World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
1,008 / 1,646

リナムルの一大事

しおりを挟む
 それぞれが位置につき、激撃の準備を整えると、リナムルへ向かって来ていた気配の先頭が彼らの前に姿を現す。少しでも隙を作る為だと、ガレウスは側近の者達とツクヨを近くの物陰に隠し、すぐに不意打ちや散開などの行動に移れるよう待機させる。

 囮役を引き受けたガレウスは、草木を掻き分けて飛び出してきた者の気配に合わせ、攻撃態勢に入る。しかしそこで彼の前に姿を現したのは、彼と同じ獣人族だったのだ。

 「ッ・・・!?」

 「たッ助けてくれ!!もうダメだぁ!!」

 必死の形相で飛び込んできた見慣れた姿に、驚きを隠せないガレウス。そこへ逃げ込んできた獣人を狙っていた獣が複数飛び出してくる。すぐに視線を戻し迎撃するガレウス。

 一番初めに飛び掛かってきた獣を躱すと、その足を掴み力任せに振り回すと、数体の獣を巻き込んで大きく後方へと吹き飛ばす。獲物をガレウスに絞った獣達は、すかさず彼に向かって飛び掛かってくる。

 立て続けに攻撃を仕掛けてくる獣を、その巨体からは想像もつかない身のこなしで躱していくと、攻撃の手が緩んだ僅かな隙に自身の戦闘能力を上げる肉体強化を行うガレウス。

 彼の肉体強化は、これまでのケツァルやアズールとも違い、変化としてそれほど大きく見た目に現れるものではなかった。戦闘能力も僅かに向上はしているものの、急激なパワーアップは果たせていないようにもとれる。

 これが獣人族で一番戦闘能力に特化した獣人の力なのか。飛ばされていく獣達に次々にトドメを刺していくミアとツクヨ。そして彼の側近達も、やはりそれなりの戦闘能力を有していたようで、ガルムよりも早くそして力強い一撃で、獣を仕留めていく。

 僅かに遅れを見せるガルムだったが、ミアやツクヨのアシストを受け何とか戦えている。それでも一度獣達の前に姿を現したからには、そこからは不意打ちのない真っ向勝負となる。

 彼らはまだ知る由もないが、ここで懸念されるのは獣達の肉体強化だった。戦いが長引けば長引くほどこちらが不利になる。それでも手を止めることなく戦う彼らの元に、更なる悲報が告げられる。

 召集を命じていた筈の獣人が一人で戻ってくると、リナムルへ向かって来ていた気配は、彼らが相手にしている者達だけではなく、リナムルを取り囲むように周囲に潜んでおり、戦闘開始を合図に次々にリナムルの施設を攻撃し始めたのだという。

 「ガレウス!敵襲だ!奴らアジトの周りで潜んでやがったんだ!召集に応じてられる場合じゃねぇ!各地でまた戦いが起きちまってる!」


「何だぁ!?クソッ・・・こっちだって手ぇいっぱいだっての!」

 獣達が獣人族と同じように、肉体を強化することもできれば、気配を消すことも出来ることを彼らはすっかり忘れてしまっていたのだ。

 獣の襲撃は見境なく行われ、ツバキやアカリのいる店や施設にも入り込んでいた。そこら中から聞こえてくるガラスが割れる音や物が壊れる音に、最初の襲撃を迎え撃ったミア達の焦りは増していった。

 ツバキのいたジャンク屋の窓から、数体の獣が飛び込んで来る。しかし、家屋の中は薄暗く灯りが付いていない。先程までツバキや獣人達がいた時には、確かに灯りが点されていた。

 獲物を探すように鼻をひくひくとさせながら家屋を彷徨く獣達。何処かに身を隠しているのか、獣の鼻を持ってしてもツバキらを見つけることが出来ない様子。

 すると、天井から淡い光と共に徐々に大きくなるギアを上げていくかのような機械音が鳴り響く。獣達が一斉に顔を上げて見上げると、そこには天井に張り付く獣人達の姿があった。

 そしてその足には、ツバキが店のジャンク品から作り出したガジェットが取り付けられていた。ガジェットの側面に取り付けられているコアのような球体が高速回転し、青白い稲妻のようなものを発生させている。

 「試してもいねぇのに、すげぇ力が凝縮していくのが分かるぜ!」
 「あぁ、今俺の蹴りはあの世界樹“ユグドラシル“にさえも風穴を開ける勢いだ!」

 漸く見つけた獲物を前に、魔獣のような恐ろしい形相へと変わる獣達。床に爪がめり込む程の力を溜めて体勢を低くすると、力強い跳躍で跳び上がり天井の獣人族目掛けて飛び掛かる。

 同時に獣人族も、その足に溜め込んだ力を見せつけんとばかりに天井を蹴って飛び降りると、目にも止まらぬ閃光のような蹴りを放つ。薄暗い室内に一瞬の光が駆け抜けていくと、獣の身体は瞬く間に千切れ飛んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

戦闘職をしたくてVRMMOを始めましたが、意図せずユニークテイマーという職業になったので全力でスローライフを目指します

地球
ファンタジー
「え?何この職業?」 初めてVRMMOを始めようとしていた主人公滝沢賢治。 やろうと決めた瞬間、戦闘職を選んでいた矢先に突然出てきた職業は【ユニークテイマー】だった。 そのゲームの名はFree Infinity Online 世界初であるフルダイブ型のVRゲームであり、AIがプレイヤーの様子や行動を把握しイベントなどを考えられるゲームであった。 そこで出会った職業【ユニークテイマー】 この職業で、戦闘ではなくてスローライフを!! しかし、スローライフをすぐにはできるわけもなく…?

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

幼馴染と一緒に勇者召喚されたのに【弱体術師】となってしまった俺は弱いと言う理由だけで幼馴染と引き裂かれ王国から迫害を受けたのでもう知りません

ルシェ(Twitter名はカイトGT)
ファンタジー
【弱体術師】に選ばれし者、それは最弱の勇者。 それに選ばれてしまった高坂和希は王国から迫害を受けてしまう。 唯一彼の事を心配してくれた小鳥遊優樹も【回復術師】という微妙な勇者となってしまった。 なのに昔和希を虐めていた者達は【勇者】と【賢者】と言う職業につき最高の生活を送っている。 理不尽極まりないこの世界で俺は生き残る事を決める!!

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

処理中です...