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作戦会議
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シンの言葉に自身の存在価値について考え始めたダマスクは、突然与えられた施設内で目覚めた時の記憶と、外に解き放たれ森に巣食う生物の身体を介して能力を強化、成長させていくことで自身の生命力を高めていた。
ただそこに、何を成し遂げたいのか。何の目的を持っていたのかと言われると、彼に心当たりは無かったのだ。
生きる為に生物に寄生し、成長する為に乗っ取った身体を利用して力をつける。謂わば野生生物の狩猟と何ら変わらない行いを本能的にしていたに過ぎない。
しかし彼にとってのそれは、獣人族やエルフ族など意思を持って他者とコミュニケーションを取りながら生活する者達にとっては、大切な者や仲間達を失い、場合によっては同士討ちへと導くという意思を持った生物にとって耐え難い事態を引き起こしていた。
徐々に心が揺らぎ始めていたダマスクに、交渉の場へ向かう為の歩みを与えたのは、ダラーヒムによる施設内の者達との仲違いを狙った発言と、ダマスクの持つ能力が既に用済みになっているかもしれないという言葉だった。
施設にこれといって思い入れがあった訳ではない。ただ、そこが自分の帰る場所だという曖昧な意思だけが彼の中にあっただけ。決して施設の為や実験に協力しているといった意識は彼自身にはなかったのだ。
ならば、ダマスクが施設の者達を庇う理由はないのではないか。初めは戦闘に負け、自身を捕らえたシン達が施設を潰し、目的を成就させることが気に入らなかっただけだったのだが、もし彼らがダマスクの本来の記憶を取り戻すことが出来たのなら、彼も新たな命で目的を持って生きていくことが出来る。
それが幸福な事であるにしろ、不幸な事であるにしろ、ダマスクはこれまでの目的のない生き方に対し、疑問を抱き始めてしまった。そこで彼は、シンがアズールの中で見たというダマスクの嘗ての記憶についての話が本当の事であるかどうかを確かめる為、とある条件を提示してきたのだ。
「・・・分かった、お前らに協力してやるよ。ただし、俺の身体の一部をそこの奴の意識の中に入れさせろ」
「ッ・・・!?」
ダマスクが指定してきたのは、シンだった。彼の発言が本当かどうかを確かめるという意味もあるが、これは対象を乗っ取る為の行為であり、謂わばシンを人質にするということだった。
「そう言って逃げるつもりなんだろぉ!?騙されるかよッ!煙野朗ッ!」
「私もガレウスに賛成だ。封印から解放するなど容認出来ない。アズールもガレウスも、こいつの能力で幻覚の症状が出ていた。乗っ取る条件や方法が把握できていない以上、危険を犯すことは出来ない」
その場にいた誰もが、ガレウスとケツァルの意見に同調した。煙という姿をした性質上、視覚による探知が不可能であること。瓶から解放されれば、依代となる身体に取り付くまで完治することは不可能。身体に入って意識の中にまで潜り込まれてしまっては、シン以外にダマスクを引き摺り出す手段がない。
つまり、一行にとってシンの中にダマスクの身体の一部を取り憑かせるということは、取り返しの付かないリスクを抱える事になるのだ。そんな事を容認出来る者など、アズールの暴走を見た者ならとてもではないがいないだろう。
誰もが反対する条件を突きつけたダマスクに、会議をしていた者達が声を荒立てる中、唯一その条件を飲むと言い出した者がいた。それは当の本人であるシンだった。
「分かった、俺はそれで構わない」
「おい!ヤケになるなよ。コイツが口を割るとも限らねぇんだ」
耳を疑うような発言をするシンに、ダラーヒムは顔見知りとしてアドバイスをする。だがそれでも、シンの意思が変わる事はなく、他の者が許さなくても構わないと、珍しく意見を変えようとしなかった。
「お前だけの問題ではないんだ。俺をコイツから解放してくれたという恩はあるが、こればかりは容認出来ないぞ・・・。仮にお前が乗っ取られでもしたら・・・」
騒ぎ出す一行を代表し、アズールが落ち着いた様子で彼の発言を撤回させようと言葉を連ねる途中で、シンはそれを遮るように口を開いた。
「これは交渉なんだ。相手を信用しないと相手からも信用されない。それに・・・アンタの中で見た彼の記憶から、きっと彼の根本にある人間性は歪んじゃいない・・・」
「青臭いことをッ・・・!そんな綺麗事など通る筈もないだろう!?」
再び口論となってしまう一行に、ならば自分を逃さぬ為の結界でも張ればいいだろうと、自らの弱点を話してでもシンが握っている自分の記憶に惹かれ始めるダマスク。
「瓶をそいつに渡せ。逃げるつもりもないが、お前らがどうしてもというのであれば、そのエルフ族とやらの到着を待って、俺とそいつを閉じ込めた結界を張ればいい。俺がエルフ族を依代に選ばなかったのは、奴らの性質上の事もあったからだ」
ダマスクの話では、妖精に近いエルフ族には、生物に取り憑いた彼を発見し取り除く魔法があるのだという。つまり、万が一シンが乗っ取られたとしても、そのエルフ族がいればその場で対処することが可能なのだという。
それに加え、シンとダマスクの入った瓶を囲うように、事前に結界を張っておけば外に逃げられることもない。
本人が提案したものを採用するのは罠の可能性もあり、皆納得するという事はなかったが後に到着するエルフ族に話を聞いてみたところ、ダマスクの煙の身体という性質と生物の精神の中に入り込むという能力を一定の範囲内に留める事なら可能だという。
一行は話し合いの末に、施設に関する情報を持っているであろうダマスクをこちら側につかせる為、乗っ取られる可能性の高いアズールとガレウスを厳重に守りつつ、シンにダマスクの入った小瓶を渡し周囲をエルフ族が囲うと、数人による強力な結界術を展開する。
ただそこに、何を成し遂げたいのか。何の目的を持っていたのかと言われると、彼に心当たりは無かったのだ。
生きる為に生物に寄生し、成長する為に乗っ取った身体を利用して力をつける。謂わば野生生物の狩猟と何ら変わらない行いを本能的にしていたに過ぎない。
しかし彼にとってのそれは、獣人族やエルフ族など意思を持って他者とコミュニケーションを取りながら生活する者達にとっては、大切な者や仲間達を失い、場合によっては同士討ちへと導くという意思を持った生物にとって耐え難い事態を引き起こしていた。
徐々に心が揺らぎ始めていたダマスクに、交渉の場へ向かう為の歩みを与えたのは、ダラーヒムによる施設内の者達との仲違いを狙った発言と、ダマスクの持つ能力が既に用済みになっているかもしれないという言葉だった。
施設にこれといって思い入れがあった訳ではない。ただ、そこが自分の帰る場所だという曖昧な意思だけが彼の中にあっただけ。決して施設の為や実験に協力しているといった意識は彼自身にはなかったのだ。
ならば、ダマスクが施設の者達を庇う理由はないのではないか。初めは戦闘に負け、自身を捕らえたシン達が施設を潰し、目的を成就させることが気に入らなかっただけだったのだが、もし彼らがダマスクの本来の記憶を取り戻すことが出来たのなら、彼も新たな命で目的を持って生きていくことが出来る。
それが幸福な事であるにしろ、不幸な事であるにしろ、ダマスクはこれまでの目的のない生き方に対し、疑問を抱き始めてしまった。そこで彼は、シンがアズールの中で見たというダマスクの嘗ての記憶についての話が本当の事であるかどうかを確かめる為、とある条件を提示してきたのだ。
「・・・分かった、お前らに協力してやるよ。ただし、俺の身体の一部をそこの奴の意識の中に入れさせろ」
「ッ・・・!?」
ダマスクが指定してきたのは、シンだった。彼の発言が本当かどうかを確かめるという意味もあるが、これは対象を乗っ取る為の行為であり、謂わばシンを人質にするということだった。
「そう言って逃げるつもりなんだろぉ!?騙されるかよッ!煙野朗ッ!」
「私もガレウスに賛成だ。封印から解放するなど容認出来ない。アズールもガレウスも、こいつの能力で幻覚の症状が出ていた。乗っ取る条件や方法が把握できていない以上、危険を犯すことは出来ない」
その場にいた誰もが、ガレウスとケツァルの意見に同調した。煙という姿をした性質上、視覚による探知が不可能であること。瓶から解放されれば、依代となる身体に取り付くまで完治することは不可能。身体に入って意識の中にまで潜り込まれてしまっては、シン以外にダマスクを引き摺り出す手段がない。
つまり、一行にとってシンの中にダマスクの身体の一部を取り憑かせるということは、取り返しの付かないリスクを抱える事になるのだ。そんな事を容認出来る者など、アズールの暴走を見た者ならとてもではないがいないだろう。
誰もが反対する条件を突きつけたダマスクに、会議をしていた者達が声を荒立てる中、唯一その条件を飲むと言い出した者がいた。それは当の本人であるシンだった。
「分かった、俺はそれで構わない」
「おい!ヤケになるなよ。コイツが口を割るとも限らねぇんだ」
耳を疑うような発言をするシンに、ダラーヒムは顔見知りとしてアドバイスをする。だがそれでも、シンの意思が変わる事はなく、他の者が許さなくても構わないと、珍しく意見を変えようとしなかった。
「お前だけの問題ではないんだ。俺をコイツから解放してくれたという恩はあるが、こればかりは容認出来ないぞ・・・。仮にお前が乗っ取られでもしたら・・・」
騒ぎ出す一行を代表し、アズールが落ち着いた様子で彼の発言を撤回させようと言葉を連ねる途中で、シンはそれを遮るように口を開いた。
「これは交渉なんだ。相手を信用しないと相手からも信用されない。それに・・・アンタの中で見た彼の記憶から、きっと彼の根本にある人間性は歪んじゃいない・・・」
「青臭いことをッ・・・!そんな綺麗事など通る筈もないだろう!?」
再び口論となってしまう一行に、ならば自分を逃さぬ為の結界でも張ればいいだろうと、自らの弱点を話してでもシンが握っている自分の記憶に惹かれ始めるダマスク。
「瓶をそいつに渡せ。逃げるつもりもないが、お前らがどうしてもというのであれば、そのエルフ族とやらの到着を待って、俺とそいつを閉じ込めた結界を張ればいい。俺がエルフ族を依代に選ばなかったのは、奴らの性質上の事もあったからだ」
ダマスクの話では、妖精に近いエルフ族には、生物に取り憑いた彼を発見し取り除く魔法があるのだという。つまり、万が一シンが乗っ取られたとしても、そのエルフ族がいればその場で対処することが可能なのだという。
それに加え、シンとダマスクの入った瓶を囲うように、事前に結界を張っておけば外に逃げられることもない。
本人が提案したものを採用するのは罠の可能性もあり、皆納得するという事はなかったが後に到着するエルフ族に話を聞いてみたところ、ダマスクの煙の身体という性質と生物の精神の中に入り込むという能力を一定の範囲内に留める事なら可能だという。
一行は話し合いの末に、施設に関する情報を持っているであろうダマスクをこちら側につかせる為、乗っ取られる可能性の高いアズールとガレウスを厳重に守りつつ、シンにダマスクの入った小瓶を渡し周囲をエルフ族が囲うと、数人による強力な結界術を展開する。
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