World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
1,222 / 1,646

いざ宴の場へ

しおりを挟む
 暫くすると、会場の奥の扉が開き見知った顔がこちらを覗くように見渡している。ジルがシンの伝言をルーカス司祭に伝えてくれたのだろう。

 すぐに一行は彼の元へと向かう。そこで彼らは今後の動きについて司祭から説明を受ける事になる。やはり彼も、このような事態になるのを想定していたのだろう。

 「ここまでは問題なく入れたようですね」

 「あぁ。でもこれからどうする?そっちの会場には一般の俺達じゃぁ普通には入れないみたいなんだが・・・」

 「それについてはご心配なさらず。私があなた方をあちらの会場へ招待します。常に私と行動を共にする事になってしまいますが、その点はご了承ください」

 招待したした人物と行動を共にするのは、その招待した人物が責任を持つという意味もあるようだ。つまり、シン達が変な行動を取らぬよう見張る役割と、その責任を負うリスクをルーカスが背負うという事になる。

 「だがそれでは、俺達はどうやって情報を集める?離れられないのなら、ジークベルト大司教に近づくのも・・・」

 「そうですね・・・。招待客を連れた人物をジークベルトの元へ連れて行くのは難しい・・・。彼も警戒してこの街にやって来たくらいですからね。それに私自身も警戒されているようで、直接話すのも難しい状況です」

 頼りのルーカスがそれでは、彼の依頼をこなすのは難しい。教団に関する情報くらいなら他の者達からも聞き出せるかも知れない。しかし、ジークベルトを詮索していると本人に知られれば、その時点でルーカスの依頼は果たせなくなる。

 「要するに、そこでアタシらの情報収集能力が試されるって事だろ?その為の試験だったんだろ?アレは」

 ミアの言うアレとは、二クラス教会でルーカスから出された、大司教の護衛隊隊長の名前を調べてくるというもの。それはルーカスの所謂、依頼を任せられるかどうかを測る技能試験のようなものだった。

 基本的に盗み聞くか、どこかへ潜入し誰にも気づかれる事なく書物から情報を得る方法しかなかった。それを成し遂げたということは、ルーカスは彼らの能力を認めた事になる。

 「えぇ、その通りです。私にできるのはあくまで会場に連れて行く事だけ。私自身が彼に警戒されている以上、私は彼に近づくことすら出来ない。そこであなた達の出番という訳です」

 「ルーカスさん、先に断っておきますが、あくまで危険と感じたら身を引いていいという約束でしたよね?」

 ツクヨがルーカスに、再度依頼の条件の話を出す。

 「はい、それで構いません。無理だと思ったら下がってください。少しでも怪しまれたらその時点であなた方への依頼は終了という事になります。私もそれについては異論はありません。それに・・・」

 「それに?」

 ルーカスは周囲を気にした様子で辺りを見渡すと、シン達もう一つ重大な情報を持って来ていた。それは彼の依頼をより難航させる要因ともなるものだった。

 「どうやら彼は、この場にかの有名な探偵も連れて来ているようなのです」

 「探偵だって?何だってそんな奴を・・・」

 「自分を探ろうとする者や、その命を狙う者から身を守るためではないでしょうか・・・。これについては予想外でした。正直、ジークベルトと護衛隊の警戒を掻い潜るだけでも厳しいというのに、彼の監視の目まであるとなると・・・」

 しかし、その探偵とやらがどのような事が出来るというのだろう。この世界の探偵がどのように調査を行うのかは分からないが、スキルを用いた潜入や揺動を行えばどうにでもなるのではと思ったツクヨが、ルーカスにその探偵の実力について尋ねる。

 「その探偵ってどのくらい警戒するべき対象なんですか?正直スキルを用いればあまり関係ないようにも感じますが・・・あっ!」

 「お気づきですか?そうです、彼は探知能力に長けているんですよ。つまりスキルの使用に敏感で、あのような場でそんなことをすれば、すぐに彼に勘づかれてしまうでしょう」

 彼らに託された依頼に暗雲が立ち込める。まさかここまで厄介な事になるとは思ってもいなかった一行は、思わず言葉を失う。

 「重ねてお伝えしますが、怪しまれたらその時点で身を引いてください。私もあなた方の身の安全を保証できなくなってしまいますし、勿論私自身も危険に晒されるかもしれませんので」

 「まぁアタシらにとっては、それのおかげで気軽に挑めるってもんだ。アタシらはいつでもいいぜ、案内できる頃合いになったら呼んでくれ」

 「分かりました。ではもう暫くお待ち下さい」

 そういうとルーカスはシン達のいる一般向けの会場を後にし、廊下の奥へと消えていった。残された一行は、向こうの会場に着いたらどのように情報収集を行うのかについて考えていた。

 「でも実際どうするんだい?そんなに警戒が強いんじゃ、シンのスキルもその探偵とやらに・・・」

 シンはそこで、仲間達にも言っていなかったある重要なことを伝える決心をする。決して隠していた訳ではない。だが、まさかそれがこのような形で彼らの前に立ち塞がるとは思っていなかったのだ。

 「実はみんなに一つ、言ってなかったことがあるんだ・・・」

 「言ってなかったこと?」

 「まさかまたとんでもないことを言うんじゃねぇだろうなぁ?」

 完全にツバキの発言がフリになってしまった。言い出しづらいことであるのは間違いないが、それによって彼らの情報収集にどのおような支障をきたすのかは想像できない。

 「実はその探偵に、すでに目をつけられてるかも知れないんだ・・・」

 「はぁ!?

 一行が驚くのも無理もない。そもそもミア達は、その探偵の存在自体を今さっきルーカスの話で初めて知ったのだ。そして何故シンがその探偵に目をつけられているかも知れないかと思うのか尋ねると、ルーカスの依頼に協力していた動きをとっていたのが窺えたからだとシンは語った。

 だが、どうにも腑に落ちない様子のミアは、その探偵の行動について考察し始める。

 「だが何だってそいつは、わざわざ手助けするような真似をしたんだ?」

 「俺もそれは思ったぜ!怪しい奴がいたんなら、そもそも式典やパーティーには近づけさせないようにする筈だろ?」

 「確かに妙ですよね・・・。それを大司教様は知っているのでしょうか?」

 アカリの疑問については全くと言っていいほど分からない。探偵が何を考えグーゲル教会に現れたのか。ジークベルトとの会話によると、彼は教団の依頼で大司教を見守るように言われたと述べていたが、そもそもそれが本当のことなのかさえ怪しい。

 ジークベルト本人の警戒に加え、護衛隊と探偵による警戒もある中でスキルの使用を半ば封じられてしまった一行は、どのようにして情報を集めるのか悩んでいると、思いのほか早くルーカスが彼らの元へ戻って来てしまった。

 会場へ招待する準備が整ったのだろう。一行はついにルーカスから依頼された目的を果たすべく、教団と近隣諸国から集まる要人達の宴の場へと導かれる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

re:birth 〜勇者じゃないと追放された最強職【何でも屋】は、異世界でチートスキル【DIY】で無双します~

華音 楓
ファンタジー
「役立たずの貴様は、この城から出ていけ!」  国王から殺気を含んだ声で告げられtた海人は頷く他なかった。  ある日、異世界に魔王討伐の為に主人公「石立海人」(いしだてかいと)は、勇者として召喚された。  その際に、判明したスキルは、誰にも理解されない【DIY】と【なんでも屋】という隠れ最強職であった。  だが、勇者職を有していなかった主人公は、誰にも理解されることなく勇者ではないという理由で王族を含む全ての城関係者から露骨な侮蔑を受ける事になる。  城に滞在したままでは、命の危険性があった海人は、城から半ば追放される形で王城から追放されることになる。 僅かな金銭で追放された海人は、生活費用を稼ぐ為に冒険者として登録し、生きていくことを余儀なくされた。  この物語は、多くの仲間と出会い、ダンジョンを攻略し、成りあがっていくストーリーである。

「自重知らずの異世界転生者-膨大な魔力を引っさげて異世界デビューしたら、規格外過ぎて自重を求められています-」

mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
 ネットでみつけた『異世界に行ったかもしれないスレ』に書いてあった『異世界に転生する方法』をやってみたら本当に異世界に転生された。  チート能力で豊富な魔力を持っていた俺だったが、目立つのが嫌だったので周囲となんら変わらないよう生活していたが「目立ち過ぎだ!」とか「加減という言葉の意味をもっと勉強して!」と周囲からはなぜか自重を求められた。  なんだよ? それじゃあまるで、俺が自重をどっかに捨ててきたみたいじゃないか!  こうして俺の理不尽で前途多難?な異世界生活が始まりました。  ※注:すべてわかった上で自重してません。

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ
ファンタジー
 相良真一(サガラシンイチ)は社畜ブラックの企業戦士だった。  悪夢のような連勤を乗り越え、漸く帰れるとバスに乗り込んだらまさかの異世界転移。  そこには土下座する幼女女神がいた。 『ごめんなさあああい!!!』  最初っからギャン泣きクライマックス。  社畜が呼び出した国からサクッと逃げ出し、自由を求めて旅立ちます。  真一からシンに名前を改め、別の国に移り住みスローライフ……と思ったら馬鹿王子の世話をする羽目になったり、狩りや採取に精を出したり、馬鹿王子に暴言を吐いたり、冒険者ランクを上げたり、女神の愚痴を聞いたり、馬鹿王子を躾けたり、社会貢献したり……  そんなまったり異世界生活がはじまる――かも?    ブックマーク30000件突破ありがとうございます!!   第13回ファンタジー小説大賞にて、特別賞を頂き書籍化しております。  ♦お知らせ♦  余りモノ異世界人の自由生活、コミックス3巻が発売しました!  漫画は村松麻由先生が担当してくださっています。  よかったらお手に取っていただければ幸いです。    書籍のイラストは万冬しま先生が担当してくださっています。  7巻は6月17日に発送です。地域によって異なりますが、早ければ当日夕方、遅くても2~3日後に書店にお届けになるかと思います。  今回は夏休み帰郷編、ちょっとバトル入りです。  コミカライズの連載は毎月第二水曜に更新となります。  漫画は村松麻由先生が担当してくださいます。  ※基本予約投稿が多いです。  たまに失敗してトチ狂ったことになっています。  原稿作業中は、不規則になったり更新が遅れる可能性があります。  現在原稿作業と、私生活のいろいろで感想にはお返事しておりません。  

王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。 これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。 しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。 それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。 事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。 妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。 故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。

愛されていないはずの婚約者に「貴方に愛されることなど望んでいませんわ」と申し上げたら溺愛されました

海咲雪
恋愛
「セレア、もう一度言う。私はセレアを愛している」 「どうやら、私の愛は伝わっていなかったらしい。これからは思う存分セレアを愛でることにしよう」 「他の男を愛することは婚約者の私が一切認めない。君が愛を注いでいいのも愛を注がれていいのも私だけだ」 貴方が愛しているのはあの男爵令嬢でしょう・・・? 何故、私を愛するふりをするのですか? [登場人物] セレア・シャルロット・・・伯爵令嬢。ノア・ヴィアーズの婚約者。ノアのことを建前ではなく本当に愛している。  × ノア・ヴィアーズ・・・王族。セレア・シャルロットの婚約者。 リア・セルナード・・・男爵令嬢。ノア・ヴィアーズと恋仲であると噂が立っている。 アレン・シールベルト・・・伯爵家の一人息子。セレアとは幼い頃から仲が良い友達。実はセレアのことを・・・?

私異世界で成り上がる!! ~家出娘が異世界で極貧生活しながら虎視眈々と頂点を目指す~

春風一
ファンタジー
『いーわよ、そこまで言うならもう、親子の縁なんて切ってやる!! 絶対に成功するから、今に見てなさいよ!!』 如月風歌は、考えるより先に行動する脳筋少女。中学の卒業式の日に、親と大喧嘩し、その勢いで家出する。時空航行船のチケットを握りしめ、着の身着のまま&ほぼ無一文で、異世界に向かっていった。 同じ地球でありながら、魔法で発展した平行世界エレクトラ。この世界に来たのは『シルフィード』と呼ばれる、女性だけがなれる『超人気職業』に就くためだ。 上位階級のシルフィードは、トップアイドルのような存在。また、絶大な人気・知名度・影響力を持ち、誰からも尊敬される、人生の成功者。巨万の富を築いた者も、少なくはない。 だが、お金もない・人脈もない・知識もない。加えて、女子力ゼロで、女らしさの欠片もない。全てがゼロからの、あまりにも無謀すぎる挑戦。しかも、親から勘当を言い渡され、帰る場所すらない状態。 夢に燃えて、意気揚々と異世界に乗り込んだものの、待ち受けていのは、恐ろしく厳しい現実と、パンと水だけの極貧生活だった。 『夢さえ持っていれば、気合さえあれば、絶対に上手くいく!!』と信じて疑わない、脳筋でちょっとお馬鹿な少女。だが、チート並みのコミュ力(無自覚)で、人脈をどんどん広げて行く。 ほのぼの日常系。でも、脳筋主人公のため、トラブルが発生したり、たまにシリアスだったり、スポ根っぽい熱い展開も……。 裸一貫から成り上がる、異世界シンデレラストーリー。

私とお母さんとお好み焼き

white love it
経済・企業
義理の母と二人暮らしの垣谷操。貧しいと思っていたが、義母、京子の経営手腕はなかなかのものだった。 シングルマザーの織りなす経営方法とは?

処理中です...