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ギルドの手際
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商人の馬車が止まって間も無く、追手のモンスター達は既にあらかた片付けられていた。余程ギルドの連携が成っているのだろう。先に飛び降りたナイトの男の動きに合わせ、他の馬車から飛び降りたギルドの傭兵達が手際よく群がるモンスターを狩っていき、あっという間にその数を減らした。
ツクヨが馬車を降り、駆け付けた時には後続組のモンスターと鉢合わせる形になり、苦戦する事なくあっさりと撃退してしまった。
「あっ・・・ツバキから貰った指輪試すの忘れてた・・・」
「おう!さっきの兄ちゃんか。あの坊主の腕輪、助かったぜぇ」
「ちゃんと効果があったんですか?」
「そりゃぁ勿論!タンク役には丁度いいアクセサリーだぜ!んじゃぁ取り敢えず馬車の周りに陣形を展開して、周囲にモンスターの気配が無かった出発するぜぇ」
一行は鉾を納め、足を止めた馬車の周りへと移動していく。中で周囲の気配を探知しているギルドの仲間に、追手を排除したことを伝え、周りに他の気配がないかどうかを探らせる。
警戒はギルド側でやっておくとナイトの男が、同行する冒険者達に伝えると彼らだけ先に馬車へと乗り込む。
「早かったな、ツクヨ」
「うん、意気揚々と飛び出したのは良かったものの、到着する頃にはもうだいぶ片付いていてね・・・。ツバキのアクセサリーを試す暇もなかったよ」
「まぁいいんじゃねぇの?ダメージを無効にするのは、あくまで限度がある。耐久値が無くなるとそのまま壊れちまうから、寿命が伸びたと思えばいい」
弱いダメージを無効化するのにも、数値が設けてあるようで、それが上限の数値に達することでアクセサリーの耐久値が無くなり、消滅してしまうのだとツバキは語る。
「それよりなんだよ?俺の作った物が信用ならねぇってのかぁ!?」
「そうじゃないけど、試してみたくなるじゃないか。それにどんどん使ってくれって言ってくれたじゃないか」
「焦る必要はねぇって。なんなら俺がぶん殴ってやろうか?」
冗談を繰り広げるツクヨ達を尻目に、アカリは何やらモゾモゾと動いている紅葉を宥めていた。
「ん?紅葉、どうかしたのかい?」
「どうやらあの方の気配感知を真似ているようなんです。ただ、あんまり自由にさせておくと迷惑になっちゃうんじゃないかって・・・」
申し訳なさそうにするアカリは、周囲の気配を探るギルドの傭兵の方へ視線を向ける。アカリとツクヨの声を聞いていたのだろう。男は片目だけ開いて彼らに声をかけた。
「それぐらい大丈夫だよ、お嬢ちゃん。悪いね、窮屈な思いさせちゃって」
「いえ、そんな事ありませんわ」
アカリは少し困った様子で紅葉と顔を見合わせ、じっとしてるように言い聞かせる。
暫くして、気配を探っていた男が突然ゆっくりと立ち上がり、馬車の外で待機するギルドの者達に声を掛ける。
「大丈夫だ!近くに気配はない」
「おう!そんじゃぁ出発するとしますかぁ!」
降りていた者達が全員馬車に乗り込むのを確認した商人は、号令を出し一斉に動き始めた。商人の見込みでは、旅は順調に進んでいるそうだ。
モンスターによる襲撃も、普段の時よりも少ないらしい。それに今回の護衛は数が多く戦力的にも心強い。彼らも心に余裕が生まれたのだろうか、一行の戦いぶりを見てすっかり安心しきった商人は、様々な街や村で経験した陽気な話を語り始めた。
心地のいい揺れと、他愛のない商人の話がアクセントとなり彼らの眠気を誘う。何度も頭をカクカクと縦に揺らすアカリやツクヨ。シンとミアは眠気こそ感じてはいるものの、まだ意識は保っている。
