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世界について知る者
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当時の彼は、シンとデイヴィスを追い詰めたもう一人の男を静止させ、撤退するよう伝えていた。彼が来なければシンはあの場で殺されていたかもしれない。そもそも彼らは、シンの事を初めから知っているような口ぶりだった。
しかし当然ながら、シンに彼らとの記憶はなく、声やその見た目、能力を見ても全く覚えのないものばかりだった。あくまで向こう側がシンを一方的に情報として知っているだけであり、シンの過去やWoFをプレイしていた頃の関係者という訳でもなさそうだった。
「その声・・・アンタは確かキングの船で・・・」
新たに現れた長身の男は、もう一人の黒いコートを身に纏った人物の攻撃を受け止めながら、余裕のあるような会話を続ける。
「ほう、覚えていたか。あの時はすまなかった。他の目的があったんだが、アイツがお前の品定めをしてくると言って聞かなかったのでな。実際、我々もお前の成長には興味があった。果たして“頼りにしていい力“なのかどうかをな」
驚いた事に、彼らの前に現れた長身の男はシンを殺そうとしていた訳ではなかったようだ。キングの船での戦いも、シンの力を試す為に長身の男の仲間であろう小さい方の黒いコートの男が、独断で動き仕掛けてきただけだったようだった。
頼りになる力とはどういう意味なのか。この時点では全くと言って良いほどシンには理解できなかったが、少なくとも黒いコートの者達の中には、シンに敵意を向ける者ばかりではないという事だ。
「どういう意味だ?全く話が見えない!何でもいいから少しは説明してくれッ!」
何も事情を知らないシンが彼らに説明を求めるのは当然の事だった。例えシンに彼らと協力し得る力があったとしても、話が見えなければ協力することも出来ない。
だが、二人の会話を遮るようにシンとツクヨを襲った小柄のコートの人物が、徐々に長身の男を追い詰め始める。
「どういう事?何で君に僕の機能が適用されないの?」
不可解な言葉を並べながらも、小柄なコートの人物は物理的な力で長身の男の力を上回り、シンを庇うように戦っていた彼を壁際へと追い詰める。
「チッ・・・化け物がッ!今のままでは真面にやり合うのもままならないか・・・。シン、すまないが説明する余裕はない。俺はコイツをここから引き離す。その隙に脱出しろッ!」
「させると思うの?・・・けど、君の存在についても調べなきゃならなくなっちゃったから、君も回収させてもらうよ」
「回収?ふん、出来るもんならやってみろ。俺はもう、お前らの好きにはされない、縛られない!」
すると長身の男は小柄なコートの人物の攻撃を防いだまま腕を掴み、まるでシンの影のスキルのように、床の中へと沈んでいき始めた。水面のように波紋を広げながらゆっくりと姿の見えなくなっていく二人。
シンはその様子を見て、自分の足元w確認するも床は当然のように固く、沈む様子などない。あくまでも二人の足元だけがどこかへ通じる空間に変化しているようだ。
訳もわからない状況に、危機的な状況が一時的に退けられることを聞いたシンは、うなされるツクヨの元へと走り彼の腕を方に回して起こすと、二人の姿を尻目にツクヨの降りてきたエレベーターの方へと向かって行った。
シンを逃すことに成功した長身の男は口角を上げて笑みを浮かべると、もう一人の小柄な黒いコートの人物を掴んだまま、研究所の床の中へと姿を消して行った。
ツクヨを連れて移動を開始したシンは、漸く意識を取り戻し始めた彼の質問に答えられる範囲で答える。無論、シンにも知らないことが多過ぎるため答えられないこともあったが、二人の間には隠すべき内容もなかったので、同じ異世界にやって来た者同士として、知り得る情報の共有をする。
「WoFのゲームマスター・・・?つまり運営の関係者って事?」
「ハッキリとは分からない。だけど、アイツの話から推測するに、どうやらWoFのゲームシステムについて理解しているようだった。間違いなくこの世界を作った開発や運営の関係者であることは間違いないと思う」
もし黒いコートを見に纏う者達がWoFの運営元の関係者なのだとしたら、あれが彼らのキャラクターであり、この世界でのアバターなのだろうか。しかし、もし彼らが運営する側の関係者なのだとしたら、わざわざゲームの中にログインしなくても、もっと全体的に調整や不具合の改善を行う術はある筈。
それなのにこんな事をしているということは、何らかの事情によりその機能に制限が掛けられているのか、或いは行えない何らかの事情があるのかもしれない。
「そんなのが何で私達の前に・・・?やっぱり私達は異常な存在なのか・・・」
「分からない・・・。でもこっちの世界に異常が起きているのは間違いないと思う。アイツらもそれを調べる為に俺の記憶を見ようとしていた」
「そういえばもう一人の彼は?何か君を助けているように見えたけど・・・」
「気づいていたのか。アレについても分からないことばかりだ・・・。ただ、敵ではないと感じた。もし殺すつもりで来てたのなら、俺の襲われた船の時点でも、今さっきだっていつでも殺せた筈だ。それに理由が何であれ、さっきは助けてくれた。彼がいなければ今俺達はこうして脱出に向けて行動できていない・・・」
シンは、長身の男が頼りにしているという事を言っていたとも、ツクヨに伝えた。そこにどんな事情があるのか、彼らはシンの実力を試し、協力関係になろうとしている事が窺える。
そして辛うじてエレベーターへと辿り着いた二人は、地上を向かうエレベーターの中で自分達のように不確かな存在の事について考えていた。
「ねぇ、シン・・・。私達はこっちの世界で“生きている“と思うかい?」
「どうしたんだ、突然」
「いや、私達はこの世界の人々とは違って、死ぬような怪我をしても時間を置けば治るだろ?君の話では胴体が千切れたって生きているらしいじゃないか・・・。それって生きてるっているのかなって・・・」
「・・・・・」
ツクヨの話に、シンも疑問に思っていなかった訳ではなかった。しかし、ゲームの中に身を投じることの多かったシンは、これはこういうものだと深く考える事はなかった。
あくまでこちらでの姿は、こちらの世界でのキャラクターであり、本体は現実の世界にある。故に例えこの世界で死んでも、何処かにリスポーンするのではないかと楽観的になり過ぎていたのかもしれない。
もしも黒いコートの者達がWoFの世界を作り出した関係者だったのなら、シン達のようなユーザーのデータを消す事も、虫を捻り潰すように簡単なことなのかもしれない。
こちらの世界にいる間にそんな事が実行されたら、シン達は一体どうなってしまうのか。また、現実の世界で行えていたような、WoFのキャラクターを自身に投影する力は無くなってしまうのだろうか。考え始めれば不安な事しか頭の中には浮かんでこなかった。
しかし当然ながら、シンに彼らとの記憶はなく、声やその見た目、能力を見ても全く覚えのないものばかりだった。あくまで向こう側がシンを一方的に情報として知っているだけであり、シンの過去やWoFをプレイしていた頃の関係者という訳でもなさそうだった。
「その声・・・アンタは確かキングの船で・・・」
新たに現れた長身の男は、もう一人の黒いコートを身に纏った人物の攻撃を受け止めながら、余裕のあるような会話を続ける。
「ほう、覚えていたか。あの時はすまなかった。他の目的があったんだが、アイツがお前の品定めをしてくると言って聞かなかったのでな。実際、我々もお前の成長には興味があった。果たして“頼りにしていい力“なのかどうかをな」
驚いた事に、彼らの前に現れた長身の男はシンを殺そうとしていた訳ではなかったようだ。キングの船での戦いも、シンの力を試す為に長身の男の仲間であろう小さい方の黒いコートの男が、独断で動き仕掛けてきただけだったようだった。
頼りになる力とはどういう意味なのか。この時点では全くと言って良いほどシンには理解できなかったが、少なくとも黒いコートの者達の中には、シンに敵意を向ける者ばかりではないという事だ。
「どういう意味だ?全く話が見えない!何でもいいから少しは説明してくれッ!」
何も事情を知らないシンが彼らに説明を求めるのは当然の事だった。例えシンに彼らと協力し得る力があったとしても、話が見えなければ協力することも出来ない。
だが、二人の会話を遮るようにシンとツクヨを襲った小柄のコートの人物が、徐々に長身の男を追い詰め始める。
「どういう事?何で君に僕の機能が適用されないの?」
不可解な言葉を並べながらも、小柄なコートの人物は物理的な力で長身の男の力を上回り、シンを庇うように戦っていた彼を壁際へと追い詰める。
「チッ・・・化け物がッ!今のままでは真面にやり合うのもままならないか・・・。シン、すまないが説明する余裕はない。俺はコイツをここから引き離す。その隙に脱出しろッ!」
「させると思うの?・・・けど、君の存在についても調べなきゃならなくなっちゃったから、君も回収させてもらうよ」
「回収?ふん、出来るもんならやってみろ。俺はもう、お前らの好きにはされない、縛られない!」
すると長身の男は小柄なコートの人物の攻撃を防いだまま腕を掴み、まるでシンの影のスキルのように、床の中へと沈んでいき始めた。水面のように波紋を広げながらゆっくりと姿の見えなくなっていく二人。
シンはその様子を見て、自分の足元w確認するも床は当然のように固く、沈む様子などない。あくまでも二人の足元だけがどこかへ通じる空間に変化しているようだ。
訳もわからない状況に、危機的な状況が一時的に退けられることを聞いたシンは、うなされるツクヨの元へと走り彼の腕を方に回して起こすと、二人の姿を尻目にツクヨの降りてきたエレベーターの方へと向かって行った。
シンを逃すことに成功した長身の男は口角を上げて笑みを浮かべると、もう一人の小柄な黒いコートの人物を掴んだまま、研究所の床の中へと姿を消して行った。
ツクヨを連れて移動を開始したシンは、漸く意識を取り戻し始めた彼の質問に答えられる範囲で答える。無論、シンにも知らないことが多過ぎるため答えられないこともあったが、二人の間には隠すべき内容もなかったので、同じ異世界にやって来た者同士として、知り得る情報の共有をする。
「WoFのゲームマスター・・・?つまり運営の関係者って事?」
「ハッキリとは分からない。だけど、アイツの話から推測するに、どうやらWoFのゲームシステムについて理解しているようだった。間違いなくこの世界を作った開発や運営の関係者であることは間違いないと思う」
もし黒いコートを見に纏う者達がWoFの運営元の関係者なのだとしたら、あれが彼らのキャラクターであり、この世界でのアバターなのだろうか。しかし、もし彼らが運営する側の関係者なのだとしたら、わざわざゲームの中にログインしなくても、もっと全体的に調整や不具合の改善を行う術はある筈。
それなのにこんな事をしているということは、何らかの事情によりその機能に制限が掛けられているのか、或いは行えない何らかの事情があるのかもしれない。
「そんなのが何で私達の前に・・・?やっぱり私達は異常な存在なのか・・・」
「分からない・・・。でもこっちの世界に異常が起きているのは間違いないと思う。アイツらもそれを調べる為に俺の記憶を見ようとしていた」
「そういえばもう一人の彼は?何か君を助けているように見えたけど・・・」
「気づいていたのか。アレについても分からないことばかりだ・・・。ただ、敵ではないと感じた。もし殺すつもりで来てたのなら、俺の襲われた船の時点でも、今さっきだっていつでも殺せた筈だ。それに理由が何であれ、さっきは助けてくれた。彼がいなければ今俺達はこうして脱出に向けて行動できていない・・・」
シンは、長身の男が頼りにしているという事を言っていたとも、ツクヨに伝えた。そこにどんな事情があるのか、彼らはシンの実力を試し、協力関係になろうとしている事が窺える。
そして辛うじてエレベーターへと辿り着いた二人は、地上を向かうエレベーターの中で自分達のように不確かな存在の事について考えていた。
「ねぇ、シン・・・。私達はこっちの世界で“生きている“と思うかい?」
「どうしたんだ、突然」
「いや、私達はこの世界の人々とは違って、死ぬような怪我をしても時間を置けば治るだろ?君の話では胴体が千切れたって生きているらしいじゃないか・・・。それって生きてるっているのかなって・・・」
「・・・・・」
ツクヨの話に、シンも疑問に思っていなかった訳ではなかった。しかし、ゲームの中に身を投じることの多かったシンは、これはこういうものだと深く考える事はなかった。
あくまでこちらでの姿は、こちらの世界でのキャラクターであり、本体は現実の世界にある。故に例えこの世界で死んでも、何処かにリスポーンするのではないかと楽観的になり過ぎていたのかもしれない。
もしも黒いコートの者達がWoFの世界を作り出した関係者だったのなら、シン達のようなユーザーのデータを消す事も、虫を捻り潰すように簡単なことなのかもしれない。
こちらの世界にいる間にそんな事が実行されたら、シン達は一体どうなってしまうのか。また、現実の世界で行えていたような、WoFのキャラクターを自身に投影する力は無くなってしまうのだろうか。考え始めれば不安な事しか頭の中には浮かんでこなかった。
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