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式典への準備
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ルーカスの話を聞いた上で、シンとミアは彼の申し出を承諾した。表立ってジークベルトの近辺調査をすることは許されない。一度でも彼や護衛隊に警戒されれば、ルーカスの依頼を聞き入れることは出来なくなってしまう。
推薦状によりルーカスから式典への出席の許可を得ているとはいえ、重要人物の守りは堅いだろう。その上で彼らの会話を盗み聞く技術や、存在を隠すスキルが試される。
「一ついいか?」
「何でしょう?」
「アンタからその教団の事について聞くことはできるのか?」
「お話しすることは出来ます。ですが、貴方達の目的が表向きの教団というのであれば、この街でも情報を集めることは可能です。私に尋ねるということは、その教団の本質を知りたいのではないですか?」
ルーカスは全てお見通しだった。表向きの教団は、どこにでもあるような神を崇拝し、全ての生き物が救われるよう努める者達という動きや噂ばかりだが、そういったものの背景には、無償で救いを与えるという慈善事業を成り立たせるような仕組みが必ず存在する。
救われる命の向こう側で、反対に何処かでは苦悩を背負わされる者がいる。まるでそれは、一つの命が受ける不幸の肩代わりを全くの見ず知らずの者達が請け負っているという構図が出来上がる。
それはルーカス達が所属する教団の背景だけではないだろう。謂わばどこにでもあるような仕組みなのだ。ただそれは人目に付くことが無いだけで、どの時代、どの世界にもありふれているのかも知れない。
公の場にその仕組みが明るみになった時。その企業や組織、国や一族が排他され消されるだけ。根本的にその仕組みが消えることはないのだろう。
「ジークベルトがアルバを去った後でよければ、私の知る限りの教団のお話はしましょう。なので取引をさせて下さい。私の望みは、今のジークベルトの考えや思想を知りたいのです。詳しくなくてもいい、。彼がどんな人間で、今も誰かを犠牲にするようなやり方をしているのかどうかが知りたいだけ・・・」
欲に溺れた獣を放置した自身の過ちに、ルーカスの表情は曇り下を向いてしまう。
「アンタはそれを知ってどうするんだ?」
「彼がまだ聖職者としての誇りを持っているのならそれでいい。ですが、まだ他人の幸福や生活を搾取し、欲に浸かっているのなら私は私に出来ることをしたい・・・」
だがここまで彼の話を聞いていたのなら、その矛盾にも気がつくはず。ルーカスは権力者となったジークベルトに、今更自分ができる事はないと半ば諦めていた。
ただ知りたいだけ。それが彼の望みのはずだったのだが、自分に出来る事をしたいというのはどういう事なのだろうか。
「知りたいだけと言ったり、出来ることをしたいと言ったり・・・。アンタは何をしようとしている?大司教にまで上り詰めた奴に出来ることがあるのか?」
「彼をどうこうする事は出来ないでしょう。私がしたいのは私の“責任“や“責務“を果たしたいという事です」
要はルーカスは、ジークベルトを野放しにした責任を取ると言っている。それが教団への自白なのか、司祭としての役職の返上なのか。或いはもっと違った形での責任の果たし方なのかは、シンとミアには知る由もない。
だがこれで、式典でジークベルトの調査をするしか教団の本当の話を聞くことは出来ない。マティアスに聞いても、恐らくそれは布教の一環として挙げられる教団の表の顔に過ぎないだろう。
「そうかい・・・。アンタがどうしようと、アタシらには関係ない。だが、依頼を果たしたら話を聞かせてくれ」
「えぇ、お約束しますとも。例え結果が得られずとも、約束は必ず守ります」
ここにシン達とルーカスの間で、取引が成立した。
一行は教会へと戻り、ツクヨ達の元へと戻っていく。早々にツバキから何を話していたという追求を受けるシンとミアだったが、式典の説明と注意事項、そして事前準備が必要であることを説明していたと、ルーカスが代わりに答えた。
「退屈な話になりますので、代表者にだけ軽く説明させていただいておりました」
「んだよ、要するに静かにちゃんとしとけって事だろ?」
「あとは一応教団の式典になりますので、身支度を整えなければなりません。正装は街の仕立て屋に話を通しておきますので、料金はかかりません」
「そうか、正に貴族のパーティーみたいなもんだもんね。流石にこの格好じゃ目立つし場違い・・・かな?」
ツクヨの言葉に自分達の格好を確認する一行は、確かに今のままでは式典に参加しても悪目立ちしてしまう上に、そもそも受付で断られ兼ねないと冷静になる。
「ははは、難しく考えずとも大丈夫ですよ。招待された者や、一部の者達の推薦で参加する方々は別の席へ案内されます。要は周りも皆さんと同じですので、緊張する事はありません」
こちらの世界へ来てからというものの、こういった式典に参加するのは初めてだったシン達。ゲームであるWoF内でも、見た目のアバターを変える装備や装飾もある。
恐らくルーカスが準備してくれるという服装も、そういったステータスには影響しない見た目上の変化を与えるものだろう。