「眠かったら眠ってもいいんだぞ?」
ナイトの男は腕を組みながら目をとしているが、目を休めているだけのようだった。他のギルドの人物達は、こういった馬車の旅に慣れているのか、思い思いに武器の手入れをしたり、暇潰しの道具で遊んでいた。
「陸はどうにも慣れねぇぜ・・・。海の心地よさとはだいぶ違う」
「ほう?坊主は海の出身か?」
「あぁ、物心ついた頃から俺ぁ海と共にあった。潮風の匂いや海の味が俺を育てたようなもんだ」
ツバキは一行の中でも最も睡眠をとっていた為、全くと言っていいほど眠気など感じていないようだった。その代わりと言ってはなんだが、慣れない馬車の旅に僅かながら酔いを感じているようだった。
「それは?」
シンはツバキが手元で見慣れない道具を使いながら、アクセサリーに何かしているのを目で追う。
「暇だからよぉ。色々試作品を作ってんだ」
「作業場が無くての作れるのか?」
「それも付与する物や効果によって違うな。要はすんげぇ物が作りたかったら、それなりの機材や環境が必要ってこった。それに使う材料によっても変わってくる」
「へぇ、色々あんだなぁ。それにしても器用なもんだ。こりゃぁ今後は一流の加工師かねぇ?」
ギルドの男が感心してツバキの手元を眺めている。ウィリアムから学んだ手先の器用さを褒められ、気分が良くなったのかツバキは嬉しそうに続けた。
「一流の加工師・・・ねぇ。それも悪くねぇが、それは俺にとって通過点だな」
「ははは!これは恐れ入った!とんだビッグマウスっぷりだな、坊主!」
「何回坊主って言うんだよ!」
エレジアを出発したのは昼前。今はすっかり日も落ち、あたりは夕焼け空で真っ赤に染まっていた。
「皆さん、今日の旅路はここまでにしましょう。近くに村があります。今日はそこで一夜を明かすとしましょう」
馬車の中から外を覗くと、既に進路の先には明かりの灯る村が小さく見え始めていた。数日に及ぶ旅路。一行は無茶する事なく、安全を第一とし一時の休息を取る。
ツクヨが馬車を降り、駆け付けた時には後続組のモンスターと鉢合わせる形になり、苦戦する事なくあっさりと撃退してしまった。
「あっ・・・ツバキから貰った指輪試すの忘れてた・・・」
「おう!さっきの兄ちゃんか。あの坊主の腕輪、助かったぜぇ」
「ちゃんと効果があったんですか?」
「そりゃぁ勿論!タンク役には丁度いいアクセサリーだぜ!んじゃぁ取り敢えず馬車の周りに陣形を展開して、周囲にモンスターの気配が無かった出発するぜぇ」
一行は鉾を納め、足を止めた馬車の周りへと移動していく。中で周囲の気配を探知しているギルドの仲間に、追手を排除したことを伝え、周りに他の気配がないかどうかを探らせる。
警戒はギルド側でやっておくとナイトの男が、同行する冒険者達に伝えると彼らだけ先に馬車へと乗り込む。
「早かったな、ツクヨ」
「うん、意気揚々と飛び出したのは良かったものの、到着する頃にはもうだいぶ片付いていてね・・・。ツバキのアクセサリーを試す暇もなかったよ」
「まぁいいんじゃねぇの?ダメージを無効にするのは、あくまで限度がある。耐久値が無くなるとそのまま壊れちまうから、寿命が伸びたと思えばいい」
弱いダメージを無効化するのにも、数値が設けてあるようで、それが上限の数値に達することでアクセサリーの耐久値が無くなり、消滅してしまうのだとツバキは語る。
「それよりなんだよ?俺の作った物が信用ならねぇってのかぁ!?」
「そうじゃないけど、試してみたくなるじゃないか。それにどんどん使ってくれって言ってくれたじゃないか」
「焦る必要はねぇって。なんなら俺がぶん殴ってやろうか?」
冗談を繰り広げるツクヨ達を尻目に、アカリは何やらモゾモゾと動いている紅葉を宥めていた。
「ん?紅葉、どうかしたのかい?」
「どうやらあの方の気配感知を真似ているようなんです。ただ、あんまり自由にさせておくと迷惑になっちゃうんじゃないかって・・・」
申し訳なさそうにするアカリは、周囲の気配を探るギルドの傭兵の方へ視線を向ける。アカリとツクヨの声を聞いていたのだろう。男は片目だけ開いて彼らに声をかけた。
「それぐらい大丈夫だよ、お嬢ちゃん。悪いね、窮屈な思いさせちゃって」
「いえ、そんな事ありませんわ」
アカリは少し困った様子で紅葉と顔を見合わせ、じっとしてるように言い聞かせる。
暫くして、気配を探っていた男が突然ゆっくりと立ち上がり、馬車の外で待機するギルドの者達に声を掛ける。
「大丈夫だ!近くに気配はない」
「おう!そんじゃぁ出発するとしますかぁ!」
降りていた者達が全員馬車に乗り込むのを確認した商人は、号令を出し一斉に動き始めた。商人の見込みでは、旅は順調に進んでいるそうだ。
モンスターによる襲撃も、普段の時よりも少ないらしい。それに今回の護衛は数が多く戦力的にも心強い。彼らも心に余裕が生まれたのだろうか、一行の戦いぶりを見てすっかり安心しきった商人は、様々な街や村で経験した陽気な話を語り始めた。
心地のいい揺れと、他愛のない商人の話がアクセントとなり彼らの眠気を誘う。何度も頭をカクカクと縦に揺らすアカリやツクヨ。シンとミアは眠気こそ感じてはいるものの、まだ意識は保っている。
「眠かったら眠ってもいいんだぞ?」
ナイトの男は腕を組みながら目をとしているが、目を休めているだけのようだった。他のギルドの人物達は、こういった馬車の旅に慣れているのか、思い思いに武器の手入れをしたり、暇潰しの道具で遊んでいた。
「陸はどうにも慣れねぇぜ・・・。海の心地よさとはだいぶ違う」
「ほう?坊主は海の出身か?」
「あぁ、物心ついた頃から俺ぁ海と共にあった。潮風の匂いや海の味が俺を育てたようなもんだ」
ツバキは一行の中でも最も睡眠をとっていた為、全くと言っていいほど眠気など感じていないようだった。その代わりと言ってはなんだが、慣れない馬車の旅に僅かながら酔いを感じているようだった。
「それは?」
シンはツバキが手元で見慣れない道具を使いながら、アクセサリーに何かしているのを目で追う。
「暇だからよぉ。色々試作品を作ってんだ」
「作業場が無くての作れるのか?」
「それも付与する物や効果によって違うな。要はすんげぇ物が作りたかったら、それなりの機材や環境が必要ってこった。それに使う材料によっても変わってくる」
「へぇ、色々あんだなぁ。それにしても器用なもんだ。こりゃぁ今後は一流の加工師かねぇ?」
ギルドの男が感心してツバキの手元を眺めている。ウィリアムから学んだ手先の器用さを褒められ、気分が良くなったのかツバキは嬉しそうに続けた。
「一流の加工師・・・ねぇ。それも悪くねぇが、それは俺にとって通過点だな」
「ははは!これは恐れ入った!とんだビッグマウスっぷりだな、坊主!」
「何回坊主って言うんだよ!」
エレジアを出発したのは昼前。今はすっかり日も落ち、あたりは夕焼け空で真っ赤に染まっていた。
「皆さん、今日の旅路はここまでにしましょう。近くに村があります。今日はそこで一夜を明かすとしましょう」
馬車の中から外を覗くと、既に進路の先には明かりの灯る村が小さく見え始めていた。数日に及ぶ旅路。一行は無茶する事なく、安全を第一とし一時の休息を取る。
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