1,251 / 1,646
正反対の友達
しおりを挟む
カタリナの出番が終わり、短い挨拶を終えた彼女はステージを後にした。セットの準備の為、再び休憩時間を挟むというアナウンスがあり、観客達もそれぞれ飲み物を取りに行ったりトイレを済ませに行ったりと、各々の行動を取り始める。
「カタリナさんの歌はこれでお終い・・・ですか?」
「彼女がソロで歌うのはこれで最後です。この後は別の楽団とのコラボがありますので、彼女の魅力を体験して頂くためにも、是非ご覧になっていってください」
初めは退屈凌ぎでやって来たミアだったが、カタリナの歌を聞きすっかり彼女の歌声の虜になっていた。ジルの誘いに二つ返事で勿論と答えた二人。それにこのまま席を立っては、直接誘いを受けたに最後まで聴いていかなかったと後ろめたい気持ちにもなり、失礼にも当たってしまう。
「折角の演奏だ。酔って聴いちゃ勿体無いな・・・。アタシちょっと水でも飲んでさっきの酒を流してくるわ」
「行ってらっしゃい。ジルヴィアさんは何か飲まれますか?よかったら私、取ってきましょうか?」
「いえ、大丈夫です。それと私の事は“ジル“と呼んでください」
「えっ!でも、失礼になってしまうのでは・・・?」
「そうして欲しいのです。私達、年齢も近そうですし、何だか友達に慣れそうな気がするんです」
彼女の過去を垣間見た後だと、心の底から話せる相手がいなかった事が窺える。記憶を失い、過去の記憶や繋がりが無くなってしまったアカリには今、シンやミア達という心を許せる仲間がいる。
それに引き換え、ジルには過去や周りとの繋がりがあるが故に信頼や心の休まる場がないというまるで正反対の境遇にある二人。何も自分と接点がない故に話せたアカリに、ジルなりに何か感じるものがあったのかもしれない。
「では、私の事もアカリと呼んでください。それじゃぁ・・・ジル、私にもっと貴方の知る音楽を教えて頂けますか?」
「えぇ、勿論よアカリ」
二人はミアが席を立っている間、音楽というものについての質疑応答を交わした。ミアが戻ってくる頃には、いつの間にか距離を縮めたアカリとジルの姿があった。
この僅かな間に一体何があったのかとミアに尋ねられたが、二人だけの秘密だと共通の認識を持つことでより仲を深めていった。
その後の演奏では、教会で聴いたものとは違う音楽や音色の楽団が登場し、演者の中にはちょくちょくと、アルバの音楽学校の学生も混じっているのだと、ジルは音楽の解説と共に教えてくれた。
ライブの演奏が一通り終了すると、司会の紹介と共に演者の代表が次々に挨拶をしていく。カタリナの人気は凄まじく、彼女が舞台に登場しただけで多くの歓声が上がった。
声はかき消されてしまったが、大きく手を振るアカリ達の方に彼女は一瞬だけ反応し片目を瞑るウインクで返してくれた。それが嬉しかったのか、アカリは飛び跳ねながら感情をジルに表し、これが普通の子の反応なのかと彼女も少し恥ずかしそうにしながら、釣られて差し伸べられた手に自身の手を重ねる。
全てのプログラムが終了し、大歓声と拍手の中ライブの舞台は幕を閉じた。パーティーへと戻っていく観客の中で、アカリとジルも短い時の中ではあったが有意義な時間を過ごせたと言葉を交わす。
ジルはこの後、カタリナと用事があるそうで、彼女のファンサービスが終わるのをここで待つのだそうだ。ミアとアカリは一度三階の会場に戻り、シン達と合流し状況の確認を済ませることにした。
いつまでアルバにいるかは分からないが、式典の直後は暫く休暇があるのだとジルは語り、時間が合えばまた話でもしようとアカリと約束を交わす。一行はそれぞれの場所へと分かれていく。
三階へ登る階段を上がっていると、二階から聞き覚えのある声が聞こえてくる。何事かと少しだけ覗いてみることにしたミアとアカリは、開けたフロアで楽器や様々な機材に囲まれるツクヨとツバキの姿を見つける。
「ん?何やってんだアイツら」
「何でしょうね・・・とっても忙しそうですけど・・・」
「まぁいっか。とりあえずシン達のところへ戻ろうぜ?もうすぐパーティーも終わっちまいそうだし、美味いもんでもたらふく食っておこう!」
「ふふふ、そうですね。次にこんなご馳走にありつけるのがいつになるかも分かりませんものね」
「お?アカリも分かってきたじゃねぇか!」
「ミアさんのせいですよ?」
貴重で充実した、世界でも有数のライブを聴いてきた二人は、満足した様子でその場を後にし楽しそうに話しながら三階の会場へと戻っていった。
一方、レオンを送り出した後のツクヨとツバキは、引き続き運ばれてくる機材の調整まで任されることになっていた。従業員曰く、当初予定していた業者の到着が後日に先延ばしになっていてしまったらしく、急遽修理を行えるツバキがライブの機材を調整することになってしまった。
「じっ自分で言ったこととはいえ、まさかこんな事になるとは・・・」
「手伝ってあげたいのは山々なんだけどね・・・。私には作業の環境を整えてあげる事くらいしか」
「まぁしょうがねぇよな。でもお陰様で、楽器についても少し詳しくなったな!」
「今度は音のでる装備でも作ってみるかい?」
「随分と陽気な発明だな。でもそれも悪くねぇな!」
冗談を交えながらもしっかりと手を動かすツバキ。流石は職人肌といえる。しかし、目の前の作業をこなしながらも、ツバキはレオンから修理を頼まれた楽器の方を気にしていた。
機械であるのなら直す自信はあった。それにここで身につけた楽器の構造についての知識もきっと活かせるだろう。一刻も早くその機械の構造を見てみたいという感情に、ツバキは背中を押されれるように機材の修理を終わらせツクヨに別の場所へ運ぶよう伝える。
「カタリナさんの歌はこれでお終い・・・ですか?」
「彼女がソロで歌うのはこれで最後です。この後は別の楽団とのコラボがありますので、彼女の魅力を体験して頂くためにも、是非ご覧になっていってください」
初めは退屈凌ぎでやって来たミアだったが、カタリナの歌を聞きすっかり彼女の歌声の虜になっていた。ジルの誘いに二つ返事で勿論と答えた二人。それにこのまま席を立っては、直接誘いを受けたに最後まで聴いていかなかったと後ろめたい気持ちにもなり、失礼にも当たってしまう。
「折角の演奏だ。酔って聴いちゃ勿体無いな・・・。アタシちょっと水でも飲んでさっきの酒を流してくるわ」
「行ってらっしゃい。ジルヴィアさんは何か飲まれますか?よかったら私、取ってきましょうか?」
「いえ、大丈夫です。それと私の事は“ジル“と呼んでください」
「えっ!でも、失礼になってしまうのでは・・・?」
「そうして欲しいのです。私達、年齢も近そうですし、何だか友達に慣れそうな気がするんです」
彼女の過去を垣間見た後だと、心の底から話せる相手がいなかった事が窺える。記憶を失い、過去の記憶や繋がりが無くなってしまったアカリには今、シンやミア達という心を許せる仲間がいる。
それに引き換え、ジルには過去や周りとの繋がりがあるが故に信頼や心の休まる場がないというまるで正反対の境遇にある二人。何も自分と接点がない故に話せたアカリに、ジルなりに何か感じるものがあったのかもしれない。
「では、私の事もアカリと呼んでください。それじゃぁ・・・ジル、私にもっと貴方の知る音楽を教えて頂けますか?」
「えぇ、勿論よアカリ」
二人はミアが席を立っている間、音楽というものについての質疑応答を交わした。ミアが戻ってくる頃には、いつの間にか距離を縮めたアカリとジルの姿があった。
この僅かな間に一体何があったのかとミアに尋ねられたが、二人だけの秘密だと共通の認識を持つことでより仲を深めていった。
その後の演奏では、教会で聴いたものとは違う音楽や音色の楽団が登場し、演者の中にはちょくちょくと、アルバの音楽学校の学生も混じっているのだと、ジルは音楽の解説と共に教えてくれた。
ライブの演奏が一通り終了すると、司会の紹介と共に演者の代表が次々に挨拶をしていく。カタリナの人気は凄まじく、彼女が舞台に登場しただけで多くの歓声が上がった。
声はかき消されてしまったが、大きく手を振るアカリ達の方に彼女は一瞬だけ反応し片目を瞑るウインクで返してくれた。それが嬉しかったのか、アカリは飛び跳ねながら感情をジルに表し、これが普通の子の反応なのかと彼女も少し恥ずかしそうにしながら、釣られて差し伸べられた手に自身の手を重ねる。
全てのプログラムが終了し、大歓声と拍手の中ライブの舞台は幕を閉じた。パーティーへと戻っていく観客の中で、アカリとジルも短い時の中ではあったが有意義な時間を過ごせたと言葉を交わす。
ジルはこの後、カタリナと用事があるそうで、彼女のファンサービスが終わるのをここで待つのだそうだ。ミアとアカリは一度三階の会場に戻り、シン達と合流し状況の確認を済ませることにした。
いつまでアルバにいるかは分からないが、式典の直後は暫く休暇があるのだとジルは語り、時間が合えばまた話でもしようとアカリと約束を交わす。一行はそれぞれの場所へと分かれていく。
三階へ登る階段を上がっていると、二階から聞き覚えのある声が聞こえてくる。何事かと少しだけ覗いてみることにしたミアとアカリは、開けたフロアで楽器や様々な機材に囲まれるツクヨとツバキの姿を見つける。
「ん?何やってんだアイツら」
「何でしょうね・・・とっても忙しそうですけど・・・」
「まぁいっか。とりあえずシン達のところへ戻ろうぜ?もうすぐパーティーも終わっちまいそうだし、美味いもんでもたらふく食っておこう!」
「ふふふ、そうですね。次にこんなご馳走にありつけるのがいつになるかも分かりませんものね」
「お?アカリも分かってきたじゃねぇか!」
「ミアさんのせいですよ?」
貴重で充実した、世界でも有数のライブを聴いてきた二人は、満足した様子でその場を後にし楽しそうに話しながら三階の会場へと戻っていった。
