World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
1,200 / 1,646

諜報活動開始

しおりを挟む
 だが、護衛隊の隊長を調べる伝がなくとも、彼に繋がるであろう情報をアカリが提示する。それはツクヨと共にとある博物館を訪れた時の話だ。そこで二人は警備隊と大司教の護衛隊の見た目の違いを確認している。

 「ツクヨさん、あの博物館は如何でしょう。街医者のカールさんが教えて下さった大司教という方とその護衛の方々。守るべき最重要人物の周りなら、護衛隊の隊長自ら付いていてもおかしくないのではありませんか?」

 「そうか、二人は大司教を見たと言っていたな。まずはそこへ行って様子を見よう」

 一行は二人が足を運んだという博物館へ向かう。その道中、街で見かけた警備隊の姿と、アカリ達が見たという護衛隊の者達の格好の違いについて説明を受ける。

 実際に街中には二人以上のチームを組んで、護衛隊の者達が紛れていた。街の人々はそれが護衛隊なのだと気づいているのか、或いは知らないのか。特にこれといって騒ぎや噂となる様子も見受けられない。

 大司教やその護衛はちょくちょくこの街に来ているのだろうか。観光客が自然にアルバの街の一部として溶け込んでいるように、誰も気にしている様子がないのだ。

 「見慣れない格好・・・という訳でもなさそうだな」

 「アルバの人々にとっては珍しいことでもないのか・・・。確かにそれほど目立つ格好でもないといえばないが・・・」

 所謂、騎士といった重装備の鎧というよりも、ある程度動きやすさを追求した軽装をしたアルバの警備隊。それよりも少しだけ鎧の面積が増え、教会のシンボルが小さく刻まれているのが、護衛隊の装備の違いだった。

 確かに一見してすぐに別の部隊であると見抜くのは難しいかもしれない。階級の違いや役職の違いくらいにしか思わない可能性も十分にある。全く知らない者からしたら、教団の警備隊くらいにしか見えない。

 だが、明確に違いが分かるのはシン達にとっては好都合だった。その護衛隊の隊長がどんな人物なのかは分からないが、少なくとも同じような格好をしているであろうことは想像がつく。

 要するに護衛隊と同じ格好をした者の中に、隊長が紛れているということになるに違いない。注意すべき対象は絞られた。

 一行は、ツクヨとアカリに案内され二人が訪れたという博物館が見えるところまで足を運ぶと、遠巻きに建物の様子を伺う。だが、二人が博物館にやってきた時とは違い、今は警備の者が入り口の前から離れ、客が出入りしていたのだ。

 「あれ?お客さんが普通に入って行ってますね」

 「もう貸切は終わっちゃったみたいだね・・・。まだ近くにいるかな?」

 残念ながら、大司教と護衛の者達は既に博物館を離れてしまったようだ。それでも、博物館の周りには少数だが護衛隊の格好をした者達がちらほら見受けられる。

 「ここで手掛かりが途絶えるのはマズイな・・・。分担して護衛隊の奴らの会話を盗み聞くぞ。そこから更に情報を絞れるかもしれない」

 ミアの提案通り、一行は博物館とその周辺に見える護衛隊へ近づき、隊長の名前に繋がる情報を集めることにした。彼らはそれぞれツクヨとツバキ、ミアとアカリ、そしてシンといった三部隊に別れた。

 シンが一人だけ単独行動になったのは、彼の能力であれば一人の方が動きやすいといった理由だった。一行の中でも特に潜伏や諜報活動に向いているのはシンのアサシンとしての能力であることは、ミアが一番よく知っている。

 手際のいいミアの指示で別れた一行は、シンを建物とその入り口周辺といった一番難しい場所へ。他の者達はその周辺へと分担して諜報活動を行う。

 姉妹のフリをして雑踏に紛れ込んでいたミアとアカリは、親しげに街の様子について適当な会話を繰り広げながら、側の護衛隊の会話を盗み聞く。

 「どうだ?久々に来たんだろ、アルバには。例の彼女にはもう会ったのか?」

 「いや、まだ会えてないんだ。今回はそんなに長く居れねぇってのによぉ・・・」

 「式の後はどうだ?予定じゃ一日くらいは猶予がありそうだっったけど」

 「抜け出すのは難しいだろうなぁ。“アルベルト“のせいで最近息苦しくてよぉ」

 「あぁ、アイツはクソがつく程真面目な野郎だからなぁ。お気の毒に・・・」

 「人事だと思いやがって・・・。お前こそ“ライナー“の部隊はどうなんだ?“デニス“と一緒なんだろ?」

 護衛隊の会話はありふれた日常の会話であった。内容については全く仕事や任務に関係のない愚痴や冗談といったものばかりだったが、幾つか人物の名前が聞こえてきた。

 その中でも仕事や教団の話の中で上がった名前に注意して聞いていくが、確信を持って隊長の名前と言えるようなものは、中々聞くことが出来なかった・

 「どうですかね?隊長さんの名前らしきものはありますか?」

 「さぁな・・・。誰にも聞けない以上、候補を絞るって意味でも可能性のありそうな名前はかたっぱしから記憶しておかないと・・・」

 兄弟のフリをして売店で買った食べ物を分け合うツクヨとツバキもまた、護衛隊の側で休憩しながら、その会話を盗み聞く。

 しかしこちらも、ミア達の方と同じく他愛のない会話ばかりで、中々お目当ての人物名については聞くことが出来ずにいた。

 「んだよ。しょうもない話ばかりしやがってッ・・・」」

 「こんなもんだよ。仕事の合間の休憩なんて、大体は愚痴や誰かの悪口って相場は決まってるんだから」

 「なんだそれ?経験談?」

 「まぁね・・・」

 こちらの世界でも、ツクヨは現実と変わらぬ人々の会話を聞いて、嘗ての会社員としての生活を思い出していた。そんな中、護衛隊の者達が気になる会話を始めた。

 「いいよなぁ、大司教様はよぉ。式典で美味いモンとか待遇のいい接待とか受けるんだろ?やっぱ女とかもあんのかな?」

 「馬鹿、そんな訳ないだろ?でも、俺達もちょっとくらいは良い思いしてぇよな。せめてゆっくり音楽聴くとかよ」

 「そういや“フェリクス“さんも気の毒だよな。何つったっけあの人・・・」

 「あぁ、“アルミン・ニキシュ“だろ?大司教様のお墨付きだってな。あれじゃぁカントルも交代になんのかねぇ」

 人物名が彼らの口から出る度に、ツバキの目がまんまると見開く。バレるからやめろとジェスチャーで伝えながらも、ツクヨのその会話に思わず身を寄せて食い入るように耳を傾ける。

 どうやら教会に関する会話のようだ。幾つか人名が彼らの口から語られたが、二人はそれがどこの誰なのか全く検討もつかない。それでも会話の内容とその人物名をメモし、少しでも手掛かりになりそうな事を探す。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

戦闘職をしたくてVRMMOを始めましたが、意図せずユニークテイマーという職業になったので全力でスローライフを目指します

地球
ファンタジー
「え?何この職業?」 初めてVRMMOを始めようとしていた主人公滝沢賢治。 やろうと決めた瞬間、戦闘職を選んでいた矢先に突然出てきた職業は【ユニークテイマー】だった。 そのゲームの名はFree Infinity Online 世界初であるフルダイブ型のVRゲームであり、AIがプレイヤーの様子や行動を把握しイベントなどを考えられるゲームであった。 そこで出会った職業【ユニークテイマー】 この職業で、戦闘ではなくてスローライフを!! しかし、スローライフをすぐにはできるわけもなく…?

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

全校転移!異能で異世界を巡る!?

小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。 目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。 周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。 取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。 「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」 取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。 そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。

処理中です...