World of Fantasia

神代 コウ

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一般会場での情報収集

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 カードの更新にはそれ程時間は掛からなかった。要は写真を撮り、全身をスキャニングするだけなのだ。仮設された個室は複数個あった。それに加え、グーゲル教会の演奏だけを見に来た一般客に関しては、宮殿へは来ていない。

 つまり人数的には少なくなっており、証明書となるカードの更新に掛かる時間は、カードの発行作業よりも短くなっている可能性すらある。

 ミアやツバキに続き、アカリとツクヨと次々にカードの更新を済ませて、宮殿の入り口付近で待っていたシンの元へ続々と集まる。

 それぞれ手には自身の顔写真があるカードを持ち、宮殿内部の受付へと向かう一行は、その入り口でカードの確認をされる。どうやら確認は何重にも行われるようだ。

 一つの関所での確認ではなく、複数箇所の複数人による確認によって、より確かな情報として参加者が本当に本人であるのかを確かめているのだろう。

 「宮殿内部では何度か証明書の確認を求められます。無くされないよう注意して下さい。紛失された際の再発行は致しません。そして式典、並びにパーティーなどの一連の行事の後、カードは処分されますのでご安心ください」

 「どうも」

 中へ通された一行は、案内に従い教団関係者や要人以外が参加する一般のパーティー会場へやってくる。既に多くの人々が会場に入っており、食事や酒を嗜んでいた。

 「おいおい!もう始まってんじゃねぇか!早くしねぇと食いモンが無くなっちまう!」

 「ちょっと待て!目立つ行動は避けろよ?」

 「分かってるって!チッ・・・しょうがねぇ、大人しく並ぶか」

 「アイツは食い物ばかりだな・・・」

 会場に用意されていたのはビュッフェ形式の食事で、基本的に自分達で好きな料理を取り分け、立ったまま食事を行うようだ。一般会場には音楽学校の学生達もおり、その中には学生寮で世話になったクリスと同じくらいの年頃の者達も数多く参加していた。

 「今回の合唱、とても良かったわよ」

 「ありがとうございます」

 一際多くの人々が集まっているところの中心に居たのは、クリスと歳の近い大人びたドレスに身を包んだ可愛らしい女性だった。話を聞く限り、どうやら彼女も音楽学校の学生らしく、先程教会で行われた合唱や演奏にも参加していたらしい。

 手始めに、人の集まるところで情報を集めようと考えた一行は、どうやってジークベルトらが参加している会場へ行けるのかを探る為にも、それぞれ散開することにした。

 シンが最初に張り込みを開始したのは、先程の人だかりを作っていた女学生のところだった。彼女の名前は“ジルヴィア・バンツァー“と言い、他の学生らからは“ジル“と呼ばれ親しまれているようだ。

 ジルは学生らの中でもトップクラスの成績を誇り、将来を期待される優等生のようだ。その歌声や演奏には、彼女の表現豊かな表情や感情は、音楽に疎い素人の心にも響くほど強烈で印象にも残りやすかった。

 ただ、盛り上がる周りとは対照的に彼女の表情は無感情に近い。合唱や演奏の時に見せたその魅力的な表現がまるで嘘のように、片鱗すら伺えない。

 シンの感覚的には、周りの学生らが楽しそうに語るジルのエピソードは、どれも素晴らしい功績を讃えたものばかりで、あたかもジルを持ち上げるような内容のものばかりだった。

 勿論、このような祝宴の場において相応しくない内容の話を聞くよりはよっぽどいいが、どうにも彼女の顔色を窺うような、彼女からの評価を期待するような取り巻きの発言に聞こえてならなかった。

 要する、ジルという成績優秀な生徒の推薦やおこぼれを頂戴しようとする輩の、媚びる会話としてシンには聞こえていたのだ。そして恐らく、ジル自身もそれに気がついているからこその、今の無感情な表情なのだろう。

 「ジルヴィアさん?どうかされましたか?あまり顔色が良くないようですが・・・」

 「いえ、そんなことはありませんわ。ご心配おかけしてしまい申し訳ありません。少し考え事をしておりまして・・・」

 「考え事?今度の演奏会や合唱曲に関係することかしら?」

 「えぇまぁ、そんなところです」

 彼女の演技力が伺えるほど、自然な返しと表現力でそれが本当なのか隠す為の嘘なのか、それを聞いているだけのシンには分からなかった。パーティーに参加する音楽家に通ずる大人達も注目する程のジルは、何か抱えているものはあるようだが作曲が評価せれず、合唱団にも加われないクリスとは真逆の生徒といった印象だった。

 会場の他には、ジル程ではないが他にも大きな人集りが出来ている場所があり、そこに向かったのはミアだった。彼女自身が女性でありながら男性もののスーツを身に纏っていることもあり目立ちそうだが、その人集りを作っていた要因となる人物もまた、中性的な見た目で整った顔立ちをした学生だった。

 彼は有力な音楽家の先生と会話をしている。そのお互いの取り巻きが人集りを作っているといった構造が、ミアの向かった人集りの正体と言えるだろう。その中性的でクールな印象の学生は“レオンハルト・ゲッフェルト“という名前らしく、彼の取り巻きからは“レオン“という愛称で呼ばれていた。

 レオンはその音楽家の先生から、教会での合唱や演奏の評価を受けていた。どうやら彼もジルと同じく成績優秀で音楽家学校でもトップクラスの実力者らしいのだが、彼の欠点は音楽家の先生いわくその表現力らしい。

 才能と実力は持ち合わせているものの、レオンの音楽には感情が乏しく、聴いている者へのメッセージ性や伝えたいものが分かりづらいと言われていた。レオン自身もそれは分かっているようだが、あまり納得しているようには見えなかった。

 彼は感情や表現ではなく、徹底した調律に機密な技術力を評価されたいといった様子だった。あくまで彼の表現する音楽とは、計算され尽くしたものであり、感情やメッセージ性といった不確かで不明瞭なものではない。

 レオンはジルとは真逆の機械的で完璧な演奏者を目指しているのだろうか。ミアがその話を聞く限り、レオンの印象はそういったものを感じていた。
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