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街に迫る脅威
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一行が森へと出発した表向きの理由と、種族別の肉体や身体の構造の違いについて話している内に、リナムルを襲撃した獣と同じものと思われる気配が感知された地点に到着する。
「着いたぞ、ここだ。ここで奴らの気配が感知された」
「今は周囲に何も感じないな。ではここから痕跡を辿っていこう」
彼らはそれぞれ地面に残された痕跡や、周囲に残る匂い、魔力などを分析しその何者かが移動した方角や場所を探り始める。
ミアは主に戦闘と狩猟を担当する為、この時点では大した役割は与えられなかった。かといって何もせず待っていられるような性分でもなかったので、ガルムの提案で音を立てないことを条件に、彼女の狩りの様子を実際に見るのも兼ねて先に狩猟を行うことになった。
周囲を見渡し、大きく育った木を見つけると彼女は軽々とそれに登っていき、ある一定の高さにある太めの枝を進むと、そこから獲物を探し始める。
とはいっても、彼女には獣人族のように研ぎ澄まされた気配を感知する能力があるわけでも、エルフ族のように魔力を読み取る能力がある訳でもない。
そこでミアがとった方法とは、水の精霊であるウンディーネを呼び出し、精霊の力による周囲の生物の感知、そして彼女が生み出した水を使い、錬金術を組み合わせ動物を誘う蜜を作り出したのだ。
「動物よりも先に虫が寄ってきそうだな・・・」
「あら、虫も貴重なタンパク源では?」
「そこまで飢えちゃいないだろ。だがまぁ・・・アタシが触れそうで持っていけそうな奴がいれば取っておくか」
元々獣人族やエルフ族であれば、昆虫食というものも摂取したりするようだが人間にはあまり馴染みのない食材であるのは、この世界でも同じだった。
ミア達の本来住んでいた現実の世界でも、飢餓地域によっては昆虫は貴重な栄養素やタンパク源ともなるので、重宝される場所もある。
実際に昆虫から摂取できる栄養素というものは馬鹿にできるものではない。ただ主食として食べられるのではなく、植物性の栄養源では不足しがちになってしまうリジンなどという必須アミノ酸を補うと共に、一日に必要な必須脂肪酸やビタミン、ミネラルなどの微量栄養素も豊富に含んでいるので、少量で有益な栄養素を補えるスーパーフードとして注目されている。
案の定、蜜を撒いたところに集まってきた虫達を見て眉を潜ませるミア。木の上から眺めているだけで距離はあるのだが、どうしても一度虫を視界に捉えてしまうと気になってしまう。
それに気がついたガルムがミアのいる木に近づいてくる。すると彼女は、ガルムに集まった虫はどうかと指を刺し、ジェスチャーで食料として持って帰ることを伝える。
ガルムは何を言うこともなく虫のところへ歩いていくと、まるで酒のつまみでも食べるかのように軽く一匹の虫をつまみ、口の中へと放り込んだ。食虫の習慣がないミアは、自分が食べている訳ではないのに、その一連の様子を見て苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
その後ガルムは、他の者達の捜索が進展するのを待ちながら木の幹に集まる虫をつまみ食いしていた。ゾッとするような光景に目を向けないように、ミアは意識を狩猟に集中させ、ウンディーネの力を借りて周囲の生物の反応を窺う。
すると、彼女は何かの反応を拾い上げたようで、目を丸くしてその方角をじっと見つめていた。
「何か見つけたのか?」
小声でミアが話しかける。しかし彼女は僅かに首を傾げ、その反応に感じた違和感をミアに伝えた。
「何か妙だわ、感じたことの無いような反応・・・。まるでこの世のものではないような・・・何かしら?」
この世界の精霊であるウンディーネが感じたことのないような反応とは一体何なのだろう。生き物や魔力を帯びたものであれば、彼女が感じたことの無い反応というのはおかしい。
人間よりはるかに長寿で、エルフ族よりも更に果てしない悠久の生を持つ精霊。そんな彼女が困惑するとは、余程の事なのかもしれない。
未知の存在について考えた際、ミアの脳裏に過ったのは黒いコートの者達の存在だった。ミアがそういった者達を目にしたのは、グラン・ヴァーグの会場で見たモニターに映る姿が初めてだった。
しかもその時にはまだ、ミアは錬金術の四大元素の精霊を使役する術を持っていなかった。嘗てメアとの戦いの中で風の精霊の力を目覚めさせたが、その時は彼女自身が必死だった為、原理などは全く分からなかった。
海上でのレースにて、漸く自分の力として目覚めさせる事のできたミアの力に興味を持ったのが、水の精霊ウンディーネだったのだ。
黒いコートの人物は、ミア達のようにWoFの世界に転移してきたユーザーの身に起きている“異変“について、何か知っているか或いは関与、原因である可能性が高い。
そういった異世界の異物であれば、この世界の精霊であるウンディーネが知らないとしても不思議ではない。
研究所において、シンとツクヨから黒いコートの人物の話を聞いていたミアは、こちらからの捜索を悟られてはマズイとウンディーネにそれ以上の捜索は不要だと伝える。
しかし、自身の存在を持ってしても知り得ないものに興味を惹かれたウンディーネは、自らの知的好奇心に敵うこともなく、ミアの静止を顧みる事なくその存在の正体を確かめようとした。
「よせって言ってるだろ!?無事じゃ済まなくなるぞッ!!」
咄嗟に声を荒立てるミアに、獣の痕跡を探っていた一行の視線が集まる。
「着いたぞ、ここだ。ここで奴らの気配が感知された」
「今は周囲に何も感じないな。ではここから痕跡を辿っていこう」
彼らはそれぞれ地面に残された痕跡や、周囲に残る匂い、魔力などを分析しその何者かが移動した方角や場所を探り始める。
ミアは主に戦闘と狩猟を担当する為、この時点では大した役割は与えられなかった。かといって何もせず待っていられるような性分でもなかったので、ガルムの提案で音を立てないことを条件に、彼女の狩りの様子を実際に見るのも兼ねて先に狩猟を行うことになった。
周囲を見渡し、大きく育った木を見つけると彼女は軽々とそれに登っていき、ある一定の高さにある太めの枝を進むと、そこから獲物を探し始める。
とはいっても、彼女には獣人族のように研ぎ澄まされた気配を感知する能力があるわけでも、エルフ族のように魔力を読み取る能力がある訳でもない。
そこでミアがとった方法とは、水の精霊であるウンディーネを呼び出し、精霊の力による周囲の生物の感知、そして彼女が生み出した水を使い、錬金術を組み合わせ動物を誘う蜜を作り出したのだ。
「動物よりも先に虫が寄ってきそうだな・・・」
「あら、虫も貴重なタンパク源では?」
「そこまで飢えちゃいないだろ。だがまぁ・・・アタシが触れそうで持っていけそうな奴がいれば取っておくか」
元々獣人族やエルフ族であれば、昆虫食というものも摂取したりするようだが人間にはあまり馴染みのない食材であるのは、この世界でも同じだった。
ミア達の本来住んでいた現実の世界でも、飢餓地域によっては昆虫は貴重な栄養素やタンパク源ともなるので、重宝される場所もある。
実際に昆虫から摂取できる栄養素というものは馬鹿にできるものではない。ただ主食として食べられるのではなく、植物性の栄養源では不足しがちになってしまうリジンなどという必須アミノ酸を補うと共に、一日に必要な必須脂肪酸やビタミン、ミネラルなどの微量栄養素も豊富に含んでいるので、少量で有益な栄養素を補えるスーパーフードとして注目されている。
案の定、蜜を撒いたところに集まってきた虫達を見て眉を潜ませるミア。木の上から眺めているだけで距離はあるのだが、どうしても一度虫を視界に捉えてしまうと気になってしまう。
それに気がついたガルムがミアのいる木に近づいてくる。すると彼女は、ガルムに集まった虫はどうかと指を刺し、ジェスチャーで食料として持って帰ることを伝える。
ガルムは何を言うこともなく虫のところへ歩いていくと、まるで酒のつまみでも食べるかのように軽く一匹の虫をつまみ、口の中へと放り込んだ。食虫の習慣がないミアは、自分が食べている訳ではないのに、その一連の様子を見て苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
その後ガルムは、他の者達の捜索が進展するのを待ちながら木の幹に集まる虫をつまみ食いしていた。ゾッとするような光景に目を向けないように、ミアは意識を狩猟に集中させ、ウンディーネの力を借りて周囲の生物の反応を窺う。
すると、彼女は何かの反応を拾い上げたようで、目を丸くしてその方角をじっと見つめていた。
「何か見つけたのか?」
小声でミアが話しかける。しかし彼女は僅かに首を傾げ、その反応に感じた違和感をミアに伝えた。
「何か妙だわ、感じたことの無いような反応・・・。まるでこの世のものではないような・・・何かしら?」
この世界の精霊であるウンディーネが感じたことのないような反応とは一体何なのだろう。生き物や魔力を帯びたものであれば、彼女が感じたことの無い反応というのはおかしい。
人間よりはるかに長寿で、エルフ族よりも更に果てしない悠久の生を持つ精霊。そんな彼女が困惑するとは、余程の事なのかもしれない。
未知の存在について考えた際、ミアの脳裏に過ったのは黒いコートの者達の存在だった。ミアがそういった者達を目にしたのは、グラン・ヴァーグの会場で見たモニターに映る姿が初めてだった。
しかもその時にはまだ、ミアは錬金術の四大元素の精霊を使役する術を持っていなかった。嘗てメアとの戦いの中で風の精霊の力を目覚めさせたが、その時は彼女自身が必死だった為、原理などは全く分からなかった。
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しかし、自身の存在を持ってしても知り得ないものに興味を惹かれたウンディーネは、自らの知的好奇心に敵うこともなく、ミアの静止を顧みる事なくその存在の正体を確かめようとした。
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咄嗟に声を荒立てるミアに、獣の痕跡を探っていた一行の視線が集まる。
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