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人の身に宿る獣の力
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朦朧とする意識の中で、何も口にする事なく歩み寄るケツァルに違和感を感じたシンだったが、耳鳴りが激しく内側から鳴り響くような頭痛が思考を鈍らせる。
「・・・手を貸そう」
「・・・?」
倒れるシンの身体に触れると、まるで医者の触診のように様子を見ている。すると、懐からミア達が打たれた注射と同じものを手にし、シンの身体にそれを打ち込もうとする。
「君達が口にした我々の食べ物・・・。あれはただの空腹を満たす為のものじゃない。魔力が制御できないだろ?我々獣人族以外にはそうなんだ。だがそれを克服することで、君達にも“獣“の力が宿る」
「・・・獣の・・・?」
「説明は道すがら・・・ね。今は抵抗力を上げる薬を君に打ち込む。これで少しは楽になる筈だ。アジトまでは私が運ぶ。・・・君達に力を借りるかもしれない。だが、無闇に殺されるだけよりかはマシだろう?」
そう言ってシンの腕に注射を打ったケツァルは、力が抜けた彼の身体を持ち上げアズール達の後を追う。そこで、先程の話の続きを口にする。
獣の力を宿した食べ物の話。それを人間が口にすることで、その体内に獣人達と同じ魔力の匂いや波動を宿す事ができる。かと言ってそれにより獣になることはなく、獣人達による感知を受けずらくなる他、一部の戦闘能力が向上するのだそうだ。
しかし、プラスの面だけではないのが彼らを襲った症状の正体だ。種族間での違いを身体に宿すのだ。そこには当然、拒絶反応が起こる。余程のことがない限り、自力で回復することは不可能。
その為の薬を、ケツァルはエルフ族と協力し開発していた。来るべき時の為に、獣人達の目を掻い潜り、恨みや怒りに盲信する彼らの目を覚まさせる力とする為に。
一方、ガレウス派の獣人達により注射を打たれたミア達は、騒々しい音に目を覚ます。鼻を突くような臭いと煙が、彼らの寝かされている部屋にも立ち込めていた。
「ッ・・・!?な・・・何だ?何が・・・」
気を失う前に感じていた身体の怠さや違和感は、彼らから打たれた薬の影響か綺麗に抜けていた。今はむしろ、長い眠りから覚めたことでこれまでの疲れが無くなったかのようにスッキリしていた。
徐々に冴えてくる感覚が、逆に周囲の音や臭いをいつも以上に手繰り寄せてしまう。研ぎ澄まされた感覚に違和感を覚えつつも、ミアはベッドから起き上がり外の様子を伺おうと、扉の方へとおぼつかない足取りで向かう。
「この音は・・・?何が起きている・・・」
扉に設けられた小さな窓から、覗くように外の様子を見る。すると、彼らが捕まっていたリナムルの大樹を用いた建物に、黒い煙と火花が舞っている。まるで建物自体が燃やされているかのように。
「これは・・・」
そこへ、同じく眠りから覚めた仲間達が、ミアと同じく感覚の冴えに困惑していた。
「ミア・・・これは?言った何が・・・」
「分からない。だが、どうやら脱出を急いだ方が良さそうだ・・・」
困惑する彼らに、ミアは部屋の外で起きている状況を伝える。外から聞こえてくる何かの声と音に、まだ目覚めた感覚に慣れていない彼らは本調子ではないようだが、ここにいてはいずれ逃げ場がなくなる。
ミアがいち早くこの感覚に慣れたように、時間が解決してくれるものだと信じ、誰がどのくらい動けるのかを確認すると、ミアは扉を蹴破り、外の様子を伺いながら逃げ道を探す。
多くを口にしていなかったツクヨは、ミアと同じくすぐにその感覚に慣れたが、ケツァル派の獣人達から渡された食べ物を多く口にしていたツバキとアカリは、まだ周囲から聞こえてくる爆音による耳鳴りと、嗅覚を刺激する異臭に苦しんでいる。
「見張りがいない・・・。火事か?それとも争いがッ・・・」
寝かされていた部屋の前に見張りはおらず、それどころかそこから見える範囲に獣人達の姿は見当たらなかった。外からは僅かに獣人達のものと思われる声が聞こえてくるが、状況が全く把握できない。
すると、下の階層の方で何かに追われるように逃げ込んできた獣人が、怯えるように悲鳴を上げているのが耳に入る。蔦で出来た手すりから身を乗り出し、ミアが下を確認すると傷だらけの獣人が、大きな別の獣人に迫られていたのだ。
初めはガレウスという獣人なのかと疑っていたミアだったが、その獣人は今まで見てきた獣人達とは明らかに様子がおかしかったのだ。
逃げ惑っていた獣人にトドメを刺すと、その手に付いた血を舐め取り、死んだ獣人の身体にかぶりついた。それこそ腹を空かせた、本当の獣のように死肉を貪り、更にその身に纏う凶悪なオーラを倍増させていた。
「おいおい・・・何だありゃぁ・・・!仲間割れか?」
「どうしたんだい?ミア。何を見て・・・うわぁ!?」