一方、レオンを送り出した後のツクヨとツバキは、引き続き運ばれてくる機材の調整まで任されることになっていた。従業員曰く、当初予定していた業者の到着が後日に先延ばしになっていてしまったらしく、急遽修理を行えるツバキがライブの機材を調整することになってしまった。
「じっ自分で言ったこととはいえ、まさかこんな事になるとは・・・」
「手伝ってあげたいのは山々なんだけどね・・・。私には作業の環境を整えてあげる事くらいしか」
「まぁしょうがねぇよな。でもお陰様で、楽器についても少し詳しくなったな!」
「今度は音のでる装備でも作ってみるかい?」
「随分と陽気な発明だな。でもそれも悪くねぇな!」
冗談を交えながらもしっかりと手を動かすツバキ。流石は職人肌といえる。しかし、目の前の作業をこなしながらも、ツバキはレオンから修理を頼まれた楽器の方を気にしていた。
機械であるのなら直す自信はあった。それにここで身につけた楽器の構造についての知識もきっと活かせるだろう。一刻も早くその機械の構造を見てみたいという感情に、ツバキは背中を押されれるように機材の修理を終わらせツクヨに別の場所へ運ぶよう伝える。
0
お気に入りに追加
297
あなたにおすすめの小説
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件
月風レイ
ファンタジー
普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。
そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。
そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。
そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。
そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。
食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。
不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。
大修正中!今週中に修正終え更新していきます!
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
全校転移!異能で異世界を巡る!?
小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。
目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。
周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。
取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。
「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」
取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。
そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。
婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな
カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界
魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた
「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね?
それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」
小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く
塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう
一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが……
◇◇◇
親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります
(『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です)
◇◇◇
ようやく一区切りへの目処がついてきました
拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる