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神代 コウ

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その身に巡る情報

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 痺れを切らしたアズールの号令に逆らう者はいなかった。ずっと自分の意見を通そうと思いの丈をぶつけ合っていた彼らは、目が覚めたかのように指示通りに動き出す。

 この状況においては彼の言い分が最も優先されるべきものだろうと、ダラーヒムも一旦は口を挟むのを諦め、自分で調査対象を調達する為、襲撃者の獣の元へと向かう。

 大ぶりの攻撃で相手の攻撃を誘うと、振り抜かれた獣の拳を軽くいなして関節部へ触れると、骨を脆い物質へと変えて反対方向へ押し込む。獣の腕は枯れ枝のように乾いた音を響かせて折れる。

 叫び声を上げる獣の顎を掌底で突き上げ、上半身を浮き上がらせた隙に膝にも同じように錬金術による性質変化と衝撃を与え、獣を再起不能にさせる。

 暴れる獣を地面で取り押さえ、後頭部を強打し気を失わせるダラーヒム。全くの無傷とまではいかないが、これで自己治癒でも出来ないかぎり戦うことはできないだろう。

 自分の目的の為、アズールの指示通り獣をできる限り綺麗な状態で生捕りにしたダラーヒムが、他の者達の様子を確認しようと顔を上げると、他の獣人達やツクヨ達も残りの残党を見事に捕らえていた。

 狙撃によるアシストも必要なくなったと判断したミアは、高い木の枝から降りてくるとシン達と合流する。

 「ツバキは?大丈夫そうか?」

 「あぁ、問題ない。気を失ってはいるが命に別状はない。目が覚めるまでそっとしておいてやろう。コイツも活躍したみたいだしな」

 ダラーヒムと同じく、ツバキを抱えるシンを守るように戦っていたツクヨも獣を生捕りにしていた。ただ他の者達ほど器用にはいかず、無傷というわけにはいかなかった。

 複数の獣を生捕りにした彼らは、それを同じ場所に並べる。室内に運び込まなかったのは、いつでもの彼らの手でトドメをさせるようにする為だろう。

 「さて、襲撃者はこれで最後だ。皆の者、ご苦労だった。皆の健闘により多くの被検体を得ることが出来たが、悪いが数を少し減らさせてもらう」

 漸くリナムルを襲撃してきた獣の脅威を打ち払う事に成功した彼らだったが、現状戦える者は限られている。アズールが捕らえた獣の数を減らしたいと言い出したのには理由がある。

 それは、万が一獣達が何らかの能力により復活し、戦闘をするような事態が発生した場合に、彼らの圧倒的有利な状況を作り出す為だった。

 「なっ!?話が違うぞ、アズール!捕らえた獣は調査に使うとッ・・・」

 「口を慎めよ?人間。それを決めるのはお前らじゃねぇ、アズールだ」

 調査対象は多ければ多いほど情報を集めやすく、その信憑性や可能性も上がる。それをわざわざ減らすということに意義を唱えたダラーヒムを、ガレウスは一切聞く耳も持たず一蹴する。

 「悪いがガレウスの言う通りだ。今この街、リナムルを制圧しているのは我々獣人族だ。その長である俺の意見に従って貰おう。・・・まぁ。対立する道を選ぶと言うのであれば話は別だが・・・」

 「くっ・・・・!」

 獣人達から向けられる鋭い視線に、ダラーヒムは何も言い返すことができなかった。この状況で獣人達と対立するのは自殺行為。それにそんな事は誰も望んでいないだろう。数は減ってしまうが、獣の異変を調査できるのおであれば、それはそれで収穫にはなる。

 「だが折角捕らえたものをただ始末するのでは勿体無い。故に、この場で出来る調査であれば、負傷の度合いの酷い個体から行っていき、それ以上何も情報を引き出せないとなれば、その場で処理する。それで構わないな?」

 アズールの譲歩した提案に、ダラーヒムは安堵していた。リナムルにある機材や薬品を使った調査は後回しになるが、元々ダラーヒムが行おうとしていた調査は、そのような道具など必要としない調査だったからだ。

 「あぁ、それを聞いて安心したぜ」

 「安心?それはどう言う事だ?」

 同じく獣の調査に好意的だったケツァルが、彼の行おうとしている調査手段に興味を示す。ケツァルも獣の調査を行うのだとすれば、その身体に流れる“血“を調べるのであろうということは想像できていた。

 彼らはアズールに起きた症状を目の当たりにし、その対処に成功している。獣の血液を浴びる事により幻覚を引き起こし、水で洗い流すことでこれを解除した。ならばその血に何らかの要素が隠されているのは明白。

 「俺が調査したいのは、コイツらの“血“だ。アンタも見ただろ?そこのアズールが幻覚の症状を引き起こしていたのを」

 「あぁ、私もこの者らの血に何かあるのではないかと考えていた。その為にここにある機材や薬品を使って調査しようと思っていたが・・・」

 「勿論、精密に調べるならそれがいいのかもな。だが、すぐにでも調べられる方法を俺は持っている。それは俺のクラスである錬金術の能力さ」

 ダラーヒムはその錬金術のスキルで、ケツァルとシンの二人と協力しながら獣達の暗殺を行った。そのスキルは対象の特定の部位を脆い物質に変え、軽い衝撃でも致命傷になるようにデバフをかける効果だった。

 しかし、錬金術のスキルは戦闘よりももっと別の分野で活躍するもの。ダラーヒムは恐らくそれが言いたかったのだろう。

 「お前の使っていたあの能力か。しかしそれでどうやって調べる?」

 「簡単さ。コイツらの血に変化を与える。俺達が森で試みた幻覚の解除方法を覚えているか?水によって洗い流すことでその症状は消えたよな?つまり水で薄まっていく事で、能力に変化が起きたとは考えられないか?」

 「薄まる?単に汚れのように洗い流されただけなのでは?」

 「付着しただけで幻覚を引き起こしたんだ。勿論、傷口から体内に入ったとも考えられるが・・・。それは後の調査でわかるだろう。俺が言いてぇのは、その“血“事態に何らかの能力が付与されていたんじゃないかって事だ」

 「ッ!?」

 「それを確かめる為に、コイツらの血を錬金術で徐々に濃度を薄め、水に変えていく。それなら場所を問わず確認できる。または別の性質へ変化させてもいいが、俺が一番気になっているのは、濃度による能力の変化だ」

 ダラーヒムの調査は、その身一つで行われるものだった。機材や薬品を使わずとも、獣達の身体に流れる血液の秘密を解き明かす。少なくともそれは獣人族の彼らには出来ない事だった。
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