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ルーカス司祭の真意
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「やはり試していたのか・・・」
ボソッと口にしたミアの言葉に、ルーカスは書類に執筆する手を止める。彼は察しがいいなという様子でミアの方を見ると、後で話があると言い推薦状の手配を進める。
教会の者達を使い手配を済ませたルーカスは、子供には話せぬといいツバキとアカリを遠ざけようとする。やはり何か事情があるようだ。それを汲み取ったミアはツバキとアカリの事をツクヨに任せ、シンと二人でルーカスの話を聞きに行く。
「話とは何だ?」
教会の奥の部屋へ案内されたシンとミアは、そこでルーカスの本当の目的を聞かされる事になる。
ルーカスはその昔、ジークベルト大司教と共に別の国で司祭をしていたのだと語る。アルバでのマティアスとルーカスのように、複数ある教会でそれぞれ教団の仕事をこなしていく中で、ジークベルトの噂を耳にしたのだそうだ。
同じ司祭としての付き合いや教団の集まりでは会う機会もあったが、それほど親しい関係性ではなかった二人だったが、互いの働きぶりが教団関係者や信徒達から噂され、いつしかライバルのような関係性と周りに思われるようになっていた。
ルーカス自身にそんなつもりはなかったが、同期のジークベルトは彼の事を意識していたのか、教団での出世の為に色々なことに手を染めているという噂を耳にした。
だがルーカスは自分には関係のない事と、ジークベルトの噂には流されず自分のすべき事をしていた。次第にジークベルトは教団の中でも力を付けていき、ついには大司教にまで成り上がったそうだ。
しかしその功績の裏には、ルーカス達が司祭を務めていた国の人達の犠牲があったことを知った。都合の悪い者達を罪人としたり、不要な接収により一部の者達から巻き上げた金や食糧を教団で使っていたりと、まるで国民を奴隷のように使い自らの立場を優位に進めていたのだ。
教団の者があろうことか自分の私利私欲の為にそんな非道な事をしていたのだと知ったルーカスは、教団の上層部へ何とか話を持っていこうとするが、その動きがジークベルトに気づかれてしまう。
幸い、ルーカスは上層部へ連絡を取ろうとしたところを彼に気づかれてしまっただけで、ジークベルトの事を報告しようとしていたのがバレていた訳ではなかった。
不穏な動きを察したジークベルトは、根回しをしてルーカスの連絡網を断ち、不安要素である彼を別の国の小さな街へと飛ばしてしまうのだった。
未だにジークベルトの黒い噂が真実だったのかは分からない。だが当時の事を思いだせば、貧しい人々の様子や国の情勢は引っ掛かる部分もあった。
熱心な教徒ではなかったルーカスは、あの時自分がもっと親身になって動いていれば、あの国はもっと豊かになったのではないか。ジークベルトを止められていれば彼自身を出世に取り憑かれた亡者にすることも無かったのではないか。
国の行く末やそこで暮らす人々の人生を左右する立場でありながら、自身の無感性が招いた結果に、ルーカスは苦悩を背負うことになってしまった。
大司教となったジークベルトの過去を、今更密告しようとは思わない。今こうして自分があるのも、ジークベルトが出世し、その背景に犠牲があったのも過ぎてしまった“結果“でしかない。
ジークベルトによって飛ばされたルーカスは、自分の今ある立場を守るだけで精一杯だった。上の立場の人間となったジークベルトに、今更歯向かう力など無い。どうしようもない権力の壁に、ルーカスは自分の過ちを呪った。
悪事を働く者だけが悪ではない。それを止められる立場でありながら、行動を起こさなかった無関心な者もまた加害者なのだと、ルーカスはその時初めて実感したのだ。
教団から追放されれば生きていくことすら危うい。後ろめたさや後悔を背負いながら、しがらみの中でルーカスは慎ましく司祭としての役割をただただこなしていく。
何度目かの移動で、ルーカスはこのアルバの街に赴任する事となった。そして今、再びあの時のジークベルト大司教がこの街にやって来る。彼がこの街に滞在するのは僅かな間。
ルーカスは、今も尚彼が良からぬ事をしているのではないかと、彼の事を調べられる人物を探していたのだ。教団に一切関わりがなく、アルバの街の者でもない冒険者がいい。
その中でも、誰にも気づかれる事なく情報を得ることのできる能力を持った者を探していたルーカスは、シン達に目をつけ依頼と称して彼らをテストしていたことを明かした。
「アンタがそこまで大司教を調べたいのは何故だ?もう関わらないと決めたんじゃないのか?」
「私は自分の過ちが招いたその結果が、今どうなっているのか。ジークベルトがアルバへ来ると知った時から、その気持ちが大きくなりました。もう私が彼に近づく機会など訪れないでしょう。真実っを知るには今しかない。“結果“がどうであれ、私は“今“を知りたいのです」
過去を振り返ることは誰にでもあるだろう。あの時のあの人は今どうしているだろう。あの時の町は、あの時の景色は。そしてあの時自分が招いた“結果“は“今“どうなっているのか。
ルーカスの知りたいという欲は、誰の中にでもあるごく普通のありふれたものだ。種族や立場など関係なく、ましてや自分が招いたことで変わった“結果“であれば尚更のことだろう。
