985 / 1,646
降り注ぐは鉄の雨
しおりを挟む
脱出した筈の建物の中へ戻ってきてしまったツクヨ。身体の疲労が癒えてきた頃、戻ってきた道の奥で大きな物音がし始める。
瓦礫が飛び散る音と先程まで彼らに恐怖を与えていた、悍ましい雄叫びが聞こえて来る。戦っていた獣人が投げ飛ばした獣が戻ってきたのだろう。
「奴だッ!戻って来たぞ」
「しぃッ!静かに・・・。探してるみてぇだ。こちらの姿は確認できてないみたいだな・・・」
勢いよく飛び込んできた獣は、建物の中央広場で足を止める。物色するように辺りを見渡し、仕切りに鼻をヒクつかせている。アレが獣と同じ鼻を持っているのだとしたら、ここに隠れているのも時間の問題。すぐに見つかってしまうことだろう。
それならばいっその事こと、まだ隙を伺える内に不意打ちで深手を負わせることに賭けるべきだろうか。様々な葛藤を抱えながら獣の動向を窺っていると、突然その獣が彼らの方へ首をぐるりと回し次の瞬間、その悍ましい姿は目前まで迫って来ていた。
「なッ・・・!」
「バレてやがったのか!?」
二人は個室に開いた大きな穴から、左右に分かれて獣の様子を伺っていた。姿は晒していないはず。目も合わないように気をつけていた。やはりただのモンスターや獣というには、獲物を感知する能力に長けているとしか思えない。
そして何故か真っ先に狙われたのは、人間のツクヨの方だった。瞬く間に急接近してきた獣に、剣を抜くのが精一杯で、その獣の振るう鋭い爪に受け止めた剣が弾き飛ばされてしまう。
「しまッ・・・!」
獣はすかさず反対の手についた鋭い爪を振るい、ツクヨの命を刈り取ろうと風をも切り裂く素早い一撃を見舞う。だがそうはさせまいと動き出したのは、ツクヨを救った獣人だった。
彼は二人の間に割って入るように飛び込み、獣を突き放そうと勢いよく自身の身体をぶつける。獣人の尋常ならざる脚力で体当たりされ、流石の獣も大きく後方へと吹き飛ばされていく。
「無事か!?」
「あっ・・・危なかった・・・。ありがとう」
「次が来るぞ!気を引き締めろ!」
獣は吹き飛ばされる勢いを、その両の手についた鋭い爪を床に突き立てて止める。そして獣人の彼らとよく似た姿とはかけ離れた、獣のような動きで飛び掛かってくる。
二度に渡る攻撃を受け、ツクヨはこれまで以上に身を引き締める。少しでも気を抜けば、次の瞬間には首が宙を舞っていた、などと成りかねない。
だがそこへ、意外な助けが入る。直進的に攻めてきたこれまでとは違い、獣は遮蔽物や投擲を利用しながら攻め立ててきた。
飛んで来る瓦礫をツクヨが両断し、素早く移動する獣に狙いを定める獣人。すると、素早い身のこなしで翻弄してくる獣が、突如その足を止める。
同時に建物内に響いたのは銃声だった。
鳴り響いた一発の銃声は、見事に獲物の足を挫く一撃となった。不意の一撃を受け、何が起きたのか理解できていない様子の獣は、辺りを見渡し遮蔽物に身を隠そうとするも、次々に降り注ぐ銃弾の雨がまるで流星のように獲物を逃すことはなかった。
足を撃ち抜かれ爪を砕かれ、鋼のように隆起した筋肉を撃ち抜かれ、それまで恐怖の対象だったものが彼らの前で虫の息になる。
「何事だ?一体誰が・・・!」
「そうか、ここはあそこだったね!」
血溜まりの中でもがく獣の姿は、一方的にねじ伏せられ憐れみすら覚えるほどだった。だが、頭上から降り注ぐ神の鉄槌は、そんな慈悲も感じさせないほど冷徹な一撃を、獣の生命活動を支える心臓に向けて撃ち放つ。
「すっ・・・すげぇ・・・」
「容赦ないなぁ、“ミア“」
力なく動いていた獣の腕は、自らの肉体から流れ出た血の池に沈み、その息を引き取った。しかし、すぐにその肉体が消えないことから、その獣がモンスターではないことを証明していた。
「騒がしいと思って見に来てみれば・・・。どうやら出口も見つかったようだな」
上の階層から顔を覗かせたのは、ツバキやアカリを安全なところへ避難させていたミアだった。
ツクヨと彼を助けた獣人が飛び込んだのは、彼らが脱出を試みた巨大な大樹の建物の中だったのだ。
偶然とはいえ、化け物のように変わり果てた獣人がこじ開けた大穴により、これで全員脱出することが可能になった。
ツクヨの合流に、ミアはすぐに下に降りるとツバキ達の元へと戻っていった。気を張り詰めていた獣人は、ほっとしたように身体の力を抜く。何が起きたのか分からなかったのは彼も同じだった。
そんな彼に、彼らを助けた今の銃撃を行った者達のことを説明するツクヨ。
「そうか、また人間に助けられちまったのか・・・。これはもう、無下には出来ねぇな・・・。分かった、ガレウスには俺から何とか説得してみよう。名乗るのが遅れたな。俺は“ガルム“ってんだ。アンタは?」
「私はツクヨという。誤解が解けたようでよかった・・・」
瓦礫が飛び散る音と先程まで彼らに恐怖を与えていた、悍ましい雄叫びが聞こえて来る。戦っていた獣人が投げ飛ばした獣が戻ってきたのだろう。
「奴だッ!戻って来たぞ」
「しぃッ!静かに・・・。探してるみてぇだ。こちらの姿は確認できてないみたいだな・・・」
勢いよく飛び込んできた獣は、建物の中央広場で足を止める。物色するように辺りを見渡し、仕切りに鼻をヒクつかせている。アレが獣と同じ鼻を持っているのだとしたら、ここに隠れているのも時間の問題。すぐに見つかってしまうことだろう。
それならばいっその事こと、まだ隙を伺える内に不意打ちで深手を負わせることに賭けるべきだろうか。様々な葛藤を抱えながら獣の動向を窺っていると、突然その獣が彼らの方へ首をぐるりと回し次の瞬間、その悍ましい姿は目前まで迫って来ていた。
「なッ・・・!」
「バレてやがったのか!?」
二人は個室に開いた大きな穴から、左右に分かれて獣の様子を伺っていた。姿は晒していないはず。目も合わないように気をつけていた。やはりただのモンスターや獣というには、獲物を感知する能力に長けているとしか思えない。
そして何故か真っ先に狙われたのは、人間のツクヨの方だった。瞬く間に急接近してきた獣に、剣を抜くのが精一杯で、その獣の振るう鋭い爪に受け止めた剣が弾き飛ばされてしまう。
「しまッ・・・!」
獣はすかさず反対の手についた鋭い爪を振るい、ツクヨの命を刈り取ろうと風をも切り裂く素早い一撃を見舞う。だがそうはさせまいと動き出したのは、ツクヨを救った獣人だった。
彼は二人の間に割って入るように飛び込み、獣を突き放そうと勢いよく自身の身体をぶつける。獣人の尋常ならざる脚力で体当たりされ、流石の獣も大きく後方へと吹き飛ばされていく。
「無事か!?」
「あっ・・・危なかった・・・。ありがとう」
「次が来るぞ!気を引き締めろ!」
獣は吹き飛ばされる勢いを、その両の手についた鋭い爪を床に突き立てて止める。そして獣人の彼らとよく似た姿とはかけ離れた、獣のような動きで飛び掛かってくる。
二度に渡る攻撃を受け、ツクヨはこれまで以上に身を引き締める。少しでも気を抜けば、次の瞬間には首が宙を舞っていた、などと成りかねない。
だがそこへ、意外な助けが入る。直進的に攻めてきたこれまでとは違い、獣は遮蔽物や投擲を利用しながら攻め立ててきた。
飛んで来る瓦礫をツクヨが両断し、素早く移動する獣に狙いを定める獣人。すると、素早い身のこなしで翻弄してくる獣が、突如その足を止める。
同時に建物内に響いたのは銃声だった。
鳴り響いた一発の銃声は、見事に獲物の足を挫く一撃となった。不意の一撃を受け、何が起きたのか理解できていない様子の獣は、辺りを見渡し遮蔽物に身を隠そうとするも、次々に降り注ぐ銃弾の雨がまるで流星のように獲物を逃すことはなかった。
足を撃ち抜かれ爪を砕かれ、鋼のように隆起した筋肉を撃ち抜かれ、それまで恐怖の対象だったものが彼らの前で虫の息になる。
「何事だ?一体誰が・・・!」
「そうか、ここはあそこだったね!」
血溜まりの中でもがく獣の姿は、一方的にねじ伏せられ憐れみすら覚えるほどだった。だが、頭上から降り注ぐ神の鉄槌は、そんな慈悲も感じさせないほど冷徹な一撃を、獣の生命活動を支える心臓に向けて撃ち放つ。
「すっ・・・すげぇ・・・」
「容赦ないなぁ、“ミア“」
力なく動いていた獣の腕は、自らの肉体から流れ出た血の池に沈み、その息を引き取った。しかし、すぐにその肉体が消えないことから、その獣がモンスターではないことを証明していた。
「騒がしいと思って見に来てみれば・・・。どうやら出口も見つかったようだな」
上の階層から顔を覗かせたのは、ツバキやアカリを安全なところへ避難させていたミアだった。
ツクヨと彼を助けた獣人が飛び込んだのは、彼らが脱出を試みた巨大な大樹の建物の中だったのだ。
偶然とはいえ、化け物のように変わり果てた獣人がこじ開けた大穴により、これで全員脱出することが可能になった。
ツクヨの合流に、ミアはすぐに下に降りるとツバキ達の元へと戻っていった。気を張り詰めていた獣人は、ほっとしたように身体の力を抜く。何が起きたのか分からなかったのは彼も同じだった。
そんな彼に、彼らを助けた今の銃撃を行った者達のことを説明するツクヨ。
「そうか、また人間に助けられちまったのか・・・。これはもう、無下には出来ねぇな・・・。分かった、ガレウスには俺から何とか説得してみよう。名乗るのが遅れたな。俺は“ガルム“ってんだ。アンタは?」
「私はツクヨという。誤解が解けたようでよかった・・・」
0
お気に入りに追加
295
あなたにおすすめの小説
月が導く異世界道中extra
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
こちらは月が導く異世界道中番外編になります。
生産職から始まる初めてのVRMMO
結城楓
ファンタジー
最近流行りのVRMMO、興味がないわけではないが自分から手を出そうと思ってはいなかったふう。
そんな時、新しく発売された《アイディアル・オンライン》。
そしてその発売日、なぜかゲームに必要なハードとソフトを2つ抱えた高校の友達、彩華が家にいた。
そんなふうが彩華と半ば強制的にやることになったふうにとっては初めてのVRMMO。
最初のプレイヤー設定では『モンスターと戦うのが怖い』という理由から生産職などの能力を選択したところから物語は始まる。
最初はやらざるを得ない状況だったフウが、いつしか面白いと思うようになり自ら率先してゲームをするようになる。
そんなフウが贈るのんびりほのぼのと周りを巻き込み成長していく生産職から始まる初めてのVRMMOの物語。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第二章シャーカ王国編
【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】
墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。
主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。
異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……?
召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。
明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~
鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!
詳細は近況ボードに載せていきます!
「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」
特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。
しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。
バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて――
こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。
男女比崩壊世界で逆ハーレムを
クロウ
ファンタジー
いつからか女性が中々生まれなくなり、人口は徐々に減少する。
国は女児が生まれたら報告するようにと各地に知らせを出しているが、自身の配偶者にするためにと出生を報告しない事例も少なくない。
女性の誘拐、売買、監禁は厳しく取り締まられている。
地下に監禁されていた主人公を救ったのはフロムナード王国の最精鋭部隊と呼ばれる黒龍騎士団。
線の細い男、つまり細マッチョが好まれる世界で彼らのような日々身体を鍛えてムキムキな人はモテない。
しかし転生者たる主人公にはその好みには当てはまらないようで・・・・
更新再開。頑張って更新します。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる