World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
970 / 1,646

獣人族の参謀役

しおりを挟む
 少しずつではあるが、シン達に心を許し始めてくれたのかと思ったところで、これがボスや周りの過激派な獣人達の耳に入るのを恐れたのか、部屋の外を見張っていた者が扉を少し開け、何かの合図を送る。

 すると、それを受け取った獣人達が一斉に自分の持ち場へと戻って行ってしまった。

 「すまない、話はここまでだ。くれぐれも・・・」

 「分かってる。話さないよ・・・」

 シンの言葉を聞いて小さく頷いた獣人もまた、彼らの元を離れ自分の任務に就き始めた。

 それから更に夜も深まり、別の獣人達が交代にやってくる。だが、依然として外の様子がどうなっているのか、交渉に行ったダラーヒムがどうなったのかは、彼らの耳に入ることはなかった。

 そのままシン達は、腕を拘束された状態で硬い木材の床で眠りにつく。こんな状況であるとはいえ、夜の森は街での就寝とは異なり静かなものだった。

 風に揺らめく木々の音や虫の声、それに野生動物のものと思われる鳴き声が心地よく響いてくる。

 美味い物を食べさせてもらったおかげか、ツバキやアカリはすっかり眠りに落ちていた。

 馬車でのダラーヒムとの会話が気になって眠れなかったシンは、照明の数が減らされた薄暗さの中でその時のことを思い出していた。

 何者かによる薬物投与されたモンスター。それらが知恵のようなものを習得していたこと。

 現実世界で見てきた、ユーザーを食らったモンスターと重なるように思えて仕方がない。

 フィアーズにとって異世界であるシン達の世界。そこで行われていた生物実験と元の世界へと戻る研究。もしそれが、WoFの世界でも行われているのだとしたら。

 シン達はこれまで、こちらの世界でありえない行動に出る人物や、そのレベル帯では不相応な能力を与えられた者達を何人も見てきた。それでも、シン達がその異様なクエストやイベントをこなした後は、何事もなかったかのように同じようなクエストが再開されていたり、多少ストーリーが変わろうと軌道修正するかのように、徐々に日常が戻っていくという様子が見受けられる。

 勿論、彼らがそれを直に確かめた訳ではないが、解決された異変はその傷跡を徐々に癒していく。まるで傷ついた人の身体のように・・・。

 シン達のように、WoFのユーザー達がこの姿に覚醒していくように、もしもこちらの世界の住人が自分の存在を知り、目覚め始めているのだとしたら。彼らもフィアーズのように研究や実験を重ね、異世界というものに興味を持ち始めるのだろうか。

 そうやって自分達が今まで暮らしてきた現実が、別世界の何者かに侵食されていくのが、シンは少し怖かった。

 あれやこれやと考えている内に、いつの間にか瞼は閉じ、外では日の光が入り始める夜明けを迎えようとしていた。

 硬い床で寝ていたせいか、拘束された変な体勢で寝ていたツクヨとミアが順々に目を覚ましていく。重たい瞼をこじ開け、部屋の様子を伺う。

 すると、彼らが熟睡しているのを確認してのことか、前日まで何人もいた見張りが、今日は随分と少ない人数に変更されているようだった。

 「ん・・・」

 「あぁ、ミアも起きたのかい?おはよう」

 「んか・・・見張りの数が少ないな・・・」

 「朝食でも取りに行ってるんじゃないかい?まぁそれか、私達があまりに模範囚だったからか、人数を減らしたとか」

 「・・・誰が囚人だ。逃げる度胸もねぇってんで、甘く見られてるんじゃないだろうなぁ?」

 だが、数が減ったのならそれはそれで彼らにとっては好都合。圧迫感も和らぎ、気持ちも僅かながらに落ち着いてきたように思える。

 そこへ、何か情報を掴んだのか異変を察したのか、ずりずりと床を這いながらミアの方へ近づいていき、小声で彼女も意見を求める。

 「ミア、部屋の外見てごらん。なんか様子が変だよ」

 「・・・?」

 部屋に幾つか設けられた窓の外へ視線を送ってみると、数名の獣人達が何やらヒソヒソと話しているようだった。声が僅かに聞こえてくるが、この距離では何を話しているのか分からない。

 「ちょっと・・・行ってくる」

 「おっおい!・・・大丈夫かよ・・・アイツ・・・」

 どこで身につけた技術なのか、ゴロゴロと器用に床の上を転がっていったツクヨは、話をしている獣人達のいる窓の方へと向かい、ピタリと壁のところで止まる。

 そして壁伝いに器用に身体を起こすと、丁度外からは見えないように壁に耳を当て、部屋の外で話す獣人達の会話に聞き耳を立てる。

 「昨日この部屋に捕らえた人間達がいただろ?その中の一人がボスと謁見したらしいぜぇ?」

 「聞いたよ。何でも森の怪異のことで、何か情報を持ってるって言ったらしいじゃねぇか」

 「そんなの、苦し紛れの言い訳だろう?何でボスがそんな言葉に耳を貸したんだ?」

 「また“ケツァル“の入れ知恵らしい。俺達だけじゃ限界があるからってよ」

 「それで人間の力を借りろってか。それで何度か逃げられてるだろ?俺ぁアイツは胡散臭いと思ってたよ・・・」

 またしても聞こえてきた“ケツァル“という名の獣人。どうやら彼は、獣人族が抱える問題の解決には、自分達獣人の力だけではどうにもならないと、人間の協力者を作ろうと彼らのボスに進言しているようだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

生産職から始まる初めてのVRMMO

結城楓
ファンタジー
最近流行りのVRMMO、興味がないわけではないが自分から手を出そうと思ってはいなかったふう。 そんな時、新しく発売された《アイディアル・オンライン》。 そしてその発売日、なぜかゲームに必要なハードとソフトを2つ抱えた高校の友達、彩華が家にいた。 そんなふうが彩華と半ば強制的にやることになったふうにとっては初めてのVRMMO。 最初のプレイヤー設定では『モンスターと戦うのが怖い』という理由から生産職などの能力を選択したところから物語は始まる。 最初はやらざるを得ない状況だったフウが、いつしか面白いと思うようになり自ら率先してゲームをするようになる。 そんなフウが贈るのんびりほのぼのと周りを巻き込み成長していく生産職から始まる初めてのVRMMOの物語。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~

鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!  詳細は近況ボードに載せていきます! 「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」 特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。 しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。 バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて―― こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。

男女比崩壊世界で逆ハーレムを

クロウ
ファンタジー
いつからか女性が中々生まれなくなり、人口は徐々に減少する。 国は女児が生まれたら報告するようにと各地に知らせを出しているが、自身の配偶者にするためにと出生を報告しない事例も少なくない。 女性の誘拐、売買、監禁は厳しく取り締まられている。 地下に監禁されていた主人公を救ったのはフロムナード王国の最精鋭部隊と呼ばれる黒龍騎士団。 線の細い男、つまり細マッチョが好まれる世界で彼らのような日々身体を鍛えてムキムキな人はモテない。 しかし転生者たる主人公にはその好みには当てはまらないようで・・・・ 更新再開。頑張って更新します。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...