World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
1,042 / 1,646

作戦のその先

しおりを挟む
 アズールの身体を乗っ取っていた不気味な存在。煙の姿で実体のない、対象の意識の中へ入り込むという海賊ロッシュの能力以来の、現実世界とWoFの世界の中でも類を見ない恐ろしい能力を持った煙の人物。

 意識の中へ潜られてしまうと、普通の者達には一切手の付けられない非常に厄介な性質を持っていたが、同じくロッシュのスキルから新たな力を得ていたシンにより、絶対不可侵の領域から引き摺り出す事に成功。

 煙の人物の侵略から解放されたのか、アズールの身体からは乗っ取られていた時には感じなかった本人の気配が増し始めていた。

 「ガレウス!アズールの様子がッ・・・!」

 「あぁ、これはアズール本人の気配だ。紛い物じゃねぇ、漸く帰って来やがったか?」

 煙の人物の封印に全力を尽くし、作戦の成就の為に騙したとはいえ、ガレウスの強烈な一撃を受けて動けなくなってしまっているシンを尻目に、ガレウスら獣人達は立ち尽くすアズールに近づいていく。

 「おい!ガレウス」

 「ケツァル!お前はそいつらの面倒でも見ておけ」

 「そうじゃない!まだアズールは・・・」

 煙の人物の支配から逃れたとはいえ、完全には消滅していない筈の煙の人物の能力。直に入り込まれていたアズールの身体の中には、その能力の残骸がまだ残っている。

 だが、ケツァルの静止を無視してガレウス達はアズールの元へ。嫌な予感を感じつつも、その場を離れる事のできないケツァルは彼らの歩みを見つめる。

 同じく倒れるシンにより沿っていたダラーヒムは、苦しみながらもアズールの元へ向かう彼らを見ながら、何かを必死に訴えようとするシンの姿に気がつき、代わりに言葉を受け取る。

 「あっ・・・うぐっ・・・」

 「シン・・・?どうした?何か分かったのか?」

 「いや、大丈夫・・・それほど重要なことではない・・・。それに奴は大半の力を失った。新たな依代を得て乗っ取るにも、時間が必要だろう・・・けど・・・」

 含みを持たせた言い方に焦ったさを感じたダラーヒムが、シンに何を伝えたいのかを問うと、要するに煙の人物の能力は力を失い、以前のようにアズールなどの依代となった器を操る力は残っていないが、その能力の根源は彼の中に残っているのだという。

 それがいつ覚醒し、能力を開花させるか分からないということだった。シンの言葉を受け取ったダラーヒムは、彼の言葉を踏まえてガレウスらの動向を伺う。

 アズールの肉体は、強化状態を解除し元のサイズへと戻っていた。魔物のように鋭い眼光を放っていた彼の目も元通りに治っており、虚な瞳に光が戻ってくる。

 「う・・・!俺は一体何をっ・・・」

 「アズール!正気に戻ったのかぁ?」

 「正気・・・?何だか長い夢を見ていたようだ・・・」

 自身がどのような状況にあったのか分かっていない様子のアズール。ガレウスらは簡潔にアズールの身に起きていた事を説明すると、全ては理解できなくとも事態を飲み込んだアズールは、その間見ていた夢の話を始める。

 その内容は彼の幼少期の頃や、ケツァルやガレウスが彼の側近として就任するまでの過去の回想だった。

 そして、そんな思い出話のような夢の事を話す中で、アズールの記憶ではない別の光景も彼の記憶の中に残っていた。

 見たこともない施設に、多くの白衣を着た人間達。こちらへ向けて何かを語りかけてくる者達や、無数の記憶の映像が散らばる空間を沈んでいくという不思議な体験をした記憶など、それはまるでアズールの中へ入ったシンの見た光景にも似ていたのだ。

 「何だそりゃぁ・・・。まぁお前が正気に戻ったようで安心したぜ。もう身体は大丈夫なのか?」

 「あぁ、少し怠い気もするが問題ない」

 するとそこへ、ダラーヒムの肩を借りてシンが近づいてくる。彼の話を遠巻きに聞いていたシンは、アズールの意識の中へ潜った際、それと同じ記憶を自分も見たと話した。

 二人の記憶にない光景ということからも、それが煙の人物の記憶なのではないかという推測が立った。そして最も重要なのが、その光景の中にはリナムル近郊の森の光景や、見たこともない施設の光景もあった。

 その話が上がった時点で、一行はその施設こそ獣人達や森に住む他種族、そして別のところからやって来た人間達を狙い攫うと言われる人物の根城であるのではないかと、意見が一致した。

 何より森の中にあるというその施設の場所を知っているのではないかと思われていたダラーヒムの証言とも、位置的には重なっていたのだ。この事によりダラーヒムが本当の事を言っていたということが信憑性を増し、獣人達の疑いを晴らす事にも繋がった。

 「じゃぁその記憶の場所に向かえば、俺達の宿敵を場所が分かるってことか?」

 「確証はないが、可能性は高いな・・・。これまでこの森で生活してきた我々が、そんな施設を一度も目にしていないというのはおかしい。何らかの仕掛けはあるのだろうが・・・」

 人間だけでなく、感知能力に長けた獣人族や豊富な魔力を有するエルフ族でも、その施設を見つけることができなかった事からも、その施設や近隣のエリアには結界や幻覚などの術が張り巡らされている可能性が高い。

 「何か仕掛けがあるのだとしたら、その記憶の光景ってのにヒントがありそうだな・・・」

 「それについては考えがある・・・」

 シンとダラーヒムが、煙の人物を封印する力と作戦を企てながらも、何故その全ての力を封印しなかったのか。無論、相手がそもそも余力をアズールの中に残そうとしていたことから、それ自体が不可能であったこともそうだが、それを見越して、反撃できない状況に追い込み、その後で情報を抜き取ろうというのが、シンの本当の狙いだった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

Another Of Life Game~僕のもう一つの物語~

神城弥生
ファンタジー
なろう小説サイトにて「HJ文庫2018」一次審査突破しました!! 皆様のおかげでなろうサイトで120万pv達成しました! ありがとうございます! VRMMOを造った山下グループの最高傑作「Another Of Life Game」。 山下哲二が、死ぬ間際に完成させたこのゲームに込めた思いとは・・・? それでは皆様、AOLの世界をお楽しみ下さい! 毎週土曜日更新(偶に休み)

蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-

星井柚乃(旧名:星里有乃)
ファンタジー
 旧タイトル『美少女ハーレムRPGの勇者に異世界転生したけど俺、女アレルギーなんだよね。』『アースプラネットクロニクル』  高校生の結崎イクトは、人気スマホRPG『蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-』のハーレム勇者として異世界転生してしまう。だが、イクトは女アレルギーという呪われし体質だ。しかも、与えられたチートスキルは女にモテまくる『モテチート』だった。 * 挿絵も作者本人が描いております。 * 2019年12月15日、作品完結しました。ありがとうございました。2019年12月22日時点で完結後のシークレットストーリーも更新済みです。 * 2019年12月22日投稿の同シリーズ後日談短編『元ハーレム勇者のおっさんですがSSランクなのにギルドから追放されました〜運命はオレを美少女ハーレムから解放してくれないようです〜』が最終話後の話とも取れますが、双方独立作品になるようにしたいと思っています。興味のある方は、投稿済みのそちらの作品もご覧になってください。最終話の展開でこのシリーズはラストと捉えていただいてもいいですし、読者様の好みで判断していただだけるようにする予定です。  この作品は小説家になろうにも投稿しております。カクヨムには第一部のみ投稿済みです。

転生令嬢の幸福論

はなッぱち
ファンタジー
冒険者から英雄へ出世した婚約者に婚約破棄された商家の令嬢アリシアは、一途な想いを胸に人知の及ばぬ力を使い、自身を婚約破棄に追い込んだ女に転生を果たす。 復讐と執念が世界を救うかもしれない物語。

Free Emblem On-line

ユキさん
ファンタジー
今の世の中、ゲームと言えばVRゲームが主流であり人々は数多のVRゲームに魅了されていく。そんなVRゲームの中で待望されていたタイトルがβテストを経て、ついに発売されたのだった。 VRMMO『Free Emblem Online』 通称『F.E.O』 自由過ぎることが売りのこのゲームを、「あんちゃんも気に入ると思うよ~。だから…ね? 一緒にやろうぜぃ♪」とのことで、βテスターの妹より一式を渡される。妹より渡された『F.E.O』、仕事もあるが…、「折角だし、やってみるとしようか。」圧倒的な世界に驚きながらも、MMO初心者である男が自由気ままに『F.E.O』を楽しむ。 ソロでユニークモンスターを討伐、武器防具やアイテムも他の追随を許さない、それでいてPCよりもNPCと仲が良い変わり者。 そんな強面悪党顔の初心者が冒険や生産においてその名を轟かし、本人の知らぬ間に世界を引っ張る存在となっていく。 なろうにも投稿してあります。だいぶ前の未完ですがね。

テイマーはじめました(仮)

vvuuvv
ファンタジー
ゲームで動物と戯れたい。 その思いで、ゲームスタート! ※自己満足ストーリーです。 文章力、表現力等々初心者ですが、多めに見てもらえればと思います。 現在仮公開という状態ですので、ちょこちょこ内容が変わることがございます。

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

処理中です...