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蟠りを解いて
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拷問後に生かすなり殺すなりしていた人間はどこへ行ったのだろう。直接ガレウスに尋ねても答える筈などなく、彼と共に拷問や尋問を繰り返していた者やガレウスと思想を同じくする者達も、ケツァルの問いに真面に答えることなどなかった。
今にして思えば、その時から妙な詮索が始まったと警戒されてしまったのかも知れない。
アズールに尋ねてみても、その後の処理はガレウスに一任しているというばかりで、まるで興味を示さなかった。アズール自身も、少なからず人間には恨みを持っている。
獣人族が受けた雪辱を晴らす為、必要な情報さえ手に入ればその後の人間がどうなろうと知ったことではないといったところなのだろう。
結局のところ、同じ獣人族に聞いてみても誰もそのことについて知る者はおらず、いても答える気はないようだった。そこからエルフ族との協力関係を結び始めた。
尋問の際に自白剤を用いていたという情報を得たケツァルは、エルフ族の調合技術を用いた薬を、その効果の臨床実験と引き換えに受け取る。自白剤を打たれ廃人と化した人間に使うことで意識を取り戻した人間を匿い、エルフ族へと引き渡していたのだという。
ガレウスの噂について疑いを持っていた事を明かすケツァル。その為に独自の経路で探りを入れていた事が、仲間達に疑いの念を抱かせてしまった事を謝罪した。
森で誘拐を繰り返す人間の事にばかり神経を注ぎ、身内の事について疑問を抱いていなかった事を振り返り反省したアズールは、ガレウスへの尋問と身辺調査を行うことを検討するとし、ケツァルへの疑いを不問とすると言い渡した。
「しかし、お前ともあろう者が独自に勝ってな真似をするとはな・・・。それ程まで気になっていたという訳か?」
「それについては申し訳なかったと思っている・・・。同じく森を荒らされ、人間による被害を受けていたエルフ族は、我々の事情も知っていたようで協力関係を結ぶ機会を窺っていたんだ。どうだろう、アズール。これを機会にエルフ族と正式に手を結んでみては・・・」
ケツァルの言うように、エルフ族の魔法や幻術は獣人族には無いものであり、それによる情報収集にも長けている。その代わりに、戦闘能力に長ける獣人族がエルフ族ににはできない事を行うことで、今よりも情報を集めやすくなるのではと提案する。
「互いの種族間で思想や理念が違う。それはいつしか争いの火種になりかねんと古くから嫌煙していたが・・・。今はそれどころではないか。一時的な同盟を結ぶのもありか・・・」
「分かって貰えたようで何よりだ、アズール!エルフ族への手引きは私がしよう。種族という括りで孤立せず、同じ被害者同士で結束する時だ」
彼の説得の甲斐もあり、周囲の獣人達もアズールの判断もあり疑いを向けることが無くなった。
漸く蟠りが解けたところで、再びダラーヒムの情報の真意を確かめに向かおうと動き出したところで、彼らの通ってきた道を辿るように、後方から何者かの気配が急接近してくる。
「おい!何かこっちにッ・・・!」
一瞬の心の隙を突くように迫る気配に、思わず声を漏らしたシン。その声に周りの獣人達も身構えるが、彼らの鼻はその気配の正体をすぐに見破る。
「安心しろ、味方だ。だが何故後を追ってきたんだ?」
人間には知る由もない匂いの違いで、気配の正体が獣人である事を知るが、待機を命じられていたはずの者が何故アズール達の元へやって来たのか、それは彼らにも分からなかった。
「ボっボス!大変だ!アジトが襲撃された!」
「何者だ?何故アジトへの接近を許した?」
先程の件でもあった通り、彼ら獣人族の鼻は特別で、一度嗅いだことのある種族や魔物であればすぐに把握できるほどの嗅覚をしている。なので彼らと同じ種族でない者が近づけば、すぐにわかる筈なのだ。
それが襲撃を受けたとなれば、その襲撃者が何かしらの能力や抜け穴で近づいたのか、内側から手引きがあったのか。理由が限られるものだ。
「それが・・・」
「どうした?」
「不審な者の接近は誰も感知しておらず、アジト内から突如として沸いたとのことだ。お前らの力が必要だ、すぐに戻って来てくれ!」
「止むを得ん・・・。早急にアジトへ戻るぞ!人間の情報の真偽を確かめるのは後だ。行けッ!
アズールの号令で、同行していた獣人達は一斉に来た道を戻っていく。アズールはシンからダラーヒムを奪い取ると、お前に用はないと言わんばかりに彼をその場に放置していった。
人質になら他にもいる。シンが逃げようがのたれ死のうが、最早獣人達には関係なかったからだ。
「まっ待て!アジトって・・・そこには俺の仲間もッ・・・!?」
すぐにアズールの後を追おうとした時、彼の身体が突然重力を増したかのように崩れ落ちる。
膝をついて頭を押さえるシン。ここに来てアジト内でミア達を襲った薬の効果が、彼の身体にも現れ始めたのだ。
額から大粒の汗を滲ませながら、必死に重い身体を動かそうとするシンだったが、思うように力が入らずその場で倒れてしまう。
「クソッ・・・どうなって・・・」
すると、アズールの号令があったにも関わらずその場に残っていたケツァルが彼の元へ近づく。
今にして思えば、その時から妙な詮索が始まったと警戒されてしまったのかも知れない。
アズールに尋ねてみても、その後の処理はガレウスに一任しているというばかりで、まるで興味を示さなかった。アズール自身も、少なからず人間には恨みを持っている。
獣人族が受けた雪辱を晴らす為、必要な情報さえ手に入ればその後の人間がどうなろうと知ったことではないといったところなのだろう。
結局のところ、同じ獣人族に聞いてみても誰もそのことについて知る者はおらず、いても答える気はないようだった。そこからエルフ族との協力関係を結び始めた。
尋問の際に自白剤を用いていたという情報を得たケツァルは、エルフ族の調合技術を用いた薬を、その効果の臨床実験と引き換えに受け取る。自白剤を打たれ廃人と化した人間に使うことで意識を取り戻した人間を匿い、エルフ族へと引き渡していたのだという。
ガレウスの噂について疑いを持っていた事を明かすケツァル。その為に独自の経路で探りを入れていた事が、仲間達に疑いの念を抱かせてしまった事を謝罪した。
森で誘拐を繰り返す人間の事にばかり神経を注ぎ、身内の事について疑問を抱いていなかった事を振り返り反省したアズールは、ガレウスへの尋問と身辺調査を行うことを検討するとし、ケツァルへの疑いを不問とすると言い渡した。
「しかし、お前ともあろう者が独自に勝ってな真似をするとはな・・・。それ程まで気になっていたという訳か?」
「それについては申し訳なかったと思っている・・・。同じく森を荒らされ、人間による被害を受けていたエルフ族は、我々の事情も知っていたようで協力関係を結ぶ機会を窺っていたんだ。どうだろう、アズール。これを機会にエルフ族と正式に手を結んでみては・・・」
ケツァルの言うように、エルフ族の魔法や幻術は獣人族には無いものであり、それによる情報収集にも長けている。その代わりに、戦闘能力に長ける獣人族がエルフ族ににはできない事を行うことで、今よりも情報を集めやすくなるのではと提案する。
「互いの種族間で思想や理念が違う。それはいつしか争いの火種になりかねんと古くから嫌煙していたが・・・。今はそれどころではないか。一時的な同盟を結ぶのもありか・・・」
「分かって貰えたようで何よりだ、アズール!エルフ族への手引きは私がしよう。種族という括りで孤立せず、同じ被害者同士で結束する時だ」
彼の説得の甲斐もあり、周囲の獣人達もアズールの判断もあり疑いを向けることが無くなった。
漸く蟠りが解けたところで、再びダラーヒムの情報の真意を確かめに向かおうと動き出したところで、彼らの通ってきた道を辿るように、後方から何者かの気配が急接近してくる。
「おい!何かこっちにッ・・・!」
一瞬の心の隙を突くように迫る気配に、思わず声を漏らしたシン。その声に周りの獣人達も身構えるが、彼らの鼻はその気配の正体をすぐに見破る。
「安心しろ、味方だ。だが何故後を追ってきたんだ?」
人間には知る由もない匂いの違いで、気配の正体が獣人である事を知るが、待機を命じられていたはずの者が何故アズール達の元へやって来たのか、それは彼らにも分からなかった。
「ボっボス!大変だ!アジトが襲撃された!」
「何者だ?何故アジトへの接近を許した?」
先程の件でもあった通り、彼ら獣人族の鼻は特別で、一度嗅いだことのある種族や魔物であればすぐに把握できるほどの嗅覚をしている。なので彼らと同じ種族でない者が近づけば、すぐにわかる筈なのだ。
それが襲撃を受けたとなれば、その襲撃者が何かしらの能力や抜け穴で近づいたのか、内側から手引きがあったのか。理由が限られるものだ。
「それが・・・」
「どうした?」
「不審な者の接近は誰も感知しておらず、アジト内から突如として沸いたとのことだ。お前らの力が必要だ、すぐに戻って来てくれ!」
「止むを得ん・・・。早急にアジトへ戻るぞ!人間の情報の真偽を確かめるのは後だ。行けッ!
アズールの号令で、同行していた獣人達は一斉に来た道を戻っていく。アズールはシンからダラーヒムを奪い取ると、お前に用はないと言わんばかりに彼をその場に放置していった。
人質になら他にもいる。シンが逃げようがのたれ死のうが、最早獣人達には関係なかったからだ。
「まっ待て!アジトって・・・そこには俺の仲間もッ・・・!?」
すぐにアズールの後を追おうとした時、彼の身体が突然重力を増したかのように崩れ落ちる。
膝をついて頭を押さえるシン。ここに来てアジト内でミア達を襲った薬の効果が、彼の身体にも現れ始めたのだ。
額から大粒の汗を滲ませながら、必死に重い身体を動かそうとするシンだったが、思うように力が入らずその場で倒れてしまう。
「クソッ・・・どうなって・・・」
すると、アズールの号令があったにも関わらずその場に残っていたケツァルが彼の元へ近づく。
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