1,140 / 1,646
帰らぬ者が帰る場所
しおりを挟む
何にせよ、すぐに獣人族がアークシティへの報復行為を行わないと知り安堵するシン。ダラーヒムの治療は研究員の者達とその手伝いをする人間やエルフ達に任せ、アズールと側近のケルムそしてシンの三人は治療室を後にした。
「さて、後は奴が目覚めるのを待つだけだ。お前も何か用事があったからクエストに出ていたんだろ?」
シンは広場の少年との約束を思い出し、クエストで採取した花を彼の元へ届けるのだとアズールに伝える。すると、アズールやケムルは顔を見合わせ、シンの言う少年が何をしようとしているのかを悟る。
「そうか・・・まさか子供までもがな」
「今ではそう珍しくもないことだよ、アズール。昔以上に行方不明になる仲間達は増えていた。一種の風習のようになりつつあるようだ。実際、あれは我々が帰るための目印にもなる」
鼻の利く彼らだからこその目印。だがその実、エルフ達にとっても獣人族のアジトがどこにあるのかを突き止めるのに利用されていた事を、ケルムは街のエルフ族から耳にしたらしい。
「それでか。妙にエルフ達を見ないようになったのは。まさか上手いこと利用されていたとはな・・・。今となっては、森の者達にとって大きな意味をなしているようで何よりだ」
嘗ては出会わぬようにしていた目印が、今となっては森で孤立してしまった者や逸れてしまった者達を、種族関係なく匿い助け合える関係性になったリナムルの森の住人達。
だがそれもいつまで続くかは分からない。ケツァルの意思を継ぎ、彼と共に一族の繁栄を願い、種族間の隔たりを超えて一丸となる道を歩んでいたケルムだからこそ、そのいつか来るである仲違いの時を案じていた。
「しかし、この関係性もいつまで保つは分からない・・・。我々が人間やエルフにしてきたことも、とてもではないが許される事ではない」
「分かっている。それを償うのも、残された者達の役目だ。願わくば、子供達のその先の世代の頃には、全ての蟠りがなくなり、本当の意味で種族など関係なく協力関係を築けていられれば幸いだ」
アズールが研究員達を連れて逃げて来たのも、そんな彼らの償いの一つなのだろうか。実際のところ、研究所襲撃に最も人員と労力を割いたのは獣人族だった。しかしだからといって彼らだけで全てを成し得たとは思えない。
偶然にしろ運命にしろ、シン達がリナムルを目指さなければ、同じくダラーヒムが彼らと共に馬車であの道を通らなければ、今の状況は生まれていなかっただろう。
黒いコートの人物が言うように、これがクエストの一環だとするならばシン達を含め、森の住人達の勝利と言うことになるだろう。
襲撃から恥めったリナムルでの出会いとクエストは、これまでの国や街と同様に新たな未来へと歩き出したのだろうか。
アズールらと別れ、獣人の子供と出会った場所へ向かったシン。だが、流石に彼もあれからずっとその場所にいるはずもなく、そこには少年が立てた目印と彼が用意した物だろうか、木で作られたお皿にちょっとした料理が添えられていた。
「これじゃまるでお墓だな」
シンは目印の側に置かれた料理の匂いに誘われすぐ側にまで歩み寄ると、関所から持ってきた花を一緒に添える。
「これでみんな・・・帰ってくる・・・?」
陽が森の向こう側へ沈んでいこうとしている。外は徐々に暗くなっていき、森はその形相をガラリと変える。リナムルの街には火を用いた街灯もあり、夜でも街中を散策できるが、森の中は人間にとっては光も届かぬ真っ暗闇と化す。
帰り道が分からなくなる前に、ツクヨやミア達と泊まっている宿へと戻るシン。獣人族のアジトとなっていた、リナムル中央にある巨大樹。多くの者達が出入りするそこには、研究員らの持ち込んだ資料に夢中になっていた筈のツバキやアカリが、シンの帰りを出迎えていた。
「おせぇよ!俺達に黙ってどこ行ってたんだぁ?」
「心配してたんですよ?もう!」
「ごっごめん!黙って行くつもりはなかったんだけどさぁ・・・」
歩み寄りながら言い訳を垂れるシンに、二人はプリプリと怒りながらも、彼を叩きながらも関係性が良好でなければ行われないようなスキンシップをとっていた。
しかし、中々建物の中へ入ろうとしない二人にシンは何故戻らないのかと問う。
「分からねぇのかぁ~!?アンタと一緒で何も言わずに出てった奴が、あと二人帰ってきてねぇ~からだよ!」
「シンさんにも一緒に、外で待っててもらいますからね!」
「ピィー!」
アカリの腕に抱かれた紅葉は、リナムルでの一件を経て一回り大きくなり、その体毛は更に赤く染まっていた。二人に叱られたシンは、大人しく彼らの指示にしたが外でミアとツクヨの帰りを待つことになった。
リナムルの街は昼夜問わず多くの人が復興作業にあたっており、忙しくもあるが常に活気にもにた賑わいの声に包まれている。
街を照らす街灯は、暖かな橙色で染め上げ、賑わいの声を聞いていると安心感を覚え、夜中だというのに外に出ていると心は高揚した。
「まるでお祭りみたいだな」
「お祭り・・・ですか?」
「何だぁ?オメェ祭りも知らねぇのか?」
未だ記憶の戻らぬ様子のアカリは、真の口にした祭りというものに興味津々だった。それを煽るツバキがシンに変わり、祭りの何たるかを彼女に説明していた。賑わう街には、働く者達の為に食べ物を作る仮設の屋台も設置されており、美味そうな匂いが彼らの腹を刺激する。
「私、その屋台というのに行ってみたいですわ!」
「おいおい、俺達ぁミアとツクヨを待ってんだろ?せめて帰って来てからにしろや。なぁ?シン」
「え?・・・あぁ、そうだな。みんなで回った方が、きっと楽しいな」
誰かとこうして祭りを楽しむ事など、現実の世界で経験のなかったシンにとってはアカリの気持ちがよく分かった。だがこういうものは、家族や友達、親しい者達と同じ時を過ごすことこそが大事なのだろうと、早る気持ちを抑え大人の対応を二人に見せた。
「さて、後は奴が目覚めるのを待つだけだ。お前も何か用事があったからクエストに出ていたんだろ?」
シンは広場の少年との約束を思い出し、クエストで採取した花を彼の元へ届けるのだとアズールに伝える。すると、アズールやケムルは顔を見合わせ、シンの言う少年が何をしようとしているのかを悟る。
「そうか・・・まさか子供までもがな」
「今ではそう珍しくもないことだよ、アズール。昔以上に行方不明になる仲間達は増えていた。一種の風習のようになりつつあるようだ。実際、あれは我々が帰るための目印にもなる」
鼻の利く彼らだからこその目印。だがその実、エルフ達にとっても獣人族のアジトがどこにあるのかを突き止めるのに利用されていた事を、ケルムは街のエルフ族から耳にしたらしい。
「それでか。妙にエルフ達を見ないようになったのは。まさか上手いこと利用されていたとはな・・・。今となっては、森の者達にとって大きな意味をなしているようで何よりだ」
嘗ては出会わぬようにしていた目印が、今となっては森で孤立してしまった者や逸れてしまった者達を、種族関係なく匿い助け合える関係性になったリナムルの森の住人達。
だがそれもいつまで続くかは分からない。ケツァルの意思を継ぎ、彼と共に一族の繁栄を願い、種族間の隔たりを超えて一丸となる道を歩んでいたケルムだからこそ、そのいつか来るである仲違いの時を案じていた。
「しかし、この関係性もいつまで保つは分からない・・・。我々が人間やエルフにしてきたことも、とてもではないが許される事ではない」
「分かっている。それを償うのも、残された者達の役目だ。願わくば、子供達のその先の世代の頃には、全ての蟠りがなくなり、本当の意味で種族など関係なく協力関係を築けていられれば幸いだ」
アズールが研究員達を連れて逃げて来たのも、そんな彼らの償いの一つなのだろうか。実際のところ、研究所襲撃に最も人員と労力を割いたのは獣人族だった。しかしだからといって彼らだけで全てを成し得たとは思えない。
偶然にしろ運命にしろ、シン達がリナムルを目指さなければ、同じくダラーヒムが彼らと共に馬車であの道を通らなければ、今の状況は生まれていなかっただろう。
黒いコートの人物が言うように、これがクエストの一環だとするならばシン達を含め、森の住人達の勝利と言うことになるだろう。
襲撃から恥めったリナムルでの出会いとクエストは、これまでの国や街と同様に新たな未来へと歩き出したのだろうか。
アズールらと別れ、獣人の子供と出会った場所へ向かったシン。だが、流石に彼もあれからずっとその場所にいるはずもなく、そこには少年が立てた目印と彼が用意した物だろうか、木で作られたお皿にちょっとした料理が添えられていた。
「これじゃまるでお墓だな」
シンは目印の側に置かれた料理の匂いに誘われすぐ側にまで歩み寄ると、関所から持ってきた花を一緒に添える。
「これでみんな・・・帰ってくる・・・?」
陽が森の向こう側へ沈んでいこうとしている。外は徐々に暗くなっていき、森はその形相をガラリと変える。リナムルの街には火を用いた街灯もあり、夜でも街中を散策できるが、森の中は人間にとっては光も届かぬ真っ暗闇と化す。
帰り道が分からなくなる前に、ツクヨやミア達と泊まっている宿へと戻るシン。獣人族のアジトとなっていた、リナムル中央にある巨大樹。多くの者達が出入りするそこには、研究員らの持ち込んだ資料に夢中になっていた筈のツバキやアカリが、シンの帰りを出迎えていた。
「おせぇよ!俺達に黙ってどこ行ってたんだぁ?」
「心配してたんですよ?もう!」
「ごっごめん!黙って行くつもりはなかったんだけどさぁ・・・」
歩み寄りながら言い訳を垂れるシンに、二人はプリプリと怒りながらも、彼を叩きながらも関係性が良好でなければ行われないようなスキンシップをとっていた。