ツバキやアカリも、宴や祭りといったものとは違う厳粛なものに、少し緊張と期待といった感情を持ち合わせているようだった。
推薦状によりルーカスから式典への出席の許可を得ているとはいえ、重要人物の守りは堅いだろう。その上で彼らの会話を盗み聞く技術や、存在を隠すスキルが試される。
「一ついいか?」
「何でしょう?」
「アンタからその教団の事について聞くことはできるのか?」
「お話しすることは出来ます。ですが、貴方達の目的が表向きの教団というのであれば、この街でも情報を集めることは可能です。私に尋ねるということは、その教団の本質を知りたいのではないですか?」
ルーカスは全てお見通しだった。表向きの教団は、どこにでもあるような神を崇拝し、全ての生き物が救われるよう努める者達という動きや噂ばかりだが、そういったものの背景には、無償で救いを与えるという慈善事業を成り立たせるような仕組みが必ず存在する。
救われる命の向こう側で、反対に何処かでは苦悩を背負わされる者がいる。まるでそれは、一つの命が受ける不幸の肩代わりを全くの見ず知らずの者達が請け負っているという構図が出来上がる。
それはルーカス達が所属する教団の背景だけではないだろう。謂わばどこにでもあるような仕組みなのだ。ただそれは人目に付くことが無いだけで、どの時代、どの世界にもありふれているのかも知れない。
公の場にその仕組みが明るみになった時。その企業や組織、国や一族が排他され消されるだけ。根本的にその仕組みが消えることはないのだろう。
「ジークベルトがアルバを去った後でよければ、私の知る限りの教団のお話はしましょう。なので取引をさせて下さい。私の望みは、今のジークベルトの考えや思想を知りたいのです。詳しくなくてもいい、。彼がどんな人間で、今も誰かを犠牲にするようなやり方をしているのかどうかが知りたいだけ・・・」
欲に溺れた獣を放置した自身の過ちに、ルーカスの表情は曇り下を向いてしまう。
「アンタはそれを知ってどうするんだ?」
「彼がまだ聖職者としての誇りを持っているのならそれでいい。ですが、まだ他人の幸福や生活を搾取し、欲に浸かっているのなら私は私に出来ることをしたい・・・」
だがここまで彼の話を聞いていたのなら、その矛盾にも気がつくはず。ルーカスは権力者となったジークベルトに、今更自分ができる事はないと半ば諦めていた。
ただ知りたいだけ。それが彼の望みのはずだったのだが、自分に出来る事をしたいというのはどういう事なのだろうか。
「知りたいだけと言ったり、出来ることをしたいと言ったり・・・。アンタは何をしようとしている?大司教にまで上り詰めた奴に出来ることがあるのか?」
「彼をどうこうする事は出来ないでしょう。私がしたいのは私の“責任“や“責務“を果たしたいという事です」
要はルーカスは、ジークベルトを野放しにした責任を取ると言っている。それが教団への自白なのか、司祭としての役職の返上なのか。或いはもっと違った形での責任の果たし方なのかは、シンとミアには知る由もない。
だがこれで、式典でジークベルトの調査をするしか教団の本当の話を聞くことは出来ない。マティアスに聞いても、恐らくそれは布教の一環として挙げられる教団の表の顔に過ぎないだろう。
「そうかい・・・。アンタがどうしようと、アタシらには関係ない。だが、依頼を果たしたら話を聞かせてくれ」
「えぇ、お約束しますとも。例え結果が得られずとも、約束は必ず守ります」
ここにシン達とルーカスの間で、取引が成立した。
一行は教会へと戻り、ツクヨ達の元へと戻っていく。早々にツバキから何を話していたという追求を受けるシンとミアだったが、式典の説明と注意事項、そして事前準備が必要であることを説明していたと、ルーカスが代わりに答えた。
「退屈な話になりますので、代表者にだけ軽く説明させていただいておりました」
「んだよ、要するに静かにちゃんとしとけって事だろ?」
「あとは一応教団の式典になりますので、身支度を整えなければなりません。正装は街の仕立て屋に話を通しておきますので、料金はかかりません」
「そうか、正に貴族のパーティーみたいなもんだもんね。流石にこの格好じゃ目立つし場違い・・・かな?」
ツクヨの言葉に自分達の格好を確認する一行は、確かに今のままでは式典に参加しても悪目立ちしてしまう上に、そもそも受付で断られ兼ねないと冷静になる。
「ははは、難しく考えずとも大丈夫ですよ。招待された者や、一部の者達の推薦で参加する方々は別の席へ案内されます。要は周りも皆さんと同じですので、緊張する事はありません」
こちらの世界へ来てからというものの、こういった式典に参加するのは初めてだったシン達。ゲームであるWoF内でも、見た目のアバターを変える装備や装飾もある。
恐らくルーカスが準備してくれるという服装も、そういったステータスには影響しない見た目上の変化を与えるものだろう。
ツバキやアカリも、宴や祭りといったものとは違う厳粛なものに、少し緊張と期待といった感情を持ち合わせているようだった。
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