World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
1,228 / 1,646

教団の目指すもの

しおりを挟む
 「神園還教は世界中にその信者を抱えています。教団の主な活動は、その教えを広めたり慈善活動にあるんですが、無償の救いにも資源やお金が掛かるんです」

 別行動となっていたツクヨ達もまた、街医者のカールに教団のことに関する質問をしていた。カールも彼らが教団に興味を持ってくれたのかと、嬉しそうに神園還教についての話を繰り広げる。

 彼らにとっては願ってもないことだった。自ら教団を探るように情報を集めれば、確かに教団に関する情報や、その中でジークベルト大司教の事を聞けるかもしれない。

 だがそれでは、警備や事前にシンから聞いていた探偵などという、隠れた刺客に疑いの目を向けられてしまうからだった。

 その点カールは、ツクヨとアカリとは面識があり、興味を示した彼らに対し自ら教団の話を始めた。これが彼らにとって非常に都合が良かったのだ。

 教団の話を聞いていくうちに、その中には気になるワードもいくつか含まれていた。それはWoFのユーザーであるツクヨにとっても、こちらの世界で出会ったツバキやアカリにとっても、無視できない内容になっていた。

 そもそも、最初に教団が結成された地というのが、シン達が目指していたアークシティなのだとカールは語った。その時点で驚きの情報だったのだが、カールの語る教団の活動や理念、目的の中にシン達と旅をする中で想いを託されたツバキの目的にも繋がっていたのだ。

 教団の最終的な目的とされているのは、どうやら教団の名前にもなっている通り、神がいるとされている楽園へ還るというものだった。人間はかつて罪を犯し神々の楽園から追放された。

 その際、人間には絶対に克服することが出来ず、許されることのない罪という鎖で、追放された地に繋がれるようになってしまった。それがかの有名な“七つの大罪“と呼ばれる、人間を罪に導く可能性があると見做されてきた欲望や感情のことを指すものだった。

 鎖がある限り、人はその地を離れる事が出来ず、神の楽園へ還ることも出来ない。神園還教はその人の罪を克服し断ち切ることで、追放された地を飛び立ち楽園へと還ること目指していた。

 教団の解釈では、人間が楽園から追放されたという地がこの星であり、神々のいる楽園は星の外、所謂宇宙のどこかにあると信じていた。

 「宇宙だって・・・?」

 「・・・ツバキ・・・」

 ツバキは俯きながら小さな手を握りしめていた。それを見て彼を心配するツクヨは、彼がオルレラの街で出会った少年達や、その子供達の解放の為に尽力していたオスカーの思いを託されていた事を思い出す。

 オルレラの研究所は、アークシティの研究の一環で設けられた施設であり、そこでは宇宙へ飛び立つ為のロケットの燃料として、魔力を集めやすい人間の子供を燃料として使う研究が行われていたのだ。

 会ったばかりのツバキを命懸けで救ってくれた彼らに、これ以上こんなあ悲惨な出来事が行われぬようアークシティの研究を止めてくれと遺言を託されたツバキにとって、その教団の言う宇宙を目指すという目的は、潰すべき対象でもあったのだ。

 「カールさん・・・宇宙へはどうやって向かうのですか?」

 小さく震えるツバキを宥め、ツクヨは彼に代わりその詳細について尋ねる。しかし、教団の中でも末端のものであるカールには、その詳細な内容についてはわかる筈もなかったようだ。

 「これはあくまで教団の掲げる目標であって、宇宙調査の為の口実なのではと思いますが・・・。私が知る限りでは、ロケットという乗り物によって宇宙へと飛び立つそうです。その研究や燃料にもお金が掛かるようで・・・」

 「アンタは、そのロケットに使われる燃料を知っているのか?」

 これまでとは突然様子の変わったツバキが、カールの目も見ずに質問する。その声は怒りに震えていたが、当然カールには何故ツバキの様子が変わったのかなど知る由もなかった。

 「いえ・・・私はそのような話には疎いので。しかし宇宙というのはどんなところなのでしょうなぁ?楽園と言われているほどの場所とあらば、私達では想像もつかない場所なのでしょうなぁ」

 ツバキの様子とは反対に、呑気に本当に存在するのかさえ分からない楽園について妄想するカール。彼は本当にロケットの燃料については知らないようだった。

 無論、ツバキもカールに悪意がないのは分かっている。それに彼がツバキらの心情を知る由もなく、言葉に配慮することすら出来ないのも分かっていた。ツクヨに拳を解くように諭されるツバキは、ストンと肩の力を抜くと分かっているとツクヨに伝え、その上でカールに対しロケットに使われている燃料について、教えることもしなかった。

 「ったく、呑気なもんだな」

 「ははは。あくまでそれは比喩的な表現に過ぎませんよ。要は皆の中から悪意を消し去り、平等で平和な星にしていこうという話です」

 子供にも分かるように、カールは教団の目的を簡略化してツバキに伝える。この時のツバキは、自らの感情を抑え込むことで少しだけ成長し、いつもなら子供扱いされることに口答えしていたが、すんなりとそれを受け入れていた。

 「嘘!?あのツバキさんが大人な対応を!?」

 「悪いかよ?」

 だがあくまでそれは、この祝宴の場と目立つ行いを避けるため、人前では大人しく振る舞っていただけで、ツバキの変化に驚いたアカリの皮肉には、いつもの調子を見せていた。

 結局、カールは教団の表向きな事しか知らなかったようだ。だがその教団の目的というのは、憎きアークシティの非道な研究に繋がっており、話に聞く限りではいずれシン達の前に立ちはだかる“敵“として対立してしまう事になりそうだと、一行は感じていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

全校転移!異能で異世界を巡る!?

小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。 目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。 周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。 取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。 「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」 取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。 そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

処理中です...