悍ましい光景に、思わず尻餅をついて後退るツクヨ。獣人を食い終えたモンスターのような理性を失った獣は、再び獲物を求めて外へと歩いていく。
「・・・手を貸そう」
「・・・?」
倒れるシンの身体に触れると、まるで医者の触診のように様子を見ている。すると、懐からミア達が打たれた注射と同じものを手にし、シンの身体にそれを打ち込もうとする。
「君達が口にした我々の食べ物・・・。あれはただの空腹を満たす為のものじゃない。魔力が制御できないだろ?我々獣人族以外にはそうなんだ。だがそれを克服することで、君達にも“獣“の力が宿る」
「・・・獣の・・・?」
「説明は道すがら・・・ね。今は抵抗力を上げる薬を君に打ち込む。これで少しは楽になる筈だ。アジトまでは私が運ぶ。・・・君達に力を借りるかもしれない。だが、無闇に殺されるだけよりかはマシだろう?」
そう言ってシンの腕に注射を打ったケツァルは、力が抜けた彼の身体を持ち上げアズール達の後を追う。そこで、先程の話の続きを口にする。
獣の力を宿した食べ物の話。それを人間が口にすることで、その体内に獣人達と同じ魔力の匂いや波動を宿す事ができる。かと言ってそれにより獣になることはなく、獣人達による感知を受けずらくなる他、一部の戦闘能力が向上するのだそうだ。
しかし、プラスの面だけではないのが彼らを襲った症状の正体だ。種族間での違いを身体に宿すのだ。そこには当然、拒絶反応が起こる。余程のことがない限り、自力で回復することは不可能。
その為の薬を、ケツァルはエルフ族と協力し開発していた。来るべき時の為に、獣人達の目を掻い潜り、恨みや怒りに盲信する彼らの目を覚まさせる力とする為に。
一方、ガレウス派の獣人達により注射を打たれたミア達は、騒々しい音に目を覚ます。鼻を突くような臭いと煙が、彼らの寝かされている部屋にも立ち込めていた。
「ッ・・・!?な・・・何だ?何が・・・」
気を失う前に感じていた身体の怠さや違和感は、彼らから打たれた薬の影響か綺麗に抜けていた。今はむしろ、長い眠りから覚めたことでこれまでの疲れが無くなったかのようにスッキリしていた。
徐々に冴えてくる感覚が、逆に周囲の音や臭いをいつも以上に手繰り寄せてしまう。研ぎ澄まされた感覚に違和感を覚えつつも、ミアはベッドから起き上がり外の様子を伺おうと、扉の方へとおぼつかない足取りで向かう。
「この音は・・・?何が起きている・・・」
扉に設けられた小さな窓から、覗くように外の様子を見る。すると、彼らが捕まっていたリナムルの大樹を用いた建物に、黒い煙と火花が舞っている。まるで建物自体が燃やされているかのように。
「これは・・・」
そこへ、同じく眠りから覚めた仲間達が、ミアと同じく感覚の冴えに困惑していた。
「ミア・・・これは?言った何が・・・」
「分からない。だが、どうやら脱出を急いだ方が良さそうだ・・・」
困惑する彼らに、ミアは部屋の外で起きている状況を伝える。外から聞こえてくる何かの声と音に、まだ目覚めた感覚に慣れていない彼らは本調子ではないようだが、ここにいてはいずれ逃げ場がなくなる。
ミアがいち早くこの感覚に慣れたように、時間が解決してくれるものだと信じ、誰がどのくらい動けるのかを確認すると、ミアは扉を蹴破り、外の様子を伺いながら逃げ道を探す。
多くを口にしていなかったツクヨは、ミアと同じくすぐにその感覚に慣れたが、ケツァル派の獣人達から渡された食べ物を多く口にしていたツバキとアカリは、まだ周囲から聞こえてくる爆音による耳鳴りと、嗅覚を刺激する異臭に苦しんでいる。
「見張りがいない・・・。火事か?それとも争いがッ・・・」
寝かされていた部屋の前に見張りはおらず、それどころかそこから見える範囲に獣人達の姿は見当たらなかった。外からは僅かに獣人達のものと思われる声が聞こえてくるが、状況が全く把握できない。
すると、下の階層の方で何かに追われるように逃げ込んできた獣人が、怯えるように悲鳴を上げているのが耳に入る。蔦で出来た手すりから身を乗り出し、ミアが下を確認すると傷だらけの獣人が、大きな別の獣人に迫られていたのだ。
初めはガレウスという獣人なのかと疑っていたミアだったが、その獣人は今まで見てきた獣人達とは明らかに様子がおかしかったのだ。
逃げ惑っていた獣人にトドメを刺すと、その手に付いた血を舐め取り、死んだ獣人の身体にかぶりついた。それこそ腹を空かせた、本当の獣のように死肉を貪り、更にその身に纏う凶悪なオーラを倍増させていた。
「おいおい・・・何だありゃぁ・・・!仲間割れか?」
「どうしたんだい?ミア。何を見て・・・うわぁ!?」
悍ましい光景に、思わず尻餅をついて後退るツクヨ。獣人を食い終えたモンスターのような理性を失った獣は、再び獲物を求めて外へと歩いていく。
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