」
「あぁ。時間になったらこちらから使者を送る」
片方の男の声に関しては、長らく会話を盗み聞きしていたのでそれがジークベルトのものである事に気がつくシンとケヴィン。しかし、もう一つの声はVIPルームで聞いていた様々な声の内の一つであることは確かなのだが、それが誰の声であるかまでは分からなかった。
「今のは・・・?」
「大司教と誰かの会話ですね・・・。しかし音声の不鮮明さもあり、誰のものかまでは分かりませんでした・・・。シンさんは分かりましたか?」
「いや、俺も分からなかった・・・。流石に色んな人物の声を聞き過ぎてたからな。その中から今の声を聞き分けるのは難しい・・・」
二人がテーブルの上の物を片付けながら話していると、会場の後片付けを手伝っていたクリスが二人の元へとやって来る。
「シンさん、ケヴィンさん。パーティーは楽しんで頂けましたか?」
「クリス。あぁ、美味しい食事にもありつけて、ルーカス司祭には感謝しなきゃな」
「そういえばシンさん達は、ルーカス司祭の推薦状で式典へいらしていましたもんね。何故皆さんがルーカス様に推薦状を頂いたのか、その経緯は分かりませんが、きっと皆さんを信頼できる人と判断したんだと思います」
「そうだと嬉しいな。後は彼の期待に応えられたらいいんだが・・・」
「え?」
「あっいや、何でもない。仕事の邪魔して悪かった。後片付けもマティアス司祭の手伝いなのか?」
クリスはシンの質問に対し正直に答えた。他の学生達とは違い、自分は評価されていないからと苦笑いしながら、シン達のテーブルの食器を片付ける。
ケヴィンは二人の会話を聞いて、クリスが学校の関係者であること、そして彼がマティアス司祭経由でVIPルームへも入れていた事から、クリスの耳であれば先程ジークベルトが会話していた人物が誰なのか分かるのではと考えた。
デバイスが録音していた音声データを取り出し、ケヴィンはクリスにその声の人物が誰なのか分かるかと尋ねる。
「ねぇ君、音楽学校の学生さんなんだろ?」
「はい、そうですが・・・」
「ちょっとコレ聞いてみてくれない?」
「?」
ケヴィンが差し出したデバイスからは、先程ジークベルトと会話をしていた人物の声が再生される。流されたのは“あぁ、時間になったらこちらから・・・“という部分だけだった。
これなら会話の前後が隠され、内容については分からない。音楽で有名なアルバの優秀な学生という事で、クリスの耳を頼りにその人物が誰なのかを探る。すると、それを聞いたクリスは、声の主が“ベルヘルム・フルトヴェングラー氏“であると答えたのだ。
ジークベルトからの連絡を受け取った彼女は、表情や態度にその様子を出す事なく曲を歌い終えると、次のセットとの合間に舞台裏へと戻り通話を繋げる。
そこでの会話は、機材の修理が終わるまでアドリブで繋いでくれというものだった。当然、前もって練習や調整を重ねて来た曲に関しては問題ないが、急遽別の曲や未発表の曲を披露するとなると、そう簡単にはいかない。
無茶なお願い事をしてきたジークベルトに、カタリナはある条件を提示した。金や新たな舞台など出せるものは惜しまないと、相当今回のパーティーに力を入れている様子のジークベルトだったが、彼女が要求して来たのはアルバで展示公開されているバッハ博物館の展示内容の変更についてだったのだ。
音楽の歴史などに興味もなかったジークベルトは、そんな事でいいのならいくらでも変更してやる、何なら君の好きなようにプロデュースしてくれて構わないとこれを承諾。
報酬に見合うだけの活躍はしてくれるのだろうかとジークベルトが確認すると、彼女は自信満々に自分を誰だと思っていると返し、彼女は見事な演出と歌声により観客を魅了し、機材の修理が完了するまでの時間を繋いで見せたのだった。
だが、一部始終を見ていても二人は何故カタリナがそんな要求をしたのかについては、今はまだ分からなかった。ライブの成功にVIPルームからも多くの歓声が上がっていた。
ジークベルトが企画していたライブは、カタリナのアドリブと陰ながらそれを支えた陰の立役者であるツバキによって大成功となり、要人達を満足させる結果となった。
宮殿で行われたパーティーはライブで締め括られ、観客達は各自で解散し宮殿を後にする。要人達も徐々にVIPルームを出て行き、ジークベルトと話していた有名な音楽家達もまた、宮殿の三階に用意された各自の部屋へと戻っていく。
それに伴い、シン達のいる会場の客達もまたその数を減らしていく。いよいよパーティーの終幕が近づき、情報もこれ以上は見込めなくなっていった。
「いよいよパーティーも終わりだな。これ以上俺達の欲しかった情報も手に入りそうにないな・・・」
「私の方も、そろそろ潮時ですかね・・・。皆さんの協力で、たくさんの情報を得ることが出来ました。ありがとうございます」
ケヴィンはテーブルに広げられた資料を鞄の中へとしまっていく。
「ケヴィンはこの後どうするんだ?」
ジークベルトの大司教としての思惑と動き、そして最近になってアルバで起こっている連続失踪事件の手掛かりについて調べていたケヴィン。大司教本人や何かを知っているであろう要人達は、ジークベルトの計らいにより出立までの間宮殿の個室へ泊まる事になっている。
調べようと思えば更に何か探れそうなものだが、他の客がいなくなればそれだけ怪しまれるリスクも高まる。今から頼み込んでも、ケヴィンを警戒しているジークベルトが彼らと同じ宮殿に宿泊させてくれるとは思えないと彼は語った。
「残念ですが、今日のところはこの辺で身を引きますか・・・?」
カメラの映像を切り、耳からデバイスを外そうとしたその時、何やら意味深な会話が彼らの耳に入ってくる。
「・・・それではまた後ほど・・・」
「あぁ。時間になったらこちらから使者を送る」
片方の男の声に関しては、長らく会話を盗み聞きしていたのでそれがジークベルトのものである事に気がつくシンとケヴィン。しかし、もう一つの声はVIPルームで聞いていた様々な声の内の一つであることは確かなのだが、それが誰の声であるかまでは分からなかった。
「今のは・・・?」
「大司教と誰かの会話ですね・・・。しかし音声の不鮮明さもあり、誰のものかまでは分かりませんでした・・・。シンさんは分かりましたか?」
「いや、俺も分からなかった・・・。流石に色んな人物の声を聞き過ぎてたからな。その中から今の声を聞き分けるのは難しい・・・」
二人がテーブルの上の物を片付けながら話していると、会場の後片付けを手伝っていたクリスが二人の元へとやって来る。
「シンさん、ケヴィンさん。パーティーは楽しんで頂けましたか?」
「クリス。あぁ、美味しい食事にもありつけて、ルーカス司祭には感謝しなきゃな」
「そういえばシンさん達は、ルーカス司祭の推薦状で式典へいらしていましたもんね。何故皆さんがルーカス様に推薦状を頂いたのか、その経緯は分かりませんが、きっと皆さんを信頼できる人と判断したんだと思います」
「そうだと嬉しいな。後は彼の期待に応えられたらいいんだが・・・」
「え?」
「あっいや、何でもない。仕事の邪魔して悪かった。後片付けもマティアス司祭の手伝いなのか?」
クリスはシンの質問に対し正直に答えた。他の学生達とは違い、自分は評価されていないからと苦笑いしながら、シン達のテーブルの食器を片付ける。
ケヴィンは二人の会話を聞いて、クリスが学校の関係者であること、そして彼がマティアス司祭経由でVIPルームへも入れていた事から、クリスの耳であれば先程ジークベルトが会話していた人物が誰なのか分かるのではと考えた。
デバイスが録音していた音声データを取り出し、ケヴィンはクリスにその声の人物が誰なのか分かるかと尋ねる。
「ねぇ君、音楽学校の学生さんなんだろ?」
「はい、そうですが・・・」
「ちょっとコレ聞いてみてくれない?」
「?」
ケヴィンが差し出したデバイスからは、先程ジークベルトと会話をしていた人物の声が再生される。流されたのは“あぁ、時間になったらこちらから・・・“という部分だけだった。
これなら会話の前後が隠され、内容については分からない。音楽で有名なアルバの優秀な学生という事で、クリスの耳を頼りにその人物が誰なのかを探る。すると、それを聞いたクリスは、声の主が“ベルヘルム・フルトヴェングラー氏“であると答えたのだ。
0
お気に入りに追加
297
あなたにおすすめの小説
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
全校転移!異能で異世界を巡る!?
小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。
目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。
周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。
取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。
「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」
取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。
そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。
戦闘職をしたくてVRMMOを始めましたが、意図せずユニークテイマーという職業になったので全力でスローライフを目指します
地球
ファンタジー
「え?何この職業?」
初めてVRMMOを始めようとしていた主人公滝沢賢治。
やろうと決めた瞬間、戦闘職を選んでいた矢先に突然出てきた職業は【ユニークテイマー】だった。
そのゲームの名はFree Infinity Online
世界初であるフルダイブ型のVRゲームであり、AIがプレイヤーの様子や行動を把握しイベントなどを考えられるゲームであった。
そこで出会った職業【ユニークテイマー】
この職業で、戦闘ではなくてスローライフを!!
しかし、スローライフをすぐにはできるわけもなく…?
異世界の片隅で引き篭りたい少女。
月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!
見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに
初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、
さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。
生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。
世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。
なのに世界が私を放っておいてくれない。
自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。
それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ!
己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。
※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。
ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。
「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~
平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。
三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。
そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。
アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。
襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。
果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる