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窮地に活路を見出すべく
しおりを挟む「おい!しっかりしろ!さっきまでの威勢は何処へいったんだ!?」
アズールが負傷したツクヨに声を掛ける。蛇女の放った風の刃によるダメージもさる事ながら、不思議な力を持つ剣を握ることにより受けていたダメージが見た目以上に効いているようだ。
彼自身も、全身に受けた傷よりもそれ以前から身体の力が入らなくなっていることに疑問を抱いていた。シンの身体に纏わりついた黒炎を振り払い、蛇女との戦闘に身を投じる覚悟を決めた時とは、まるで別物のようだった。
「おかしい・・・こんなに早く疲労するなんて、今までなかったのに・・・」
「妙な力で切られた時はどうなる事ぞと思うておったが・・・。どうやら快進撃も、ここまでのようじゃな」
蛇女は尻尾で捕らえていたアズールを、尻尾を波のように打ち鳴らしてツクヨへ向けて投げつける。避けようとするツクヨだったが、足に力が入らずその場で片膝を着くように崩れてしまう。
アズールは空中で身を翻し、ツクヨにぶつかりそうになったところで彼の身体を上から押すことで軌道を変え、辛うじて着地に成功する。
「どうしたと言うのだ!?さっきまでの勢いはどうしたんだ?まさかもうタイムリミットというやつが来たのか?」
「分からない・・・けど、こんなに早く動けなくなるなんて・・・。まさか、この剣の仕業なのか?」
強力な力というものは、得てして何らかのデメリットを伴うもの。ツクヨがアズールですら手を焼いていた蛇女の強固な守りを誇る尻尾を両断したのは、彼の手にする剣の力の影響であることは明らか。
例えこの場にツクヨが持っていた剣や、彼の持つ宝剣・布都御魂剣であってもこれ程の技がなし得たかどうかは分からない。ならば、ツクヨにそれだけの力を与えたその剣に、力に対する何らかのデメリットがあったと推測するのが妥当だろう。
それは刀身を生身で握る事による握力の低下とは考えづらい。何故ならそれはツクヨが把握し得る情報だったからだ。自分の身体である以上、剣を強く握る度に痛みとダメージを負っていることは理解していた。
故に、ここ一番という時以外は強く握らぬようにしていた。身体が痛みに対して拒否反応を起こしているというのも考えづらい。現にツクヨは、その剣を強く握ろうと思えば握れるからだ。
「まだ剣は握れるか?」
「あぁ・・・けど、身体に力が・・・」
「その剣の仕業なのか?」
「分からない・・・。でも、何となくだけどそうだと思う。私にアレを切り捨てる力があったとは思えないから・・・」
彼の話を聞き、アズールはツクヨの持つ剣自体に強力な力があるのなら、それを活かした戦い方をする他ないと進言する。だが、突然活かす戦い方などと言われても、今のツクヨには想像がつかなかった。
「要するに、握って叩き斬るのを止めて、そいつを直接奴にぶち込んでやるんだ」
「打ち込む・・・?」
アズールの作戦はこうだった。彼が蛇女の気を引いている内に、ツクヨがその剣を蛇女の頭部や弱点と思われる部位に投げる。そして突き刺さった剣を、アズールが肉体強化で最大限まで高めた攻撃で、釘を打ち込むように押し込むというものだった。
これなたツクヨが剣を握る事によって負うダメージもなく、力が入らぬという身体を酷使することもない。剣自体に強力な力があるのだとしたら、アズールのその作戦が、彼らが現状取れる最善の策になるのは確かだろう。
「だが弱点とは?身体を両断されても、君の怪力で殴打しても倒せない奴に、そんな弱点が・・・?」
「蛇の部分の守りは、恐らく今も健在だろう。だが奴の上半身は生身だ。俺の拳も通用する。問題はあの腕が邪魔をするくらいだ。生身であるなら、アレだけベラベラと喋るだけの知識がある脳もある筈」
「それで頭を狙うって訳か」
「だが的は小さくなった。狙うのはより困難を極める。お前にも多少なり無茶をしてもらわねばならんが・・・」
「それは承知の上だよッ・・・!」
二人が並び、何かを話し始めたところで、蛇女は何を企もうと無駄といった様子で、無数のラミアの軍勢を彼らに差し向ける。元からいたラミア達に加え、彼女の切り落とされた下半身から生まれた新たなラミア達が追加された事により、その数は俺だけで二人を飲み込んでしまいそうな量だった。
「また何か企まれる前に潰してやろう。奴らは虫の息じゃ、数で飲み込んでしまえ!」
「どうする!?人海戦術を取られちゃ、こちらに打開の策はッ・・・!」
「お前は俺の後ろへッ!体勢を低くしていろ。悪いが討ち漏らしには対応しきれん。できるだけ最小限の力で迎え討て!」
ツクヨを背後に隠し、アズールは全身を強化する。数で劣る彼らに無数のラミアを全て相手にする余裕などない。親玉である蛇女を倒しさえすれば戦況は大きく変わるかも知れないが、手負のツクヨを守りながら強固な守りの相手の牙城を崩すことが出来るのか。
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