しかし、中々建物の中へ入ろうとしない二人にシンは何故戻らないのかと問う。
「分からねぇのかぁ~!?アンタと一緒で何も言わずに出てった奴が、あと二人帰ってきてねぇ~からだよ!」
「シンさんにも一緒に、外で待っててもらいますからね!」
「ピィー!」
アカリの腕に抱かれた紅葉は、リナムルでの一件を経て一回り大きくなり、その体毛は更に赤く染まっていた。二人に叱られたシンは、大人しく彼らの指示にしたが外でミアとツクヨの帰りを待つことになった。
リナムルの街は昼夜問わず多くの人が復興作業にあたっており、忙しくもあるが常に活気にもにた賑わいの声に包まれている。
街を照らす街灯は、暖かな橙色で染め上げ、賑わいの声を聞いていると安心感を覚え、夜中だというのに外に出ていると心は高揚した。
「まるでお祭りみたいだな」
「お祭り・・・ですか?」
「何だぁ?オメェ祭りも知らねぇのか?」
未だ記憶の戻らぬ様子のアカリは、真の口にした祭りというものに興味津々だった。それを煽るツバキがシンに変わり、祭りの何たるかを彼女に説明していた。賑わう街には、働く者達の為に食べ物を作る仮設の屋台も設置されており、美味そうな匂いが彼らの腹を刺激する。
「私、その屋台というのに行ってみたいですわ!」
「おいおい、俺達ぁミアとツクヨを待ってんだろ?せめて帰って来てからにしろや。なぁ?シン」
「え?・・・あぁ、そうだな。みんなで回った方が、きっと楽しいな」
誰かとこうして祭りを楽しむ事など、現実の世界で経験のなかったシンにとってはアカリの気持ちがよく分かった。だがこういうものは、家族や友達、親しい者達と同じ時を過ごすことこそが大事なのだろうと、早る気持ちを抑え大人の対応を二人に見せた。
0
お気に入りに追加
297
あなたにおすすめの小説
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
婚約者に犯されて身籠り、妹に陥れられて婚約破棄後に国外追放されました。“神人”であるお腹の子が復讐しますが、いいですね?
サイコちゃん
ファンタジー
公爵令嬢アリアは不義の子を身籠った事を切欠に、ヴント国を追放される。しかも、それが冤罪だったと判明した後も、加害者である第一王子イェールと妹ウィリアは不誠実な謝罪を繰り返し、果てはアリアを罵倒する。その行為が、ヴント国を破滅に導くとも知らずに――
※昨年、別アカウントにて削除した『お腹の子「後になってから謝っても遅いよ?」』を手直しして再投稿したものです。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件
月風レイ
ファンタジー
普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。
そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。
そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。
そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。
そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。
食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。
不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。
大修正中!今週中に修正終え更新していきます!
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
全校転移!異能で異世界を巡る!?
小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。
目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。
周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。
取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。
「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」
取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。
そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる