World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
1,051 / 1,646

出撃支度

しおりを挟む
 議題に上がってからエルフ族の到着には、それほど時間は掛からなかった。迅速に連絡をとった事、何より今回の件で森に平和を取り戻せるかもしれないとのことで、すぐに対応してくれたことが大きかった。

 元より遠方に隠れ住んでいた訳ではなかった妖精よりのエルフ族は、既に獣人族が人間から乗っ取ったというリナムルの近くに、監視の目も含めて潜んでいたのだという。

 それ故、あまり時間を置かずして数人の仲間と共に駆けつけてくれたという訳だ。

 話にも上がっていたように、彼らは早速ダマスクの条件を成す為に、シンとダマスクを取り囲むように結界を展開し、ダマスクが万が一裏切る事があっても逃げられないようにし、約束通り結界の中でシンはダマスクが封じられている小瓶の蓋を開ける。

 すると、瓶の中から黒い煙が僅かに外へと抜け出していく。だが、煙はそのまま瓶から出ていくと下へ下へとゆっくり落ちていってしまった。この煙自体がダマスクの身体と呼べるものと見ていいのか、シンはダマスクに今の現状について問う。

 「おっおい、俺の中へ入ってくるんじゃなかったのか?」

 「安心しろ、もう目的は果たされた。瓶の蓋を閉じていいぞ」

 ダマスクの言葉を聞き、自身の身体に異変がないかどうかを確かめるシンだったが、彼が意識の中へ入り込んだという感覚自体、シンにはわかる筈もなく、今は彼のいう通り外へ逃さない為に再び手にした小瓶の蓋を閉める。

 煙というもの自体に視覚的な意味しかないのなら、この時点で結界内にダマスクが逃げ出している可能性もある。シンはエルフ族に結界を解く前に、中にシン以外の妙な魔力の反応がないかを問う。

 シンに言われ、結界内の反応について調べるも、彼以外の反応は見当たらないという。感じたとすれば、彼が結界内で瓶の蓋を開けた時に、僅かに別の者の魔力を感じた程度だった。

 しかしそれも、シンが瓶を閉じた時に収まり、それを機に違和感程度の魔力の変化がシンの中から感じたという程度だったそうだ。

 アズールの中からダマスクを引き摺り出したように、自分自身の中に影を送り込めば、ダマスクが自分の意識の中に入ったかどうかは確かめられる。だが、周りの者達からすれば、小瓶の中に閉じ込めたダマスクが外に逃げ出してなければそれでいいといった様子で、エルフ族の言うようにシンの中に違和感があったとするならば、それを信じてわざわざ確かめる程でもないかと、この話はここで終わりを迎える。

 エルフ族が結界を解除し、ダマスクの目的が果たされた事を伝えると、一行は漸く役者が揃い準備が整った事を告げ、いよいよ因縁の者達がいるであろう施設の場所を突き止める為に動き出す。

 作戦の第一段階として、まずは部隊を分散する事なく、シンとダラーヒムの証言から施設のおおまかな場所を特定。その後、援軍として訪れた妖精に近いエルフ族の数だけ部隊を分け、施設周辺を囲むように分散させる。

 エルフ族の感知を頼りに施設周辺に貼られているであろう結界や幻術の類を突破し、他の全部隊が施設の領域内に入るのを待つ。

 その後は施設自体の規模にもよるが、数カ所から中へと突入し一斉に暴れ施設としての機能を完全に奪い、誘拐事件の首謀者と思われる人物を始末することが彼らの目的となる。

 会議を終え動き出した一行に、部屋の外で待っていた獣人達や様子を見に来ていたミアが近づく。そこで今後の大まかな話をし、他の者達にはアジトを守るよう号令を発するアズール。

 シンはミアにここでツバキやアカリ、紅葉を守る役目を頼む。オルレラにて、直接オスカーらの願いを頼まれたのはツバキだが、彼のような子供が一人で解決できる問題でないことは、オスカー自身も分かっていた事だろう。それでも彼に頼んだのは、彼には彼を支える仲間がいると読んでの事だったに違いない。

 オルレラの街全体を覆っていた記憶の改竄という不思議な現象。当の本人達には記憶に異常が現れていることにすら気づかないという恐ろしいものだったが、それは能力を与えられたオスカーによるものだった。

 オスカーの記憶に関する能力と、ダマスクの意識の中へ入り込むという能力。どちらも脳に関するものであり、その能力は施設の中で行われたであろう生物実験によって誕生したものとみて間違い無いだろう。

 そこからも推測出来る通り、彼らがこれから向かおうとしている施設では、脳に関する能力を持った者達が敵として立ちはだかる事が予想される。対抗する手段としてエルフ族の協力を焚きつけたが、その数には限りがありあまり多くの人員を連れていくことは出来ない。

 それに万が一、戦闘の行えない妖精に近いエルフ族が真っ先に倒されてしまった場合、彼らのプランは一気に破綻するかもしれない。そうなれば戦場が敵地である事もあり、襲撃側とはいえ圧倒的に不利な状況に変わる事は避けなれない。

 かといって目を覚ましたツバキが、シン達が施設へ向かった事を知れば何故自分を置いていったのかと、後を追いかねない。それを説得できる者はミアしかいないとシンは判断したのだ。

 これまでの旅の中でも、ツバキはミアのいう事には従うというイメージのあったシン。彼が仲間に加入して以降、共にいる時間も彼女が一番長い。そして何より、シンやツクヨはまだツバキの事を知らないということも大きく関係していた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【修正中】ハズレ勇者の鬼畜スキル 〜ハズレだからと問答無用で追い出されたが、実は規格外の歴代最強勇者だった?〜

水先 冬菜
ファンタジー
「こんなハズレ勇者など、即刻摘み出せ!!!」  某大学に通う俺、如月湊(きさらぎみなと)は漫画や小説とかで言う【勇者召喚】とやらで、異世界に召喚されたらしい。  お約束な感じに【勇者様】とか、【魔王を倒して欲しい】だとか、言われたが--------  ステータスを開いた瞬間、この国の王様っぽい奴がいきなり叫び出したかと思えば、いきなり王宮を摘み出され-------------魔物が多く生息する危険な森の中へと捨てられてしまった。  後で分かった事だが、どうやら俺は【生産系のスキル】を持った勇者らしく。  この世界では、最下級で役に立たないスキルらしい。    えっ? でも、このスキルって普通に最強じゃね?  試しに使ってみると、あまりにも規格外過ぎて、目立ってしまい-------------  いつしか、女神やら、王女やらに求婚されるようになっていき…………。 ※前の作品の修正中のものです。 ※下記リンクでも投稿中  アルファで見れない方など、宜しければ、そちらでご覧下さい。 https://ncode.syosetu.com/n1040gl/

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

Anotherfantasia~もうひとつの幻想郷

くみたろう
ファンタジー
彼女の名前は東堂翠。 怒りに震えながら、両手に持つ固めの箱を歪ませるくらいに力を入れて歩く翠。 最高の一日が、たった数分で最悪な1日へと変わった。 その要因は手に持つ箱。 ゲーム、Anotherfantasia 体感出来る幻想郷とキャッチフレーズが付いた完全ダイブ型VRゲームが、彼女の幸せを壊したのだ。 「このゲームがなんぼのもんよ!!!」 怒り狂う翠は帰宅後ゲームを睨みつけて、興味なんか無いゲームを険しい表情で起動した。 「どれくらい面白いのか、試してやろうじゃない。」 ゲームを一切やらない翠が、初めての体感出来る幻想郷へと体を委ねた。 それは、翠の想像を上回った。 「これが………ゲーム………?」 現実離れした世界観。 でも、確かに感じるのは現実だった。 初めて続きの翠に、少しづつ増える仲間たち。 楽しさを見出した翠は、気付いたらトップランカーのクランで外せない大事な仲間になっていた。 【Anotherfantasia……今となっては、楽しくないなんて絶対言えないや】 翠は、柔らかく笑うのだった。

生産職から始まる初めてのVRMMO

結城楓
ファンタジー
最近流行りのVRMMO、興味がないわけではないが自分から手を出そうと思ってはいなかったふう。 そんな時、新しく発売された《アイディアル・オンライン》。 そしてその発売日、なぜかゲームに必要なハードとソフトを2つ抱えた高校の友達、彩華が家にいた。 そんなふうが彩華と半ば強制的にやることになったふうにとっては初めてのVRMMO。 最初のプレイヤー設定では『モンスターと戦うのが怖い』という理由から生産職などの能力を選択したところから物語は始まる。 最初はやらざるを得ない状況だったフウが、いつしか面白いと思うようになり自ら率先してゲームをするようになる。 そんなフウが贈るのんびりほのぼのと周りを巻き込み成長していく生産職から始まる初めてのVRMMOの物語。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~

鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!  詳細は近況ボードに載せていきます! 「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」 特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。 しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。 バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて―― こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。

処理中です...