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示される道標
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幾つもの聞きなれない言葉に質問を繰り返すように投げかけるマティアスだったが、ジークベルトはそれを静止し誰にも通じない彼だけにしか理解できない話を続けた。
「マティアス君・・・君が協力してくれれば話が早い。それに私が“乗船“を果たした暁には、君と君の家族を楽園へ導くことも難しくはない。今よりも更に崇高な日々が君を待っているだろう。今は目を瞑り、一時の恥辱に耐えてくれ。そうすれば・・・」
「お待ち下さい大司教様!話が見えて来ません。乗船?楽園?一体何の話をッ・・・」
声量を上げるマティアスを静止するように手を顔の前に翳す。
「いや、すまない。難しい話をしてしまったな。この話は忘れてくれ。君はただ上からの指示に従っていればいい。余計な真似はしないことだ。それが君の為でもあり家族の為でもあり、この街の為にもなるのだからな」
これ以上質問しても望む返答は返ってこない。それにマティアスもジークベルトや教団に歯向かう気など微塵もなかった。
「アルバは・・・これからどうなるので?」
「何も変わらんさ、表向きには・・・な?実際のところ、私も“鳩“の正体を探るつもりもなければ目的を知ろうとも思わない。何をされるか分からないからな」
「教団がそんなことッ・・・!」
「あり得ない話などない。私もその筋には多少知っている。だからこそ、大人しく従っていればトラブルに巻き込まれることもない。君もそうしろ、それが賢明だ」
話の途中で、ジークベルトは辺りを見渡し始める。誰かの姿を探しているのだろうか。そしてすぐにマティアスにとある人物の行方について尋ねた。それは教団の決定により突如としてアルバの音楽監督を降板になったフェリクスの事だった。
「フェリクス君はどこかな?」
「彼は一般の会場の方へ。・・・その、大司教様とは・・・」
「あぁ、分かっているとも。だが彼に話しておかねばならない事は他にもあるのだよ。今後の仕事の話だ。教会でも話したが、彼を必要とする国は多い。旅行に行くなら何処がいいか、好みを聞いておかんとな。呼んできてくれるかな?」
「話はしてみますが・・・」
「十分だ。彼はそういうところは分別のつく男だからな。身の振り方をよく理解している」
大司教の指示により、マティアス司祭はその場を離れVIPルームを後にした。その後の大司教は、長話に疲れたのかしばしの間、一人で料理と酒を満喫していた。
シンとミアは今のうちにと、ジークベルトの言っていた話を整理する。その中で語られた乗船券のことや楽園の事について、ケヴィンに何か知っていないか尋ねる。
「乗船券・・・?楽園?」
「ケヴィン、アンタは何処まで知っているんだ?」
難しい顔で考え込んでいるケヴィンからは、彼もその事について何か思考を巡らせているのだというのが窺える。その様子からは望む回答が得られないか、または得られても状況が悪くなるような事なのか。
「楽園とは神園還教の目指す場所のこと。恐らくはアークシティでの暮らしを指す比喩表現なのか、或いは宇宙の向こう側にあるという実際の楽園の事なのか・・・」
「アンタも知らないのか?その楽園って奴を」
「アークシティの技術力は確かなものです。それはあなた方もそのカメラやイヤホンからも分かって頂けたかと思います。ただそれは彼らの技術力の、ほんの一部に過ぎません。かといって、宇宙に我々人間の楽園があるなど俄には信じ難いことです。そんな報告もなければ、噂話も聞いたこともありません・・・」
教団の成り立ちやその思想について知っていても、ケヴィンでもそれ以上の事は分かっていなかったようだ。重要な情報というものは教団の幹部クラスにならなければ知ることさえ許されないのだろう。
そしてその時期ポストにまで登ろうとしているジークベルトは、教団の目指すものやその思想、目的や現状について少しは知っているのかもしれない。
「思っていた以上に、彼はいろいろと知っているのかもしれませんね・・・。あなた方を味方に引き込んで本当によかった。奇跡か偶然か、この巡り合わせのおかげでこの盗聴はなされました。重ね重ね感謝しますよ。シンさん、ミアさん」
「教団はその宇宙にある楽園とやらに行きたがっていて、その手段の一つとしてロケットの開発に臨んでいた。シンは知らなかっただろうが、その燃料にはとんでもないものが使われていた・・・」
突然重苦しい雰囲気で話し始めるミア。感謝を述べたケヴィンと何も知らないシンは、キョトンとした表情でそれを聞いていた。そして彼女の口から語られたのは、オルレラの街での一件だった。
「人がッ!?そんなものを燃料にだった!?」
「酷い話ですが、あり得なくはありませんね。大司教が通じていたという裏の組織・・・。それらが人身売買を行なっていたという噂もあります。恐らくはその者らを使って・・・」
「俺の知らないところでそんなことが・・・」
「その研究を止めるように頼まれたのがツバキだった。勿論危険なことだ、少年一人にそんなことが出来るとは思っていないだろう。だから、それを成し得る誰かにそれを伝えたかったんだろうな・・・」
シンの向かった現実の世界でも大変なことは起こっていたが、黒い衣を纏った者達をお探るという漠然とした彼らの目的もまた、WoFに暮らす多くの人々の願いによって道標を見出すようになって来ていた。
今一行の前に示されているのは、教団やその先にあるアークシティという技術力の集中する国や街、そして箱舟と呼ばれるものへの道となっていた。
「マティアス君・・・君が協力してくれれば話が早い。それに私が“乗船“を果たした暁には、君と君の家族を楽園へ導くことも難しくはない。今よりも更に崇高な日々が君を待っているだろう。今は目を瞑り、一時の恥辱に耐えてくれ。そうすれば・・・」
「お待ち下さい大司教様!話が見えて来ません。乗船?楽園?一体何の話をッ・・・」
声量を上げるマティアスを静止するように手を顔の前に翳す。
「いや、すまない。難しい話をしてしまったな。この話は忘れてくれ。君はただ上からの指示に従っていればいい。余計な真似はしないことだ。それが君の為でもあり家族の為でもあり、この街の為にもなるのだからな」
これ以上質問しても望む返答は返ってこない。それにマティアスもジークベルトや教団に歯向かう気など微塵もなかった。
「アルバは・・・これからどうなるので?」
「何も変わらんさ、表向きには・・・な?実際のところ、私も“鳩“の正体を探るつもりもなければ目的を知ろうとも思わない。何をされるか分からないからな」
「教団がそんなことッ・・・!」
「あり得ない話などない。私もその筋には多少知っている。だからこそ、大人しく従っていればトラブルに巻き込まれることもない。君もそうしろ、それが賢明だ」
話の途中で、ジークベルトは辺りを見渡し始める。誰かの姿を探しているのだろうか。そしてすぐにマティアスにとある人物の行方について尋ねた。それは教団の決定により突如としてアルバの音楽監督を降板になったフェリクスの事だった。
「フェリクス君はどこかな?」
「彼は一般の会場の方へ。・・・その、大司教様とは・・・」
「あぁ、分かっているとも。だが彼に話しておかねばならない事は他にもあるのだよ。今後の仕事の話だ。教会でも話したが、彼を必要とする国は多い。旅行に行くなら何処がいいか、好みを聞いておかんとな。呼んできてくれるかな?」
「話はしてみますが・・・」
「十分だ。彼はそういうところは分別のつく男だからな。身の振り方をよく理解している」
大司教の指示により、マティアス司祭はその場を離れVIPルームを後にした。その後の大司教は、長話に疲れたのかしばしの間、一人で料理と酒を満喫していた。
シンとミアは今のうちにと、ジークベルトの言っていた話を整理する。その中で語られた乗船券のことや楽園の事について、ケヴィンに何か知っていないか尋ねる。
「乗船券・・・?楽園?」
「ケヴィン、アンタは何処まで知っているんだ?」
難しい顔で考え込んでいるケヴィンからは、彼もその事について何か思考を巡らせているのだというのが窺える。その様子からは望む回答が得られないか、または得られても状況が悪くなるような事なのか。
「楽園とは神園還教の目指す場所のこと。恐らくはアークシティでの暮らしを指す比喩表現なのか、或いは宇宙の向こう側にあるという実際の楽園の事なのか・・・」
「アンタも知らないのか?その楽園って奴を」
「アークシティの技術力は確かなものです。それはあなた方もそのカメラやイヤホンからも分かって頂けたかと思います。ただそれは彼らの技術力の、ほんの一部に過ぎません。かといって、宇宙に我々人間の楽園があるなど俄には信じ難いことです。そんな報告もなければ、噂話も聞いたこともありません・・・」
教団の成り立ちやその思想について知っていても、ケヴィンでもそれ以上の事は分かっていなかったようだ。重要な情報というものは教団の幹部クラスにならなければ知ることさえ許されないのだろう。
そしてその時期ポストにまで登ろうとしているジークベルトは、教団の目指すものやその思想、目的や現状について少しは知っているのかもしれない。
「思っていた以上に、彼はいろいろと知っているのかもしれませんね・・・。あなた方を味方に引き込んで本当によかった。奇跡か偶然か、この巡り合わせのおかげでこの盗聴はなされました。重ね重ね感謝しますよ。シンさん、ミアさん」
「教団はその宇宙にある楽園とやらに行きたがっていて、その手段の一つとしてロケットの開発に臨んでいた。シンは知らなかっただろうが、その燃料にはとんでもないものが使われていた・・・」
突然重苦しい雰囲気で話し始めるミア。感謝を述べたケヴィンと何も知らないシンは、キョトンとした表情でそれを聞いていた。そして彼女の口から語られたのは、オルレラの街での一件だった。
「人がッ!?そんなものを燃料にだった!?」
「酷い話ですが、あり得なくはありませんね。大司教が通じていたという裏の組織・・・。それらが人身売買を行なっていたという噂もあります。恐らくはその者らを使って・・・」
「俺の知らないところでそんなことが・・・」
「その研究を止めるように頼まれたのがツバキだった。勿論危険なことだ、少年一人にそんなことが出来るとは思っていないだろう。だから、それを成し得る誰かにそれを伝えたかったんだろうな・・・」
シンの向かった現実の世界でも大変なことは起こっていたが、黒い衣を纏った者達をお探るという漠然とした彼らの目的もまた、WoFに暮らす多くの人々の願いによって道標を見出すようになって来ていた。
今一行の前に示されているのは、教団やその先にあるアークシティという技術力の集中する国や街、そして箱舟と呼ばれるものへの道となっていた。
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