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博物館での騒動
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案内された先で、二人は幾つかの部屋を巡りながらそこで映像と音声による解説、そして当時の楽器などによる演奏の様子を体験しながら、この世界の音楽の父バッハの歴史をその目と耳と全身で体験する。
事前の知識無しでは、流石に難しい単語や言葉などが使われており、理解が難しいところもあったが各所に設けられていたパネルで検索することができ、音楽についての知識が少しだけ身についたような気がした二人だった。
「思ったより時間掛からなかったね。歴史を体験なんて言うから、まさかお昼過ぎちゃうんじゃないかって、内心ドキドキしてたけど」
「そうですね。でも有意義な時間を過ごせました!私、以前にも音楽というものを嗜んだ事があるのかしら・・・すごく馴染み深かったように感じます」
「本当かい?それはよかった。もしかしたアカリも、音楽で有名な名家のお嬢様だったりしてね」
「ふふふ、それなら一刻も早く記憶を取り戻して舞台に戻らないと。ですわね」
楽しそうな会話をしながら二人は、シン達へ何かお土産でも買って帰ろうと売店で商品を眺めていた。
すると、彼らの後を追うように男女のペアが体験型展示の部屋から、ロビーへと戻ってきた。しかし、ツクヨとアカリとは違い、そのペアの女性の方は酷く不機嫌そうに腕を組みながら声を荒立てていた。
「何よ!こんなの都合のいいように他の人達が改竄した、作り物歴史じゃない!」
「お静かに!他に誰が聞いているやもしれません」
「聞きたければ聞かせておけばいいわ!商売の為、綺麗事ばかり並べ連ねて。どんなに業界に貢献しても、こんな不当な扱いをされるなんて私は嫌よ!」
騒ぎを聞きつけた職員と警備が集まりだし、その男女のところへと集まる。一生懸命何かを説明し、何度も頭を下げる男に対し、女は全く聞く耳を持たないといった様子でそっぽを向いている。
「誰もが楽しめるもの・・・という訳ではないのですね・・・」
「何にしてもそうだよ。万人がいつ如何なる時も、喜び楽しめるものっていうのは存在しないと私は思う。あの女性も、今はただ虫の居所が悪かっただけなんじゃないかな。或いは・・・」
何かを言いかけたところで言葉に詰まるツクヨ。その様子に気づいたアカリが彼の顔を覗き込むようにして見上げると、ふと我に帰ったかのように言葉を続けた。
「あぁ・・・ごめん。或いは、彼女は本当の何かを知っているのかもしれないね・・・。世に出てない真実とか、自分しか知り得なかった出来事とか・・・」
ツクヨの中に思い出されたのは、現実世界で彼の家庭を襲った悲劇。記憶を失っているという点では、ツクヨもアカリと同じように、あの夜自宅に帰ってからの重要な記憶が全くない。
本当の意味で自我を取り戻した時には、既に一人ぼっちになっていた。その間に何があってどんなことが分かったのか。警察は本当に犯人を追ってくれているのだろうか。自分に何か隠してはいないだろうか。
そんな疑いを持つ事もあった。自分しか知り得ないこと。それはツクヨの失われた記憶の中にもあるのではないか。その記憶さえ戻れば、あの悲劇を生んだ犯人に繋がる重要なヒントが出てくるかもしれない。
「大丈夫・・・ですか?少し休んでいかれますか?」
心配そうに語りかけるアカリに、空元気で応えるツクヨ。少なくとも、個人的な理由で周りの仲間達にいらぬ心配はかけたくない。ましてやツバキやアカリのようにまだ大人と呼ぶには早い者達に、嫌な思いをさせたくないというのがツクヨの気持ちだった。
だがこれも、あの女が騒ぎ立ててたように都合の悪いものを隠し、成功したところや綺麗なところばかりを飾り立てるのと同じ事なのかもしれない。
真実を知らずに歴史を知るということは、そこにあった苦労や犠牲も知らずに受け継がれていくということ。綺麗なものばかり見て育った者は、綺麗なものしか知らない。それで本当に正しい歴史と言えるのだろうか。
しかし、実際にはこの博物館で体験したことの中には、物語を引き立てるスパイスのように挫折や苦労といった場面もいくつか描かれていたのは間違いない。あの女が見たものと同じものを、ツクヨとアカリも見てきたのだから間違いない。
その上であの台詞を吐き捨てるということは、よっぽど彼女の機嫌が悪かったか、癇に障ることでもあったのだろう。
トラブルに巻き込まれない内に建物を出ようとする。その去り際、聞こえてきた言葉の中に、先程騒ぎ立てていた女の名前らしきものを耳にしたツクヨ。
その女は共にいた男から“カタリナ様“と呼ばれていた。どうやら二人の関係は夫妻や恋人といったものではなく、主人と従者だったらしい。今にして思えば、立派なスーツを着込んだ男と美しくも飾り気のない落ち着いたドレスで現れた彼らは、まるでどこかの貴族のような風貌にも見えた。
バッハ博物館を出た二人はいい時間ともなり、宿屋で待つシン達の為の昼食を探し始めた。昨夜ミアが気を利かせて買ってきたサラダが気に入った様子のアカリは、他にも美味しそうなサラダはないかと既に目的のものを定めていた。
彼女がサイドメニューを決めているのなら、メインとなるものは自分が決めなくてはと一人責任を感じるツクヨは、昼食という事もありある程度腹に溜まるものがいいと、アカリのサラダ選びに付き合いながらも他のメニューを探し回った。
事前の知識無しでは、流石に難しい単語や言葉などが使われており、理解が難しいところもあったが各所に設けられていたパネルで検索することができ、音楽についての知識が少しだけ身についたような気がした二人だった。
「思ったより時間掛からなかったね。歴史を体験なんて言うから、まさかお昼過ぎちゃうんじゃないかって、内心ドキドキしてたけど」
「そうですね。でも有意義な時間を過ごせました!私、以前にも音楽というものを嗜んだ事があるのかしら・・・すごく馴染み深かったように感じます」
「本当かい?それはよかった。もしかしたアカリも、音楽で有名な名家のお嬢様だったりしてね」
「ふふふ、それなら一刻も早く記憶を取り戻して舞台に戻らないと。ですわね」
楽しそうな会話をしながら二人は、シン達へ何かお土産でも買って帰ろうと売店で商品を眺めていた。
すると、彼らの後を追うように男女のペアが体験型展示の部屋から、ロビーへと戻ってきた。しかし、ツクヨとアカリとは違い、そのペアの女性の方は酷く不機嫌そうに腕を組みながら声を荒立てていた。
「何よ!こんなの都合のいいように他の人達が改竄した、作り物歴史じゃない!」
「お静かに!他に誰が聞いているやもしれません」
「聞きたければ聞かせておけばいいわ!商売の為、綺麗事ばかり並べ連ねて。どんなに業界に貢献しても、こんな不当な扱いをされるなんて私は嫌よ!」
騒ぎを聞きつけた職員と警備が集まりだし、その男女のところへと集まる。一生懸命何かを説明し、何度も頭を下げる男に対し、女は全く聞く耳を持たないといった様子でそっぽを向いている。
「誰もが楽しめるもの・・・という訳ではないのですね・・・」
「何にしてもそうだよ。万人がいつ如何なる時も、喜び楽しめるものっていうのは存在しないと私は思う。あの女性も、今はただ虫の居所が悪かっただけなんじゃないかな。或いは・・・」
何かを言いかけたところで言葉に詰まるツクヨ。その様子に気づいたアカリが彼の顔を覗き込むようにして見上げると、ふと我に帰ったかのように言葉を続けた。
「あぁ・・・ごめん。或いは、彼女は本当の何かを知っているのかもしれないね・・・。世に出てない真実とか、自分しか知り得なかった出来事とか・・・」
ツクヨの中に思い出されたのは、現実世界で彼の家庭を襲った悲劇。記憶を失っているという点では、ツクヨもアカリと同じように、あの夜自宅に帰ってからの重要な記憶が全くない。
本当の意味で自我を取り戻した時には、既に一人ぼっちになっていた。その間に何があってどんなことが分かったのか。警察は本当に犯人を追ってくれているのだろうか。自分に何か隠してはいないだろうか。
そんな疑いを持つ事もあった。自分しか知り得ないこと。それはツクヨの失われた記憶の中にもあるのではないか。その記憶さえ戻れば、あの悲劇を生んだ犯人に繋がる重要なヒントが出てくるかもしれない。
「大丈夫・・・ですか?少し休んでいかれますか?」
心配そうに語りかけるアカリに、空元気で応えるツクヨ。少なくとも、個人的な理由で周りの仲間達にいらぬ心配はかけたくない。ましてやツバキやアカリのようにまだ大人と呼ぶには早い者達に、嫌な思いをさせたくないというのがツクヨの気持ちだった。
だがこれも、あの女が騒ぎ立ててたように都合の悪いものを隠し、成功したところや綺麗なところばかりを飾り立てるのと同じ事なのかもしれない。
真実を知らずに歴史を知るということは、そこにあった苦労や犠牲も知らずに受け継がれていくということ。綺麗なものばかり見て育った者は、綺麗なものしか知らない。それで本当に正しい歴史と言えるのだろうか。
しかし、実際にはこの博物館で体験したことの中には、物語を引き立てるスパイスのように挫折や苦労といった場面もいくつか描かれていたのは間違いない。あの女が見たものと同じものを、ツクヨとアカリも見てきたのだから間違いない。
その上であの台詞を吐き捨てるということは、よっぽど彼女の機嫌が悪かったか、癇に障ることでもあったのだろう。
トラブルに巻き込まれない内に建物を出ようとする。その去り際、聞こえてきた言葉の中に、先程騒ぎ立てていた女の名前らしきものを耳にしたツクヨ。
その女は共にいた男から“カタリナ様“と呼ばれていた。どうやら二人の関係は夫妻や恋人といったものではなく、主人と従者だったらしい。今にして思えば、立派なスーツを着込んだ男と美しくも飾り気のない落ち着いたドレスで現れた彼らは、まるでどこかの貴族のような風貌にも見えた。
バッハ博物館を出た二人はいい時間ともなり、宿屋で待つシン達の為の昼食を探し始めた。昨夜ミアが気を利かせて買ってきたサラダが気に入った様子のアカリは、他にも美味しそうなサラダはないかと既に目的のものを定めていた。
彼女がサイドメニューを決めているのなら、メインとなるものは自分が決めなくてはと一人責任を感じるツクヨは、昼食という事もありある程度腹に溜まるものがいいと、アカリのサラダ選びに付き合いながらも他のメニューを探し回った。
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