シン達にとっても、教団が世界にどのような影響を及ぼす組織なのか。どれほどの力を持った組織なのかを知るのは重要なことだった。
ボソッと口にしたミアの言葉に、ルーカスは書類に執筆する手を止める。彼は察しがいいなという様子でミアの方を見ると、後で話があると言い推薦状の手配を進める。
教会の者達を使い手配を済ませたルーカスは、子供には話せぬといいツバキとアカリを遠ざけようとする。やはり何か事情があるようだ。それを汲み取ったミアはツバキとアカリの事をツクヨに任せ、シンと二人でルーカスの話を聞きに行く。
「話とは何だ?」
教会の奥の部屋へ案内されたシンとミアは、そこでルーカスの本当の目的を聞かされる事になる。
ルーカスはその昔、ジークベルト大司教と共に別の国で司祭をしていたのだと語る。アルバでのマティアスとルーカスのように、複数ある教会でそれぞれ教団の仕事をこなしていく中で、ジークベルトの噂を耳にしたのだそうだ。
同じ司祭としての付き合いや教団の集まりでは会う機会もあったが、それほど親しい関係性ではなかった二人だったが、互いの働きぶりが教団関係者や信徒達から噂され、いつしかライバルのような関係性と周りに思われるようになっていた。
ルーカス自身にそんなつもりはなかったが、同期のジークベルトは彼の事を意識していたのか、教団での出世の為に色々なことに手を染めているという噂を耳にした。
だがルーカスは自分には関係のない事と、ジークベルトの噂には流されず自分のすべき事をしていた。次第にジークベルトは教団の中でも力を付けていき、ついには大司教にまで成り上がったそうだ。
しかしその功績の裏には、ルーカス達が司祭を務めていた国の人達の犠牲があったことを知った。都合の悪い者達を罪人としたり、不要な接収により一部の者達から巻き上げた金や食糧を教団で使っていたりと、まるで国民を奴隷のように使い自らの立場を優位に進めていたのだ。
教団の者があろうことか自分の私利私欲の為にそんな非道な事をしていたのだと知ったルーカスは、教団の上層部へ何とか話を持っていこうとするが、その動きがジークベルトに気づかれてしまう。
幸い、ルーカスは上層部へ連絡を取ろうとしたところを彼に気づかれてしまっただけで、ジークベルトの事を報告しようとしていたのがバレていた訳ではなかった。
不穏な動きを察したジークベルトは、根回しをしてルーカスの連絡網を断ち、不安要素である彼を別の国の小さな街へと飛ばしてしまうのだった。
未だにジークベルトの黒い噂が真実だったのかは分からない。だが当時の事を思いだせば、貧しい人々の様子や国の情勢は引っ掛かる部分もあった。
熱心な教徒ではなかったルーカスは、あの時自分がもっと親身になって動いていれば、あの国はもっと豊かになったのではないか。ジークベルトを止められていれば彼自身を出世に取り憑かれた亡者にすることも無かったのではないか。
国の行く末やそこで暮らす人々の人生を左右する立場でありながら、自身の無感性が招いた結果に、ルーカスは苦悩を背負うことになってしまった。
大司教となったジークベルトの過去を、今更密告しようとは思わない。今こうして自分があるのも、ジークベルトが出世し、その背景に犠牲があったのも過ぎてしまった“結果“でしかない。
ジークベルトによって飛ばされたルーカスは、自分の今ある立場を守るだけで精一杯だった。上の立場の人間となったジークベルトに、今更歯向かう力など無い。どうしようもない権力の壁に、ルーカスは自分の過ちを呪った。
悪事を働く者だけが悪ではない。それを止められる立場でありながら、行動を起こさなかった無関心な者もまた加害者なのだと、ルーカスはその時初めて実感したのだ。
教団から追放されれば生きていくことすら危うい。後ろめたさや後悔を背負いながら、しがらみの中でルーカスは慎ましく司祭としての役割をただただこなしていく。
何度目かの移動で、ルーカスはこのアルバの街に赴任する事となった。そして今、再びあの時のジークベルト大司教がこの街にやって来る。彼がこの街に滞在するのは僅かな間。
ルーカスは、今も尚彼が良からぬ事をしているのではないかと、彼の事を調べられる人物を探していたのだ。教団に一切関わりがなく、アルバの街の者でもない冒険者がいい。
その中でも、誰にも気づかれる事なく情報を得ることのできる能力を持った者を探していたルーカスは、シン達に目をつけ依頼と称して彼らをテストしていたことを明かした。
「アンタがそこまで大司教を調べたいのは何故だ?もう関わらないと決めたんじゃないのか?」
「私は自分の過ちが招いたその結果が、今どうなっているのか。ジークベルトがアルバへ来ると知った時から、その気持ちが大きくなりました。もう私が彼に近づく機会など訪れないでしょう。真実っを知るには今しかない。“結果“がどうであれ、私は“今“を知りたいのです」
過去を振り返ることは誰にでもあるだろう。あの時のあの人は今どうしているだろう。あの時の町は、あの時の景色は。そしてあの時自分が招いた“結果“は“今“どうなっているのか。
ルーカスの知りたいという欲は、誰の中にでもあるごく普通のありふれたものだ。種族や立場など関係なく、ましてや自分が招いたことで変わった“結果“であれば尚更のことだろう。
シン達にとっても、教団が世界にどのような影響を及ぼす組織なのか。どれほどの力を持った組織なのかを知るのは重要なことだった。
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