World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
1,230 / 1,646

技術の品

しおりを挟む
 今まで最先端と言われていたアークシティの技術力。しかしシン達はあまりイメージが湧いてこなかった。それと言うのも、彼らの暮らしていた現実の世界が既にそれなりに未来的な技術力を見てきていたからだ。

 それに加え、広大で自然豊かな土地や中世のような建造物、そして技術とは無縁かのように思える小さな村々などの光景が多いWoFの世界において、なかなかその両極端なものが合致した光景が想像つかなかったのだ。

 だが、彼らの現実の世界にも無いような技術力の結晶が、今二人の手の中にある。それもそんな未来の代物が安価で誰でも手に入れられるという事に、更なる驚きがあった。

 これだけの物が誰でも購入できると言うことは、より高価な物や技術力の最先端にある物はどんな事ができるのだろう。そんな想像を膨らませられる物だった。

 「話を戻しますが、今お二人に見ていただいているのは大司教のいるVIPルームの映像です。先程マティアス司祭に連れられ挨拶回りに行った際に、隙を見てカメラを仕込んできました」

 「カメラを・・・?よくバレなかったな」

 「職業柄、いろんな道具が必要でしてね・・・」

 そう言って見せてくれたのは、先程のイヤホンよりも更に小さな球体状の物だった。ケヴィンがそれを軽く指で小突くと、その球体は変形を始め小型の蜘蛛のような形状へと変わった。

 彼の手の中で動き回った後、その蜘蛛は掌の上から飛び出しテーブルへと下りた。すると、周囲を見渡すようにくるくる回りながら、身を隠せるような場所を見つけると食器の下へと入り込み見えなくなった。

 一連の動きを見ていたシンとミアが、体勢を低くしその隙間を覗き込むと、そこには先程の蜘蛛の姿がなかった。

 「あっあれ?」

 「どこに行った?」

 そんな二人の新鮮な反応に、気分が良くなったのかケヴィンは嬉しそうに解説を始めた。

 「どこにも行ってませんよ。そこにいるんです、姿を消してね」

 「姿を消すぅ?」

 「生き物の中には、保護色というもので身を隠す生き物がいるのはご存知ですか?それと容量は同じです。実際にその体表を変色させている訳ではなく、光の反射を利用して人目につきにくくしているのです」

 様々な角度から覗き込むと、確かにその場所に僅かにだが違和感のある空間を確認することが出来た。そしてケヴィンが手元で何かの操作をすると、シンとミアの視界に映り込んでいた部屋の映像は、彼らの覗き込む顔の映像へと切り替わる。

 「ぅわっ!」

 「なるほど、今のにカメラが搭載されていたという訳か」

 「その通り。面白いでしょ?これで部屋の映像を映していた訳です。式典やパーティーの前に会場のチェックはされていたようですが、まさかその最中に堂々と仕掛けられるとは思っていなかったでしょうからね」

 どうやらケヴィンは、護衛の者達以上に会場のチェックやその警備体制について詳しく調べていたようだ。その上でカメラを仕掛けるタイミングを、そのパーティーの真っ只中に選ぶという大胆な作戦にでた。

 結果的に、誰にも気づかれず疑いの念すら抱かせずに、見事カメラの設置に成功している。流石に来客を招いている中で会場を調べたり、電子機器を機能停止にする電波などは使えない。

 一見、危険な作戦のようだが逆にその堂々とした行いこそが盲点をつく、実に理にかなった手段だったようだ。

 「さて、それでは今度は部屋の音声を聞いてみましょう」

 再びケヴィンが手元で操作を行うと、耳に装着したイヤホンからカメラの仕掛けられた部屋の音が聞こえ始める。様々な人物の会話と食器の音、そして位置によっては足音や衣装を擦る音まで聞こえてくる。

 「凄いな。これがあれば大司教の会話も筒抜けだな」

 これだけ精巧な機械があれば、自ら危険を犯すことなく情報を集めることが可能だろう。しかし、それなら尚更ケヴィンが二人の協力を仰いだのが疑問だ。彼は何故これほどの物を持ちながら、情報を渡してまで二人を引き止めたのか。

 その答えは二人が尋ねるまでもなく、彼の口から語られる事となる。

 「それが・・・ですね。見てもらった通り、映像は部屋の端から撮ったもので、これでは大司教の音声だけを抽出するのは難しいんです。そこでシンさんの能力で、先程見せたカメラを大司教の衣装の中に忍ばせて欲しいのです」

 「能力?アンタ、シンの能力を知っているのか?」

 この時のミアは知らなかったことだが、ケヴィンはグーゲル教会にてジークベルト大司教と対話をするところを、内部に忍び込み盗み聞いていたシンの存在に気付いていた。

 その一件をミアに説明すると、ケヴィンはシンの能力の条件について推理し始めた。彼が考えるシンの能力というものは、限られたエリア内の空間を物体を通り越して移動できる能力であり、それには本人がその場所を訪れるか、何かしらの方法でその場所や構造を目にしている必要があるのではないかと語った。

 概ね彼の推理は当たっていた。だが流石に影の中を移動しているとまでは分からなかったようだが。それでもシンのその能力の条件を満たす為、ケヴィンの仕掛けたカメラは役に立った。

 「どうです?やって頂けますか?」

 シン自身、彼の申し出を断る理由はなかった。作戦が成功すれば、ジークベルト大司教本人の口から教団に関する更に詳しい情報を手に入れることができる。また、彼が手を結んでいた裏の組織に関しても何かわかるかもしれない。

 ただ、実際に訪れていない場所への移動は、影の能力に制限が掛かってしまう事も確かだった。カメラ越しの映像があるとはいえ、自身の影を使えぬ以上その精度と移動できる物質の質量、そして移動できる距離にも制限が掛かってしまう。

 「出来なくはないが、遠隔での操作になるからここからでは無理だ。もう少しその部屋に近づかないと・・・」

 「分かりました。どの辺りまで近づく必要があるのか教えていただけますか?」

 シンは彼に、カメラ付きのデバイスを送り込む為に必要な距離を説明した。ケヴィンは荷物の中から宮殿の見取り図を取り出すと、彼らのいる階層のページを開き、シンにポイントを指し示させた。

 「なるほど・・・分かりました。私が何とか貴方をこの場所まで連れて行きます。カメラを仕掛けるまでの間、私とミアさんで護衛の目を逸らさせましょう」

 どこか近くに部屋でもあれば都合がよかったのだが、シンがVIPルームへ物を送り込むのにギリギリの距離となると、長い廊下の間で能力を使うことになる。

 そして難しいことに、その廊下にはシンの能力の範囲内にVIPルームと作戦実行のポイントを収めようとすると、間には何も無いのだ。当然部屋の前には護衛が数名配置されている。

 長い廊下に立ち尽くしていては、その護衛や巡回している護衛に怪しまれてしまう。そうならない為の人避けとして、ケヴィンとミアは一芝居うたなければならないという運びとなった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

re:birth 〜勇者じゃないと追放された最強職【何でも屋】は、異世界でチートスキル【DIY】で無双します~

華音 楓
ファンタジー
「役立たずの貴様は、この城から出ていけ!」  国王から殺気を含んだ声で告げられtた海人は頷く他なかった。  ある日、異世界に魔王討伐の為に主人公「石立海人」(いしだてかいと)は、勇者として召喚された。  その際に、判明したスキルは、誰にも理解されない【DIY】と【なんでも屋】という隠れ最強職であった。  だが、勇者職を有していなかった主人公は、誰にも理解されることなく勇者ではないという理由で王族を含む全ての城関係者から露骨な侮蔑を受ける事になる。  城に滞在したままでは、命の危険性があった海人は、城から半ば追放される形で王城から追放されることになる。 僅かな金銭で追放された海人は、生活費用を稼ぐ為に冒険者として登録し、生きていくことを余儀なくされた。  この物語は、多くの仲間と出会い、ダンジョンを攻略し、成りあがっていくストーリーである。

「自重知らずの異世界転生者-膨大な魔力を引っさげて異世界デビューしたら、規格外過ぎて自重を求められています-」

mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
 ネットでみつけた『異世界に行ったかもしれないスレ』に書いてあった『異世界に転生する方法』をやってみたら本当に異世界に転生された。  チート能力で豊富な魔力を持っていた俺だったが、目立つのが嫌だったので周囲となんら変わらないよう生活していたが「目立ち過ぎだ!」とか「加減という言葉の意味をもっと勉強して!」と周囲からはなぜか自重を求められた。  なんだよ? それじゃあまるで、俺が自重をどっかに捨ててきたみたいじゃないか!  こうして俺の理不尽で前途多難?な異世界生活が始まりました。  ※注:すべてわかった上で自重してません。

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ
ファンタジー
 相良真一(サガラシンイチ)は社畜ブラックの企業戦士だった。  悪夢のような連勤を乗り越え、漸く帰れるとバスに乗り込んだらまさかの異世界転移。  そこには土下座する幼女女神がいた。 『ごめんなさあああい!!!』  最初っからギャン泣きクライマックス。  社畜が呼び出した国からサクッと逃げ出し、自由を求めて旅立ちます。  真一からシンに名前を改め、別の国に移り住みスローライフ……と思ったら馬鹿王子の世話をする羽目になったり、狩りや採取に精を出したり、馬鹿王子に暴言を吐いたり、冒険者ランクを上げたり、女神の愚痴を聞いたり、馬鹿王子を躾けたり、社会貢献したり……  そんなまったり異世界生活がはじまる――かも?    ブックマーク30000件突破ありがとうございます!!   第13回ファンタジー小説大賞にて、特別賞を頂き書籍化しております。  ♦お知らせ♦  余りモノ異世界人の自由生活、コミックス3巻が発売しました!  漫画は村松麻由先生が担当してくださっています。  よかったらお手に取っていただければ幸いです。    書籍のイラストは万冬しま先生が担当してくださっています。  7巻は6月17日に発送です。地域によって異なりますが、早ければ当日夕方、遅くても2~3日後に書店にお届けになるかと思います。  今回は夏休み帰郷編、ちょっとバトル入りです。  コミカライズの連載は毎月第二水曜に更新となります。  漫画は村松麻由先生が担当してくださいます。  ※基本予約投稿が多いです。  たまに失敗してトチ狂ったことになっています。  原稿作業中は、不規則になったり更新が遅れる可能性があります。  現在原稿作業と、私生活のいろいろで感想にはお返事しておりません。  

王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。 これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。 しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。 それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。 事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。 妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。 故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。

愛されていないはずの婚約者に「貴方に愛されることなど望んでいませんわ」と申し上げたら溺愛されました

海咲雪
恋愛
「セレア、もう一度言う。私はセレアを愛している」 「どうやら、私の愛は伝わっていなかったらしい。これからは思う存分セレアを愛でることにしよう」 「他の男を愛することは婚約者の私が一切認めない。君が愛を注いでいいのも愛を注がれていいのも私だけだ」 貴方が愛しているのはあの男爵令嬢でしょう・・・? 何故、私を愛するふりをするのですか? [登場人物] セレア・シャルロット・・・伯爵令嬢。ノア・ヴィアーズの婚約者。ノアのことを建前ではなく本当に愛している。  × ノア・ヴィアーズ・・・王族。セレア・シャルロットの婚約者。 リア・セルナード・・・男爵令嬢。ノア・ヴィアーズと恋仲であると噂が立っている。 アレン・シールベルト・・・伯爵家の一人息子。セレアとは幼い頃から仲が良い友達。実はセレアのことを・・・?

私異世界で成り上がる!! ~家出娘が異世界で極貧生活しながら虎視眈々と頂点を目指す~

春風一
ファンタジー
『いーわよ、そこまで言うならもう、親子の縁なんて切ってやる!! 絶対に成功するから、今に見てなさいよ!!』 如月風歌は、考えるより先に行動する脳筋少女。中学の卒業式の日に、親と大喧嘩し、その勢いで家出する。時空航行船のチケットを握りしめ、着の身着のまま&ほぼ無一文で、異世界に向かっていった。 同じ地球でありながら、魔法で発展した平行世界エレクトラ。この世界に来たのは『シルフィード』と呼ばれる、女性だけがなれる『超人気職業』に就くためだ。 上位階級のシルフィードは、トップアイドルのような存在。また、絶大な人気・知名度・影響力を持ち、誰からも尊敬される、人生の成功者。巨万の富を築いた者も、少なくはない。 だが、お金もない・人脈もない・知識もない。加えて、女子力ゼロで、女らしさの欠片もない。全てがゼロからの、あまりにも無謀すぎる挑戦。しかも、親から勘当を言い渡され、帰る場所すらない状態。 夢に燃えて、意気揚々と異世界に乗り込んだものの、待ち受けていのは、恐ろしく厳しい現実と、パンと水だけの極貧生活だった。 『夢さえ持っていれば、気合さえあれば、絶対に上手くいく!!』と信じて疑わない、脳筋でちょっとお馬鹿な少女。だが、チート並みのコミュ力(無自覚)で、人脈をどんどん広げて行く。 ほのぼの日常系。でも、脳筋主人公のため、トラブルが発生したり、たまにシリアスだったり、スポ根っぽい熱い展開も……。 裸一貫から成り上がる、異世界シンデレラストーリー。

私とお母さんとお好み焼き

white love it
経済・企業
義理の母と二人暮らしの垣谷操。貧しいと思っていたが、義母、京子の経営手腕はなかなかのものだった。 シングルマザーの織りなす経営方法とは?

処理中です...